いたずらアクマ   作:ココリンク

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1話! アクマ

ある日の小学校の中休み。

 

「私のモコモコが1番だよー」

 

ふわふわとしたゆったりめのシュシュを付けた女の子が、机の上を指さして、自慢げに語る。

 

そこにはハムスターくらいの大きさでまるまるとしたうさ耳のついた生き物が、まあるいしっぽをフリフリしてうごめいていた。

 

「いや、あたしのアゲエが1番!」

 

野球帽を被る溌剌とした女の子も、うさ耳の横にいるアゲハチョウの羽がついたまるまるとした生き物を指さす。

 

羽は色とりどりのビーズで飾られていて綺麗に輝いていた。

 

 

モコモコ、アゲエと名付けられたまるまるとしたかわいらしい生き物。

 

“ペット”?

 

いえいえ、彼らはこういう名前で呼ばれている。

 

“アクマ”

 

 

 

 

人は皆、自分の魂に1人、アクマが宿っている。

 

アクマは皆、まるまるとした小さい姿で常に肩に乗り、キュキュッと鳴いて、主たちを見守っているのだ。

 

子どもたちは自分のアクマを見せ合い、男子は戦わせて誰が強いか競い合い、女子はオシャレをさせてどの子がかわいいのか披露し合っていた。

 

アクマという大層な名前をしているが、相棒のようでもあり守護神でもある、人畜無害な存在だ。

 

ある例を除いては………

 

 

 

 

 

「お! お前らのアクマいいなー!

羨ましいぜ!!」

 

1人の少年が、アクマ自慢をする2人の後ろから声を掛けた。

 

革ジャンを羽織り、チャラチャラとした風貌をした少年は“ケケケ”とイタズラに笑う。

 

2人の女の子は不思議そうに互いに顔を見合わせた。

 

少年はピシッと2人に向かい指を指し、

 

「紹介してやるよ」

 

と堂々と言うと、窓辺に座る1人の少女に指を指した。

 

「コイツが、俺様の悪魔だ」

 

 

 

少年に指をさされた少女。

 

彼女の名前は出門 憑(でもん つき)。

 

ショートヘアに悪魔の角のようにアホ毛がピンと立っている。

 

だが、彼女は普通の人間だ。

 

普通というには少し鈍くさくて、運動神経ゼロでよく転んで、内気でもあるが普通の人間だ。

 

憑は驚きで読んでいた本をパサッと離し、思わず立ち上がった。

 

「デ…デビルル…!」

 

憑は恥ずかしそうに少年に向かい、小さく叫んだ。

 

「ケケケ」

 

少年───もとい、デビルルはイタズラに笑うと悪魔の翼が生えたまるまるとした姿になり、カサカサと教室の床を這って逃げていった。

 

「もう……」

 

憑は2人の視線に恥ずかしくなり、顔を俯かせて椅子に座り直した。

 

憑は自分のアクマが嫌いだ。

 

 

 

憑のアクマ、デビルルは特別なようだ。

 

普通アクマはまるまるとした姿なのだが、デビルルは人間のような姿にもなれる。

 

だが、その性格はイタズラ好きでチャラチャラしていて、憑とは反りが合うタイプではない。

 

更に、デビルルの顔は憑が理想としている塩顔甘いマスクのイケメン像そのものだったため、その顔で憎たらしくされるのが嫌悪を加速させていた。

 

 

 

 

放課後になり、憑は一目散に教室から出てた。

 

何かを急いでいる訳ではないのだが、なんとなく教室に居づらかった。

 

急いで階段を降り、急いで下駄箱に向かい、急いで靴を履き替え、急ぎ過ぎたのか、しっかり履けず、急ぎ過ぎて、段差で派手に転んでしまう。

 

「痛た……」

 

憑は起き上がろうと顔を上げると、憑の目の前に手が差し伸べられる。

 

「大丈夫かい? マイプリンセス」

 

と理想の甘い声で呼び掛けるのは、デビルルだった。

 

「デビルル……?」

 

憑はらしくない行動に一瞬動揺したが、理想のイケメンの姿の理想の行動に胸がときめき、気付いたらデビルルの手を取っていた。

 

(デビルル、優しいところも)

 

と、思ったのも束の間

 

「あ 手が滑ったー」

 

デビルルはわざとらしく言うと、憑の手を離し、憑は顔面から勢いよく、床に倒れた。

 

「ケケケー!!

引っ掛かった! 引っ掛かった!

ほーら、ヘナチョコ おしりペーンペン!」

 

デビルルはイタズラに笑い、憑の顔を覗いて、散々煽り散らかすと、またまるまるとした姿になって、外へ逃げていった。

 

 

憑は突っ伏したまま動かず、涙を流すだけだった。

 

「あれー? 憑ちゃん? 大丈夫ー??」

 

倒れる憑に、女の子が1人声を掛けた。

 

女の子の肩に乗っているアクマがピョンと飛び降り、憑の目の前でピョンピョン飛び跳ねる。

 

憑は顔を上げて、そのアクマの動きを見る。

 

その可愛らしい動きに思わず癒され、自然と笑顔が浮かんでいた。

 

それを見た女の子は、憑に手を差し伸べた。

 

 

女の子の名前は不破原 綿多(ふわはら わた)

 

中休みにアクマ自慢をしていた子だ。

 

ハーフテールをふわふわしたシュシュで留めた、性格も見た目もふわふわした女の子。

 

そのアクマである、モコモコは、うさ耳のついたふわふわもこもこの姿で、姿も動きも手触りも全てが癒し系だった。

 

 

「あ……ありがと」

 

憑は恥ずかしそうな小さな声でお礼を言うと、綿多の手を取り、ふらつきながら立ち上がった。

 

足元のモコモコは大きく飛び跳ね、憑の肩に乗る。

 

「撫でてあげてー

よろこぶよー」

 

憑は指でそっと撫でようとしたが、あまりの可愛さに、自分のアクマとの違いを痛感させられ、その手を止めてしまう。

 

「ありがとう……」

 

と、憑はモコモコを返すために肩を綿多に差し出す。

 

だが、モコモコは動かない。

 

必死に肩を揺らすが、モコモコはゆったり寛いでしまっている。

 

そんな状況が面白く、綿多はぷっと吹き出した。

 

「憑ちゃんのアクマってー、面白いよねー」

 

「お……面白くない。 ……イジワル」

 

綿多の呑気な物言いに、憑は不機嫌そうに返す。

 

「そー? アクマとお話できるのってー面白いと思うけどなー。 ねー、モコモコ」

 

綿多の呼びかけに、モコモコは寛ぎながらうんうんと頷いた。

 

「面白くない……全然」

 

憑は首を振り、否定する。

 

「あ……あの………早く……取って」

 

憑は早く帰りたく、モコモコを取ってもらおうとモコモコを指差した。

 

「えー、モコモコかわいいのにー。 ふわふわだよー、癒やされるよー」

 

「かわいくない! 癒されない!」

 

憑はついに耐えきれなくなり、思わず叫ぶと、モコモコを手で鷲掴みにして、無理矢理、綿多の肩に乗せると、一目散に外へと駆け出した。

 

 

「かわいく……ない?

モコモコが……かわいく……………ない…」

 

残された綿多はモコモコを撫でながら、憑の背中を見送った。

 

 

 

 

「はあ……はあ…………」

 

走り疲れた憑は公園のベンチで休んでいた。

 

「ケケケ!!」

 

そこに、デビルルがまるまるとした姿で肩に乗ってくる。

 

「おいおいー、さっきのは酷いじゃないんか?

お友達になりたがってたかもだろ?」

 

デビルルはさっきの憑の綿多への対応を嗜める。

 

憑は反論したかったが、また煽られるのがオチだと思い、顔を逸らす。

 

「“しょうがないじゃん。しつこかったんだから。

俺様のスーパーデリシャスワンダフルハイスペックイケメンフェイスに比べて、モコモコはとーっても可愛いから嫉妬しちゃう”って訳だろ?」

 

憑はデビルルへの評価以外は概ね合っていたが、反応はしなかった。

 

「おいおい、黙ってても俺様はお前のアクマだぜ? 心の声とかもぜーんぶ丸わかりだからな! 音読してやろうか?

“心にないこと言っちゃった。 どうしよう、明日謝れるかな? 嫌われてないかなドキドキ? あー、こんなときスーパーデリシャスワンダフル

 

とまで言ったとこで、憑はデコピンをして、デビルルを弾き飛ばした。

 

「しつこい……」

 

憑は涙目で、公園を後にした。

 

 

 

 

 

不破原家

 

「ねえー、いいでしょー?

アクマキラリボン買ってよー。

城都さんは買ってもらってたよー」

 

綿多は雑誌を片手に、母親におねだりをしていた。

 

綿多が指差すページには、アクマのアクセサリーが掲載されており、キラキラした可愛らしいリボンやビーズが載っている。

 

今日、かわいい自慢で対決していたアゲハチョウの羽がついたアクマの“アゲエ”も、一昔前にそこに載っていたビーズで飾られていた。

 

「だめよ。

モコモコちゃんは今のままで十分」

 

だが、綿多の母親は雑誌を見ることなく、却下。

 

「前に、ピンのオシャレさせたとき、針が刺さってモコモコちゃん怖がっちゃったでしょ。

自分のアクマなんだから、無理させないの」

 

「でもー……オシャレしないと……かわいく……」

 

母親の常套句に、綿多は下を向き、いつものふわふわした口調とはまるで違う、暗く冷たい声を出す。

 

「え……?

なに?」

 

だが、語尾が小さくなり母親は聞き取れず、聞き返すが

 

「もう、いい」

 

綿多は自分の部屋に戻って行った。

 

「かわいくしなきゃ……モコモコをもっともっとかわいく……!!」

 

綿多はモコモコを机の上に置くと、ノートを取り出した。

 

そこには日付と順位が記載されている。

 

アクマ人気ランキングと書かれたそのノート。

 

ずっと1位を取り続けていたのだが、アゲエの主である、城都 舞維(じょうと まい)と同じクラスになってから、アゲエの美しい翅と可愛いビーズに人気を取られ、ずっと2位になっていた。

 

綿多はそのノートに再び1位を記録するため、様々なアクマコーデを考えていた。

 

だが、ピンを使ったコーデで力加減を間違えて、モコモコを傷付けてしまい、以降、モコモコはオシャレを嫌うようになってしまった。

 

首位復活を目指すが手立てはない。

 

綿多は焦る。

 

舞維を妬む。

 

負の感情に支配され、体から黒いオーラが発散されてしまう。

 

モコモコはそのオーラに反応し、うさ耳をピンと立て、綿多の体に飛び移った。

 

「かわいくさせたい…!!

かわいく………!!

モコモコが1番だ!!

1番を取り戻したい!!

1番になりたい…!!

1番に!! 1番に!!!」

 

『カワイクイチバンニ』

 

モコモコの目が紅く妖しく光り、モコモコからも黒いオーラが現れ、綿多を包みこんでしまった。

 

 

 

 

次の日。

 

(眠い……)

 

憑は綿多にどう謝ろうか一晩中考え、いい考えが浮かばず寝付けず、寝不足な様子で投稿していた。

 

「ケケ

冴えない顔だな」

 

デビルルは肩に乗りながら煽り、憑はただ睨むだけだった。

 

「お! 憑ちゃん!! おはよう!!」

 

後ろから元気な声が聞こえた。

 

振り返ると、溌剌とした明るい表情と声色をした活発な女の子、舞維が駆け寄ってきていた。

 

常にチョウの触覚がプリントされた野球帽を被っており、その後ろからは先端がくるりと巻いたポニーテールが飛び出ている。

 

肩には翅を元気よくパタパタ動かしているアゲエが乗ってる。

 

(相変わらずキレイだな)

 

憑はアゲエの翅を見る度にその美しさに見惚れてしまう。

 

「よっ! 舞維っち!!」

 

デビルルは人間体になり、手を挙げる。

 

「よっ! デビルルっち!!」

 

舞維も手を挙げ

 

「「イェーイ!!」」

 

とハイタッチをかわす。

 

「舞維っち、今日もバイブス上がってるねえ!!」

 

「おう! もち、アゲアゲで絶好調なりよ!」

 

デビルルと舞維は反りが合うのか、たまに通学路で合うなり独特なテンションで会話をし始める。

 

憑はただ苦笑いしながら見るだけだった。

 

「今月も舞維っちに、アクマ人気ランキングに一票入れちゃうぜ!」

 

「あざまる! ま、あたし自身そんな興味はないけど、プロだった姉貴がオシャレさしてくれたんだからね、面目保っていかないと!」

 

「WOW! 姉妹想いのアゲアゲじゃん!

今日も、不破原からの勝負負けんじゃねえぞ!」

 

「まかせとけ!」

 

舞維はデビルルに向かいサムズアップし、先に学校へ向かおうとしたそのとき

 

綿多が脱力したヨレヨレな体と虚ろな目をこちらに向け、激しく貧乏揺すりをしながら立っていた。

 

「よっ! ふわっち! おはよー!!」

 

綿多の苗字は不破原なため、“ふわっち”とあだ名で呼ばれている。

 

舞維は誰ともフレンドリーに接する性格であり、綿多にも元気に挨拶をし駆け寄ろうとした。

 

「止まれ!」

 

デビルルは鋭く叫び呼び止めた。

 

「なに? デビルルっち?」

 

舞維は足を止め、デビルルに振り返る。

 

その後ろでは、綿多の背後から闇のオーラが蠢き、そして

 

「カワイクイチバン……

私が1番!!!」

 

と綿多の掛け声と共に、オーラが小さく丸い球に変化し、舞維に襲いかかる。

 

「危ない…!」

 

憑は危険を知らせるため、叫びその間にデビルルは舞維を抱え、平屋の屋根に届くくらいまで大きく跳び上がり、丸い球を躱した。

 

球は地面に当たると蒸発し、黒い影を残して消えた。

 

「よっと、ほらヘナチョコ。

舞維っちは任せた」

 

デビルルは憑の目の前に着地すると、舞維を下ろして、2人を護るように綿多の間に立つ。

 

 

「……ありがとう。

デビルルっち」

 

舞維は状況を理解できず、呆然とした表情でいたが

 

「アゲエ……? 大丈夫!? アゲエ!?」

 

舞維の肩に乗っているアゲエの翅が力なく垂れてしまっている。

 

さっきまで元気よく動いていたのが、嘘のように脱力していた。

 

「アクマ暴走……」

 

憑は綿多を見ながら呟いた。

 

「“アクマ……暴走”…?」

 

聞き慣れない言葉に、舞維は思わず聞き返す。

 

「憑ちゃん、何か知ってるの?」

 

憑は舞維の質問に口をもごつかせたが、何も言えず綿多を心配そうに見詰めた。

 

 

アクマ暴走。

 

主の負の感情が強くなると、その感情を受け取ったアクマが暴走し、その負の感情を強める現象。

 

その際に、暴走したアクマは周りのアクマのエネルギーを吸い取り、負のオーラとして特殊な力を操る。

 

アゲエの元気がなくなったのもその影響からだ。

 

憑は他人のアクマ暴走を見るのは初めてだった。

 

 

「カワイクイチバン……

邪魔だ!!

どけ!!

いや…イケメンなお前も!!モコモコの敵だ!!」

 

綿多は、虚ろな目を憎しみの色に変え、小さく丸いオーラをデビルルに発射する。

 

「よっ!

当たるかよ!」

 

デビルルは再び跳び上がり、球を躱すが

 

「カワイクイチバン」

 

綿多もデビルルよりも更に大きく跳び上がり再び小さく丸いのオーラを発射。

 

「高っ……くっ!!」

 

デビルルは綿多を目で追う、だが、その方角には太陽が出ていた。

 

目眩ましをくらい、デビルルは綿多の動きが見れず

 

「ぐあっ!」

 

オーラに直撃したデビルルは、地面に降りる。

 

「デビルル! 大丈夫!?」

 

憑は心配そうに聞く。

 

デビルルは直撃したところを擦るがダメージはまるでない。

 

「ケッ!

見かけ倒しかよ!」

 

デビルルは手応えのない攻撃に、大したことのない奴とニヤリと笑うと、綿多に突進する。

 

だが、デビルルの体に変化が起きる。

 

デビルルの体に羽織る革ジャンが、粒子となり消えてしまった。

 

「なんだ…!?

俺様の超絶イケてるウェアーが!?」

 

デビルルは体中を見渡し、困惑する。

 

「デビルルっち! 危ない!!」

 

舞維の呼び掛けでデビルルは、綿多から注意がそれていたことに気付く。

 

「やべっ!」

 

気付けば、小さな球は目の前に迫っており、避けきれない。

 

「デビルル!

……っわ!」

 

そこへ、デビルルにダイブし、避けさせようとしたが、ダイブするときの足を踏ん張るタイミングで、滑ってしまう。

 

なんとか、デビルルに手が届き、押し出して球はデビルルに当たらずに済んだが、憑の指先に当たってしまった。

 

「くっ……おいヘナチョコ!

庇うんならもっとちゃんと庇えよ!」

 

地面に倒れる憑に、デビルルは苦言を呈し改めて、綿多の方に向く。

 

だが

 

球は憑に当たったはずなのに、デビルルのズボンが粒子になって消えてしまった。

 

「きゃっ!」

 

パンツ姿になった、デビルルに憑は思わず顔を手で隠す。

 

「いやん…!」

 

デビルルはクマの柄をしたパンツを手で隠して、まあるい姿に変化し、憑の肩に退避した。

 

「これで、デビルルはワーストだ……

次は……お前だ」

 

綿多は、舞維に目を向け鋭く睨む。

 

「ねえ、さっきから何言ってるの?

かわいいとか、1番とか」

 

舞維は綿多の行動の意図がつかめず、説得するために質問する。

 

「うるさい!

城都さん! お前と同じクラスになってから、モコモコが1番じゃなくなったんだ!!

モコモコが1番かわいいのに!! 自慢のモコモコなのに!!」

 

綿多は憎しみをぶつけるように、舞維に怒鳴る。

 

その度に、綿多から溢れるオーラの黒さが濃くなる。

 

「1番……って、モコモコは十分かわいいよ!!

丸くてふわふわでうさ耳で、もちもちしてて、昨日だって、新しくしっぽフリフリを身に着けててかわいかったよ!!

それに、あの人気ランキングの順位は」

 

舞維は、自慢対決しながらもモコモコのかわいさや、その努力を認めていた。

 

それを正直に伝えた。

 

だが、人気投票1番からの慰めはただの惨めでしかない。

 

綿多の貧乏揺すりはさらに強くなり、憎しみで眉にしわを寄せる。

 

「うるさい!!

あのビーズと翅があるから、モコモコは1番になれない。

不公平だ。

大事なものを奪ってやる…!!

お前のアクマの魅力をなくしてやる!!

モコモコが1番かわいいって!! 証明してやる!!」

 

綿多は大きく手を挙げると、オーラを掌に集約し始めた。

 

「ふわっち……」

 

舞維は綿多の怒りと狂気に完全に気圧されてしまい、後退りすることしかできない。

 

 

「おいやべえぞ。

ヘナチョコ、またあれでもやるか?」

 

デビルルは肩に乗ったまま、イタズラな笑みを浮かべて憑に訊く。

 

「…………デビルル、なんでわたしがオーラに当たったのにデビルルのズボンがなくなったの?」

 

憑はデビルルの質問には答えず、逆に綿多のオーラについて何か知らないか質問を返す。

 

「ああ…?

そりゃ、アイツ、舞維っちに嫉妬してんだろ。

ほら、毎月のクラス新聞のアクマ人気ランキングで、舞維っちがずっと1位で、アイツはずっと2位だろ」

 

(そうなんだ……)

 

憑はあまりクラスメイトと関わりがないので、知らなかったが、そんな相槌を打っている暇はなかった。

 

「だから、アイツのオーラはアクマの大事なものを奪う効果を持つんだ。

ランキングに影響するのはアクマだからな。

主に当たっても、アクマに当たっても、アクマに効果が及ぶ」

 

「アクマに……」

 

憑はアゲエの翅のビーズを見詰めた。

 

舞維がたまに、儚げな表情で見つめるいつも変わらない、一昔前のビーズ。

 

それがなくなってしまう。

 

憑はランドセルを地面に下ろし、目を閉じ深く呼吸をした。

 

 

「カワイクイチバン…!!

終わりだ!!」

 

綿多は、体全体を覆うくらいまで肥大化させた球を掲げ、舞維に大きく投げた。

 

舞維は逃げようとしたが、腰が引けてしまっている。

 

「ふわっち…!! やめて!!

あのランキングは!!」

 

舞維は叫ぶがもう遅かった。

 

球は真っすぐ飛んでいき、舞維を襲いかかった

 

と思ったそのとき

 

憑が前に立ち、粒子の直撃を食らった。

 

粒子は爆発し、あたりには黒い煙が舞う。

 

「くっ……

憑ちゃん!!」

 

舞維は心配して、憑に声を掛ける。

 

煙が晴れると、憑は無事だった。

 

「おわーっ!!

俺様の羽がああ!!!」

 

デビルルは無事じゃなかった。

 

「ヘナチョコてめえ!!

何考えてんだ!!!」

 

デビルルのまあるい姿は丸に悪魔の羽が生えたものなので、羽がなければただの丸だった。

 

「俺様のアイデンティティ消失したんだが!!

なあ!! ヘナチョコ!! おい!!」

 

デビルルは憑の行動に文句を垂れるが

 

憑は体を震わせながらも、綿多を見詰めていた。

 

「憑ちゃん……邪魔しないで……!!

モコモコの良さが分からないあなたも!!

敵だ!!!」

 

綿多は憎しみを込めて叫び、睨みながら小さな球を作り上げる。

 

憑は遠目からでも分かるくらい震えていたが、ギュッと拳を握り、目線は綿多に向いたままデビルルに話す。

 

「わたし。

昨日、不破原さんのモコモコ。

かわいくないっていっちゃった。

だから、不破原さん、自信失くしちゃったんだと思う。

わたし。不破原さんに謝りたい。

不破原さんを……救いたい」

 

デビルルは“はあ”とため息をつくと、ニヤリと笑い

 

「ケッ!

やるならやるとさっさと言えよ!

ヘナチョコ!!」

 

と嬉しそうに言うと、目を紅く妖しく光らせた。

 

それに呼応するように、憑の目も紅く妖しく光り、体からは黒いオーラが発せられる。

 

「憑ちゃん……」

 

普段、憑に“おろおろしてかわいい”という印象を持っている舞維は、突然のオーラに唖然としてみていた。

 

「食らえ!!!」

 

綿多は小さな球を無数に憑に発射した。

 

 

デビルルは憑から出た黒いオーラを飲み込み、2mくらいまで肥大化し禍々しいオーラをまといながら、そのまま憑を丸呑みした。

 

そして、綿多の球が到達する瞬間

 

デビルルのオーラが爆発し、球を消し去る。

 

そしてその爆発の中心地点では、悪魔の角のようなアホ毛が鋭く尖った憑が目をつむり屹立していた。

 

 

「なっ…!?」

 

「憑ちゃん…!?」

 

綿多と舞維は驚愕し、憑をじっと見る。

 

 

憑は静かに瞼を開け、紅い瞳を覗かせた。

 

 

アクマ合体。

 

特殊なアクマがその主に憑依した姿だ。

 

 

 

(あれ、キバがない……尻尾も…………?

この前はあったのに……

不破原さんの力のおかげ…?

……ま、いっか)

 

憑は、自分の体の変化が少ないことを不思議に思ったが、以前の姿はあまり好きではなかったので流すことにした。

 

憑の心のなかで、デビルルの声が響く。

 

その瞬間、目の前の風景がスローになった。

 

一体となった憑とデビルルの精神が研ぎ澄まされたのだ。

 

『ああ。多分、俺様のアイデンティティが消えたからだろうよ。 ったく。

分かってるよな。ヘナチョコ。

アクマ暴走は、他のアクマの力で沈静化させられる。

だが、今回のは前のとは違えからよ。

1人のアクマで何とかなるようなもんじゃねえ』

 

デビルルは不機嫌そうな声で悪態をつくと、改めてアクマ暴走について話した。

 

『まあでも、舞維っちのアクマはへばっちまって使い物にならねえからな。

別の方法をとるしかねえな』

 

「どんな方法?」

 

『アクマ暴走には主の強い思いとの関係が深いからな。

奴のランキングへの嫉妬をなんとかして、暴走をアクマの独り善がりにすれば、弱体化させられるはずだ』

 

「強い思い……」

 

『いわゆる、説得だな

ヘナチョコのお前にできるか?』

 

「……………………やる」

 

 

 

憑はギュッと拳を握り、綿多に顔を向けた。

 

「カワイクイチバン

私が1番!!」

 

綿多は力のかぎり叫び、小さな球を無数に発射。

 

憑は人間である自分は大丈夫だと正面突破しようとしたが

 

『今のお前、合体してるからアクマじゃねえの?

服弾け飛ぶんじゃねえか?』

 

デビルルの冷静な指摘に

 

「えっ!?」

 

と、驚き、体を翻し球を躱した。

 

その動きはとても軽やかで、普段の憑からは考えられない瞬発力だった。

 

だが、躱した球の行く先は舞維だった。

 

舞維は混乱と怯えで動けずにいた。

 

「城都さん…!」

 

憑は急いで体を捻り、舞維の下へ走る。

 

その速度も凄まじく、瞬間移動のような速さで球を追い越し、舞維を抱えて球の射線から外れた。

 

「大丈夫…?

城都さん」

 

憑は舞維を下ろし、声を掛けたが

 

「つ……憑ちゃん…?

本当に憑ちゃんなの?」

 

舞維は驚愕した表情をしていた。

 

憑はバケモノのような身体能力に怯えているのだと思い、思わず顔を逸らしてしまった。

 

『おい! ヘナチョコ!!

気を付けろ!!』

 

その中、デビルルは次の攻撃が来ていることを憑に警告する。

 

止まらない攻撃。

 

自分が躱しても舞維に流れ弾が当たる。

 

「だったら……」

 

「え、憑ちゃん…!?」

 

憑は舞維を抱えた。

 

『ひゅー、イケメンだねー!!』

 

デビルルは野次を飛ばすが、憑は無数の球の中に走り出した。

 

球と球の僅かな隙間を縫うようにして走り、飛び、スライディングし

 

すべてを躱しきりそのまま綿多の目の前まで来た。

 

「来るな…!!」

 

綿多はまた小さな球を生成しようとしたが

 

「不破原さん!!」

 

憑は舞維を下ろしてすぐに綿多に抱き着き、動きを封じた。

 

「近寄るな!!

モコモコの良さが分からないあなたなんか!!」

 

「違うよ!!

あれはね!!」

 

「うるさい!!

1位じゃないからダメなんだ!!

カワイクイチバン

1番じゃなきゃ!!」

 

憑は説得しようとしたが、綿多はまるで聞く耳を持たない。

 

(どうしよう、これじゃ不破原さんが)

 

困り果てたそのとき

 

「ふわっちは1番だよ!」

 

舞維が大きく叫んだ。

 

綿多は一瞬動きを止めたが、すぐに舞維を睨み付け

 

「なんだよ…!

1位の余裕かよ!!!」

 

と怒鳴る。

 

「そんなんじゃないよ!!」

 

舞維はそう言うと、肩のアゲエを手に取り、翅についたビーズを優しく触れた。

 

「あのランキングの1位は八百長なの」

 

「え……」

 

衝撃の事実に綿多は力が抜けたが、すぐに今までのものとは別の怒りが沸いた。

 

「八百長……?

なんでそんなこと!! そこまでして1番に!!」

 

「違う!

あたしが頼んだんじゃない…!」

 

「じゃあなんで!!?」

 

「姉貴の形見だから!!」

 

舞維の目から自然と涙が流れ落ちた。

 

綿多は唖然としている。

 

憑は綿多を抑えつけながら、二人の動向を見守っていた。

 

 

「このアゲエのコーデは、事故で死んだプロのアクマコーディネーターの姉貴がしてくれた形見なんだ。

その事情を知ってる新聞係が、忖度して本当は、ふわっちのモコモコが1位なのに、投票点に関係なくアゲエを1位にしてくれてるの。

最近……そう、偶然たまたま聞いた」

 

舞維は儚げな顔をし、アゲエの翅を撫でると、綿多に笑顔を向けた。

 

「だから、本当の本当の1番はモコモコ!

だって、モコモコ、かわいくて癒されて、1番人気でさ、ふわっちのためにその努力を怠らない頑張りやさんじゃん!」

 

「1番は……モコモコ」

 

綿多は舞維の言葉で憎しみの表情が薄れ、困惑している。

 

「でも……かわいくないって」

 

だが、まだ気掛かりな点があるため、周りのオーラは弱まらない。

 

「ごめんなさい!

不破原さん!」

 

様子を伺っていた憑は、ここがタイミングだと思い、綿多に謝った。

 

「憑ちゃん……?」

 

「わたし……デビルルにずっとずっとイジワルされてたから、モコモコのこと……かわいくて素敵でちょっと……羨ましくなっちゃった。

だから、かわいくないって……ウソ……ついちゃって………本当はそんなこと思ってないのに……あのときは……ウソついて……そのあれは……ウソだから、かわいくないのはウソだから、本当はモコモコはかわいくて……えっと………その…………」

 

憑は弁明しようとするが、途中で自分が何を言いたいのか分からなくなってしまい、ごちゃごちゃになってしまった。

 

憑が二の句が継げず、あたふたしていると

 

“ぷっ”

 

と吹き出す声が聞こえた。

 

「分かったー。

十分。 分かったよー」

 

綿多だった。

 

その目にはもう憎しみはなかった。

 

いつものふわふわとした優しい少女の眼差しだった。

 

綿多の周りに蠢くオーラが弱まっている。

 

 

『よし!

任せろ!!』

 

デビルルは、憑との合体を解くと綿多のオーラを吸い上げた。

 

『カワイクイチバン』

 

オーラがなくなると、黒い塊が蠢き“カワイクイチバン”とずっと呟いていた。

 

デビルルは塊に精神を集中させる。

 

『くっ……だめだ。

やっぱり羽がねえと!!』

 

だが、いつもと違う容姿ではどうも気が入らなかった。

 

 

そこへ、アゲエが舞維の肩から飛び上がり、デビルルの隣に付き、翅を塊に向けた。

 

『アゲエも協力してくれるのか!

助かるぜ!!』

 

デビルルはアゲエと目配せし、精神を集中させる。

 

するとすぐ塊にヒビが入り、そして

 

モコモコが元気よく塊から飛び出して、綿多の肩に飛び乗った。

 

綿多はうっすら涙を浮かべながら、モコモコを指で撫でた。

 

「ごめんね。

ごめんね。モコモコ」

 

モコモコは何もわからないように首を傾げた。

 

 

「城都さんも……憑ちゃんも、ごめんなさい!!」

 

綿多はしっかりとした口調で、舞維と憑に頭を下げて謝った。

 

「ううん。

あたしも、不正を見過ごしてたから。

やめてって早めに言っておけばよかった。

だから、あたしも。

ごめんなさい」

 

舞維も頭を下げた。

 

「えっと……かわいくないって言って……ごめんなさい」

 

憑も頭を下げ、そして、綿多に歩み寄った。

 

「今日は……触っていい?

モコモコの……こと」

 

憑は恐る恐る手を出した。

 

「うん!

いいよー!」

 

綿多は嬉しそうに笑うと、肩を揺らしてモコモコを憑の肩に飛び乗らせた。

 

「ありがとう」

 

憑は控えめな笑顔でお礼を言うと、指で優しくモコモコを撫でた。

 

「かわいい……」

 

思わず笑みが浮かび、声が漏れていた。

 

「あー!

ずるい! あたしも!!」

 

舞維はそう言うと、モコモコ……ではなく、綿多の左右ハーフテールを両手で掴んでぴょこぴょこ動かした。

 

「えっ?……なにー…!?」

 

「いや、前からふわっちのこれ、うさぎみたいでかわいいって思ってさ!」

 

舞維はイタズラに笑うと、綿多に手を差し伸べた。

 

「仲直り!

今度は実力で、1位取るから」

 

舞維の宣言に、綿多は申し訳なさと困惑で躊躇したが、憑の肩に乗るモコモコがキリッとした表情をしたのが見ると、なんだか背中を押された気がし、舞維の手を取り握手した。

 

「モコモコのかわいさ負けるわけないよー!

受けて立つよー!城都さんー!」

 

「舞維でいいよ!」

 

「じゃあ……舞維ちゃーん!」

 

 

 

2人の友情を、憑はどこか羨ましそうに見ていた。

 

邪魔しないようにと、モコモコを優しく地面に下ろし、ランドセルを背負い直すと、先に登校しようとした。

 

「あれ? 憑ちゃん行っちゃうの?」

 

気付いた舞維が、憑に声をかけた。

 

憑は背を向けたまま黙って頷くだけだった。

 

さっきまでは忘れていたが、バケモノのような力を見せてしまったことを思い出し、何を言われるかどう思われているかが怖くなり早く逃げ出したかったのだ。

 

「逃げる気だな!」

 

舞維は憑の肩を掴んで捕まえると、興味津々な顔を覗かせた。

 

「ねえ!?

あれなに!?

すっごいかっこよかった!!

憑ちゃんにあんな力があったんだー!!

ギャップだよ!! ギャップ萌えだよー!!」

 

「……え」

 

憑は好印象を向けられてるとは思わず、困惑してしまう。

 

「そーそー、憑ちゃんのおかげでー、私も元に戻れたんだよー。

ありがとー」

 

綿多も微笑んでいる。

 

憑はなんだか気持ちが軽くなっていた。

 

人とは違うアクマ。

 

人とは違うアクマの力。

 

とても怖くて不気味だと思っていたのを受け入れてもらった。

 

憑は嬉しくて嬉しくて涙が溢れた。

 

舞維と綿多はお互いに顔を見合わせたあと、憑に優しく微笑み、声を掛けた。

 

「一緒に学校いこ」

 

 

一件落着である。

 

 

「一件落着じゃねえんだが!!!」

 

デビルルはまあるい姿で憑の足元で飛び跳ねながら文句を言った。

 

「俺様の体! 戻ってねえんだが!!」

 

事件は解決したが、オーラによってデビルルから消えた悪魔の羽はもとに戻っていなかった。

 

おそらく、人間体の革ジャンとズボンも消えたままだろう。

 

「こらー!! クソガキ!!

あれ高かったんだぞー!! 弁償しろー!!」

 

デビルルはずっとずっと騒いでいた。

 

けれども、それを聞いているものはいなかった。

 

 

3人はみんな笑顔でおしゃべりしながら登校をしていたのだから。

 

 

おしまい

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