いたずらアクマ   作:ココリンク

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14話!!!!!!!!!!!!!! 天使のアクマⅢ

綿多が教室に戻ってきたのは、5時間目が始まって10分後だった。

 

みんないつの間にか眠ってしまうという珍事が発生したので、遅刻はなあなあになったが、憑は綿多が戻ったときの焦りと落胆の顔が忘れられない。

 

やっぱり迎えに行くべきだったかなと、綿多と舞維を交互に眺めるが、答えは見つからなかった。

 

 

背後はいつもよりも静かだ。

 

真後ろから鉛筆の音が断続的に聞こえるので、眠木さんは起きているのだろうが、普段よりも更におとなしく感じる。

 

それに、また瑛琉がいない。

 

 

アクマ暴走を解決してから忽然と姿を消してしまった。

 

 

 

 

5時間目の授業が終わった。

 

今日はこれで授業が終わり放課後だ。

 

憑はロッカーにランドセルを取りに行く。

 

「憑ちゃーん……どこ行ってたのー?」

 

そこに綿多がランドセルを抱えながら訊いた。

 

「え……えっ……と」

 

憑は答えようとしたが、綿多が瑛琉のことを嫌っているような素振りを見せていたため

 

「さんぽ……」

 

と瑛琉と会っていたことは伏せてしまった。

 

「そー?

憑ちゃんもいつの間にか寝てたー?」

 

憑はさっき嘘をついた余波でまた頷き嘘をつく。

 

「だよねー。

なんだったんだろー?

アクマ暴走ー?」

 

憑は俯いたまま。

 

綿多は安心させようと微笑む。

 

「でもー、憑ちゃーん無事でよかったー。

円寺さん探しに行ったのかと思ったー。

……なぜかその当人今いないけどー……

サボりかー?

からすまさんのことー訊けないねー、憑ちゃーん」

 

綿多は少し拗ねたような口調で言う。

 

憑はゆっくりと頷き

 

「明日にする……」

 

とだけ言うと席に戻った。

 

 

 

「さようなら」

 

号令が終わり、預けていたスマホを受け取るとみな教室から出ていく。

 

憑もゆっくりランドセルを背負うと、真っ直ぐ帰ろうとした。

 

そのとき

 

「憑ちゃん!」 「憑ちゃーん」

 

舞維と綿多、2人から声を掛けられた。

 

憑はどうしたらいいかわからず、目を泳がせ交互に顔を見た。

 

舞維はニコニコ笑っており、綿多は少しびっくりした様子で舞維を見た。

 

舞維は視線に気付くと、緩んだ目元が戻り綿多に向く。

 

「あれ?

ふわっちも憑ちゃんに用事?」

 

「舞維ちゃーんも?

今日はインセクトはいいのー?」

 

「ふわっち。

今のあたしはインセクト2号では」

 

「そーゆーのいーからー」

 

 

「え……えっと……あの……」

 

呼ばれたのに放ったらかしにされた憑は戸惑ってしまい、綿多に目配せをした。

 

綿多は視線に気付き、微笑んで憑に顔を向けたそのとき

 

「あ! ごめんね!

憑ちゃん!!

ねえねえ憑ちゃん! 放課後ひま?」

 

舞維がニコニコ微笑みながら、憑に詰め寄った。

 

「え…………

え…………」

 

憑は確かにこの後の予定はないのだが、なんで訊かれたのかよくわからず、綿多に視線を送り助けを求める。

 

「舞維ちゃーん。

それだけじゃ困るー

理由も一緒にー」

 

綿多は呆れた顔をしながら舞維に言う。

 

舞維は少しムッとした顔をするが、すぐに笑顔に戻り

 

「ねえ憑ちゃん!

お家遊びに行っていい!?」

 

 

「え……」

「ええ!?」

 

舞維の質問に憑は固まり、綿多は驚く。

 

「え……あ

い……家……えっと…………」

 

憑は今まで友達を家に招いた記憶はない。

 

もちろん気持ちはOKなはずなのだが、軽々許可を出していいのか、ママは許してくれるのかいろいろ考えてしまう。

 

「デビルルっちの様子もみたいしさ!

寝てるの心配だから!

ね!! いいでしょ!!?」

 

舞維は体をどんどん憑に寄せて行き、また詰め寄る。

 

憑は頭がパンクしてしまい、口をパクパクさせてふらふらしていた。

 

「舞維ちゃーん。

ストープ」

 

綿多は舞維の肩を引き寄せて止める。

 

「憑ちゃんのおかーさんに訊かなきゃわかんないんじゃないー?」

 

「あ、そっか」

 

舞維はすんなり納得すると、ポケットからスマホを取り出し、電源を入れ

 

「じゃ! 憑ちゃん!!

電話してみて!!」

 

と言いながら、憑にスマホを差し出した。

 

「え…………あ……えっ……」

 

「今じゃなくていーでしょー」

 

「今がいいの!!

はい!! 憑ちゃん!!」

 

舞維の要求は止まらない。

 

憑は綿多に目線を送るが、綿多は諦めたように首を振る。

 

憑もゆっくりと頷くと、舞維からスマホを受け取った。

 

が……

 

操作方法がまるでわからず、また固まってしまう。

 

「……あー

憑ちゃーん。

ここを」

 

綿多は気付き、操作方法を教えようとしたが

 

「あ! ごめん!!」

 

舞維が割り込むようにスマホを憑から取り上げると、テンキーを押す画面まで操作した。

 

「…………強引だよー」

 

綿多は見過ごせず苦言を呈するが

 

「はい! お願い!!」

 

舞維は無視して憑にスマホを渡す。

 

 

憑は緊張しながら家の電話番号を押し

 

「打ったらここね」

 

と舞維からの助言を受けて、発信ボタンを押して電話をかける。

 

 

そっと耳に当て、3コールの長い時間待つと、声が聞こえた。

 

ママの声。

 

安心する。

 

「ママ。

今日、あの……え…………お……お友達…がお家に2人遊びに来たいの。

行ってもいいよね?」

 

(……ん?

私もー……?)

 

綿多は頼んでいなかったが、憑が2人と言ったことに驚く。

 

けれども、憑の家には行ってみたかったので、成り行きに任せることにした。

 

 

「いたずらじゃなあいよ。

うん。

……やった! ありがと! ママ、だいすき!

うん! また、お家で!!」

 

電話をしている憑の声は、甘えるようでそれでいて普段とは想像できないくらい元気だった。

 

(かわいいー) (かわいい…!!)

 

なかなか見れないその姿と声に、綿多と舞維は見惚れていた。

 

「え……えっと、だいじょうぶ……だって……」

 

憑はまたいつものオドオドした様子で2人に言った。

 

「やった!!

じゃあすぐに行こー!!」

 

 

 

 

 

憑を先頭にして、その後ろに綿多と舞維が2人並んで歩いている。

 

舞維は鼻歌を歌い、憑の家への初訪問に嬉しそうだ。

 

「家行ったら憑ちゃんのママに挨拶しないとねー!!」

 

「変な挨拶はしないでよー」

 

「はいはーい!!

あ、ねえねえふわっち」

 

舞維はにんまりとした顔で綿多に話しかける。

 

綿多は少し面倒くさそうな顔をする。

 

「ふわっちは憑ちゃんを家に入れたことある?」

 

「……ないけどー」

 

「あたし……ある」

 

「…………そー」

 

ドヤ顔で語る舞維を、綿多は肩のモコモコを撫でながら適当に返した。

 

「じゃあさ!

ふわっち、憑ちゃんの好きな食べ物知ってる?」

 

「……はちみつかかったホットケーキでしょー」

 

「ふふ……ぶっぶー!

正解は、はちみつがたーーっぷりかかったホットケーキでしたあ!!」

 

「……へー

(うざ)」

 

得意げな舞維に対し、綿多は苛つく。

 

(何この人、すごいマウント取ってくるー。

今朝から様子おかしいのまだ引きずってるー?)

 

モコモコをわしゃわしゃ撫でてなんとか気持ちを落ち着かせる。

 

モコモコは今すぐにでも飛びかかりそうだ。

 

 

(モコモコーステイステーイ

まだ早ーい まだ早ーい)

 

綿多は自分の気持ちを落ち着かせるように、言い聞かせる。

 

そのとき、そういえばと思い、綿多は舞維の肩を見た。

 

いつもキラキラと翅のビーズを光らせるアゲエがいない。

 

いつからだろう。

 

戻ってきた後からいなかったような。

 

綿多は話しかけようとしたが

 

「ここ……

わたしの…………お家」

 

憑が振り返り、目の前を指さした。

 

 

「かわいい!」

 

舞維は目をキラキラ輝かせた。

 

白を基調としたモダンな2階建ての一軒家がそこにあった。

 

新築に引っ越して来たのだろうか、建てられてからそこまで年月も経ってない様に見える。

 

憑は小さく頷くと家のドアを開けた。

 

「ママ……ただいま!」

 

憑は電話をしてた時のような元気な声を出した。

 

靴を玄関に脱ぎ捨て、一目散にリビングへと駆けていく。

 

「……行っちゃったー……」

 

取り残された綿多と舞維は静かに閉まるドアと憑の嬉しそうな声を遠くに外で置いてけぼり。

 

舞維はスマホを構えて憑の家の写真を撮ろうとしている。

 

「(プライバシー……)

舞維ちゃーん、アゲエはー?」

 

綿多は気を逸らすかのようにさっき訊ききたかったことを訊いた。

 

「アゲエ?

ランドセルの中にいるよ。ちょっと疲れてるみたいで」

 

舞維は撮影しながら応えた。

 

「……疲れてるなら休ませた方が良かったんじゃないー?

遊ぶの明日とかにするー?」

 

綿多は呆れながらも不思議に思う。

 

アクマ相撲に出場させないくらい、いつも大事にしているアゲエが体調悪いのに、憑の家に訪問する提案をした。

 

普段ならすぐに帰って休ませているイメージがあるのにと、綿多は怪しく思う。

 

「え、やだ!!

今日がよかったの!!

すぐ遊びたいの!!」

 

舞維はやっとスマホから綿多に目線を移し、だだをこねるように叫んだ。

 

 

そのとき

 

家のドアが開き、中から憑が顔を見せる。

 

「綿多ちゃん……城都さん……

…………入っていいよ……」

 

憑は小さくそう言うと

 

「やった! お邪魔します!!」

 

舞維は飛び込むように家に入り、靴を脱ぎ捨てる。

 

「……お邪魔しまーす」

 

なにか引っかかるものを感じながら少し遅れて綿多も入り、自分を含めた3人分の靴をそろえた。

 

 

 

 

玄関から少し進むと廊下になり、正面には灯りが付いた部屋があり、その手前の左右にはそれぞれ2つずつドアが並んでいる。

 

「ねえねえ!

憑ちゃん! 憑ちゃんのお部屋どこ!?」

 

舞維は興奮した様子で憑に尋ね

 

「……こっち」

 

と憑は右側を指さし案内しようとしたが

 

「舞維ちゃーん。

ストープ。

…………先に手を洗わせてもらおー」

 

綿多は舞維の首根っこを掴みながら、呆れた顔でそう言い、憑に目線を送った。

 

 

「洗面台……こっち」

 

憑は小さく頷くと、2人を廊下の左側にある洗面台に案内した。

 

 

 

先に綿多が石鹸を使って丁寧に手を洗う。

 

 

その間、憑は正面の部屋に向かって行った。

 

小さく元気に綿多ちゃんや舞維ちゃんがなんだかんだと呼ぶ声が聞こえる。

 

 

「ふわっち几帳面だね」

 

「舞維ちゃんが大雑把」

 

ソワソワしている舞維の静かな圧に、綿多はムッとしながら返したが、今、玄関前での引っ掛かりと舞維の自分への風当たりの強さの正体が分かった。

 

 

(憑ちゃん、さっき!!

私は名前呼びだけど、舞維ちゃんは苗字呼びだった!!?)

 

綿多は顔を上げ、ちらりと舞維を見る。

 

確かに少し自分への視線が痛い。

 

綿多は急いで石鹸を洗い流し、ポケットからハンカチを出して手を拭き、舞維に場所を譲る。

 

(憑ちゃんだめだよー!

舞維ちゃん、憑ちゃんガチ勢なんだからー!!

え、いつ!? いつから?

いつから呼んじゃったの!?

昼休み!? 私いないときー!?

…………うー……なんとかしないと、舞維ちゃんが面倒くさいままになるー……………)

 

綿多は思考をフル稼働させた。

 

(……あ)

 

そして、さっき聞こえた声を思い出した。

 

(憑ちゃん、確かにあの時

綿多ちゃんと……舞維ちゃんって!!

“舞維ちゃん”っておかーさんに呼んでた!!)

 

 

 

 

リビングでは憑の母親がテーブルのパソコンに向かって難しい顔をしている。

 

そんな中で、憑は背もたれ越しに後からハグをした。

 

「ママ……!

どうしよう……綿多ちゃんと舞維ちゃん来ちゃった……!

来ちゃった!!」

 

不安と嬉しさで居ても立っても居られない。

 

在宅ワークでお仕事中だと分かっていながらも、憑はくっついて母親を揺らした。

 

「おやつボックスからおやつ好きに持ってっていいでしょ?

あ! お部屋片付けてくれた?

デビルルは? まだ寝てる?」

 

矢継ぎ早の質問に、母親は思わず笑ってしまい、作業の手を止めて憑に顔を向ける。

 

「そんなに焦らないで。

休憩中に片付けはしといたから。

デビルルはまだ机の上で寝てたよ。

おやつは良いけど、食べ過ぎたからってまた空っぽを空気入れて戻すごまかしは

 

「ママいじわるう!

お友達来てるから……恥ずかしいからそれは言わないで……!!」

 

「はいはい。

後で顔出してもいい?」

 

「うん!!

綿多ちゃんも舞維ちゃんもママに挨拶したいって言ってた!!」

 

「あら。

またいいお友達ができてよかったわね」

 

「うん!!

それじゃ! またお部屋でね!!

バイバイ!」

 

憑は母親のほっぺにそっとキスすると、元気にリビングを出ていった。

 

 

 

 

 

舞維はちゃっちゃと手を洗い、ズボンで拭いた。

 

綿多はすかさずその腕を両手で掴むと

 

「舞維ちゃーん!

今ー、憑ちゃーん、私たちを名前で呼んでたねー」

 

と、わざと明るく報告した。

 

「……え?

いつ!?」

 

舞維も綿多の腕を握り返し、目をキラキラ輝かせてブンブンと腕を振る。

 

「憑ちゃんのおかーさんに言ってたよー!

憑ちゃーん、家だと私たちのこと下の名前で呼んでくれてるんだねー!!」

 

「うはあ!!

すごい!! ふわっち耳良いね!!

あ! じゃあ、あとで頼んでみよっかなあ!!」

 

舞維の顔がとびきりの笑顔に変わる。

 

小刻みに飛び跳ね、軽くステップを踏んで嬉しそうだ。

 

(…………なんとかなったー……)

 

綿多も合わせて笑顔になりながらも、安堵していた。

 

 

 

 

「あ……

綿多ちゃん……城都さん……

おまたせ…………」

 

憑が洗面所に顔を出す。

 

「あ! 憑ちゃん!!」

 

舞維は憑の顔を見るなり、綿多を腕を振り払うと、憑のアホ毛を両手で掴んだ。

 

「ねえ憑ちゃん!

ふわっちのこと綿多ちゃんって呼んだよね!

ねえねえ! あたしも舞維ちゃんって呼ばないのー!?」

 

「……え…………えっと……あ……その…………」

 

憑は困った顔で綿多に視線を送る。

 

綿多も困った顔をし、眉を顰め目を逸らしてしまう。

 

(ごめん……憑ちゃーん……こればかりはー)

 

「え……えっと……ま…………

ま…………ちゃ…………」

 

憑はなんとか呼ぼうとするものの、段々恥ずかしくなり、顔が赤くなる。

 

機会を逃せば逃すほど、声が出なくなり

 

「…………お部屋……いこ……」

 

と諦めてしまった。

 

 

 

憑は申し訳なさで顔を合わせられず、下を向きながら自室へ向かう。

 

 

舞維は頬を膨らませ、綿多を横目で見た。

 

「なんでふわっちはいいのにあたしはだめなの?」

 

「(私に聞かれてもー……)

タ……タイミングがあるんじゃないー?

まあまあ焦らずー」

 

「勝者の余裕だあ」

 

「…………」

 

綿多は小さくため息をつくと、舞維と並んで付いていった。

 

 

 

「ここ……

わたしの部屋……」

 

憑がドアを開けて、2人を通す。

 

「わあ!!

憑ちゃんのお部屋だあ!!」

 

舞維はまた目をキラキラ輝かせる。

 

夜空のような紺色のカーテンが窓のそばに垂れている。

 

部屋の真ん中には小さな丸テーブルがあり、テントウムシの模様があるペン立てや、個包装の袋に入った小さなおやつが乗っている。

 

左を向くとベッドがあり、テントウムシのぬいぐるみが寝ている。

 

右を向くと勉強机があり、小さな籠に綿のクッションを引いた小さなベッドでデビルルがまあるい姿で蹲っていた。

 

「かわいい!!

憑ちゃんのお部屋綺麗でかわいいね!!」

 

舞維はランドセルを床に置き、あっちこっちを見回している。

 

「い……いつもは……もっと汚い…………」

 

憑は換気のために窓を開けながら言う。

 

「えー」

 

舞維は笑いながらも綿多の方をチラッと見る。

 

「いつもの憑ちゃんのお部屋は、あたしのお部屋とどっちが汚い?」

 

「……え…………えっと……」

 

「舞維ちゃーん。

そこはプライバシーだよー」

 

「ええ……だめかあ」

 

憑は舞維の部屋──普段の自分よりもひどい散らかり様を思い出したが、正直に答えるか迷った。

 

すぐに綿多が助け舟を出し、舞維は引き下がる。

 

 

舞維は苦笑しながらも、視線は自然に机の方に向いた。

 

「デビルルっち、本当に寝てるね」

 

「……うん。

今日、ずっと……」

 

「昨日大変だったもんねー。

本当に昨日は2人ともありがとー」

 

「…………綿多ちゃんが……頑張ってたから……わたしも……がんばれた……」

 

憑は綿多のお礼に、下を向いてモジモジし照れくさそうに返した。

 

「憑ちゃんが頑張ってたからだよー。

それにー、舞維ちゃんも…………

……?

舞維ちゃーん?」

 

2人が話してる間に、舞維は静かに机に向かっていた。

 

じっとデビルルを見つめている。

 

「……起きないよ…………」

 

憑は小さな声で教えてあげる。

 

それでも舞維は見続けた。

 

「…………城都……さん…………?」

 

その目は見続けているのに、何も見ていないかのよう。

 

憑はなぜか身震いがした。

 

なぜ震えるのか分からない。

 

だが、この震えるは似ていた。

 

瑛琉を見た時と。

 

 

「……あれ?」

 

舞維の気の抜けた声と同時に目に光が戻った。

 

「わあ!!

憑ちゃんのカーテンかわいい!!

これなに……!? 夜空!! かわいい!!

テンションアゲアゲ!!」

 

憑と綿多の2人は舞維のテンションの落差に目を丸くして呆然としていた。

 

「ん?

憑ちゃん、ふわっちどうしたの?

ふはあ!! でもやっと憑ちゃんのお部屋にお邪魔できたあ!!

テンションアゲッッッッッアゲエエエエエ!!!!」

 

舞維は飛び跳ねいつになく大きな声で叫んだ。

 

憑と綿多はあまりの声量に耳を塞ぐ。

 

「モコモコー……!!」

 

綿多はさすがに看過できず、モコモコに呼びかけると

 

モコモコは特大のもふもふ毛玉になり舞維を包み込んだ。

 

「……んあ……しあわせ……

テンション……ごくらく」

 

舞維はモコモコの毛玉に沈み、ようやく静まった。

 

「な……なんだー……このテンションバケモノはー」

 

綿多はある種の畏敬の念を抱きながら呟いた。

 

 

 

憑はクッション代わりの枕を、綿多に勧め丸テーブルを囲って2人で座った。

 

舞維は一旦、モコモコになんとかしてもらっている。

 

「ありがとねー、憑ちゃーん。

私も入れてくれてー」

 

綿多はようやく落ち着いた事に安堵しつつ、憑に微笑みかけた。

 

憑は赤面し俯き

 

「綿多ちゃんとなら……大丈夫って…………思ったから……」

 

と答えながら、個包装のクッキーの袋を手に取った。

 

「綿多ちゃんも…………

食べて……」

 

「うんー。

じゃー遠慮なくー」

 

綿多は優しくそう言うと、憑と同じクッキーを手に取った。

 

1枚手に取り、口に含んだ。

 

 

憑はチラッと綿多を見た。

 

ずっとずっと友達がいなくて、こうやって自分の部屋に招いて何かするなんて思ってもいなかった。

 

それが、今こうしてできている。

 

きっかけは綿多のアクマ暴走だから、あまり良い思い出ではないけれど

 

今はこうして、一緒の空間で一緒のおやつを食べられている。

 

なんて幸せなのだろう。

 

 

綿多も憑を見た。

 

そして、チラッと舞維を見てまた視線を戻すと

 

「憑ちゃん。

舞維ちゃんのことは好き?」

 

「……え」

 

憑は突然の質問に驚く。

 

アクマ合体のことを褒めてくれて、色々気にしてくれている。

 

好き以外なかった。

 

「……大丈夫だよー。

今多分聞こえてないよー」

 

綿多は微笑みながら憑の回答を待った。

 

「え……えっと…………」

 

憑はもう答えは決まってたが、本人のいる空間ではなかなか恥ずかしくて言いづらい。

 

でも、さっきのように言い淀みすぎて言えなくなるよりかと思い

 

「好き」

 

と応えた。

 

「…………でも」

 

と続ける。

 

「好き……なのに…………。

……でも…………城都さん……明るくてキラキラしてて……かわいくて……かっこよくて……

…………もっと……仲良くなりたい……でも……

…………その……なんていうか…………」

 

「……緊張しちゃうー?」

 

綿多の言葉に憑は頷いた。

 

「さっきも……舞維ちゃんって呼びたかったのに……呼べなかった…………

…………城都さん……わたしのこと嫌いになっちゃうかな…………」

 

憑は下を向いてしまう。

 

綿多は優しく微笑むとそっと憑の頭に手を置いた。

 

「舞維ちゃんはやわじゃないよー

憑ちゃんは、憑ちゃんのペースがあるから慌てないでー」

 

ポンポンとして最後に優しく撫でた。

 

 

だが、憑の表情は晴れない。

 

「でも……城都さん…………

変だった…………

ちょっと……こわかった……」

 

「(憑ちゃんも感じてたのかー)

確かにー……なんか今日…………変だよねー」

 

舞維は常に元気で予想外の行動ばかりとるじゃじゃ馬なことは周知の事実。

 

だが、今日の行動は舞維らしくなかった。

 

だからといって舞維はなにかトラブルがあってもケロッと解決しているため

 

「まー……さっきあんなに喜んでたからー

舞維ちゃーんが、憑ちゃーんのこと好きなのは変わらないよー」

 

綿多はあまり深く考えずに気休めでそう結論付けることにした。

 

憑も不安にならないよう頷いた。

 

 

 

「昨日から大変だねー

憑ちゃん」

 

綿多はクッキーを食べ終わり、袋を小さく結ぶ。

 

憑は黙って小さく頷くだけだった。

 

綿多は心配そうな顔をする。

 

こんなに小さく縮こまってはいるけれど、色んな試練に耐えて立ち向かっている。

 

綿多は愛おしく思う反面、潰れて壊れないか不安だった。

 

「からすまきらりちゃんのことー。

思い出せないことがあることー。

円寺さんに付け狙われてることー。

どれか1つでも大変だと思うよー」

 

綿多は憑の試練をあえて口に出すことで、ぐちゃぐちゃになってそうな憑の頭を整理しようとした。

 

憑はただ静かに頷くだけ。

 

「…………しんどくなったらー、一旦わすれてもー

 

縮こまる憑を見ていられず、綿多は気休めの言葉をかけようとしたが

 

 

「もし……」

 

憑の懸念点は別のところにあった。

 

 

昼休み──瑛琉のアクマ合体を見た憑は、今までの自分とデビルルのアクマ合体を思い出していた。

 

しっかり記憶があるのはモコモコとスプリーターのアクマ暴走のとき。

 

その2つとも、デビルルの状態は万全ではなかった。

 

もし、デビルルが完全に元気なときにアクマ合体したら、自分もあんなバケモノのような破壊力を持ってしまうのだろうか。

 

「もし…………

わたしが…………わたしじゃなくなっても……」

 

悪魔のような自分を好きでい続けてくれるのだろうか

 

「綿多ちゃんは、わたしの友達でいてくれる?」

 

憑はか細く小さな声で綿多に尋ねた。

 

 

 

綿多は驚く。

 

そして微笑む。

 

(やっぱりー

憑ちゃんは強いなー)

 

綿多は憑が試練そのものでなく、試練を超えた先を見据えているのだと思った。

 

(抜けた記憶が戻ったとしてもー

憑ちゃんは憑ちゃんだよー)

 

綿多はそう心の中で呟くと

 

憑をそっと抱き締めた。

 

「私はずっと憑ちゃんの味方だよ」

 

憑も綿多の温かみにドギマギしながら、腕を綿多の背中に回そうとしたとき

 

 

憑のドアからノックが3回聞こえた。

 

「わあああ!!!」

 

憑は慌てた様子で急いで綿多の抱擁からするりと抜け出す。

 

「モコモコー」

 

綿多もモコモコを呼び戻し、とろけてる舞維を解放した。

 

 

「こんにちは

いらっしゃい」

 

ドアが開き、憑の母親が顔を出す。

 

童顔で可愛らしい。

 

憑もこういう風に、かわいいまま成長するんだろうなと綿多は勝手に思った。

 

「お邪魔してます……

はじめまして……」

 

綿多は正座し緊張した様子。

 

「わああ!

憑ちゃんママかわいい!!

憑ちゃんも可愛いはずだよ!

くうう!! テンションアゲアゲ!!」

 

逆に舞維は憑の母親を見て目をキラキラ輝かせて興奮する。

 

「あらあら。

元気だね」

 

憑の母親は楽しそうに微笑んだ。

 

「…………すみません」

 

綿多は赤面しながら謝る。

 

「いいのいいの。

むしろ褒められて嬉しいわ。

綿多ちゃんは良い子だね」

 

綿多はまだ自己紹介をしてないのに、名前を呼ばれたことに嬉しくなりながらも、照れて小さく頷くしかできなかった。

 

「じゃあ、つき隊員。お願いがあります。

リビングからジュース持ってきてくれる?

みんな分のコップで注いでからね。」

 

「うん!!」

 

「あ、お盆の場所わかる?」

 

「えっ……と…………

探してみる!!」

 

憑は母親からのお願いに元気に返事すると、飛ぶようにリビングへ向かって行った。

 

「やったー!!

ジュース! テンションアゲアゲ!!」

 

舞維は喜び小刻みに跳ねる。

 

「舞維ちゃんは元気いっぱい。

つきにたくさん分けてあげてね」

 

「はーい!!」

 

 

「……あ、私も……手伝います」

 

綿多は緊張した様子でおずおずと憑の手伝いを名乗り出たが

 

「ううん」

 

と憑の母親はドアをゆっくり閉めた。

 

憑の母親が真剣な顔付きになった。

 

流石の舞維もどこか緊張し、体の動きが止まる。

 

「綿多ちゃん。舞維ちゃん。

2人とも、つきと仲良くしてくれてありがとう」

 

「憑ちゃんかわいいもん!」

 

「…………憑ちゃんには助けてもらったことがたくさんあって……」

 

舞維はニッと笑い、綿多はモジモジしながら言う。

 

憑の母親は安心したように微笑むと、少し遠い目をした。

 

「つきは覚えてないけど、前に1人友達がいたの」

 

「あ! 知ってる!」

 

舞維が答えようとしたところを、綿多が軽く肘で突き、声量を下げるようジェスチャーを送る。

 

舞維は頷くと

 

「きらりちゃんって子?」

 

とボリュームを抑え気味で言った。

 

「そう。

昔は仲良くしてたのに……

きらりちゃんが事故をした後から、忘れて少し様子もおかしくなって……心配してたの」

 

綿多と舞維は顔を見合わせる。

 

憑ときらりが友達だったのは真実だった。

 

これでやっと、憑が知りたいことに一歩近付けると2人は思ったが

 

「でも2人が友達になってから学校から帰って楽しそうに話してくれるのよ。

これからも仲良くしてね」

 

憑の母親の安心している様のに不安そうな顔を見ると、憑の真相を解き明かすのが本当に良いことなのか不安になった。

 

 

「憑ちゃんママは」

 

舞維は憑の本当の気持ちを知ってるかきこうとしたが

 

 

ドン! とぶつかる音がドアからした。

 

「ママ開けてえ!!」

 

元気な憑の声が聞こえる。

 

「はいはい」

 

憑の母親は優しくドアを開けると、憑と入れ替わるように部屋から出た。

 

「じゃあね

ゆっくりしていって」

 

「えー

もう行っちゃうの?」

 

憑はテーブルにジュースを置くと、母親に抱き着く。

 

「もう戻らないと。

あともう一息だから!」

 

「はーい……

がんばってね! ママ!」

 

母親はいそいそとリビングに戻っていき

 

憑は手を振って見送る。

 

 

 

「……おまたせ。

オレンジジュース……」

 

母親がいなくなると憑はオドオドした様子に戻り、2人にジュースを勧める。

 

「わーい!

ジュースだあ!」

 

舞維はコップを手に取る。

 

プラスチックの側面に蝶々の絵がプリントされている。

 

舞維は一気に半分くらい飲んだ。

 

「おいしいー!

テンションアゲアゲ!!

憑ちゃんがいれてくれたからかな!」

 

憑は気恥かしそうに下を向いて照れる。

 

綿多もコップを手に取る。

 

こっちはウサギの絵。

 

(私たちのこと考えて買ってもらったのかなー)

 

綿多はモコモコと顔を合わせニヤニヤしていた。

 

 

「あと……トランプ…………も

…………やる?」

 

憑はポケットからトランプを取り出す。

 

「おー!

いいねえ!!

やろうやろう!!」

 

舞維はコップをテーブルに置き、憑からトランプを受け取った。

 

「なにやろっか!?

ババ抜き? しちならべ?

しんけいすいじゃくとか!?」

 

「えっ……と。

みんな……やりたい…………」

 

「うはあ!

いいねえ!! いいねえ!!

じゃあババ抜きからやろ!!」

 

「……うん」

 

舞維はトランプをケースから出して、シャッフルする。

 

(憑ちゃーん楽しそうー。

舞維ちゃーんもなんだかんだ戻ったみたいでよかったー)

 

綿多は2人の楽しそうな顔を見て、ジュースを飲みながら嬉しく思っていた。

 

 

 

そのとき

 

「ケッ!?」

 

机の上のデビルルが急に目覚め

 

飛び上がると、人間態になり窓のほうを向いて警戒する。

 

「おい!

ヘナチョコ!! なんかヤバいのが

 

デビルルは横目で後ろを見ながら叫ぶが

 

「あ……起きた」

 

「おそよー。

寝ぼけてるー?」

 

「おはよう!

デビルルっち!

今日もバイブスアゲアゲだね!」

 

呑気な顔で寛ぐ2人を二度見し、思わず振り返った。

 

「ケッ!?

クソガキと……舞維っち!?

なんでおめえらがここにいるんだよ!?」

 

「いちゃ悪いー?」

 

「憑ちゃんがお家来ていいよっていうから!

あ! いまからババ抜きするけどデビルルも

 

舞維はトランプをデビルルにも配ろうとした。

 

そのとき

 

「初日からここまでの成果を上げるとはなんと好都合」

 

窓の方から声がしたと思うと

 

まあるい姿が外から飛び込んで、丸テーブルの真ん中に着地。

 

衝撃でコップが倒れて、ジュースがこぼれてしまう。

 

「わあ……!」

「なに…?」 「え……」

 

3人は驚きながら侵入者の姿を見ようとしたとき

 

まあるい姿は光り輝くと、人型に変わった。

 

神々しい光を放ちながら、テーブルの上に屹立している。

 

「……あ」

 

憑は思わず息を呑む。

 

瑛琉のアクマのてんしIIだ。

 

綿多は警戒し、すぐに憑の側に寄る。

 

 

「久しぶりですわね。

デビルII……いえ、失礼。

今はデビルルなんてお名前で?」

 

てんしIIはデビルルを見下ろす。

 

デビルルの目が泳ぐ。

 

「ケッ!

ヘナチョコ!

俺様が気持ちよく寝てる間に色々あったようだな!!」

 

デビルルは憑を見て悪態をついた。

 

憑もデビルルに顔を合わせる。

 

デビルルの顔は焦りと苛立ちでいつもの余裕そうな笑みがない。

 

「もしもーし!

そこのアクマさーん!

突然押しよって人の部屋のテーブルに乗るのはどうなんですかー?」

 

綿多は状況が読み込めないものの、相手のペースに飲み込まれないために、指摘をした。

 

てんしIIは冷酷な眼差しを綿多に向け

 

静かに手を翳した。

 

「……まず!?

ヘナチョコ!! 体貸せ!!」

 

「……え?」

 

デビルルはてんしIIの動きに身震いし、憑が答える前に憑の体に取り憑き

 

憑を動かして綿多を抱えてベッドまでダイブした。

 

その瞬間、てんしIIから羽の形をしたエネルギーの刃が飛び、床に突き刺さった。

 

消滅し純白の羽が床に舞い落ちる。

 

 

「うっ……

なに……

頭……が…………」

 

見ているだけしかできなかった舞維。

 

急に頭の中をかき混ぜられるかのような熱さを覚え、頭を抑えて動けなくなる。

 

「ケッ……

ここじゃ部が悪い!」

 

デビルルはまだ憑の体のままそう呟くと、テントウムシのぬいぐるみをてんしIIに投げ付けた。

 

てんしIIは無言で払い除け、ぬいぐるみは破れて綿が飛び散る。

 

すぐに腕で振り払うが、足元が何かが素早く通る気配を感じ振り向くが

 

「逃げ足は速いこと」

 

固まる舞維の姿もなく、ベッドの方を見ても人影はない。

 

ぬいぐるみをおとりに逃げ出したのだ。

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