終末感が肌に染みついたあの月曜日から、すでに十数回は繰り返した。
けれど、俺の心はまだ、あの夜の静けさから抜け出せていない。ユウが消え、誰もいない屋上でただ風だけが吹いていたあの感触が、未だに指先を凍えさせている。
「ここにいる、だが──時間がない」
その言葉が、何度も頭の中でリフレインする。
俺の体はもう、このループを“終わらせる”ことに向かって動き始めていた。戻る場所なんて、最初からなかったのかもしれない。いや──ユウがいなくなったその日から、俺はもう“帰れない”んだ。
次に何かが動くのは、あの“座標”しかない。焦げ跡が残る旧校舎の廊下。その中心点に向かって、世界はじわじわと“歪み”を濃くしている。
そしてその週、再び焦げ跡に変化が起きた。
今度は──“声”が聞こえた。
「……見えてる?」
幻聴かと思った。けれど、はっきりと耳に届いたその声は、確かにユウのものだった。
しかし、あの場所に彼女はいない。
壁の奥から聞こえるかのような、にじむ声。
──この場所は、観測点じゃない。
“断層”だ。
時間と時間がぶつかり合い、ひずみを孕む、その境界。
俺は記録ノートを開き、震える手で記す。
『断層/ユウの声──存在は確認できず/交差現象?』
その日から、俺は“焦げ跡”を中心に実験を繰り返した。
・滞在時間の増加
・音声記録装置の設置
・メトロノームの再生
・自身の声の録音と再生
・旧校舎全体への定点観測
あらゆる手を尽くして、変化を求めた。
だが、明確な反応はなかった。
それでも諦めきれなかった。
……次第に、記録ノートの端に“焦燥”がにじみ始める。
「ここにいる、だが──時間がない」
何度も自分に言い聞かせるように、その言葉を記す。
すると、ある日。
ノートに、俺の筆跡ではない文字が書かれていた。
『わたしも いる』
ぞくり、と背筋を走る感覚。
確かに誰かが“応答”している。
──ユウ? それとも、別の……?
俺は全身で“その場所”を受け入れ始めた。
断層に身を委ね、時間のほつれに思考を預け、夢と現実の境目が曖昧になっていく感覚を、受け入れた。
そうして初めて、“向こう”が俺に輪郭を見せ始めた。
焦げ跡の先。
そこには、歪んだ教室の幻影が浮かんでいた。
白く塗りつぶされた黒板。
時計のない壁。
そして、窓のない空間。
その中心に立つユウ。
「ようやく、来たね」
それが夢なのか現実なのか──もう俺には分からなかった。
ただ、確かに“彼女はそこにいた”。
ユウは、悲しそうな目で俺を見て、こう言った。
「アキラ。あなたに一つ、選んでほしい未来があるの」
そこから先の言葉は、まだ聞こえてこない。
だが、俺の時間は──確実に進み始めている。
この世界の核心に、俺はもう、手を伸ばしていた。