STARWARS スターバードとニューオーダー 二つの翼 作:バケツ頭 小説もどき家
『航路変更。これよりトリトニスへ帰還する』
コムリンク越しに、パイロットのため息混じりの声が響いた。
周囲がざわめく中、LS-2236は目の前の座席に座る女をじっと見つめていた。
長く伸びた髪も、整った顔立ちも、LS-2236にとっては何の意味も持たない。
仲間を撃った、憎き反乱者。
こいつは報いを受けるべきだ。
胸の奥で燃え上がる捕虜への憎悪を押し殺しながら、LS-2236はDLT-19を固く握りしめていた。
「どうやら予定変更みたいね」
静かな声だった。
挑発するようでもなく、怯えているようでもない。
その落ち着きが、かえってLS-2236の神経を逆撫でした。
「黙っていろ」
短く吐き捨てる。
女は微かに笑い、視線を逸らす。
「ルーキー、席につけ」
LS-2236のもとに軍曹が寄ってきた。白い肩章に使い込まれたE-11ライフル。ライフルは塗装が剥がれ、所々銀色に光っている。
「しばらく超空間の旅だ」
捕虜から視線を逸らさないルーキーに古参は彼の肩を叩く。
「大丈夫だ。どこにも逃げやしない」
「……はい」
ルーキーは渋々と座席へ腰を下ろした。
◇
ゴサンティ級クルーザー『マーテル』
この艦はレクス中隊が使う輸送船で、レイダー級コルベット『ルプス』と並ぶ貴重な艦船である。
船体側面には無数の補修跡が残り、隠しきれていないレーザー砲の弾痕が灰色の装甲板を彩っている。
決して美しい艦ではない。しかし、レクス中隊のパイロットたちにとっては、何よりも頼りになる艦だった。
もし、撃墜されても、宙域に取り残されても希望を捨てずにじっと待っていればマーテルが来てくれる。戦闘捜索任務を請け負うマーテルは輸送船であると同時にパイロット最後の希望だった。
青白い光に包まれながら超空間を航行するマーテルとラムダ級シャトル。
ヘイルは船内の兵員区画で予期せぬ休息を過ごしていた。黒いフライトスーツに生命維持装置、テーブルに置かれたヘルメット。ここにいるパイロットで真っ先に飛び立てるのは彼女だけだ。セレナも他のパイロットも全員装備を外している。
来た道を引き返すだけ、何も起こりはしない。それが中隊の古参たちの意見であった。
だが、航路はハイパースペースジャンプを数回繰り返さなければいけない程、複雑で遠い。リアルスペースを航行中に反乱軍と出くわす可能性もゼロではない。次のジャンプまでの間に何かあれば一大事だ。マーテルは信頼すべき艦だが、敵を恐怖に陥れるインペリアル級スターデストロイヤーでもなければ、敵を圧倒するほどのTIEを持っていない。四機のTIEに武装した補助艦、それがヘイル達の全戦力だった。
もし、反乱軍のスターファイター部隊──仮にそれがYウイング一個中隊だったとしても──に発見されれば、敵は勝算ありと見て攻撃を仕掛けてくるだろう。その半分の戦力でも血気盛んな相手ならば襲いかかってくる。
ヘイルはトラベルビスケットをつまみながら、静かに備えていた。望まない嵐がやってくるのを。
「確か前も買ってなかったか? 一体何台買う気だ?」
「私のガレージに入り切らなくなるまでかな」
セレナがそう言うと、バイグは呆れた様に笑った。向かいに座る彼の同僚は金が少し貯まる度に、スピーダーバイクやランドスピーダーを買い漁っている。今も彼女はほくそ笑みながらホロネットのカタログに目を通している。
「まったく……乗る機会なんて早々ないだろうに」
「集めるだけで満足なのよ」セレナはそう顔を向ける。「あなたはどうせ義手のメンテナンスとギャンブルでしょ?」
悪いかとでも言うように、バイグは肩をすくめる。
「今度の休暇でカント・バイトに行くんだ。お前もどうだ?」
「丁重にお断りするわ。知ってる? どうしてカジノが煌びやかなのか、それは客から金を巻き上げてるからなの。ギャンブルで勝てる人なんてほんの一握りよ」
「まぁな。だが、俺はその一握りになるために賭けるのさ」
「ご勝手に。私はスピーダーを乗り回しながら、あなたの負けてる姿を想像して笑ってやるわ」
「ひどい奴だな」
バイグは笑いながら、テーブルに置かれていたトラベルビスケットを一枚つまんだ。
「ところで、アイツはどうかな?」
「アイツ?」
セレナが眉をひそめると、バイグは親指で遠くに座るヘイルを差した。
「アイツは真面目そうだが、金が入ったら何に使うんだろう?」
「さあ。聞いたことないわ」
「お前、よくアイツに絡んでるだろう?」
「まぁね。でもだからって、そこまで彼女の事を知ってるわけじゃないわ。少なくともスピーダーやギャンブルに金を注ぎ込んでるようには見えないわね。家族に仕送りでもしてるんじゃない?」
「健全すぎやしないか? そんなヤツが何でこの部隊に来たんだよ」
「きっと彼女も訳ありなのよ。それに仕送りは私の想像。もしかしたらあなたもびっくりのギャンブラーなのかも」
「それは考えられねぇな」と、バイグ。「俺は上官への反抗で原隊を追われてここに拾われた。お前は上官を訴えたから。アイツはなぜなんだろうな」
「クソ野郎を訴えた、ね。あんなの上官じゃないから」セレナは声を低くした。
「そうだな。ヤツがヤヴィンで報いを受けたと聞いてよかった」セレナが頷くと、バイグは話を戻した。「アイツは何をやらかしたんだろうな?」