学校に着いた3人。
憑、デビルル、モコモコを保健の先生に預け、舞維と綿多は保健室の前の廊下に立っていた。
憑は体の傷は大した事ないが、精神状態が不安定のようだ。
逆にデビルルとモコモコは傷を負い体力をかなり消耗してしまっている。
「鬼斗に調べてもらってるけど……早すぎて特定難しいって」
舞維は鬼斗のチャット画面を見ながら、残念そうに言った。
「…………今こうしてる間にも……暴走の被害が拡大してる…………」
綿多はクラスチャットを見て、色んな人が秘密を暴露されたと文面が届き、体がうずうずし始めた。
「止めないと…………私のせいで……」
綿多は決意めいた表情をすると、歩き始めた。
「……あ! 待って!」
舞維はスマホ画面から目を離し、綿多の動きが見えると、すぐに腕を引いて止める。
「なんで止めるの!!?」
綿多は八つ当たりするかのように舞維に叫んだ。
「なんでって……
なんでもだよ!!
ねえ……今日のふわっち怖いよ。
ふわふわのふわっちの方がかわいくてあたしは好きだよ!」
「…………ま……城都さんは、悩みがなさそうでいいね」
「えー、あたしも悩みはあるよ!
今日の洋服も何着ていこうか迷ったし、この間も兄貴がケーキ買ってくれるってときに何にしようか5分くらい」
「城都さん。
ちょっとトイレ行ってくる」
「あ……うん!
わかった!! いってらっしゃい!!」
綿多は舞維の言葉に被せるようにシニカルな笑顔を見せてからこの場を去っていった。
舞維は無邪気に手を振って見送った。
「……あれ?
さっきふわっち……あたしのこと苗字呼びに戻ってた?」
舞維は綿多の呼び方に今気づき、不思議そうな顔をすると、ポケットからチームインセクトの発信器を取り出した。
「アゲエ、ふわっちお願いしていい?」
そして、アゲエに発信器を持たせると、アゲエを尾行させた。
駆流の暴走は止まらない。
俊足で街中を駆け回り、出会う人全員にオーラを浴びせている。
恋人への不満や、仕事の愚痴、人生最大のやらかしなどなど、墓場まで持っていきたいような秘密をみんな口に出してしまう。
「足りない……
違う……これじゃない……!
もっともっとあっと驚くシンジツを!!」
駆流は立ち止まり、求めているシンジツに巡り会えないことに苛立ち叫んだ。
「……?
不破原綿多……」
そこに走っている綿多の姿が見えた。
虚ろだった表情が憎しみに変わる。
「きみは……シンジツを捻じ曲げた」
駆流が綿多の目の前に瞬時に移動して来た。
「……え」
急襲に綿多は反応ができない。
「ウソつきは消え失せろ!!」
そして怒りをぶつけるかのように叫ぶと、荒ぶるチーターのオーラを放った。
さっき公園で受けたものよりも荒々しい動きをしており勢いが強い。
綿多は突然の攻撃にただ立ち尽くすだけだった。
そのとき
「イッポン!」 「チックン!!」
2人の男女の声がしたと思うと、綿多の体は押し出され転んでしまう。
オーラは空を切り、アスファルトへとヒビを入れて直撃して霧散した。
「痛た……なに……?」
綿多は何が起きたか分からず顔を上げる。
「我ら! 巷じゃ」
「いや、名乗らねえよ」
そこにいたのは文実と一郎だった。
2人のアクマが綿多を押し倒して避けさせたのだ。
「大丈夫か? 不破原。」
一郎は綿多に手を差し伸べる。
「う……うん」
綿多は一郎の手を掴もうとしたとき
(…………こわ)
一郎の後ろで鋭い眼光を放つ文実が見え、思わず手を引っ込め、自力で立ち上がった。
「……どうして?」
「舞維が教えてくれたんだよ。
友達が危ないって」
綿多が訊くと、間に入るように文実が答えた。
「ともだち……」
綿多は気になる言葉を復唱したあと、目を背けた。
「ありがとう。
でも……これは私の…………
っ! 危ない!!」
だが視界の端で文実と一郎にチーターのオーラが飛んできたのをみて思わず叫んだが
「ひやっ!」 「うわっ!」
間に合わなかった。
「……だ……大丈夫?」
綿多は心配するが、怪我は無さそうだ。
ということは
「ん!!」 「ん!!」
2人の喉がムズムズし始め
「俺も名乗り混ざりたい!!!」 「いっちゃんのこと世界でなによりも好き!!!」
と2人同時に叫んだ。
「うわっ! なんだ……本当に叫んじまうのか…?」
動揺する一郎。
そこへ
「痛!!」
文実は一郎の脚を思い切り蹴った。
「何すんだよ!!?」
「何って!! 今の聞いてんじゃねえよ!!」
文実は顔を真っ赤にしており、今にも泣きそうである。
「はあ? 俺の声と被って聞こえなかった。
何言ったんだよ? てか、蹴るなし」
「は? 聞こえなかった?
本当か?」
「本当だっての」
一郎の解答に、文実は安心したのかホッと一息ついた。
(…………なんだー……この夫婦漫才ー)
綿多は2人のやりとりに思わず心の中で突っ込んでいた。
「不破原綿多!!」
急に綿多の背後から悍ましい声が聞こえた。
「うわっ!?」
綿多は思わず飛び退く。
超スピードで駆流が綿多に近付いていたのだ。
「イッポン!」 「チックン!」
一郎と文実は、綿多を守るように前に出て臨戦態勢を取る。
が、綿多は2人を押し退けた。
「これは私の問題!!
(大丈夫。
話せば分かる……。
私も……そうやって元に戻れた……)
……激斜さん!! ごめんなさい!!
あなたの気持ちを考えてあげられなかった。
憑ちゃんを守ることだけ考えて……真実とは限らない憶測で……あなたを傷付けて…………
だから暴走は」
「黙れ!!
ウソつきにものを語る資格なし!!
シンジツこそ絶対だ!!」
駆流は綿多の思いを一蹴し、激しいオーラを飛ばした。
「くっ…!」
「危ない!!」
すぐに文実は綿多を守るように立ち塞がり、それを見た一郎はさらにその前に立ち塞がり
「ぐっ!!!」
オーラを手に持ったイッポンの角を使い弾こうとした。
だが、勢いが強く押されてしまう。
「いっちゃん!!」
文実は一郎の背中を押して支える。
「……邪魔をするな!!
そいつはシンジツを語らぬものだ!!
存在に値しない!!」
駆流は綿多の排除を邪魔する2人に苛立つ。
「うるせえな!!」
一郎は叫んだ。
「誰も彼も本当のことを言うってのも理想と言えば理想かもしれないがな!
それじゃあつまらないだろ!!
みんな秘密があり、隠している気持ちがある!
だから、それを言えたとき……言ってくれたときが嬉しいんじゃないのか!?」
文実も不敵に笑いそれに続く
「そうだ。無理矢理吐かせられた本心なんて真実の言葉じゃない!!」
そう言い放つと、2人は強く体を押し出し、オーラを弾き返した。
「くっ…!!
……始末は最後でいい……!!」
駆流はそう言い捨てると一瞬でこの場を去った。
一郎と文実は力を使い果たしたのか、その場で座り込む。
「はー……なんとかなったな」
「ああ……いっちゃん…………よくそんなダサいセリフつらつら言えたな」
「フミフミだって乗ったろ」
「ちっ……うざ」
「……あの…………ありがとう……」
綿多は2人に向かい決まりが悪そうにお礼を言う。
「お礼なら城都に言えよ」
一郎は爽やかに笑った。
「……城都さんに……?」
「気付いてないの?」
不思議そうな綿多に文実は背中を指差した。
「……?
え……なにこれ?」
綿多が自分の背中をさすり、手に当たったものを剥がす。
そこには小さく光る機械が取り付けられていた。
「チームインセクトの発信器みたいだぞ。
ふわっちの様子がおかしいから、見てきてって城都から。
…………俺、チームインセクトに入ってないけど……」
「細かいことはいいだろ。
さっさと入れ、バカ」
「うるせえアホ。
……とにかく。
不破原。1人で頑張ろうと無理すんなよ。
お前に何があったかとか、何でそうしたいか分からない。
でも、頼れるときは頼れる人を頼れよな」
「…………同じ言葉続き過ぎじゃねえか?
しまらねえな」
「うるせえ」
綿多は一郎の物言いは理解はできた。
でも、気持ちは変わらなかった。
本心からの言葉を拒否され綿多の心はぐちゃぐちゃになり、もう何をしたらいいのかわからない。
今は、2人の口論をBGMに立ち尽くすしかできない。
そのとき
綿多のスマホに着信が入った。
舞維からだ。
綿多は一瞬拒否を押そうとしたが、思いとどまり電話に出た。
「もしも……」
『ふわっち!!
よかったー! 無事だったんだ!!
一郎と文実ちゃんは? 会えたー?』
綿多の声を聞くと、舞維は嬉しそうな声を出し矢継ぎ早に聞いてきた。
「……う、うん。
会えた……」
『よかった!!
あ、じゃあ2人から聞いたかな?
勝手に発信器つけてごめんね!!
もしかしたらふわっち1人で行っちゃったのかなって思って…………』
「…………うん」
綿多は力のない返事をすると、舞維の元気な声と自分より一歩先を考えられた余裕を直視できなくなり黙って通話を切ろうとした
が
『あ! そうだ!!
憑ちゃんがやりたいことあるって!!』
と舞維に言われ思いとどまる。
「憑ちゃん…?
大丈夫なの?」
『うん!!
あ、それじゃ代わるね〜!』
綿多はいつもよりもスマホのスピーカーに耳を近付け神経を集中させた。
手渡される音が聞こえた。
吐息が聞こえる。
何か話したいけど緊張しているのだろうか
「も……もしもし」
綿多は先に言うと
『もしもし……』
憑の声が返ってきた。
「……大丈夫……?」
『……うん』
お互い何か言いたいが、言い出せない。
そんな雰囲気。
電話の奥で“憑ちゃん”と小声がした。
舞維が励ましているのだろう。
深呼吸の音が聞こえ
『不破原さん。
あの……心配してくれたの……公園行く前……デビルルから……聞いた。
ありが……とう』
「うん……
……どういたしまして……」
『…………前、不破原さんが暴走しちゃったとき……わたしも……今の不破原さんと同じ気持ちだった。
わたしががんばろって…………でも……城都さんと一緒じゃなきゃ…………だめだった。
救えなかったと思う。
だから……えっと……だから』
憑は締めの言葉が思い付かず詰まってしまう。
綿多は待ったが、しばらくするとぷっと吹き出し
「はははははは!!」
と大きく笑った。
「なんだ?
壊れたか?」
文実は不思議そうに呟く。
『え……?
えっと……不破原……さん?』
電話越しの憑も困惑している。
「ばかみたいだねー、私ー。
あー悪い癖悪い癖ー、あーあー、またノートに一文付け加えるー」
綿多は投げやりであり、それでいてどこか吹っ切れた様子で呟いた。
「壊れてない。
むしろ、直った」
一郎は腕を組んでそう言う。
「ありがとー、憑ちゃーん。
憑ちゃんは強いねー」
『え……?
え……あ……』
急に褒められたことで憑はどう返したらいいかわからなくなっている。
「憑ちゃん。
……どうしたい?」
綿多は真剣な表情になり、憑に訊いた。
舞維は“憑ちゃんがやりたいことがある”と言って、電話を代わった。
すでに視線は未来へ向いていた。
綿多はそれを手助けすることに決めた。
『…………激斜さん……わたしの知らないわたしのことを知ってた。
…………からすまきらり………その名前……ずっとその名前を心の中で繰り返したら胸がゾクゾクした。…………でも、なんでかわからない。
もしかしたら……忘れちゃってるのかも……
だから知りたい。思い出したい。
そしたら……真実がわかる……。
暴走を止められるかも……』
「……分かった。
…………でも……どうしよー……何か手はー?」
『あの秘密暴露ビームは?』
いつの間にか、舞維のスマホがスピーカーモードになっており、舞維の声がした。
「でもー、憑ちゃんでもわからないんでしょー?
思い出せない記憶が最大のヒミツででるかなー?」
綿多も一郎と文実に聞こえるようにスピーカーモードにする。
『デビルルなら……
デビルルなら……何か知ってるかも……』
憑はきらりという少女の写真や名前が出た時のデビルルの狼狽え具合を思い出した。
自分は知らないけども、アクマであるデビルルは何か知っている様子なのだ。
だから憑は駆流の追求を強く否定できなかったのだ。
『確かに!
デビルルっち騒いでた!!』
「起きたら聞き出しちゃえばいいしー。
だめそうならー……」
綿多はニヤリと笑った。
『あ! ビーム!!』
「そー。
デビルルなら大丈夫でしょー」
『たしかに!!』
『……うん』
綿多の提案に、舞維も憑も頷く。
(…………出門のアクマ……扱い雑じゃないか?)
一郎は心の中で突っ込んだ。
「でもー……激斜さんがどこにいるのかー」
だが、作戦が決まったとしても駆流の動きが分からない。
3人が悩んでいると
「不破原」
と一郎が声を掛けた。
「今、矢満と連絡取ってるけど駆流の動きには法則性があることがわかったようだ」
『法則性?』
「……なんでわかるのー?」
一郎の言葉に舞維と綿多は質問する。
「スプリーターが持ってるデジカメ……なくしてもいいようにGPSが仕込まれているらしい。
それを追って、その軌跡を辿ると…………こうなる」
一郎はそう言うと綿多に鬼斗から送られていた画像を見せた。
「……ほんとだー」
綿多は興味深そうに眺めた。
『え? なになに!?』
「街の北西から東西へ南へ向かって横断している。
激斜は足で稼ぐから……この街のことを知り尽くしているんだろ」
『……?
どういうこと?』
電話越しで画像が見えない舞維に一郎は説明したが、舞維はその説明を聞いても分からなかった。
「とにかくー。
南で待ってれば来るってことー。
今ー、憑ちゃんたちがいる学校はー…………」
綿多は地図アプリで学校の場所を調べ
「私がいるところより南だよー」
『じゃあ!
待ってれば駆流が来るってことか!!
確かに! まだ学校じゃ暴露騒ぎは起きてない!!』
舞維は嬉しそうにそう言うが
『でも……デビルル起きてない…………』
秘密を隠している張本人がまだ回復していない。
憑は残念そうに言った。
「……今、矢満に訊いてみたけど、学校に激斜が来るのはだいたい10分くらいらしい……
それまでデビルルは起きてこれそうか?」
『……わからない…………』
憑はとても小さな声で応えた。
「……そうか…………。
間に合うことに賭けるしか…………」
『ねえ!!
今、先生に訊いてきた!!
10分じゃ難しいって!!
少なくとも15分くらいは必要かもって!!』
「聞くの早いな……!
そうか……もうちょっと南で待つか?」
『でも…………デビルル……動けない』
「だよな……」
せっかく上手い具合にいきそうな作戦だったが、不可能になったためにまた振り出しに戻ってしまう。
綿多はオーラによって削れたアスファルトを見た。
(私なら……)
綿多は深呼吸をすると、真剣な表情をした。
「私が足止めする!」
『えっ…!?』
「足止めって……できるのか?」
綿多の決意の言葉に舞維は驚き、一郎は冷静に尋ねる。
綿多は拳を震わせながら言う。
「うん……。
激斜さんは、私に対してすっごく怒ってる。
さっきも……最後で良いって言った……
優先順位を変えただけで、私への怒りはまだ収まってない……。
だから……激斜さんの進路上で待ち伏せしたら、激斜さんのヘイトはまた私に向くはず……!」
『ふわっち……』
舞維は心配そうに呟く。
「よくわかんねえけど!!
またうちらがやっつけちまえばいいんだろ!!」
そこにさっきまで話についていけず黙っていた文実が口を挟んだ。
「やっつけるんじゃなくて、足止めだからな」
「うるせえ!! とにかく南へ……
いっ!!」
文実は立ち上がり、歩き出そうとしたが、足に激痛が走りしゃがみ込んでしまった。
「……見せてみろ」
一郎は文実の靴を脱がせて、靴下の間から足首を見た。
赤くなり腫れてしまっている。
「さっき挫いたのか……
それに……この間のケガも完全に治ってないだろ?」
「うるせえな!
こんくらいなんてこと………いっ!!」
文実は反論と同時に一郎を蹴ろうとしたが、足を上げた瞬間にまた激痛が走った。
『文実ちゃん大丈夫!?』
「だいじょ」
「大丈夫なわけないだろ。
……イッポン」
強がる文実の言葉を遮り、一郎はそう言うと、イッポンに指示を出して、文実をおんぶした。
そして、綿多に申し訳なさそうな顔をする。
「悪いな……
俺たちはここまでのようだ。
一旦学校で見てもらう」
「……わかった」
綿多はただ頷くだけだった。
一郎は綿多の決意の声と表情を見て、止めることはできないと思った。
「…………不破原。
少なくとも5分だぞ。
あの俊足とオーラに5分」
そして、綿多の覚悟を確かめるようになにをしようとしているのかを口に出して伝える。
「分かってる」
綿多は真剣な表情で言った。
「……イッポン」
一郎は肩に乗るイッポンに声をかけると、イッポンは綿多の掌まで飛び移った。
「アクマ相撲で俺とコイツに打ち勝ったんだ。
なら、どんなアクマかわかるだろ?」
「……ありがとう」
綿多はイッポンを見ながらお礼を伝える。
「……しょうがない。
チックンも行ってこい」
文実もチックンに声を掛け、チックンは綿多の周りを飛び回った。
「必殺のパウダーエクスプロージョンをお見舞いさせてやれ!!」
文実は自慢げにそう言うが
「……?
パウダー……?
エクス……?」
綿多は1回で聞き取れず困惑する。
「パウダーエクスプロージョン!!」
「……いわゆる花粉爆弾」
「……あー」
一郎の補足で綿多は納得できた。
『ふわっち……ホントに大丈夫なの?』
『不破原さん……』
電話越しから舞維と憑の2人の心配の声が聞こえた。
綿多はニコリと笑顔を作り
「大丈夫ー!
だから憑ちゃーん、後は任せたよー」
と明るく伝えると電話を切った。
「……お前、ふわふわな天然みたいって思ったけど、男気あるんだな」
文実は綿多を賞賛する。
それと同時に
「脚、ガクガクだぞ」
震える脚を指摘した。
綿多は手で脚を押さえ深呼吸すると、恐怖と決意の入り交じった表情を浮かべ
「大丈夫」
と声にした。
「ふわっち大丈夫かな…?」
電話を切った舞維は不安そうに憑に話し掛けた。
憑も心配でしょうがなく黙ったまま俯くだけだ。
舞維はその様子を見て優しく微笑むと
「憑ちゃん!」
と憑の2本のアホ毛を両手で掴んだ。
「え……な…なに……?」
「大丈夫!! 大丈夫!!」
「え………なに……が?」
「大丈夫!!
ふわっちなら大丈夫!!
憑ちゃんも大丈夫!!
知りたいこときっとわかるよ!!」
舞維は憑を元気づけるため、そして自分を鼓舞するために明るく伝えた。
「…………うん」
たとえそれが根拠のない言葉であっても、舞維の明るさに憑は元気を貰い、少し微笑みながら頷いた。
駆流は街中を走り回り、すれ違う人たちにオーラを浴びせていく。
その中には社内秘密や浮気など、それ1つで関係を崩壊させ、喧嘩になる声を聞こえていた。
駆流は立ち止まり最大のヒミツの暴露を聞いた。
「シンジツ……僕がすべて暴いてみせる」
低く乾いた声で唸るように言うと、また走り出そうとした。
そのとき
「ちょっとまったー!!」
女の子の叫び声が聞こえた。
「…………
不破原綿多ッ!!」
駆流はその声を聞き表情を憎しみに変えながら振り向く。
綿多が両肩にイッポンとチックンを乗せて立ち塞がっていた。
「激斜さん……!!
もうやめて…!!
これ以上は……みんな傷付くだけ!!」
綿多は両脚をガクガク言わせ、拳を震わせながら訴えかける。
「違う…………シンジツは」
駆流は低い声で話し始め
「絶対!!」
と言いながら、綿多の目の前まで躍り出た。
手には激しいオーラを纏わせており、
「うぐっ!!」
綿多の腹部に直接殴打。
「がはっ……!!」
綿多は唾を吐きながら吹き飛び、アスファルトの地面を転がる。
「うさぎはチーターには勝てない。
これがシンジツ」
駆流は倒れる綿多を見下ろし冷たくそう言うと、走り去ろうとした
が
「……ッ!?」
足が地面から離れない。
「なんだ……!?
なんだこれは!!?」
見ると足元がベトベトしており、靴が地面にへばりついてしまっていた。
「作戦成功ー……
いや……痛い……角折れてないよねー……」
困惑する駆流に対し、綿多はお腹を抑えながらなんとか立ち上がった。
「持上一郎のアクマ……それがシンジツか……」
駆流は苛立つ様子で呟く。
綿多の手にはイッポンがいた。
イッポンからは黒いモヤが付着していた。
綿多が反応しきれなかった駆流の攻撃を、イッポンは身を呈して守り、衝撃を緩和したのだ。
「ありがとー……イッポン。
じゃあいくよー!」
綿多はイッポンにお礼を言うと、駆流の足元を指差し
「パウダーエクスプロージョン!!」
と叫んだ。
「蜜車文実のアクマか……」
駆流はパウダーエクスプロージョンがチックンの得意技だと知っているため、当たり──とくに指を差された足元を警戒した。
が
「ッ……!?」
花粉爆弾が飛んできたのは背後からだった。
後頭部に直撃をもらい、そこで爆発。
黄色い粉が辺りを充満し、駆流の視界を塞いだ。
「くっ…!!
小癪な真似を!!!」
駆流は四方八方に激しいオーラを振り撒いた。
チックンは飛んでなんとか躱し、綿多はイッポンを盾にしながら警戒する。
当てずっぽうの攻撃に被弾することはなく、駆流の体力が消耗するばかり。
攻撃の間隔も少しずつ空いてきた。
だが、花粉の煙幕も徐々に晴れてきている。
「チックンー!!
今ー!!」
綿多の合図と共に、チックンは蜂蜜を練り両足の靴と足の間に投げ入れた。
「はあ……はあ……
……なっ……?
これは……!!」
「さっきチームインセクトの2人に阻まれたから、今度は近付いて確実に私を狙うと思ったよー!
だから目の前に、チックンの蜂蜜のトラップを仕掛けたー!
でもー、靴を脱がれちゃったら逃げられちゃうから、今回のでそれもできなくなったねー!!」
身動きが取れなくなった駆流に綿多は勝ち誇るように言った。
「くっ……!!
シンジツを邪魔するな!!」
駆流は怒りに身を任せ激しいオーラを、綿多に放った。
だが、オーラ攻撃の使いすぎにより威力は格段に落ちており、イッポンの角の一振りで簡単に霧散してしまった。
「私が憶測で舞維ちゃんに伝えて……激斜さんを孤立させちゃったのは謝る。
ごめんなさい」
綿多は真剣な表情になり、頭を下げた。
「シンジツガスベテ!!」
駆流はまたオーラを放つが、すかさずイッポンが弾いた。
「…………知ってると思うけど私もアクマ暴走したことあるから……今、激斜さんがどれだけ苦しんでいるのか……どれだけ嫌な気持ちなのか……分かるよ。
だからもうやめよ。デビルルが起きれば教えてくれるよう私からもお願いするから。
こんな方法じゃなくて、信じてみよう……ね」
綿多は慈悲の心で駆流に優しく語り掛けた。
「僕のシンジツを……
分かった風にいうな!!!」
だが駆流の心には届かない。
激しいオーラを放ち拒絶する。
すかさずイッポンが角で霧散するが、綿多の心には言葉では解決できない心理的なダメージがあった。
そのとき
「がっ…!?」
綿多の背中に衝撃が走った。
さっきイッポンが弾いた秘密暴露ビームが、空中で弧を描き戻ってきたのだ。
異変にイッポンとチックンは綿多のそばへと飛び寄る。
痛みはないが、綿多の頭に誰かの声がした
“作戦の穴を教えろ”
瞬間、綿多の目が虚ろになったと思うと
「足を思い切り上げるとハチミツが伸びるから、そこをオーラ攻撃されると千切れて逃がしちゃう」
と口走ってしまった。
「……え?
いま……私…………」
綿多は困惑する。
秘密暴露ビームは、当たった本人の一番の秘密を口走ってしまうもの。
けど、今回は違った。
暴露する秘密を指定されてしまった。
「練度が上がった。
何でも訊ける……!!
これもシンジツ」
駆流は低く冷たくそう言うと、強靭な足を上げ、激しいオーラをハチミツに当てて溶かし、分断した。
「しまった…!!
……チックン!!」
綿多は再びハチミツのトラップを仕掛けようとしたが
「お前といると碌な目に合わない……
関わらない方がいいのがシンジツ」
駆流はそう言うと、一瞬にして姿を消してしまった。
「あっ……!!
でも……5分以上稼げた……!!」
綿多はスマホを見る。
駆流と対峙する前から6分経っていた。
綿多はそのことをチャットで伝えると、急に力が抜けたと思うと
「いっ……!!」
さっきの殴打の激痛が走り蹲ってしまう。
イッポンとチックンは心配して近寄った。
「大丈夫ー……
大丈夫……だか………ら……………」
綿多はそう言いながら、意識を保てなくなり地面に倒れ込んでしまった。
「ふわっち、足止めできたって!!」
綿多からのメッセージを受け取った舞維は、嬉しそうに憑に伝えた。
「……うん」
だが憑は心配そうだ。
まだデビルルが起きて来ていない。
舞維は憑の肩を掴み、少ししゃがんで目線を合わせた。
「様子見に行こっか!」
憑はゆっくり頷き、2人は保健室に入った。
「せんせー!
デビルルっちは?」
「うーーん……まだ起きないね」
保健の先生はデビルルの様子をちらりとみると、首を横に振って伝えた。
「そうですか……。
早く起きないかな……」
舞維は保健室にかかる時計をみながら呟く。
鬼斗が伝えてくれた時間と綿多が稼いだ時間から考えると、駆流が来るまであと3,4分しかなかった。
憑はゆっくり深呼吸するとデビルルに近付く。
そして
「えい」
と言いながら、生えたばかりの悪魔の翼を引っ張った。
「い……!!
いてええええ!!!
なにしてくれとんじゃ!! ヘナチョコ!!」
するとデビルルは痛みで目を覚まし、憑に怒りの抗議をした。
「起きないから……」
憑は目を逸らして小さく言った。
「……ケッ!」
デビルルは憑の顔を見ると、一瞬安心した表情を浮かべると、肩に乗った。
「大丈夫なのか?」
「……うん。
…………なに……が?」
憑は反射的に頷いたが、何に対したの大丈夫か分からないため訊いた。
「ケッ!
大丈夫そうだな!」
デビルルは憑の反応をみて嬉しそうに笑った。
「あ!
デビルルっち!!
起きたんだ! よかった!!」
「よう!!
舞維っち!! 今日もバイブスアゲアゲか〜!?」
デビルルの声が聞こえ、舞維は嬉しそうに駆け寄る。
デビルルは人間態になり、いつものノリを仕掛けたが
「今日はそれしてる暇はない!!
外出るよ!!
……あ! せんせー! ありがとうございました!!」
舞維はデビルルの手を無理矢理引いて、外へと向かって行った。
「あ……ありがとう……ございました……」
憑も保健の先生に挨拶してから追い掛けて行った。
舞維は誰もいない校庭の真ん中までデビルルを連れて走った。
「おい! 舞維っち!!
なんだよ!! 何するってんだ!?」
「えっと!
説明しなきゃいけないことはたくさんあるけど!
時間がないからデビルルっちはここに立ってて!」
「は!?
意味わかんねえよ!! ちゃんと説明を!!」
「はい!! とにかく立つ!!」
「…………はい」
状況が把握しきれないデビルルだったが、舞維が怖い顔をしながら命令したので、従わなざるを得なかった。
遅れて憑も到着し、デビルルの横に立つ。
(デビルルが話してくれたら……何かわかるのかな……? からすまきらり……さんのこと)
憑はデビルルを見て、今から胸騒ぎの元になっている少女のことがわかると思い、ドキドキしていた。
だが
「……ッ!!
ヘナチョコ!! それだけはだめだ!!」
憑の心の声を聞いたデビルルは、憑の肩を強く掴み、激しく訴える。
「……え?」
急にそんなことを言われ憑は困惑。
「デビルルっち!!」
舞維は鋭く叱ろうとしたが
「……!!
憑ちゃん!! 来たよ!!」
舞維が校門の方を指差した。
そこには駆流が立っていた。
「ケッ……!?
あのやべえオーラ……アクマ暴走か!?」
デビルルは思わず後退りをしつつ、憑を見た。
憑はギュッと拳を握り勇気を奮い立たせ、無意識に作戦の内容を頭の中で反芻した。
その内容はデビルルにも伝わる。
デビルルは驚愕したが、すぐにいつものイタズラな笑みに変わった。
「ケケッ!!
ヘナチョコ!!
おもしれーこと考えるじゃねえか!!
一番のヒミツの暴露なんて、質の悪い暴走だぜ!!」
憑はデビルルに小さく頷く。
「頼んだよ!
デビルルっち!!」
2人の様子から、上手く作戦が伝わったと思った舞維は、安全のため校庭の隅へ移動し応援する。
「出門憑……!!
きみも嘘つきだ!!
腐った根性を叩き直してやる!!」
駆流は憑の姿を見ると、憎悪の表情になり、激しいオーラを放った。
「(きた……)
……デビルル!!」
憑はオーラに一瞬怯えながらもデビルルに呼び掛ける。
「おう!!」
デビルルは目を紅く妖しく光らせると、それに呼応するかのように、憑の目も紅く妖しく光り、体から黒いオーラが発せられる。
デビルルは憑から出た黒いオーラを飲み込み、2mくらいまで肥大化し禍々しいオーラをまといながら、そのまま憑を丸呑み。
そのタイミングで駆流の激しいオーラが届くが、デビルルの禍々しいオーラに負けて消滅した。
デビルルのオーラが爆発。
その中心地点では、悪魔の角のようなアホ毛が鋭く尖り、悪魔のように長く先が尖った尻尾を身に着けた憑が目をつむり屹立していた。
「来たー!!
久しぶりのアクマ合体!!」
舞維は久しぶりに見る憑のアクマ合体に興奮し、スマホで写真を連写した。
憑は静かに瞼を開け、紅い瞳を覗かせる。
『おっ!! チャーミングな尻尾生えてんじゃんか!!
復活したぜ!! ケケッ!!』
(……なくてもいい)
デビルルは前回ではモコモコの暴走能力によって消されてしまった尻尾が、今度は現れたことに歓喜したが、憑は逆に残念そうだった。
「姿が変わろうとも…!
シンジツを軽視するものは容赦しない!!」
駆流は激しいオーラを連続で放つ。
(いくよ……デビルル…!)
憑は駆流と遜色ない高速移動をし、激しいオーラの襲撃を避けていく。
『ケッ!
この中から秘密暴露ビームを探すのかよ!!
それに当たれって、それ作戦としてどうなんだよ?
間違えて危険な奴に当たるとお陀仏じゃねえのか?
それに、俺様が言えばいいんじゃねえのかよ?
ケケッ!!』
(とにかく……やるしかない!!
あとデビルル嘘ばっかりだから、ビームじゃないと信用ない)
『ケッ!
そうかよそうかよ!!』
デビルルは作戦の危険性を伝えたが、憑はとっくに覚悟をしていた。
とにかく避けて避けて避けて、秘密暴露ビームを待った。
「……なめるな…!!」
駆流は中々激しいオーラを当てられないことに苛立つと、一瞬で憑の前に躍り出た。
「わっ…!?」
急襲に憑は驚く。
見ると、その手には激しいオーラが纏われていた。
「ま……まっ!!」
憑はなんとか拳を両手で受け止めガッチリ掴んだ。
「なに……!?」
防がれると思わなかった駆流は狼狽えるが
急に不敵に笑い始めた。
「この距離なら避けられない……シンジツを語ってもらう!!
シンジツガスベテ!!」
駆流は秘密暴露ビームを放った。
至近距離なためそのまま憑の元へ向かう。
(デビルル……!
解除だ……)
憑はデビルルに伝える。
このままアクマ合体を解除し、デビルルがビームに当たれば、駆流が欲しがるシンジツを語るはず。
そういう作戦──だった
「……よ」
だが、アクマ合体を解除したデビルルは憑の後ろに出現した。
「……え?」
「デビルルっち!?
何やってるの!?」
そのままビームは憑に当たり
“カラスのアクマの主──烏丸星梨について教えろ”
と憑の頭に直接呼び掛けられた。
「なにっ……!?
一番の秘密だけを言うんじゃねえのか!?」
デビルルは焦った表情をし、狼狽える。
憑は虚ろな表情になると、口を開く。
「さあ!
シンジツを語れ!!」
駆流は期待に満ちた表情をし、言葉を持つ
が
「う……うあ………」
憑から出たのはうめき声だった。
急に頭がこんがらがり熱くなる。
脳みその中がかき混ぜられるような感覚がする。
目の前に星の髪留めの女の子が笑ってる。
カラスのアクマとテントウムシのアクマが遊んでる。
イタズラして笑い合ってる。
喧嘩をして泣いている。
ジャングルジムで───
断片的で全部身に覚えのない記憶が一瞬で通り過ぎる。
立っていられず頭を抑えながら地面をのたうちまわった。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「憑ちゃん!!」
憑の悲鳴のような叫び声に、舞維は思わず駆け寄る。
「こんなシンジツ……」
駆流も動揺している。
「ちっ!
面倒なことを!!」
デビルルはそう言うと、まあるい体になり憑の体の中に入り込んだ。
すると、デビルルは憑の意識を乗っ取り体を起こすと、駆流の胸に手を置いた。
「アゲエ!
力を貸せ!!」
声は憑のものだが、口調はデビルル。
「え……
お! お願い! アゲエ!!」
よくわからない状況に舞維は言われる通り、アゲエを向かわせる。
「はあ!!」
デビルルは憑の手から衝撃波を放つと、その勢いで、駆流の体からアクマの黒いオーラを引き離した。
駆流は意識を失い倒れる。
「おし!!」
デビルルは憑の体を放り投げるように、分離しその黒いオーラに意識を集中させる。
アゲエも一緒に集中させると、オーラがどんどん沈静化していき、最後には黒い塊だけが残り、デビルルはそれを飲み込んだ。
「よっと…!」
デビルルは人間態になり、華麗に着地した。
「憑ちゃん!!
憑ちゃん起きて!! 憑ちゃん!!」
舞維は憑の体を泣きながら揺さぶり必死に呼び掛ける。
「どうだ?
舞維っち、アクマ暴走は他のアクマの力で沈静化できる。
学校でも習ったろ!?
わざわざ変な賭けをする必要はねえんだよ!!
ケケッ!!」
そこへデビルルが勝ち誇った顔をしてやってきた。
「は……?」
舞維はデビルルに困惑の表情を浮かべた。
「あののっぽ眼鏡も心配ねえよ!
少ししたら暴走のことはさっぱり忘れて目覚ますんじゃねえのか?
ケケケッ!!」
舞維はデビルルと憑の間に来るように無意識に移動し、恐る恐る訊いた。
「デビルル……っち?
あなたは…………なんなの?」
続く