焦げ跡の教室に、毎週のように足を運んでいる。
“応答”があった──あの日から、俺の優先順位は明確だった。
学校も、家族も、生活すべてが“そのための布石”に過ぎない。
『わたしも いる』
その一言が、俺のすべてを変えてしまったのだ。
……だがそれ以来、ノートには何も書き加えられていない。
手がかりもない、追加の反応もない。焦げ跡の教室は、相変わらずただの空間でしかなかった。
それでも俺は、ここに通い続ける。
執念なのか、信仰に近いのか──自分でも分からない。
その日も俺は早朝の始発に乗り、いつもよりも静かな校舎に滑り込むように入り、旧校舎の奥へと進んだ。
足音だけが響く廊下。
「ここにいる……でも、時間が──」
そう呟いたときだった。
──“ノイズ”が走った。
視界の端が、わずかにゆがむ。蛍光灯の明かりがフッと瞬き、空気が冷たくなる。
来る。
俺はとっさにノートを構える。カメラ。レコーダー。ペン。
すべてを準備して、焦げ跡の中心へと足を踏み入れる。
だがその瞬間、足元が崩れるような錯覚に襲われ、視界が闇に覆われた。
***
目を開けると、そこはあの“白い教室”だった。
──夢じゃない。
俺は“向こう側”に触れている。
「来たね」
ユウの声が、すぐ傍で聞こえた。
彼女は以前と変わらない制服姿で、少しだけほほ笑んでいた。
けれどその表情は、どこか苦しげだった。
「もう、限界が近いんだ」
「……なにが?」
「この“構造”全体が。タイムループという名前で呼んでいるけど……ほんとは違う。
あなたが繰り返してきたこの世界は、実は“計測”されてるの」
俺は言葉を失う。
ユウが語り始めた内容は、常識では説明がつかないものだった。
「観測者が一人であるうちは、世界は収束する。でも、二人以上が“気づく”と、計測の精度が乱れる」
「それって……」
「うん。もう、収束しない」
彼女の声が震えていた。
「わたしはね、過去に選んだの。“この世界を保つために、記憶を閉じる”って」
「──なんで」
「あなたが気づいて、もう一度選んでくれると信じてたから」
ユウの目が、涙で揺れていた。
「次が最後になる」
「え……」
「次のループで、世界は終わるかもしれない。
それでも、選んで──“残す未来”を」
そう言って彼女は、静かに消えた。
***
旧校舎に戻ると、辺りはまだ朝のままだった。
時間が止まっている。
──いや、進んでいない。
記録ノートを開いた。
そこにはまたしても、俺の知らない筆跡で、こう書かれていた。
『最後の選択へ』
俺はゆっくりと深呼吸をして、ノートを閉じた。
世界が終わる。
なら、俺は──何を選ぶべきなのか。
次の月曜日が、俺の“最後の月曜日”になる。