「フォニックゲイン?」
カタカナで表記されたそれは、画面上の3Dで回転する地球を映しながら、各地に小さく、いや、米国と日本が一箇所ずつだけ、異なる表示がされている。。
ほかの国が針の穴程の大きさの白い光が明滅を繰り返しているのに対し、日本と米国は赤色で表示されていた。
場所は日本が東京から発せられているのに対して、米国は……明らかに辺境の地方から発せられていた。
ほかの国と見比べても、光の数は首都に近づくにつれて多くなっている。
しかし、どうして米国のこの部分だけ、こんな田舎に存在するのだろう?
好奇心に駆られた私は、まずフォニックゲインについて調べることにした。
端末を操作すると、案外あっさりとその名称に行き着いた。
「フォニックゲイン」、簡単に言い直せば「歌のエネルギー」だ。
思ったとおり、この世界では歌がエネルギーになるらしい。
そして、このマップが表示しているのは世界中で発生しているフォニックゲインを表しているということだ。
となると首都に近づくにつれて光が多くなるのにも納得できる。
アイドル歌手のライブ、歌番組、カラオケ、そういう娯楽は首都の方が多いのは明らかだ。
しかし、それは一般的な場合。
この赤で表示された二つには、追記して「アウフヴァッヘン波形」と表記されている。
「また、知らない単語……」
正直、勉強はあまり得意ではない。
少し面倒だな、と思いつつ私はそれについて調べる。
「アウフヴァッヘン波形」、聖遺物、あるいは聖遺物の欠片が、歌の力によって起動する際に発する、エネルギーの特殊な波形パターン。
検索をかけた結果、そう表記された。
この聖遺物、には心当たりがある。
きっと、私が首から下げているものがそれにあたるのだろう。
歌うと光るし。
……にしてもこのデータ、下の方に特異災害対策機動部とか、別のデータにはF.I.S.とか書いてあるのは知らない見たくない。一体どこからこんなのを拾ってくるのやら……。
そう、私が悲嘆と呆れを半分づつ含んだため息をついた時だった。
――ウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
大きな警報音が発せられ、ほかの画面は消滅し、先ほどのフォニックゲインのみに集中して表示されるようになりました。
「……これってもしかしなくても、緊急事態っぽい?」
改めて見てみると、米国のあの箇所のフォニックゲインが急激に上昇していた。
ビーズ程だったのが、今ではビー玉サイズになっていた。
明らかに異常だ。
私が調べものをしている間に何があった。
詳しく調べようとすると、何もしていないのに勝手に該当箇所をズーム、壁や地面を通り抜けて、その現場の映像を、モニターは映し出した。
おい、どうやったらそんなことができるんだ!?
と一瞬思ったが次の瞬間にはそんな些細な疑問は吹き飛んだ。
「………………は?」
それを見て、かろうじて発せたのはそれだけだった。
それは何かの実験施設であったのだろうか、機械的な壁に包まれた少し広めの空間、普段なら清潔に保たれていたであろうその空間は、火災と瓦礫によって悲惨な状況へと変化していた。
しかし、私が衝撃を受けたのはそこではない。その空間の中央に立つ、一人の少女だった。
少女はあまり見かけないような風体をしていた。
いや、あれは服というよりは戦闘服?に近いと感じた。
そして、何より問題だったのは、彼女の状態だった。
瞳孔は開き、目や口から出血していた。
追加で表示される彼女の生態観測データでは、彼女がどれだけ危険な状態であるか、はっきりと示されていた。
何をどうしたらこうなるのだろう?
全身の細胞という細胞に深刻なダメージが見受けられた。
急いで病院又はそれ並みの医療施設へ搬送しなければ、死を免れないほどだ。
少女は一人、その現場に立っている。近くには彼女の姉妹であろうか、似たような女の子と大人の女性がいた。
近くにいる女の子は、瓦礫を登り、彼女のもとへ近づく。
彼女の体が一瞬光ったかと思うと、彼女の服装が比較的一般的なものへと変わる。
彼女が振り返ると、その異常に気がついたであろうか、少女の表情がさらに悲嘆を含めたものに変わる。
『セレナ! セレナァァ!!』
ビクッと私の体を震わす。
それというのも、急に音声が流れ始めたため、ちょっとびっくりしたからだ。
「……ってやばい!!」
そんなことを気にしている暇はなかった。
女の子がいた場所の天井が崩れる。幸いにも大人の女性が女の子をかばったため無事のようだが、女性は代わりに脚部が瓦礫の下敷きになってしまった。
そして、崩れたのはそこだけではない。
彼女がいる部分の天井もたった今崩れ始めた。
まずいまずいまずいまずい!!
脳内で激しく警報が鳴り響く。
しかし、ここは日本、私では現在進行形で起きているこれを止める術はない。
それもあと数秒でだ。例え近くにいても出来るかどうかわからない。
けれど、見殺しにはしたくない。
どうする、どうすればいい!!。
必死に頭を回転させる。
すると、私はある結論を導き出した。
――私じゃなくて、彼女に来てもらおう――
そう決めると、後は早かった。
私は、まるでずっとこの機械を扱っていたかのように、慣れた様子でとあるコードを入力する。
私は何かにとりつかれたかのように、知らないはずの操作を行っていた。
――座標、クリア、対象、指定、フォニックゲイン、問題なし、妨害、なし、転送コード、入力、完了――
何をしているのか、頭では理解している。何をしようとしているのかも、わかっている。
不思議な気分だった。
まるで、体が勝手に動いているかのようだった。
そして瓦礫が彼女を押しつぶす、ほんの数瞬前、彼女の体を光が包む。
同時に、私がいる倉庫内に閃光が差し込む。そして、何かが落ちる音。
見れば、私のすぐ横の、座っていない方のイスの上に、彼女がいた。
ぐったりしていて、血の気がなく、即死はまぬがれたとはいえ、未だ危険な状況には変わりない、彼女が座っていた。
「あっぶなぁ……、強制転移が間に合わなかったら、まじで死んでたわ……」
そう口にして、気づく。
「……強制転移って、何?」
冷静に考えるまでもなく、そんな機能が備わっているなんて私は知らないはずだ。
…………。
……っち。
「考えるのは、後回しかな」
私は、今も死にかけている彼女、セレナに目を向ける。
言うまでもなく、私には彼女を助けれるほどの医療の心得はない。
ならば当然、救急車を呼ぶべきなのだろが、なんて言い訳したものか。
「……仕方ない」
私は彼女を背負う。
年上だと思うのだけれど、彼女の体は思った以上に軽かった。
私が鍛えているのもあるだろうが、ちょっと軽すぎだと思う。
そして、私はフリズスキャールヴ《・・・・・・・・・》をスリープモードにして、目立たないように布をかける。
そして、蔵を出た後に、大声でこう叫んだ。
「誰かーー!! 空から女の子が降ってきたーーー!!」