STARWARS スターバードとニューオーダー 二つの翼   作:バケツ頭 小説もどき家

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『最善の選択が最良の結果を招くとは限らない』


プロローグ

 銀河系の外縁部には、星図に記されてはいても、ほとんど顧みられることのない星系がいくつも存在する。ニモラもまた、そうした“忘れられた星系”の一つだった。同名の星が原因不明の爆発を遂げるまでは、ニモラはアウターリムの星系の中でも比較的活気のある場所だった。しかし、最大の居住惑星が大量のノヴァ・クリスタルと共に爆散すると、この星系は凄まじい勢いで銀河から忘れ去られた。   

 

 現在、星系はニモラの爆発によって出来た小惑星帯が寂しく存在するだけの無の領域となっている。ここを訪れるのは小惑星から見つかる僅かな鉱石を求める採掘業者か、小惑星帯を秘密の取引場所に利用する犯罪者や密輸業者くらいだ。

 

 その小惑星帯の最も密度の高い宙域に潜む輸送船とその護衛機。帝国軍艦隊から逃げてきた彼らは小惑星の陰に隠れ、逃亡の機会を伺っていた。

 

 輸送船《ラディオン》

 かつては銀河中を飛び回っていた民間船の一隻だったが、今やその船体には銃創と煤が刻まれ、パッチワークのような修理痕が痛々しい。バッジも登録ナンバーもすでに削り取られ、機関部にはスクラップから取り外された中古品が無理矢理接合されていた。

 

 船内は暗く、照明は最小限。中にいるオルデラン難民らはただ帝国に見つからぬことだけを願っていた。見つかれば命はない。

 

「……ダンクファリック」

 

 そう悪態をつくのは、ARC-130の副コックピットに詰めるカイ・デレヴィン。彼はスキャナーの探査範囲から消えないTIE編隊に気が逆立っていた。帝国軍の短距離戦闘機はかなり前から自機と輸送船の周辺を飛び回っている。

 

「あいつら、まだ彷徨いてやがる。いい加減煩くて仕方がねぇ……」

 

「落ち着いて。まだ見つかった訳ではないわ」

 

 タラは落ち着いて応えた。彼女は若くしてコメットのリーダーを務めているコルサント生まれの女性で、帝国アカデミーの卒業生だ。

 

 タラ・ヴォーンの声には、表面に静けさがあった。だが、その奥には研ぎ澄まされた警戒心と、長年鍛え上げられた戦術的な直感が渦巻いていた。

 かつて帝国のアカデミーで模範とされた彼女は、他の士官候補生とは違っていた。与えられた命令に疑問を抱き、その中に潜む綻びや矛盾を読み取る鋭さを持っていた。それが彼女を離反へと導いたのだ。アカデミー同期の顔、ブラスターを下げたあの彼女の表情。戦う意志に迷いはなかったが、過去を忘れた訳ではない。

 

 コックピットに浮かぶ木彫りのペンダント。モニターのケーブルにくくりつけられた御守りが揺らめいている。これも過去の一部だ。

 

「だけど、このままじゃ嗅ぎつけられるのも時間の問題だ」

 

 カイの懸念ももっともだ。このままではいずれ存在が露見する。小惑星帯は存在を隠してくれるが絶対ではない。一度見つかれば小惑星帯の外で待機しているであろうスターデストロイヤーからTIEの大編隊がやってくる。そうなったらクローキング装置がない限り、振り切れないだろう。

 

 だが、いまは動くべきではない。小惑星帯が作る自然の死角を最大限に利用し、息を潜めること――それが唯一の生存戦略だった。

 

 だが、その静寂を破ったのは、予想外のものだった。

 

 通信回線に弱い電子ノイズが走り、小さな通信ウィンドウが開く。タラの目が鋭く細められた。

 

「……こちらラディオン。避難民の子供が体調を崩している。エンジン出力も低下中。指示を……」

 

「止めて! 通信を切って!」

 

 タラは即座に叫んだ。

 

 緊張する空気。

 

 不気味な沈黙。それをカイの声が破った。

 

 

「TIE編隊が進路変更! 近づいてくる!」

 

「気づかれた!」

 

 

 

 

 

 

 

 イェーガー7、ヘイル・アディソン少尉は、無言のまま操縦桿を握り締めていた。周囲を囲むのは岩屑と塵、そして密集する破片の群れ。狭いコックピット越しに見える景色は、死した星が最後に残した静かな残響だった。

 

『……こちらラディオン──』

 

 ノイズ混じりの通信が入る。咄嗟に通信機器のつまみを操作するが、すぐに電波は途切れた。

 

「不明瞭な電波を傍受──」

「ああ、確認した」

 

 ヘイルの報告をイェーガー1の声が掻き消した。抑揚のない低い声は彼の冷酷さを表しているかのようだ。

 

「システムが電波の発信地点を割り出した。近いぞ」

   

 イェーガー1は機体を反転させ、それにヘイル達も続く。

 

 小惑星をかすめるように機体を滑らせ、TIEは楔型の陣形で進む。小惑星帯における操縦は、高い精度と冷静な感覚を要求される。

 しばらくすると、モニターに不規則な形状の反応が浮かび上がった。それは岩の影に巧妙に隠れていたが、解析ソフトが断片的な金属反応を捉え、艦船構造の可能性を示していた。

 

「船影を確認。識別コードなし……構造から見て民間船、それも旧型。間違いないターゲットだ」

 

 イェーガー2が報告する。その直後、複数のマーカーがHUDに映し出された。

 

「スターファイターを確認」と、ヘイル。「ARC-170です」

 

「確認した。全機、交戦。良い狩りを」

 

 イェーガー1が冷静に告げると、TIE編隊は瞬時に隊形を変更し、弧を描くようにARC-170へと向かっていった。

 

 正面からレーザーを浴びせ合い、真横を通り過ぎるスターファイター。TIEは被弾面積が小さく、170は偏向シールドが備えられている。有効弾を与えられず、両者はドッグファイトにもつれ込んだ。

 

 後ろは簡単に取れた。ヘイルは後部銃座からの射撃を躱しながら照準コンピューターで敵機をロックし、短くトリガーを引く。

 

「一機撃破」

 

 爆炎に包まれた機体が小惑星にぶつかるのを確認し、ヘイルは淡々と報告する。

 

 クローン戦争で活躍した攻撃偵察機も今や時代遅れ。TIEファイターの速度には敵わない。彼らは簡単に後ろを取られ、小惑星帯の中で逃げ回っている。

 

「輸送船が別行動を取ろうとしている。7番は俺に続け、あれを追尾するぞ」

 

「了解」

 

 ヘイルは操縦桿を引き寄せ、自機をイェーガー1の後方へ滑り込ませた。イェーガー1が操るTIEアドバンスド×1と距離を適度に離す。少しのコース変更が命取りにならないように。

 

 イェーガー1とヘイルは難民船を追尾しながら、警戒を緩めることなく機体を動かしていた。

 

 TIEアドバンスド×1の高性能スキャナーは船体の微細な動きを捉え、プロトン魚雷の照準を合わせていく。

 

「プロトン、発射準備完了」イェーガー1は冷徹な声で命じた。「イェーガー7、援護しろ」

 

「了解」

 

 イェーガー1から離れ、援護位置につくヘイル。

 側面や前方から新手が現れても対処でき、後方から攻撃されてもイェーガー1を護れる位置だ。

 

「……発射」

 

 プロトン魚雷が難民船に向けて放たれる。発射管から放たれた2発の魚雷は赤い光を放ちながら難民船へと向かう。

 だが、コース上に小惑星が高速で通りかかった。魚雷はそれに命中。その爆発に巻き込まれてもう一発も消えた。

 

「クソッ! 」

 

 イェーガー1はあり得ない妨害に苛立ちを露わにした。しかし、すぐに冷静さを取り戻しヘイルに指示を出す。

 

「7番、こちらの残弾数はゼロだ。お前がやれ」

「了解」

 

 ヘイルは操縦桿を握り締めた。照準コンピューターを調節し、狙いを《ラディオン》に定める。

 しかし、その時、敵機から思いもよらぬ通信が飛び込んできた。

 

『こちらラディオン――帝国軍パイロット。お願いだ。家族が乗っている。見逃してくれ……』

 

 オープンチャンネルからの通信。ヘイルの手が一瞬止まった。通信の声は、切迫し、かすれていた。

 

「チャンネルをローカルだけにしろ」イェーガー1の冷たい声が響く。「準備ができ次第撃つんだ」

 

『子供も乗っているんだ! 頼む!』

 

 ヘイルの呼吸が荒くなる。照準コンピューターは既にロックを終えていた。

 

「何やってる! 撃て! 攻撃しろ」

 

 命令と良心の狭間。ヘイルは照準コンピューターのロックを外し、プロトン魚雷を放った。魚雷は《ラディオン》の上空をかすめていく。

 

「……残弾ゼロ」

 

 ヘイルがそう報告すると、イェーガー1はレーザーを乱射して難民船と距離を詰めた。しかし、レーザーはシールドに阻まれ、難民船は超空間へと消えていった。

 

 ヘイルは重い息を吐いた。安堵と不安が入り混じった息だ。

 

 

「畜生……逃げられた!」

 

 イェーガー1の冷徹な声が静かに響いた。

 

「何故外した?! どういうつもひだ!」

 

 彼女は答えることができなかった。

 

 

 

 

 インペリアル級スターデストロイヤー《トニトルス》その艦底のハンガーに吸い込まれるように向かっていくラムダ級シャトル。

 

 ランディング・ギアがハンガーデッキに下ろされ、空気の震えるような沈黙が走った。

 昇降ランプが音を立てて下りていく。その影の中から、ゆっくりと姿を現したのは一人の士官だった。

 

 黒の制服に身を包み、軍帽の庇の下から覗く瞳は緑。肌は白く、艦内の照明がその輪郭を硬質に浮かび上がらせていた。口元には微かな緊張が滲んでいたが、歩みに迷いはなかった。

 

 全速力で向かってくるマウスドロイド。

 女士官は自分ブーツに当たって倒れたドロイドを見て笑みを浮かべた。

 

 体を立て直してやると、音を鳴らしながら逃げるように去っていくドロイド。彼女が顔を上げると、眼の前にはパイロットが立っていた。女士官は表情を強張らせる。

 

 標準的なTIEパイロットスーツ。しかし、彼のスーツやその手に抱えるヘルメットには青いラインが入っていた。

 

「トニトルスへ、ようこそ。ヘイル少尉。歓迎するよ」

 

 差し出される手。ヘイルは再び表情を微かに崩し、握手に応じた。

 

 インペリアル級スターデストロイヤー『トニトルス』

 そのハンガーで握手を交わした時、ヘイルの新たなキャリアは始まるのだった。

 

 

 

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