月曜日の朝、再びあの声が聞こえた気がした。
「アキラ──」
夢と現実の境目が、また一層曖昧になる。
6時45分。懐中時計と、目覚まし時計が同時に鳴った。
俺は布団から出て、デスクの上の記録帳を手に取った。
ナギサのノート──“観測者から、次の観測者へ”と書かれていたもの。
そのページの隙間に、小さく折りたたまれた手紙があった。
『まだ、ここにいる』
それはユウの筆跡だった。
彼女はどこへ行ったのか? なぜ沈黙を選び、なぜ今この言葉を残したのか──
この問いは、きっと今後の選択すべてに影響を与える。
俺は決意を新たにし、今日という日を迎えた。
ループは終わったのか。それとも、進化したのか。
記録にはない未来が、いま目の前にある。
──そう、思っていた。
だが。
放課後の図書準備室に、ユウの姿はなかった。
黒板も、机も、本棚も、全て変わらないまま──けれど、あの気配だけがどこにもなかった。
懐中時計の針が、わずかに進んでいた。6時46分。それだけが、唯一の変化だった。
「……終わったのか? これで」
独り言のように呟く。だが、答える者はいない。
誰もいない教室。誰もいないループの中。
ナギサのノートには、最後のページにこうあった。
『変化は選択の果てに。観測者はやがて、記録を残す者となる』
意味を考える間もなく、視界がぐにゃりと歪む。
まるで脳が、記憶を巻き戻すように。
──次の瞬間、俺は月曜日の朝、再びベッドの中にいた。
6時45分。
変わらない風景。
変わらない日常。
「……戻ってる?」
もう一度、俺は記録帳を開いた。
昨日の記録が──ない。
ユウの手紙も、ノートの隙間も、全て消えていた。
それどころか、懐中時計すら、元通り6時45分で止まっている。
ループは──壊れかけていたのではない。
より深く閉じようとしているのかもしれない。
その日、ナギサの姿も、ユウの気配も、一切見つからなかった。
俺は、元の一人に戻っていた。
変化を求めたはずなのに、変化が俺を置き去りにしていったようだった。
夜、ベッドに横たわりながら、俺は思った。
「……俺だけが残ったのか?」
そんな虚無感が、心をじわじわと蝕んでいく。
夢の中、誰もいない白い教室。
黒板に、誰かが書き残していた。
『観測者は孤独に還る』
──これは、終わりではなく、始まりなのかもしれない。
でも、もしそうだとしても。
この“始まり”に、俺はまた一人きりだった。
“青春”も“時間”も繋ぐ相手を失ったまま、俺は次の月曜日を迎えることになる。
……誰にも、届かないままに。