何度目の   作:水瀬りんご

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継承

俺とナギサは、それから幾度となく夢の中で交差した。まるで無意識下にある仮想の世界が、現実のループと重なり合い、少しずつ繋がっていくように。

 

夢の中の教室は、以前よりもはっきりとした輪郭を持つようになっていた。窓から差し込む光の角度、机に刻まれた文字の跡、黒板のチョークの粉さえも現実に近く、まるで誰かが“記録”していたような緻密さで構成されていた。

 

その中で、ナギサは時折、幼い少女の幻影を見ると言った。その少女は何も語らず、ただ彼女の前を通り過ぎ、懐中時計を机に置いていく。

 

「彼女は、前の観測者かも」

 

そう言うナギサの言葉に、俺はユウの姿を思い浮かべたが、確証はなかった。

 

──観測者。

 

この言葉は、もう一つの意味を持ち始めていた。ただ見て記録する者ではなく、“記録の断片から世界の因果を読み解き、選択する者”。

 

「君はもう、ただの観測者じゃないよな」

 

ナギサにそう言われた時、俺は黙ってうなずいた。

 

観測はすでに、選択のための準備だった。そしてその選択は、ナギサとの邂逅によって現実の形をとり始めていた。

 

ある日、ループの起点となる月曜日に、“開始のズレ”が発生した。

 

いつものように6時45分に目覚めたはずが、時計は7時を回っていた。朝のラジオ番組が少し先のコーナーに入っていた。

 

「……遅れてる?」

 

それが機械の誤差なのか、それとも世界の“歪み”なのか、俺はわからなかった。だがその日、ナギサもまた夢で“時間の遅れ”を感じたという。

 

夢の中の時計が、ついに動いた──と。

 

「もしかしたら……このループ自体が、少しずつ終わりに近づいているのかも」

 

ナギサの言葉には、不安と期待が入り混じっていた。

 

だが、俺はその可能性に胸が高鳴るのを抑えられなかった。

 

──終わり。

 

それは、出口の存在を示唆する。

 

「この世界のルールを破るきっかけが、どこかにあるなら……俺たちが記録してきたすべてが、その鍵になるはずだ」

 

それは、もう“もしも”ではなかった。

 

繰り返される日々の中で見つけた断片、違和感、夢。すべてが一本の道を形づくっていた。

 

そして、ある月曜日。俺は気づく。

 

旧校舎の図書準備室にある机の奥に、俺の記録ノートには存在しなかった“あるページ”が差し込まれていた。

 

『観測終了フェーズまで、あと6サイクル』

 

そのページは、タイプされた活字だった。

 

書いたのは誰か? ナギサか? ユウか? それとも、まだ俺たちが知らない存在なのか。

 

けれど明らかなのは、このループが終わるカウントダウンに入ったということだった。

 

──あと6回。

 

ナギサと俺は、互いに目を合わせた。

 

「この世界が終わるなら、ちゃんと終わらせよう」

 

その言葉が、どちらから出たのか分からない。

 

けれど、次の月曜日が来るまでの時間──それは、これまでのどんなループよりも重く、そして決定的だった。

 

俺は図書室の片隅で、かつてユウと会話した場所に立ち尽くしていた。記録ノートをめくりながら、自分の中で何かが確かに変わっているのを感じていた。世界が、ゆっくりと音を立てて傾きはじめている。

 

そして気づく。誰かが、“俺たち”を導こうとしているのだと。

 

ノートの余白に、誰かの手で書かれたような走り書きがあった。

 

『選べ、瀬乃宮アキラ──この世界を終えるか、守るか』

 

選べ?

 

だが、何を基準に? 誰のために?

 

思考が渦巻く中で、ナギサの声が響いた。「アキラ、私は……もしこの世界が崩れるとしても、あなたの隣でそれを見届けたい」

 

その瞳は揺らぎながらも、確かな意志を宿していた。

 

──だったら、俺は。

 

「俺は……このループの意味を、全部見届けてからじゃないと、何も決められない」

 

その決意が、自分の中で静かに火を灯した。

 

そして、次の月曜日が始まる──。

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