憑とデビルルが教室に戻ると
「憑ちゃーーん!!」
と舞維が目を輝かせて飛び付いてきた。
「ねえ! ねえ!! 駆流からインタビュー受けるんでしょ!!
いいなー! クラス新聞に載るのー!?
載ったらさ!! その記事スマホの写真に撮っていい!? ママも最近さ! 憑ちゃんがまた家に来てくれるのかどうか楽しみにしてるんだよ! だから見せてあげ」
「はい。そこまで」
矢継ぎ早にグイグイ来て、反応に困る憑を見かねて文実が舞維の背中を引っ張り制止した。
「あ……ありがと」
憑は小声でお礼を言う。
「アンタも嫌なら嫌って言えよな。
友達なんだろ?」
文実は腕を組み呆れたように言う。
「……え…………」
憑は改めて友達と言われどう返したらいいか分からなかった。
「……?
友達じゃないのか?」
「えーー!?
憑ちゃん! あたしたち友達だよね!!?
ね!!?」
憑は舞維の勢いに反射的に小さく頷く。
「言わせてないか……?」
文実は小さく突っ込んだ。
「言わせてないよお!
ねえ憑ちゃん! あたしも着いて行っても………」
そこまで言ったところで学校のチャイムが鳴ってしまった。
憑は急いで自分の席に戻って行った。
放課後。
帰りの会が終わりみんな教室から帰っていく。
綿多は浮かない顔でランドセルを背負い、少し間を置いてから教室を出ようとした。
(…………なにしてるんだろー?)
そのとき、舞維が教室のドアから体を乗り出し、いかにも怪しい動きをしていた。
綿多は怪訝な顔をし舞維に近寄り
「舞維ちゃーん」
と声を掛けた。
「うわっ!?
わ…ふわっちか!? びっくりした!!」
舞維は急に話し掛けられ驚く。
「そんなに驚くー?
なにしてるのー?」
綿多はいつもの様子の舞維に少し安心感を覚えつつも、なにをしてるか訊いた。
「なにって……
尾行だよ!!」
「びこー?」
「うん!!
憑ちゃん、駆流からインタビュー受けるんでしょ!」
「でも、1対1ってー……」
「だから尾行するんだよ!!」
「……えー」
「あ! ふわっちも着いてくる!?
ほら! 憑ちゃん見失っちゃうよー!!」
「え?
いや、まっ!?」
舞維は困惑している綿多の手を引き、無理矢理一緒に憑を尾行し始めた。
「きんちょうする……」
もうすぐ集合場所の第1公園に着く。
憑は深呼吸をし、心構えをした。
「ケッ、いざとなったら俺様がなんとかしてやるから任せな!」
デビルルは肩に乗りながら意気込んでいるが
「……逆に心配」
と憑はボソッと言った。
「おい、聞こえてるぞ。ヘナチョコ」
「ふふ」
憑はイタズラに笑った。
そのとき
綺麗なウェーブのかかったロングヘアーの少女とすれ違った。
年は同じくらいに見えたが、優雅な立ち振る舞いと、高そうなワンピースに憑は思わず見惚れてしまった。
「おいヘナチョコ。
行くぞ」
デビルルは一瞬、その少女を睨むと憑に呼び掛けた。
「う……うん」
第1公園に着いた憑。
すでに駆流がベンチに座って待っており、憑が公園に入った瞬間にデジカメから視線を外した。
「ケッ、あいつ、隣のクラスからあのカメラ受け取ってからここに来たんだよな? 相変わらずの俊足だな」
「……うん」
憑は帰りの号令からすぐに教室から出たはずなのに、いつの間にか抜かされていた。
そして、公園に着くタイミングをバッチリ把握されている。
この早足そして、肩に乗るスプリーターの情報収集能力を初めから見せ付けられた。
そんな気分だ。
「どうぞこちらへ」
駆流は隣に座るよう誘導する。
憑は小さく頷いてベンチに座った。
「約束通り1人で…………」
駆流は憑の肩に乗るデビルルを見詰めた。
「え……あ…………」
憑はその視線からデビルルを連れてきては不味かったのかと思いたじろぐ。
「……ケッ、俺様がいて悪いのか?
俺様はこのヘナチョコのアクマだ。
アクマと主は一心同体ってもんだろ?」
駆流はデビルルの言葉にふっと笑う。
「確かに。
きみが特異な存在だから忘れていた。
すまないね」
「ケッ。
ま! ハイスペック超絶イケメンの俺様に免じて許してやるよ!! ケケケ!!」
「けど、あくまで僕は出門さんに話が訊きたい。
あまり話に突っかかってくると……
わかるよね?」
駆流はそう言いながら、憑に目線をやった。
「ケッ、お前碌な大人にならないぜ。
分かった分かった。
がんばれよーヘナチョコ」
デビルルはそれが憑の秘密を暴露するとの脅しと察し、皮肉を言いながらも聞き入れた。
公園の茂みから尾行してきた2人は顔を出す。
「何話すんだろうかな」
「いいのかなー。帰ったほうがー」
「えー……どうせクラス新聞に載るんだから先に聞いても後に聞いても同じだよ。
先行体験、先行体験」
「それ使い方あってるかなー?」
ワクワクしている舞維と不安がる綿多。
2人がこっそり見守る中、インタビューが開始した。
駆流はスマホを取り出した。
「証言のためだ。
録音させてもらうよ。
いいかね?」
憑はこくりと頷く。
「ありがとう」
駆流はそう言うと、録音アプリを起動し録音を開始するとスマホをベンチに伏せた。
「では早速だが、このアクマを知っているかい?」
駆流は10枚ほどの写真を広げて見せた。
どれもピンボケしてはいるが、写っているもののシルエットはだいたい同じ。
まあるい体に、黒い翼と嘴がついている。
カラスのアクマだ。
憑はじっと眺めるが、首を横に振った。
「そうか……?
……では、これはどうかな?」
駆流は憑の反応に訝しげな顔をした後、デジカメのフォルダの写真を見せた。
「……?
ケッ!? これ!!」
憑はとくに反応しなかったが、デビルルは慌てふためく。
それはカラスのアクマにデビルルが捕まった写真だった。
「お!! おいおい!!」
デビルルは慌てて人間態になりデジカメの画面を急いで隠した。
「……え?」
そのせいで憑はその写真が見れなかった。
「デビルルっち戸惑ってる、なんの写真かな?」
「今のところ憑ちゃんはなにもないねー」
声は聞こえるものの、写真は見れていない外野の2人。
舞維は楽しんでいる様子であり、綿多は警戒している。
「んっん!
きみにではない。
出門さんに訊いている」
駆流は下手に触られてデータが消えないようデジカメを遠ざけると、咳払いしデビルルを睨んだ。
「うるせえ! 早く消せ!!」
「デビルル? なんの写真だったの?」
恥ずかしがるデビルルに、憑は不思議そうに訊いた。
「なんでもいいだろ…!!」
「…………邪魔するなら」
駆流は憑を見詰めながら、含みを持たせた言い方をする。
「……ケッ!!」
デビルルは悪態をつくとまあるい姿に戻り、憑の肩に乗った。
「出門さん。
一心同体のアクマというのなら、もう少し管理を」
「……ごめんなさい」
駆流の小言に憑は萎縮して小さくなってしまう。
「それで……これに覚えは?」
憑は改めてデビルルが捕まった写真を見た。
「え? デ……デビルル……?」
憑はデビルルから捕まったことを聞いてなかったため、困惑し心配そうにデビルルを見詰めた。
「……おや?
その反応…………まさか自分のアクマのピンチを知らなかったと?」
嫌みな言い方に憑は更に萎縮してしまい、とても小さく頷くしかなかった。
それを見たデビルルは嫌そうな顔をしつつ
「お前こそ、そのチーターアクマがいつも何をしてるのか、どうしてるのか分からねえだろ?
それにわざわざこんな醜態をヘナチョコに教えたりしねえよ!!」
と反論した。
「確かに……言えている。
アクマ側の意見は中々伺えないからね。
大変貴重なご意見だ。
今度コラムとしてコーナーにしたいよ」
「ケッ、それはどうも」
「デビルルっち楽しそう!
やっぱりあたしも混ざってこようかな!」
「いや、それはだめー」
デビルルと駆流の応酬を面白がる舞維は我慢できなくなり、飛び出そうとしたが、綿多は急いで体を抑えて止めた。
「ところでだ。
出門さん。 本当に知らないの?
このアクマのこと」
駆流は本題に話を戻した。
不思議そうな顔をし、憑に改めて問いただす。
憑は凝視した後、ゆっくりと頷いた。
全くもって覚えがないのだ。
「……困るな。
嘘をつかれては」
だが、駆流は呆れた様子でそれを嘘だと言い放った。
「え……う……うそじゃ……」
憑は本当に知らないため否定しようとしたが
「いいやきみは知っている。
いや、きみにしか知らない」
駆流は確固たる自信を持ちそう言い放つ。
「……ケッ、証拠でもあるのかよ?
俺様はヘナチョコのアクマだ。
心の声を聞くことはできるが、知らねえみたいだぞ」
「きみが言ったところできみも嘘をついている可能性がある。
事情聴取で家族の証言の信用性が低いのと同じことだよ」
「……ケッ。
難しい事言うなよ」
反論できないデビルルはそう言い捨てて引き下がった。
不敵に笑う駆流。
懐から5枚ほど別の写真を取り出した。
それは憑と、星の髪留めをしている女の子の写真だ。
仲良さそうに隣を歩いている。
「………ッ!?」
デビルルはその写真を見た瞬間、目の色を変え写真に飛び掛った。
「スプリーター!!」
駆流はスプリーターに呼び掛けると、スプリーターは肩からデビルルに飛び掛かり、公園の地面へと共に転がった。
「こ……この……!!
離せ!! おい!! そいつをしまえ!!」
デビルルはさっきよりもひどく錯乱した様子だ。
だが、スプリーターに覆い被せられ、目の間を噛まれて身動きが取れず人間態にも変身できないでいる。
「デビルル……!」
憑は思わず立ち上がり助けようとしたが
「手荒な真似は申し訳ない。
けど、邪魔をされては話は進まない。
きみのアクマが困惑したものだ。
きみは知っているはずだ」
駆流はそれを制止した。
「なになに??
デビルル何があったの?」
「うーーん……ベンチで見えないー…?」
外野の2人はデビルルの様子がちょうどベンチ死角になってしまい状況に気付けない。
綿多は茂みから出てでも確認しようとしたが、昼休みに駆流の恐ろしさを思い知らされたため、下手に動けなかった。
憑は座り直し、駆流が出した写真を見た。
「……あ
……え……あれ……?」
憑は何か思い出した顔をしたが、同時に不思議そうにした。
「何か知ってるのかい?」
駆流はようやく手応えのある反応に、思わず顔が綻ぶ。
「……うん。
前、公園……遊びに行った時。
頭から血出ててた……知らない……女の子……」
憑は見覚えのある髪留めからあまり思い出したくない思い出を必死に思い出した。
数ヶ月前に公園でジャングルジムの近くで倒れている女の子を発見し、近くの公衆電話で緊急通報をした覚えはある。
それでも、この女の子に関係する記憶はそれしかなく、友達のように一緒に歩き笑い合っていた覚えは一切なかった。
「知らない……?
じゃあ、この写真はなんだい?」
「……わからない…………」
「……出門さん。
この子と喧嘩したのか、はたまた疎遠で悲しいのかなにかは分からないけど。
嘘だけはやめてって言ったよね?」
「ほんとうにわからない!」
呆れるような物言いの駆流に、憑は声を振り絞り叫んだ。
「憑ちゃんどうしたんだろ?」
「頭から血とか……ジャングルジム?
あの事故かな……」
「あの事故?」
話の断片から綿多は以前ニュースで聞いたこの街の周辺で起こった事故を思い出した。
「うん。
同い年くらいの子がー、ジャングルジムから落ちたのかなにかで、頭から落下したって話」
「……え、こわい……」
「隣町との間くらいにある公園だったかなー……。
今でもジャングルジムは使用禁止みたいだよー」
「ひええ……」
舞維は聞いてるだけで頭が痛くなり、思わずキャップ越しに頭を抑えた。
「……はあ」
駆流はため息をつくと、深く腰掛けた。
「調べてみたが、うちの学校の中にはカラスのアクマを持つものはいない。
その子だけなんだ」
そう言うと駆は憑の目を真っ直ぐ見詰めた。
憑はそらしそうになるが、そうしてしまうと更に疑われてしまうと直感し、見詰め返した。
「きみはクラスチャットに入ってないからわからないと思うけど、そのカラスのアクマはキラキラしたものを狙って奪い去る厄介者でね。
みんな迷惑しているんだ。
僕は腐っても新聞係だからね。
少しでもその特徴が分かれば、みんな安心して過ごせると思うんだ。
……先に魂胆を伝えるべきだったよ。
でも許してくれ。友人のアクマをそう言われると気を悪くすると思ったからね。
分かることがあれば教えてほしい」
駆流の真っ直ぐな純粋な使命感からの言葉に、憑はたじろいだ。
少しでも悪意を持ってくれれば、それを言い訳にデビルルに何とかしてもらおうかとも思ったが、駆流の気持ちは本物だ。
だからこそ、本当に本当に何も知らない憑はどう返したらいいか分からなかった。
「……………3年生のとき……」
黙っていると駆流がまた口を開いた。
「スプリーターの特技を活かすために、矢満に言われて使い始めたこのデジカメ。
それで色んな人の情報を知るのが楽しくてね。
そんなときにちょうどきみが転入してきた。
申し訳ないが、追わせてもらったよ。
この星型の髪留めの女の子は、きみの転入前……すなわち、1つ前の学校の友達。
名前は……」
「やめろ!! おい!!
のっぽ眼鏡!! それ以上……うぐっ!!」
駆流が名前を言おうとしたとき、デビルルが力を振り絞り叫びだしたが、スプリーターはより強く噛んでデビルルを気絶させた。
憑は知らないがどこか胸騒ぎのする駆流の話に集中しており、デビルルのことに気付かない。
「……名前は……烏に丸……おそらく“からすま”。
そして星に梨…………前にあった友達についての作文発表で言ってたかな……“きらり”……と」
「からすま……きらり…………?」
憑は名前を言われてもさっぱり分からない。
そもそも、前の学校でもあまり友達ができなかったため、もうほとんどの人の名前を忘れてしまっている。
「ふわっち知ってる?
から……えっと……なんとかきらりって子?」
「からすまだよー。
……覚えてないなー……でも、友達についての作文は覚えてるよー。
たしか憑ちゃん……途中で泣いちゃってたようなー」
「え…!?
そうだったっけ……………そうだった!!」
「舞維ちゃん……もうちょっと声量おさえてー」
「あ……ごめんごめん」
外野の2人はきらりという少女はあまり知らないようだ。
「僕らの学校に転入しても、一緒に遊んでいたようだね。
事故の日の前日も、隣町に向かうきみの姿をスプリーターが撮影している。
そしてその作文の日と事故の日が同じ日なんだ。
途中で泣いて逃げたきみと何か関係あるのでは?」
駆流は覗き込むようにして問い詰める。
憑は真っ直ぐ見詰め続けるがやっぱりきらりと言う少女に関する記憶は、公園で事故に遭った見知らぬ人と言うことだけだった。
「ごめんなさい」
憑は深々と頭を下げて謝った。
「本当に……本当に……わからないの。
うそじゃない……。
転校してきたのも……作文で泣いちゃったのも覚えてる…………でも……そんな子知らない……」
憑は恐る恐る記憶を探りながら言った。
駆流は信じられないという顔をしたが、憑の目に顔に……嘘は読み取れなかった。
「…………そうか…………」
駆流はこれ以上の追求は無理と諦めようとした。
そして、スプリーターを肩に戻した。
そのときだ
(いやまて……
あの慌て様……このアクマは知っている!!)
憑に秘密を迫ったとき、本人以上にデビルルは慌てていた。
なにか知っているのかもと思い、地面に伸びているデビルルを拾い上げ強く揺すった。
「おい! デビルル!!
きみは何かを知っているのだろう!!
世紀のスクープになるのかもしれないんだ!!
答えろ!!」
「え……えっと…………」
憑はデビルルを助けようとするものの、なにもできない。
「くっ……
あとちょっとだ……あとちょっとで真実に辿り着けるのに……!!
おい!! 起きろ!!」
駆流はいつもの余裕そうな表情から一変し、焦りの色が強く出ている。
情報収集能力に絶対の自信を持っており、この上ない証拠も取り揃えたというのに、何一つ情報を聞き出せなかった。
彼のプライドが許さないのだ。
一瞬、駆流の体が黒いモヤが立ち上った。
「デビルル……!?
あの人なにを!!」
ようやくデビルルの危機を見た綿多は茂みから急いで飛び出した。
「え……?
もー! ふわっちさっき止めたくせに!!」
舞維も綿多を追い掛けて飛び出す。
「くっ……!
この!! 役立たずめが!!!」
駆流は中々目覚めないデビルルに苛立ち、立ち上がると地面に向かってぶん投げた。
まあるいデビルルの体は弾み、憑の顔に直撃。
「……ぅ」
憑は尻餅をついてしまう。
突然のことに憑はまだ状況が飲み込めず、ただ痛いという感覚だけが頭を支配し、目に涙が浮かんできた。
「…………あ……す、すまな」
駆流は衝動的な行動で憑を傷付けてしまったことに狼狽えながらも謝ろうとしたが
「駆流!!」
「……ッ!?」
今この場で一番声を聞きたくない者の声がし、駆流は恐る恐る振り向いた。
「アゲエはデビルル! ふわっちは憑ちゃんをお願い!!」
舞維は2人の顔を見て指示を出すと、駆流の前に迫った。
「憑ちゃん……大丈夫?
痛む?」
綿多は駆流から守るように憑の近くにしゃがみ、憑の顔を覗き込む。
憑は綿多の顔を見上げると、その胸元に顔をうずめ、咽び泣いた。
「大丈夫……大丈夫だから」
綿多は恐る恐る憑の頭を撫でた。
アゲエも転がったデビルルを捕まえ、ベンチに乗せた。
「駆流……インタビューって言ってたよね?
なんでインタビューで憑ちゃんを泣かすの!!?」
舞維は怒りを顕にし、駆流に迫った。
流石の駆流も平静を保てず、目が泳ぎ挙動不審になる。
「違う……!!
僕はただ……真実を……」
駆流は必死に弁明しようとしたが
「舞維ちゃん!
この人、私の暴走のこと知ってた!!
きっと、憑ちゃんの合体のことも知ってる!!
だから、憑ちゃんを脅して悪いことしようとしてるんだ!!」
綿多が昼休みに脅されたことへの腹いせのように、舞維へと叫んだ。
「駆流……!?
それほんとなの!?」
「違う……真実はそうじゃない……!!」
「騙されないで舞維ちゃん!
八百長をした人だよ!!」
「………っ!?」
綿多の言葉に駆流は息を呑んだ。
一番掘り返してほしくない、痛いところを突かれてしまった。
「駆流……。
反省してくれたと思ったのに……クラス新聞、楽しみにしてたんだよ」
舞維は悲しそうに言うと
「憑ちゃん!
大丈夫!!?」
憑のもとへと駆けた。
(僕は……僕はいったい何を……)
残された駆流。
「ケガは?」
親愛なる人の声が近くなのに遠くでする。
「分からない……。
おでこ……ちょっと腫れてる?」
ただ、喜んでくれるスクープを求めただけなのに。
「どうだろう……とりあえず保健室連れて行ったほうが」
そのために完璧な証拠を押さえたのに。
「うん……。
……それに……デビルルも」
真実は見付からない。
「デビルルっち……なにがあったんだろ?
……? これって……何かに噛まれたあと?」
「噛まれた…………
舞維ちゃん……猫科のアクマの噛み跡じゃ…………
……やっぱり……あの人…………憑ちゃんを」
真実は捻じ曲げられる。
真実ってなんだ。
真実だけだ。
嘘はよくない。
真実を。
真実を。
『シンジツガスベテ』
スプリーターの目が紅く妖しく光る。
そしてそのまあるい体から黒いモヤが溢れたと思うと
公園の茂みや木々を揺らす激しい衝撃波と共に、スプリーターの体が粒子となり散らばった。
「うわっ…!」 「……うっ」
その衝撃波の勢いに舞維と綿多は思わず顔を塞ぐ。
「な……なに……?」 「これって……。 まさか!!?」
綿多は焦りながら駆流を見る。
スプリーターの粒子がオーラとなり駆流の体を包み込む。
「あ……アクマ……暴走……!?」
綿多は思わず口に出していた。
(なんで……なんでこの人が……!?
私の……せい……?)
憑のアクマ暴走を危惧していたのに、憑を護るために攻撃した相手をアクマ暴走させてしまった。
アクマ暴走は我を忘れ負の感情に囚われる。
その苦しさは一度暴走を経験した綿多は痛いほど分かっている。
だから必死で止めたかった。
『シンジツガスベテ』
駆流はオーラの間から虚ろな瞳を覗かせる。
「駆流…!!?
これ……」
舞維は駆流の異様な様子に怯え、ふと綿多に目をやった。
「……舞維ちゃん……!!
憑ちゃんをお願い!!
モコモコ!!!」
綿多はやけっぱちで叫んだ。
モコモコはキリッとした顔になり、駆流に突撃するが
「うさぎは狩られる。
それが自然界のシンジツ」
と低く悍ましい声で駆流が呟くと
駆流の体からチーターのオーラが現れ、モコモコを包んでしまった。
「モコモコー……!!!!」
オーラが通り過ぎるとモコモコは黒い粒子にまみれて地面へと倒れ込んだ。
「モコモコ!!! モコモコ!!!!!」
綿多は急いでモコモコを助けに行こうとするが
「危ないよ!! ふわっち!!!」
舞維は綿多の腕を掴んで必死に止める。
「離して!! 舞維ちゃん!!
モコモコが!! モコモコー!! 今助けに行くから!!!」
だが、綿多は舞維の腕を引き離そうと抵抗する。
「だめ!!! 何されるか分からない!!
大事なものがなくなっちゃうかもしれないんだよ!!!」
「それでも!!!」
『シンジツガスベテ!!』
2人が押し問答しているところへ、駆流はチーターのオーラを飛ばした。
「うぐっ……」 「うわっ!!」
2人はオーラに直撃する……
が、痛みもなくなにか体に変化があるわけでもない。
「……?
なんだったの?」
舞維は不思議そうにするが、
「……んっ!!」
急に喉がムズムズし始め
「あたし、まだおねしょしちゃうんだよねぇ!」
と口に出した。
「……えっ!!?
なに!!? 今!! 口が勝手に!!!?」
舞維は顔を赤くしてあたふたし始める。
「……え? 本当なのー……?」
綿多は思わず訊いていた。
「うう……本当だよ!!
本当!! やだー!! 見ないでー!!!」
舞維は赤面した顔を手で覆い隠した。
「えー……
(ん? ってことは)
んっ!!」
綿多は嫌な予感がした同時に急に喉がムズムズし、
「私の……極秘ノートの中身……全部私の自分の嫌いなところ……」
と口にした。
「……え…!?
なに……今の!!?」
「これがシンジツ。
人の最大のヒミツは最大のシンジツ。
でも……パンチが弱い。
もっとシンジツを!!」
駆流はそう呟くと、風のように走り去り一瞬で姿を消してしまった。
「……あっ!!
……行っちゃった……」
舞維は追い掛けようとしたがどっちに行ったかさえ分からないため追い掛けようがなかった。
「モコモコー!!!」
綿多はモコモコを優しく拾い上げて呼び掛ける。
だが、体はぐったりしており反応がない。
「モコモコ!! モコモコ!!」
綿多は何度も揺すり声を掛けるが反応に変わりはない。
「……ふわっち。
一旦、学校戻ろ」
綿多は涙目を浮かべながら舞維に振り返り、小さく頷いた。