STARWARS スターバードとニューオーダー 二つの翼 作:バケツ頭 小説もどき家
第1話『残党』
帝国軍インペリアル級スターデストロイヤー《トニトルス》
その巨大な艦体とその周りを囲む艦船は青白く煌めく超空間を静かに進んでいた。ヴィクトリー級二隻がトニトルスの両側面を護るように航行し、その周りをタータン級クルーザーやアーキテンス級が埋めている。
トニトルスのハンガーデッキでは整備員達がAT-ATの誘導を行い、ストームトルーパーの連隊がシャトルの前に整列していた。ボマーの爆弾倉に爆弾が装填され、武器弾薬が満載のコンテナが次々とデッキに並べられていく。
ヘイルはTIEファイターのコックピットから外の様子を眺めていた。ハンガーラックの上から一望するデッキの様子は忙しない。それに比べてコックピット内は静かだった。
『こちらレクス1。全員起きろ』
ヘイスティン少佐の声が、ヘルメットのスピーカーから響いた。彼はレクスリーダーであり、トニトルスの戦闘機大隊の指揮官だ。
『間もなく超空間を抜ける。機器のチェックをしろ』
「了解」
ヘイルは機器を操作し、各種システムの起動状況を確認する。エンジン、通信モジュール、ウェポンシステムは正常を示す緑色、だが照準コンピューターのモニターは読み込み中の表示のあとにエラーの表示が出る。何度やっても駄目だ。思わずため息が漏れる。
『全機、チェックを終えたら報告せよ』
『レクス3、システム正常。問題なし』
『レクス4、準備よし』
「レクス5、暴れる準備はできてます」
各機が順に応答していく。
『ルーキー、お前は?』
「レクス7。照準コンピューターに不具合。エラーが出ます」
『……ああ、“また”か。叩け。それで直る』
レクス1の指示にヘイルは眉をひそめた。
「叩く?」
『そうだ』
『照準コンピューターを思いっきり叩いてから再起動するのよ、ルーキー』
レクス4──セレナ。彼女の声は笑い混じりだった。
『モニターは叩くなよ。ぶっ壊れちまうからな。横を叩け』
レクス5 ──ドラグゼフ。その低い声には微かな陽気さが含まれている。
ヘイルはためらいがちにグローブをはめた拳で、コンピューター横の筐体を軽く叩いた。何も変化はない。もう一度叩いてみる、今度は少し強めに。
バチッと音がしてモニターが一瞬ブラックアウトする。焦ったが、すぐに再起動の表示が出た。緑色のステータスランプが点灯する。
「……復旧しました。照準コンピューター、作動確認。全システム正常です」
『おう、やったなルーキー』
『おめでとう、帝国式修理法の洗礼ね』
皆のからかい混じりの声が、通信回線に満ちる。どの声にもどこか柔らかな調子があった。
「……ありがとうございます」
丁寧すぎる返答に再びクスクスと笑いが起きた。ヘイルは視線をモニターから外さず、作業に集中する。
『間もなく超空間を抜ける。配置につけ』
アナウンスと警告音がハンガーに鳴り響く。寸前まで軽口を叩いていた隊員たちは黙り込み、出撃に備える。
ヘイルは視線を正面に据えた。
数秒後、レイシールド越しに見える青白い空間が漆黒の闇に変わった。超空間を抜けたのだ。
『全機出撃せよ』
固定アームが解除され、機体がわずかに揺れた。
ヘイルはエンジンを点火し、ハンガーを飛び出た。
宇宙に放たれた瞬間、ヘイルは深く息を吸い込んだ。
眼前には旧独立星系連合の艦隊が待ち構えていた。
ルクレハルク級バトルシップを中心に数隻のプロヴィデンス級、それから数多のミュニファスント級やゴザンティ級クルーザーが布陣している。
両軍の艦船が砲撃戦を展開し始めると同時にヴァルチャー・ドロイドとハイエナ級ボマーの大編隊が一斉に飛び立った。一直線にTIE部隊に向かってくる。
ぶつかる両軍の大編隊。緑と赤のレーザーが交錯し、TIEとドロイド・スターファイターがすれ違う。
『全機散開! 敵を狩れ!』
ヘイスティン少佐の命令と同時に、レクス中隊は散っていく。帝国軍のTIEは宇宙空間を縦横無尽に飛び交い、ドロイド戦闘機とドッグファイトを繰り広げる。
最初の正面突撃を生き延びたヘイルは反転し、一機のヴァルチャー・ドロイドを追尾する。
照準コンピューターが敵機を完全にロックすると、ヘイルはトリガーを引いた。数発の緑色のレーザーが直線を描き、敵機を撃ち抜く。制御を失った敵機はスピンしながら爆発した。
『ルーキーに1点追加』ヒューという口笛を鳴らし、レクス1が言った。『いいぞ、ルーキー』
『もう一機やったの? やるじゃない』と、セレナ。『中々やるじゃない』
セレナの明るい声が通信に割り込む。彼女の機体は軽やかな軌道で2機のドロイドを翻弄し、華麗に撃破していく。
『カバーを頼む! 追いかけられてる!』
今度はドラグゼフの低く太い声だ。彼のTIEファイターはヴァルチャー・ドロイド数機に追われていた。
「援護します!」
ヘイルは機体を旋回させ、後方からドラグゼフに張りついたドロイドを狙う。だが、照準コンピューターが突然再起動した。
「待って……そんな」
『おい! 早いとこ頼むぜ、ルーキー!』
レーザーを躱すドラグゼフ。ヘイルは一度呼吸を整えた。そして思い切りコンピューターを叩いて再起動する。初期画面から中々切り替わらない。
間に合わない。ヘイルは視界の真ん中に敵機を捉えると、トリガーを引いた。最初の一撃を目安に、次弾を撃ち込む。三発目でドロイド戦闘機に命中させた。
ヴァルチャー・ドロイドは火花を散らしながら分解し、破片となって宇宙に散った。続けて2機目も同様に撃破する。
『感謝する! ルーキー』
『良くやった、ルーキー』
ドラグゼフとヘイスティンの通信が続けざまに入る。ヘイルは安堵のため息をついた。
◇
分離主義勢力の残党艦隊は崩壊しつつあった。TIEボマー編隊の雷撃と艦隊の砲撃によって艦は次々と無力化され、最後に残っていたプロヴィデンス級もインペリアル級スターデストロイヤーの片舷からのゼロ距離射撃をモロに受けて地表へと落ちていく。母艦を失ったドロイドスターファイターは機能停止に陥る前に敵艦へと特攻していくが、スターデストロイヤー周辺に緻密に配置されたタータン級と母艦を守る直掩機がそれを許さない。主力艦と補助艦の弾幕とTIEによって分離主義勢力残党のスターファイターはスクラップになり、宇宙空間に散っていった。
スターデストロイヤーが最後のプロヴィデンスとゼロ距離射撃を浴びせあっている頃、レクス中隊は母艦に戻ってきていた。TIEを格納庫に収めた彼等はストームトルーパーの大隊や輸送機がひしめくデッキに集結し、一隻のラムダに搭乗する。
兵員区画の両脇に設置された座席シート。ヘイル達はコックピットに近い右側のシートに並んで腰掛け、残りの座席をストームトルーパーらが埋めた。ヘルメットを脱いでトラベルビスケットを齧るセレナ、趣味のホログラム日誌を記録するドラグゼフ。静かに発進を待つストームトルーパー達と違って、レクス中隊のメンバーらは自由に過ごしていた。
海兵隊所属のストームトルーパーにレクス中隊、シャトルに搭乗している人員は総勢20名だ。レクス中隊とトニトルスの海兵隊は敵艦への移乗戦や惑星への地上作戦で度々行動を共にしている。
『シャトル、ヘルバード号。離陸を許可する』
「了解。ヘルバード号離陸する」操縦士は後ろを振り向き、腕を組んで立っている長身のTIEパイロットを見上げる。「少佐、降下準備を。手荒い歓迎に備えてください」
「ああ」ヘイスティンは操縦士の肩を叩き、兵員区画へと向かう。
コックピットからやってくる少佐。「離陸するぞ」彼の短い言葉で、セレナはビスケットの残りをケースにしまい、ドラグゼフは端末の電源を切る。
「装備チェック!」
ストームトルーパーの指揮官が声を張り上げた。トルーパー達はE-11の照準器やヘルメットに不具合がないか確認する。
プラズマセルのカートリッジが三つ、サーマル・デトネーターが八個、三日分の液体食糧とレーションバー、医療ポーチ内の各種医療品。指示された訳では無いが、ヘイルは装備品をチェックした。
相棒のマウスドロイドは主人に電源を入れられると、独特な“鳴き声”をあげた。調子は大丈夫なようだ。「落ち着いて、シーカー。あなたの出番はまだ」ヘイルは相棒の電源を切り、腰ベルトに引っ掛けた。
シャトルが離陸すると照明が暗くなり、赤ランプが点灯した。
誰も喋らなくなった機内に響く微かな音。その音はヘイルの隣から聴こえてきた。セレナだ。彼女は左脚を震わせ、物音を立てていた。
ヘイルがセレナを見ていると、セレナの向こうに座っているドラグセフと目が合った。『トラウマだよ』ヘルメットから彼の声が聴こえる。『幼い頃にスターツアーズで事故に遭って以来、人が操縦するもの全てに乗るのが苦手になっちまったらしい』
ヘイルは何かを言う代わりに、ただ前を向いた。
『このネタで彼女をからかってもいいが、俺から聞いたとは言うなよ』
「了解」前を見ながらヘイルは答えた。
しばらくして、穏やかだった機内が突然揺れだした。セレナがビクリと反応し、咄嗟にヘイルの手を握る。ルーキーの手を握ってしまった事に彼女は一瞬動揺した様だが、その手を離す事はしなかった。ヘイルは何も言わずに彼女の手を握り続けた。
「そろそろだな」シャトルが大気圏に入りかかっていることを認識したヘイスティンはそう呟くと、座席から立ち上がり、揺れる機内を進む。
僅かに見えるホログラムの青い光。ヘイスティンとトルーパーの指揮官はホロマップを確認しながら作戦の最終打ち合わせをしているようだった。
ガタガタと揺れていた機内に別の衝撃が伝わる。敵の対空砲火だ。衝撃と共に爆発音が外から聞こえてくる。
何もできぬまま撃墜されるんじゃないかというヘイルの不安は徒労に終わった。数分間の揺れの後、機内は再び穏やかになった。そして赤ランプが緑に変わると、昇降ランプが下り、外の光が機内に差し込んだ。
「行け! 行け!」
囁きよりも大きく、大声よりも小さな声でヘイスティンは座席から立ち上がった部下たちを外に“追い出す”
ヘイルが外へと飛び出すと、そこは緑豊かな森の中だった。生まれ故郷のナブーを思わせるような長閑な自然だ。
ストームトルーパーらが散開してシャトル周囲を警戒する中、レクス中隊のメンバーはヘイスティンの周りに集まっていた。
「よし、我々が今いる場所は着陸地点チャーリーだ。我々はここから南に進み、ジェネレーターを目指す」
ホログラムで表示された地形マップをヘイスティンは指し示しながら現在地と目標までのルートを伝える。
「我々がジェネレーターの破壊工作にモタつくか失敗した場合、我らの“ご友人”達が2300(銀河標準時)丁度にシールド発生装置へ直接攻撃を仕掛ける」
「失敗だなんてありえませんよ」セレナが笑った。
「そう願うよ。どちらが失敗したとしても、本隊の上陸は予定通り行われる。本隊の連中が地獄を見るか、ターボーレーザー砲の弾幕が地表に降り注ぐのをスターデストロイヤーの窓から眺めるかは俺達次第だ」
「俺としては地獄を見てほしいね」ドラグセフがヘイルに囁いた。「奴等地上軍の連中はサボりすぎだ、そう思わないか?」
ヘイルは微かに肩をすくめた。
「時間だ」ヘイスティンは作戦開始時刻の訪れを端末から確認すると、E-11をホルスターから取り出した。「レクス中隊前進!」
◇
五人のレクス中隊と五人のストームトルーパーは深い森の中を進んでいた。聴いたこともない鳥や動物の鳴き声が響き、見たこともない虫が地面や木の幹を這いずり回っている。金色に輝く昆虫に豊かな色彩を持つ蝶。ヘイルはコルサントにいる友人の“虫博士”の為に何匹か採集してやろうかと思いもしたが、隊列は止まらずに進み続けており、モタモタしていると置いていかれる気がしたので諦めるしか無かった。
レクス中隊のメンバーらは先頭を進むヘイスティンを除くと、思い思いのペースで部隊にくっついている。ヘイルはしばらく先頭付近を歩いていたが、自然の景色を眺めながら進んでいたせいで、今では最後尾に近い。
列で一番遅いのはDLT-19を持ったストームトルーパーLS-2236だ。ストームトルーパーの中で、彼は今日最も散々な目に遭っている。土道に僅かに飛び出た岩に躓き、曲がりくねった枝に勢いよく頭をぶつけた。そんな彼を毎回気にかけ、手を差し伸べるのは仲間のトルーパーではなく、ヘイルだった。
「大丈夫?」
「ええ、何とも……どうも」
それがお決まりのやりとりだった。
崖を登っていた時、LS-2236は足を滑らせて数回バウンドしながら転げ落ち、食糧や予備の弾薬が入ったバックパックを“紛失”した。仲間のトルーパーからは非難の声、庇う声は少ない。
「俺の武器を返せ、ルーキー!」そう言って預けていたDLT-19をひったくる伍長。「シャトルまで戻ったらどうだ? このドジ野郎」
DLT-19を運ばなくて良くなった分、負担は軽くなった。だが、LS-2236の心はその分重くなった。父、妹、友人、恋人。故郷の人々はドジをやらかしても笑って許してくれ、ストームトルーパーになったときには誇りだと祝ってくれた。彼等が今の自分を見たらきっとがっかりするだろう。LS-2236は小さくため息をついた。
レクス中隊の女隊員は斥候任務に出る前に、肩を叩いてLS-2236を労ってくれた。彼女がいなくなった今、LS-2236はE-11の射撃モードを意味もなく切り替えながら孤独な休憩時間を耐えるしかない。レーションバーも液体食糧もバックパックと共に無くなってしまったから。
「アイツ、しょっちゅう頭をぶつけてるな。培養器育ちかもしれん」
「だとしたら射撃が下手すぎる。なんであんなのが俺達の部隊に入れたんだか」
「よせよ、二人とも。からかってやるな」
近くで聞こえる仲間達の声。数少ない擁護の声がよりLS-2246の心を抉る
。
◇
錆びついた民間の輸送ビークルが三台、土道をゆっくりと進んでいる。その前後を護衛するのは、B1バトル・ドロイドとAATだ。輸送ビークルには人間やトワイレックの男女が満載で、誰もが表情を暗くしている。
護衛のドロイドたちは、スクラップ寸前だった。錆びた装甲と今にも折れそうな関節、クローン戦争期の独立星系連合軍であれば真っ先に工場送りになっている個体が護送部隊の大半を占めていた。
囚人たちは声を出さず、ビークルの荷台で身を寄せ合っていた。幾人かの服やコートには“レゼン採掘会社”と書かれた円形のマークが刻まれている。バトルドロイドも囚人たちも、自分達を森の陰から見つめている二人の特殊部隊員には全く気がつかない。
「行ったわね」
車列が通過すると、セレナはE-11の照準器から目を離した。ヘイルもライフルのセーフティを戻し、身を起こす。
「彼らは何処に向かったんでしょう? 囚人を護送中のようでしたが」
「さぁね」セレナは肩を竦める。「だけど楽しい場所じゃないのは確かよ」と、コムリンクを起動する。「少佐、ルートの安全を確保しました。前進しても大丈夫です」
『了解。お前達は更に先行し、“霧”を払え』暗号化された短距離通信はノイズ混じりで聞き取りにくい。バリバリという雑音が耳をつんざく。
「了解です、少佐」通信を終えると、セレナは「行きましょう」と前進のハンドサインをヘイルに示す。
ヘイルは頷き、セレナの後に続いた。土道を横切り、反対側の森に入る。太陽は高く昇っているが、森の中は薄暗く、光は木々の葉に阻まれてほとんど地面に届かない。
「暗くてよく見えない」セレナはヘイルに顔を向ける。「あなたのオンボロの出番よ」
「了解──出番よ、シーカー」ヘイルは腰から相棒を取り外し、地面に置く。「先に進んで、地雷やセンサーを見つけて」
マウスドロイドは機械音で肯定を示し、森の細道を進む。帝国国歌を口ずさみながら。
ヘイルとセレナはE-11を両手で持ちながら、ゆっくりとマウスドロイドを追いかける。
森の奥はまるで生き物の体内のようだった。湿った空気が肌にまとわりつき、植物の根が地面を這い回る。どこかで羽虫の群れがざわめく度にシーカーは怯えたような機械音をあげ、野生動物の目が光る度に動きを止めた。
その悲鳴が機械音であれば問題はない。だが、ISDの警告音を鳴らして立ち止まった時はそうではない。警告音がヘルメットに響くと、ヘイルは片手をあげて動きを止める。
「地雷? センサー?」
「地雷です……それも複数」
ヘイルは言った。彼女のヘルメットのHUDにはシーカーから送信された分析データが表示されている。近くの地形を現した簡易マップに映る無数の赤点。型番と殺傷範囲を示すデータ。薄暗い森の奥は死が広がっていた。
バトルドロイドと同じく独立星系連合は地雷も大量に生産して銀河中に投入したようだ。シーカーが認識できる範囲だけで数百もの対人地雷の存在が確認できる。
「数百もの地雷が周囲に設置されてます」
「数百……」セレナはため息をついた。「ちなみにその地雷って強力?」
ヘイルは無言でセレナを見た。
「聞くまでもないか……」と、セレナ。「迂回するしかないみたいね」
「ええ、残念ながら」
「了解……」セレナはコムリンクのボタンを押した。「少佐、ルート上に地雷源を発見。解除不可能です。迂回したほうがいいかと」
『了……54まで引き返せ……ルートを再設定し……を再開……る』
「了解、ポイント154まで引き返し、そちらと合流します」
不明確な通信であっても、セレナには関係ない。聞き取りにくいからといって通信を繰り返すよう要請するのは時間のロスである。彼女は少佐からの通信を脳内で穴埋めし、返答した。
『了……』雑音と共に通信が切れた。
「さぁ、シーカーを回収して。引き返すよ」
「了解」
ヘイルは相棒を掴み、腰に引っ掛けた。
◇
地雷原を迂回するのに二時間もかかってしまった。武装した十人の帝国軍部隊は森を避けて渓谷へと進み、シールドジェネレーターを目指した。
緑豊かな今までの景色とは打って変わって、渓谷は木一本さえ生えていない。大地から突き出た岩は牙のような見た目をしており、周囲の岩壁に空いた穴からは不気味な光がいくつも輝いている。光は平行に二つ、それが何個も点在していた。恐らく侵入者の様子を伺っている野生動物だろう。
渓谷を進んでいる時、セレナはヘイルに地元のガンダークの恐ろしい話を話した。彼女の故郷では野生のガンダークによる被害が深刻で、数え切れない程の入植者が彼等の餌食となったという。今まで遭遇した自然の脅威といったら、暴走したカドゥや沼地の虫くらいだったヘイルにとって、セレナの話は新鮮で恐ろしかった。アウターリムの過酷な荒野育ちとミッドリムの穏やかな惑星(そして皇帝の故郷)で成長したヘイル。二人の幼少期は全くと言っていいほど共通点がなかった。
セレナか話したガンダークは出てこなかったが、野生動物の襲撃は確かにあった。道を進んでいる途中、何者かが洞穴にトルーパーを引きずり込んだのだ。一瞬の出来事にヘイルはライフルの安全装置を解除する暇もなかった。
トルーパーの悲鳴におぞましい唸り声。バキバキと何かが折れる音。そしてヘルメットのコムから伝わる犠牲者のくぐもった声。救出は無理だと判断したヘイスティンは洞穴にブラスターを乱射し、デトネーターを投げ入れた。
周囲が静かになると、ヘイスティンはライフルのセルを交換し「行こう」と短く言った。自然の脅威を目の当たりにした部隊員らは道中、洞穴から距離を離し、暗闇から自分達を見つめる光をより一層警戒した。
部隊にとって最悪なのは優秀なDLT-19射手が失われたことだった。そして幸いなのは、彼が自分のDLT-19とバックパックをルーキーに持たせていた事だった。人員は減ったが、武器と弾薬は無事だ。火力の減少は最小限に抑えられた。トルーパーの軍曹はルーキーを仮の分隊支援要員とし、戦死者の仕事を引き継がせた。
新米の自分を分隊支援要員にするなんて。ルーキーは分隊長の判断に戸惑ったが、従う他なかった。
「……DLT-19なんてアカデミーの訓練以外で扱ったことない」
彼はぼやいた。
「撃ちまくればいいのよ」と、セレナ。
ルーキーはため息をついた。
「簡単に言うよな……」彼がそうつぶやくと、ヘイルが彼の肩を軽く叩き、横を通り過ぎていく。「やってみるか……」ストームトルーパーのルーキーはDLT-19を持ち直し、小さく息を吐いた。
◇
夜。レクス中隊とストームトルーパー達は渓谷を抜け、目的にたどり着いた。ヘイスティン少佐は崖の上からターゲットを偵察する。開けた大地、その中央にそびえる巨大な岩。一見すると何の変哲もない自然物だが、歩哨のバトルドロイドと周囲に設置されたプロトン砲がそうではない事を示していた。地表のスキャンデーターを分析したスターデストロイヤーの情報士官らの見立てが確かなら、あの岩の地下にシールド発生装置のパワージェネレーターが存在している。
岩近くの穴からは高濃度の熱源が確認できる。恐らくパワージェネレーターの排熱口を担っているのだろう。
「バトルドロイドが数個分隊に重砲が四基……」少佐は新たな脅威がバイノキュラーに映ると軽く舌打ちする。「……クソ」
視界に映ったのは三両のAATとバトルドロイドの群れだった。少なくとも三両のAATとそれに随伴しているバトルドロイドは一個中隊程度はいる。敵はどうやら戦術士官の予想よりも用心深いらしい。
「アセッションケーブル準備できました」と、セレナ。
「待て」ヘイスティンはセレナに顔を向ける。「計画変更だ。待機しろ」
「了解……」セレナはため息をついた。「……何だか嫌な予感がしてきた」
ヘイスティンは再びバイノキュラーを覗く。
発生装置からここまでの距離はそんなに離れていない。“餌”を撒いたら敵は食いつくだろうか? 不安を抱きながらも少佐はコムリンクのチャンネルを別働隊に合わせる。
『可能だ』ヘイスティンの計画を聞いたストームトルーパーの隊長は即答した。『配置につき次第攻撃する』
「助かる」
◇
タラはすっかり空になったコップを弄くりながら静寂を耐えていた。切れかかった照明にボロボロの壁や床。旧独立星系連合の要人をもてなす為に造られたこの貴賓室は今では見る影もない。タラの向かいに腰掛けているニモーディアンの亡骸が居心地の悪さに拍車をかけている。白骨化したその死体と足元に置かれたピストルから察するに、彼はクローン戦争の敗戦と課せられるであろう罰を受け入れられず、自害したのだろう。無機物の戦士達に埋葬の概念はないらしい。
外交任務でこの辺鄙な星にやってきた時には簡単な任務かと思ったが、帝国軍の襲撃が全てを変えた。今となっては惑星から出るのおろかこの司令ステーションから抜け出すのも至難の業だ。
ドアが開くとともに無機質な足音が部屋に響いた。剥げた塗装、飛び出た視覚センサー。戦術ドロイドは腕を後ろで組みながらタラのもとへ歩み寄る。
「お茶のオカワリはイカガカナ? 大使」
「結構よ」タラは言った。「それよりもこの部屋から出してくれると有り難いんだけど」
「オマエが要求に従ってくれれば直ぐにでも出しマショウ」ドロイドは顔をタラに近づけた。「オマエの組織に救援を要請スルノダ。帝国軍艦隊の封鎖を破る艦隊ヲ派遣スルヨウニト」
「だから、それは出来ないわ、今救援を要請しても期待する援軍はやってこないし、私は仲間を危険な目に合わせたくない。……何度も言うようだけど、帝国のスターデストロイヤー艦隊を破るだけの戦力を反乱同盟軍は持ち合わせていないのよ」
「ハーハハハ」ドロイドの無機質な笑い声が響く。「そんなハズはナイ。私は知っているノダ。オマエ達反乱同盟軍が帝国の巨大兵器ヲ破壊したコトを。ワタシの計算ではアノ、兵器ヲ破壊するにはカナリの戦力が必要ナハズ」
タラは眉をひそめた。どこで情報を掴んたか知らないが、目の前のドロイドはあの奇跡を実際に見た訳でも真実を知っている訳でもない。反乱同盟軍が帝国のデススターを破壊したという事実だけが、彼の時代遅れなドロイド脳に記憶されているのだ。もしくは詳細を聞いていても、その頭の硬さのせいで奇跡が起こった事を認められないのかもしれない。
「今の危機ヲ脱スルにはお前達のタスケがいるノダ」ドロイドは言った。「出し惜しみセズ、救援ヲ送るヨウニ要請シナサイ」
「出来ないわ、不可能なの。それに通信だってとっくに帝国軍に……」
「ナラバ、仕方無い」ドロイドは手の平に置かれた投影機を起動した。「この者達がどうなってもイイノカ?」
バトルドロイドに囲まれた民間人達のホログラム。タラは目を大きくした。
「……彼らは?」
「スパイス鉱山の労働者たちダ。救援ガ来なければ彼らも死ぬのダゾ?」
まさかこの星に民間人がいるなんて。タラの覚悟が揺れた。
「さて、どうスル?」
黙るタラ。暫し、沈黙が続いた。
ドロイドが何かを口にしようとした時、ホログラム通信機の呼び出し音が鳴る。
「どうシタ?」
青く浮かび上がるバトルドロイドのホログラム。「大変ですー! シールド発生装置が攻撃を受けてますー!」
「敵の狙いは発生装置か。大胆ダナ」戦術ドロイドは自分の読みが外れた事を有機体に悟られないよう言葉を続けた。「ジェネレーターの部隊を増援に向かわセロ。発生装置を死守させるノダ」
「あー、コマンダー?」バトルドロイドのホログラムは首を傾げた。「……どのくらい差し向ければいいんです?」
「全部隊に決まっているでアロウ」戦術ドロイドはホログラムに顔を近づけた。「攻撃を徹底的に粉砕するノダ!」
「ラジャ、ラジャ」
◇
「異常なしっ!」
ジェネレーターの出力は安定していて、温度も適切。何も問題はない。バトルドロイドはモニターから目を逸らし、ガチガチになった関節を動かした。「早く交代の時間にならないかなー」隣に座る相棒のドロイドに話しかける。「オイル風呂でリラックスするんだ」
「イイね。ボクは交代になったら急いでメンテナンスに駆け込まないと。センサーの具合がどうも変なんだ」
「あー、だけど空きが出るまで待たないとだよ。ボクも申請出したんだけど、34566体待ちなんだとさ」
「そんなに?!」バトルドロイドは項垂れた。「あーあ、早めに申請出しとけばよかった」
「メンテナンスは戦闘部隊が優先なんだと、まったくひどい話だよ。ジェネレーターを維持するボク達は後回しだ」
「サイアク。あーあ、クリストフシスにいた頃が懐かしいな。ヘマさえしなければオイラは今でも前線部隊だったのに」
「ボクも問題を起こさなければグリーヴァス将軍の所で戦えていたんだ」
「オイラ達ついてないよな」
「まったくだよな」
後ろの遮蔽ドアが開き、二体のドロイドは同時に振り返向いた。
黒いボディースーツにヘルメット。自分達に向けられたブラスターライフル。「ホラ、やっぱりついてない」二体は同時にそう口にした後、スクラップになった。
短い火花と焦げ付く金属の匂いが室内に広がった。ドロイドたちの頭部が床に転がり、ぎこちなく揺れながら停止する。遮蔽ドアの向こうから、砂塵と冷たい空気が一気に流れ込んだ。
ヘイスティンはライフルをホルスターにしまい、部下達を室内に引き入れる。
「よし、手早く済ませるぞ」
「了解」部屋へ踏み入った部隊員らは素早く作業に取り掛かった。デトネーターを最適な設置位置に取り付け、起爆時間を設定するまでに数十秒と掛からなかった。
ヘイルは最後のデトネーターを設置すると、ヘイスティンにグッドポーズを見せる。
ヘイスティンは頷き、起爆までの時間を端末に入力した。ホログラムに表示される残り時間。「巻き添えを食らう前にズラかろう」
◇
岩のそばで防御態勢を取る四人のストームトルーパー。周囲は静かで鳥の鳴き声がヘルメット越しに伝わってくる。LS-2236は片膝をついた状態でDLT-19を警戒方向に向けていた。重い銃火器は腕を疲れさせ、不気味な静けさは神経を尖らせる。
岩の裂け目から足音が聴こえてきた時、LS-2236は思わずトリガーを引きそうになった。暗闇から姿を現すレクス中隊の部隊員達。どうやら彼らは爆弾を無事に設置したらしい。
ルーキーは安堵のため息をつき、トリガーから指を離した。
◇
下部デッキの士官達の囁くような話し声、出入りする士官の足音と遮蔽ドアの開閉音。トニトルスのブリッジは正常に機能している。
グラードス提督はブリッジの上部デッキに立ち、窓に映る惑星を静かに眺めていた。惑星付近を航行するスターデストロイヤー。その周囲を飛び回るTIE編隊。惑星は完全に封鎖され、制宙権は帝国の掌中にあった。
グラードス提督は背後から近づく足音に気づき、顔を僅かに強張らせる。下部デッキのクルー達は、提督に近づく若き長身のエリートの姿を静かに見つめる。まるで葬式のようにブリッジは静まり返っていた。
「この景色も見納めですな」
隣に立つ副官ゲイル。彼はニヤついた笑みを浮かべながら緑の惑星を見つめ、後ろで腕を組んだ。
「まもなくあの惑星は荒れ地と化す。旧独立星系連合の残党どもは一体残らずスクラップになるでしょう」
これが反乱した都市惑星でも隣の男は完全なる破壊を主張するだろうな。老将はゲイルの冷酷な笑みを横目で確認しながら、胸中で深く嘆息した。
「徹底的に叩き潰してやりましょう」
「──提督!」
下部デッキの通信士官がヘッドセットを押さえながら提督を見上げた。
「レクス中隊より報告! ジェネレーターの破壊に成功しました!」
「始まりましたな」ゲイルは口角を上げた。そして士官達に命令する。「全ターボーレーザースタンバイ! 命令があり次第、惑星を地獄に変えろ!」
自分に顔を向ける老人にゲイルは姿勢を正してニヤついた。「よろしいですな? 提督」
グラードスは沈黙で応えた。