何度目の   作:水瀬りんご

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選択肢

翌日の月曜日、目覚めた俺は一つの決意を胸に抱いていた。これまでのように“繰り返される日常”をただ観察し、記録するだけの日々は終わる。残されたサイクルは5回。限られたこの時間の中で、俺は“自分の答え”を見つけなければならない。

 

ナギサと再び夢の中で会ったのは、月曜日の夜だった。

 

「この前の空間、まだ覚えてる?」

 

彼女はそう切り出してきた。

 

「忘れようとしても無理だな」

 

「……私、あの時、震えてたでしょ。自分が何を選ぶべきか分からなかったから」

 

俺は静かにうなずいた。

 

「でも、今は違う。もう、誰かの観測結果じゃいたくない」

 

その言葉には、確かな意思が宿っていた。

 

ナギサは夢の中で、俺の記録ノートを模したような“観測者の日誌”を差し出した。

 

そこには、彼女が独自に気づいていた“小さなズレ”が記されていた。俺がまだ気づけなかったルートの隙間、記憶の歪み、周囲の誰かが一瞬だけ“同じ記憶”を共有する瞬間。

 

「このループには、まだ隠された層がある気がする」

 

「隠された……層?」

 

「観測だけじゃ見えないもの。行動しなきゃ発生しない“揺れ”。それを試したい」

 

ナギサの提案は、文字通り“世界を揺らす”ものだった。

 

それは、今までの自分を壊す行為でもあった。

 

けれど、俺はその提案を受け入れる。

 

──あと5サイクル。

 

一回目。俺たちは校舎中を使って“観測の揺らぎ”を検証した。ナギサが音楽室で鳴らしたピアノの音が、次のサイクルでは別の場所から聞こえた。

 

二回目。俺が旧校舎の図書準備室でユウの痕跡を探すと、そこにあったはずの“懐中時計”がなくなっていた。

 

三回目。ナギサの夢が、突然俺の記憶と重なり始めた。彼女が見た風景を、俺も次の夢でなぞっていた。

 

そして、四回目──

 

「もう逃げられないみたいだね」

 

ナギサの声は、少しだけ震えていた。

 

それは恐怖ではない。覚悟の震えだった。

 

次で、すべてが終わる。もしくは、新しく始まる。

 

「最後に、私たちがすべきことは──“外”に出ること」

 

「外、って……」

 

「このループの外。観測対象じゃなくなるには、自分自身を観測する場所から出るしかない」

 

それは、一種のパラドックスだった。自分を観測し続けていた限り、このループは終わらない。

 

だから俺たちは、その“記録”から飛び出す覚悟を固めた。

 

最後の月曜日。

 

俺は、記録ノートを持たずに家を出た。

 

ナギサは、夢の中で「さようなら」とだけ言い残した。

 

そして、旧校舎の図書準備室。そこには、もう何もなかった。

 

だけど、俺の心には確かに“記録”ではない感情があった。

 

それは、初めて“未来”を感じた瞬間だった。

 

 

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