正午になり、公園内のスピーカーからファンファーレが鳴り響いた。
みんな公園の中心部に集まり、主催者と町長と商店街の代表者の長ったらしい話を、退屈そうに聞いた。
開会式が終わると、トーナメント表が貼り出され、1回戦の対戦者はすぐに呼ばれた。
「憑ちゃーーーーん!!!
がんばれーー!!!!」
1試合目の1人に選ばれたのは憑だった。
舞維は“つきちゃん♡”と書かれた団扇を両手に、観覧席から応援する。
「いつの間にー」
隣で応援する綿多は呆れ半分興味半分で訊いた。
両手は憑から預かった本を抱えている。
「そこの売店ですぐに作ってもらった!!」
舞維は興奮した様子でそう言うと
「L.O.V.E!!
憑ちゃーーーん!!!」
と団扇を振り回して声を張り上げて応援した。
(あとでモコモコ用に作ってもらうかなー)
綿多はモコモコを撫でながらそう思った。
半径50cmくらいの土俵の前に立つ憑は震えていた。
舞維の応援の声も音としては聞こえてくるだけで、緊張でなにも聞き取れなかった。
「ケケケ!!
1番手とは運営も分かってるな!!
俺様の勇姿でこの大会の幕開けだ!!」
逆にデビルルはまあるい姿で憑の肩に乗り、自信満々。
舞維の連行から戻ってきた後は力が抜けているかのようにシワシワになっていたのが嘘のようだ。
土俵の向こう側に、対戦相手がやってきた。
その姿に、憑は怯えてしまう。
太った体型ながらもそれを十分に支えて動かす筋肉。
中学生かと思うくらいの高い身長。
名は須藤充(すとう みちる)。
昨年のアクマ相撲の優勝者であり、どんな食べ物でもまるっと平らげる様子から“ストマック”と呼ばれている。
アクマ相撲は主がなにかするわけてまはないのだが、威圧感があり、憑は萎縮してしまう。
「ハハハ!!
オラはこの日のためにおやつを1年我慢してきたド!!
こんなガキンチョに負けるわけないド!!」
充は憑の怯える様子を見ると勝ち誇ったかのように宣言した。
(去年もおやつ1年分だったのに、それどうしたんだろー)
綿多は心の中で呟いた。
「こらー!!!
憑ちゃんを悪くいうなあああ!!!!
やっちまえ!! デビルルっち!!!
あんな奴!! 捻り潰せえ!!!」
舞維は憑が甘く見られていることに憤り、立ち上がって叫び喚いた。
「じょ……城都さん………」
憑は舞維の過剰な応援に恥ずかしくなり、さらに萎縮してしまう。
「ケッ!」
デビルルはイタズラに笑うと、憑に頭突きした。
「何ビビってんだよ!!
俺様が華やかに決めてやるから、白けた面見せんじゃねえぞ!!」
「う……うん」
憑は強引だと思いながらも、いつものイタズラに今はなんだか気持ちが落ち着く気がした。
町長さんが行司装束と軍配を持って現れた。
深い皺に長く白いお髭がよく似合う毎年の名物だ。
(本格的だ)
憑はその姿に驚き、また自分のペースが乱れそうになったが、デビルルの笑い声でなんとか調子を保っている。
「ひが〜〜し〜〜〜
出門憑、デビルル!!」
町長の掛け声と共に、大きな拍手が鳴り響く。
憑は緊張しながら前に歩き、デビルルは憑の肩から土俵へ飛び降りた。
「がんばれーーーー!!!!!
憑ちゃーーーん!!!!!!
舞維もヒートアップし、応援の声量がさらに上る。
(黙らせた方がいいかなー……)
ただ、周りの人が耳を塞ぐくらいやかましいため、綿多はいつでも包んで黙らせられるよう、モコモコのスタンバイをした。
「に〜〜し〜〜
須藤充、BIG.E!!」
優勝候補の充にはファンが多いのか、憑よりもさらに大きな拍手が鳴り響く。
充は余裕綽々で前に歩き、肩からはみんなのアクマより一回り大きい体と、大きな鼻と耳を持った、ゾウのアクマ──BIG.E(ビッグ.イー)がドシンと土俵に立った。
「ケッ!
図体がデカいだけじゃ敵わないぜ!!」
デビルルは冷や汗をかきながらも、自分を鼓舞するかのように挑発した。
「見合って見合って
はっけよーい」
デビルルとBIG.Eは互いに睨み合う。
充は余裕そうに腕を組む。
憑は手を組んで、デビルルの勝利を願う。
「残った!!」
と町長の掛け声がしたと同時に
「ぐえ!!」
巨体からは想像のつかないほどの速度で、BIG.Eはデビルルに突進。
「ぎゃあああああああああ!!!!」
「「デビルルーーーー!!」っち!!」
デビルルは土俵はおろか、公園の外まで吹き飛ばされ、空の彼方に星となり消えて行った。
舞維と綿多は衝撃と心配で行方を追いながら、叫んだ。
勝利したBIG.Eは物足りないと鼻をフンと鳴らし、充の下へ戻る。
「ハハハ!
今年の優勝も頂きだド!!」
充は高笑いすると、BIG.Eを拾い上げ満足そうに去っていった。
憑はあまりの出来事に唖然とするしかなく、立ち尽くすだけだった。
勇気を出し、大会に初出場したのに、大勢の前であまりにもあっけなく敗北し、悔しさと恥ずかしさが込み上げ、今にも泣きそうになっている。
「アゲエ! デビルルをお願い!!
ふわっち! 本の準備!!」
舞維はアゲエをデビルルが飛んだ方向へ飛び立たせ、綿多に指示をすると、観客席から飛び出し憑の下へ走った。
「憑ちゃんよくがんばった!!
えらいよすごいがんばった!!
ね! あっちで本読もっか!! 楽しいよ!!」
舞維はしゃがんで俯く憑と目線を合わせ、頭を撫でながら宥め、背中を軽く押しながら、綿多の下へ誘導する。
憑は鼻水を啜り嗚咽を漏らしながら、ゆっくり頷き舞維と共に観客席に戻る。
「憑ちゃーん……読むー?」
綿多は憑が朝買った本を返しながら心配そうに訊いた。
憑は小さく頷くと、公園の隅の木の陰に移動し、小さく体育座りし、本を開いて、読み始めた。
「大丈夫かなー……?」
綿多は居た堪れない姿に心配し、モコモコと顔を見合わせる。
舞維は綿多の肩に力強く手を置き。
「ふわっち……
アイツと当たったら、容赦せずぶっ倒して!」
憎悪に満ちた表情で綿多に憑の敵討ちを頼んだ。
「う……うん
(ガチ勢怖)」
綿多は舞維の表情に若干引きつつ頷いた。
試合がいくつか進み、綿多、一郎、双次は難なく1勝。
綿多は突進に競り勝ち、一郎は角で振り回し、双次は顎で相手を押し倒した。
綿多の2回戦の相手は
「ひが〜〜し〜〜
持上一郎、イッポン!!」
一郎だった。
一郎は本番前のデモンストレーション同様、1回戦の相手をイッポンの大きなツノで振り回し、大迫力の勝利を収めた。
そのため、一郎を応援するファンも多く拍手や声援が大きく飛び交う。
「に〜〜し〜〜
不破原綿多、モコモコ!!」
綿多もモコモコのかわいらしさと、突進の力強さのギャップで人気を博し、さらに盛り上がりを見せる。
2人のアクマは土俵に立つ。
イッポンのツノとモコモコの眼光がキラリと光る。
「よろしく頼むな!
不破原!!」
「こちらこそー」
一郎と綿多も挨拶を送り、互いにやる気満々だ。
「見合って見合って
はっけよーい……残った!!」
「いけ!!」
町長の掛け声と同時に、イッポンはモコモコに自慢の角を向けて突進。
対し、モコモコは動かない。
「……?
なんだ? 棄権か?
やれ! イッポン!!」
一郎は不思議に思いながらも、ペースを乱さないために、イッポンに指示を出す。
イッポンの角に掬い上げられ、脱出できたものはいない。
正面から近付ければ、それはもうイッポンの勝ちも同然だった。
動かないモコモコの懐に潜り込み、イッポンはモコモコを掬い上げようとしたが
もふっ
とモコモコのもふもふの毛並みをなぞっただけで、イッポンの角は空を切っただけだった。
力任せのイッポンはバランスを崩し、今にも後ろに倒れそうだ。
「なにっ…!?」
一郎は驚き判断が遅れる。
「いけー!
モコモコー!!」
その隙を突き、モコモコはイッポンに突進。
イッポンはモコモコに押し倒され、後ろにひっくり返った。
綿多とモコモコの勝ちだ。
「イッポン!!?」
一郎は急いでイッポンを拾い上げた。
イッポンは残念そうに、角を垂らしている。
「お前が落ち込むことはない。
不破原の策略を見抜けなかった俺の責任だ」
一郎はイッポンを優しく撫でると、肩に乗せた。
「やったねー、モコモコ」
綿多はモコモコを肩に乗せ、優しく撫でる。
モコモコは誇らしげな顔だ。
「負けたよ。不破原。
流石、人気ナンバーワンなだけある」
一郎は鼻をこすりながら称賛の言葉を送った。
「でしょー」
綿多は誇らしい顔でモコモコを見詰めた。
一郎は爽やかに笑うと、帽子を脱ぎ綿多に握手を求めた。
綿多も微笑みながら握手を返した。
「俺の分も頑張れよ」
「ありがとー。
がんばるー」
2人は言葉を交わすと、それぞれ背を向け観客席に戻っていく。
一郎は去り際に帽子を深く被った。
それぞれの2回戦が終わり、双次と充は圧勝。
どちらも、1回戦と同じような勝ち方であり、とくに充はその派手さから大会の注目の的だ。
3回戦
面目躍如の活躍を進める充との対戦相手は
「ひが〜〜し〜〜
不破原綿多、モコモコ!!」
綿多だった。
「がんばれーー!!
ふわっち!!!
あんなやつ!! ボッコボコのボコボコにしちまえ!!」
舞維は腕をブンブン振り回し、憑の敵討ちを願い、喚くように綿多を応援した。
隣では、なんとか体調が回復した憑が心配そうに見詰めていた。
デビルルはまだ帰ってきていない。
(出禁とかならないよねー……)
綿多は舞維のあまりの勢いに変な心配をしつつ、歩いてくる充を見詰めた。
「に〜〜し〜〜
須藤充、BIG.E!!」
「フン!!
また雑魚みたいなのが来たド!!
かわいいだけじゃ、オラのBIG.Eには勝てないド!!」
充はふわふわした見た目から、綿多を大したことのないやつだと笑い、甘く見る。
「いやー。
力だけじゃー、私のモコモコには勝てないよー」
綿多は不敵に笑い、意趣返しで言うと、モコモコを土俵に下ろした。
「ハハハ!!
オラに勝つつもりかド!?
片腹痛いド!!」
充は綿多の見た目とは違う態度に、高笑いするとBIG.Eを土俵に投げ下ろす。
「おやつ食べ過ぎなんじゃなーい?」
「だから!! オラはおやつ1年我慢してきたド!!!」
「見合って見合って!
はっけよーい……残った!」
町長の掛け声で立ち合いが始まる。
BIG.Eはいつも通り、巨体を高速移動させ突進する。
だが、それは綿多も予測済み。
モコモコには最初は避けるよう指示をしている。
モコモコは合図と共に大きく横に跳ね、BIG.Eの突進を躱した。
BIG.Eの瞬殺攻撃から逃れたのは今回が初で、観客席からは“おー”と声が上がる。
(あの体で、あんなに早く動いてるからー
避ければ止まれずに、そのまま自滅するよねー)
綿多はそう思い、BIG.Eがそのまま土俵を出るのを待った。
だが充はニヤリと笑い呟く。
「あまいド」
BIG.Eの眼光が鋭く光り、その場で向きを変え、モコモコの側面へと突進した。
「キュ…………!」
意識外からの攻撃に、モコモコは悲鳴のような鳴き声を上げ、吹き飛ばされた。
「えっ…………!?」
綿多は予想外の動きに目を丸くする。
モコモコは毛によって衝撃が吸収され、なんとか土俵ギリギリで留まった。
(あのゾウアクマ……あんなこともできるのー…?
開始前に挑発してー……心乱したと思ったのにー)
綿多はBIG.Eの身体能力の高さと、充の冷静さを改めて評価した。
「ハハハ!!
片腹痛いのはそっちだったド!!
やるド! BIG.E!!」
充は流れを持っていくために、突撃の指示を出す。
BIG.Eはグッとまあるい体に力を溜める。
(また避ける……だけ!
モコモコ!! 動きをよく見て!)
綿多は真剣な顔付きになり、心の中でモコモコにBIG.Eの動きを見るよう伝える。
今、モコモコがいるのは土俵際。
BIG.Eが動いたと同時に避ければ、止まれたとしてもそこは土俵の外のはずだ。
BIG.Eは体の力を全て解き放ち、モコモコに突進。
モコモコは上に飛び跳ね、避けようとしたが
「無駄だド」
充はまたニヤリと笑う。
BIG.Eは鼻をブレーキに使い、モコモコの目の前で止まった。
(まずい……!!)
モコモコはBIG.Eの側面への方向転換をきらい、真上に跳んでに逃げてしまった。
空中では身動きが取れず、そのままBIG.Eの目の前に落下するだけだ。
「やるド!!」
充の掛け声と同時に、BIG.Eは鼻を伸ばし、モコモコを捕まえ、振り回す。
「モコモコー!!」
乱暴に振り回され、モコモコは身動きが取れず最後には
BIG.Eにぶん投げられ、土俵の外へと投げ出されてしまった。
「モコモコー……うっ……!」
モコモコは綿多の顔目掛けて投げられていた。
綿多はなんとか両手で包むようにキャッチできたが、その勢いで後ろに倒れ、尻もちをつく。
BIG.Eはフンと鼻を鳴らし、充の元へと戻っていく。
充はBIG.Eを拾い上げると、綿多の目の前まで行き、睨むようにして見下ろした。
「オラをここまで楽しませたのはお前が初めてだド!!
けド!! おやつのことを言うのだけは許さないド!!」
そう吐き捨てると、充はドシドシと言葉を去って行った。
(………あれは……)
見送る背中に、綿多は見覚えのあるものを見た。
「あーー……惜しい……
負けちゃったねー……憑ちゃん」
観客席の舞維は残念そうに椅子に座り直し、憑に話し掛けた。
憑は本を両腕に抱きながら小さく頷いた。
綿多はお尻を手で払うと、モコモコを肩に乗せて、舞維たちの元へと戻る。
「ごめんねー……。
憑ちゃんの…敵討ちできなかったー…」
綿多はあまり深刻にし過ぎないように、いつもの口調を装いながら言った。
だが、その声や力なく垂れる手は震えていた。
モコモコは不安そうに綿多を見上げている。
「ふわっち……
よくがんばったよ!! あのストマックにあそこまで食いつけたんだもん!!」
舞維は綿多を励まそうとしたが
「ありがとー」
綿多は微笑んでそう言うと、座ってただ次の試合を眺めるだけだった。
3回戦が終わり、休憩時間になった。
「どーーしてだよーーーー!!」
双次が一郎の肩を揺らしながら、怒りと不満をぶつける。
「なんでだよー!! なんでお前が2回戦敗退なんだよーー!!」
双次は無事に3回戦を勝ち抜いたようだ。
「仕方ないだろ……不破原が意外と強いんだから」
本番で戦いたかった一郎がすでに負けてしまったことが許せないようだ。
一郎は申し訳なさそうに弁明する。
「ああ…?
お前!! 女子に負けてやがんのか!!
不破原ってあれだろ、うさ髪シュシュだろ!
なんだお前! あんな奴にやられたか!?
さてはお前、アイツのこと好きだろ!! 見惚れてやられちまったんだろ!!」
双次は一郎を指差し、ぷぷぷと笑いながら確信を付くように言った。
一郎は呆れた顔をする。
「なんでそうなる。
不破原は確かにかわいいけど、俺の好みじゃ
「あ!! お前!!
今、不破原のことかわいいって言った!!
やっぱ好きなんだー!!
やーい、やーい!
スケベ野郎!!」
一郎の否定を遮り、双次は大声でおちょくり煽りまくる。
「はいはい」
一郎はめんどくさそうな顔をして適当にあしらった。
だが、次の瞬間、さらに一郎の顔がげんなりする。
「蝶のように……!」
舞維がポーズを決め、一郎と双次の前にやってきたからだ。
だが、舞維はすぐにポーズをやめ、真剣な顔になった。
「今日はもうやったから省略……
5号…! お願いがあるの…!!」
舞維は5号──もとい、双次の手を掴み顔をじっと見詰めた。
「な……な……んだ……よ」
双次は急に顔が赤くなり、目が泳いでいる。
(お前の方がスケベ野郎だろ)
一郎は突っ込もうと思ったが、舞維の真剣な顔を見て、心の中に留めた。
「憑ちゃんもふわっちも……ストマックにやられちゃって……
アイツ性格サイテーだから!!
憑ちゃん罵倒したんだよ!!
ふわっちも転ばされたんだよ!!
絶対に許さない!!
残ってる知り合い、5号しかいなくて!!
だからお願い! ストマックをぶっ倒して!!」
舞維の切実な願いに、双次は肩透かしをくらったような顔になったが、すぐに元の表情……よりも少しカッコつけたような表情になった。
肩に乗るアギトも顎をガシガシ言わせて、闘志を燃やす。
「任せな!
オイラとアギトがあんな奴コテンパンに叩きのめしてやる!!」
「本当…!?
ありがとう!!」
舞維は双次の宣言に笑顔で喜び、双次の腕をブンブン振り回した。
「そんなこと言ってるが桑田。
お前、去年ストマックに瞬殺されてたよな」
一郎は腕を組み、冷静に言った。
「うっ」
痛いところを突かれた双次は変な声を出す。
「それにトーナメント表みると当たるのは決勝みたいだぞ。
勝ち抜けられるか?」
「決勝……?」
“決勝”と言葉を聞き、双次はニヤリと笑った。
「そうか! 決勝か!!
アイツとのリベンジマッチは決勝か!!
相応しい晴れ舞台じゃねえか!!」
双次は勝ち抜く気満々なようで、すでに決勝戦での充との戦いを妄想した。
充のBIG.Eを余裕で倒し、歓声を浴びるかっこいい自分。
そこに目をハートにして抱き着いてくる……………
「2号! オイラが勝ったら……!!」
双次は舞維を見ると、真剣な顔になった。
「か……勝ったら……!」
だが、急にモジモジし始め二の句が継げない。
「……?
勝ったら?」
舞維は首を傾げる。
「勝ったら……その勝ったら…………
オイラ………その……オイラ…………
……を、チーム.インセクトに入れてくれ…!!」
双次はモゴモゴしながらようやく捻り出すように言葉を出した。
「うん! あ、でも4号が先に入ったらね」
舞維は快諾したが、チームにはセットで入れたいらしく、一郎を引き合いに出す。
「なら! オイラが勝ったらコイツと一緒にチーム.インセクトに入る!!」
「いや、勝手に決めんなよ」
「いーね! じゃあ決定だね!
それじゃ! 頑張ってね! 5号!!」
「だから勝手に決めんなよ!!」
舞維は意志を託し、一郎のツッコミを無視して満足して去っていった。
双次は一瞬、どこかモヤモヤした表情をしたが、すぐに決意し、拳をギュッと握った。
ビー玉の音がカランカランと鳴る。
キュポンと蓋が取れ、グビグビと喉を鳴らす。
「ぷはっ!
炭酸は気持ちいいねー! モコモコ」
勝負の熱気で盛り上がる公園から少し離れたところで、綿多は売店で買ったサイダーを飲んでいた。
モコモコは不安そうな顔で綿多を見上げている。
「なにー?
負けたこと気にしてるー?」
綿多は微笑みながらモコモコを指で突っつくが、すぐ真顔になった。
「なんてことはないかー。
モコモコも気になるよねー。
…………憑ちゃんに言ったほうがいいかなー」
綿多は土俵を遠くに見て呟いた。
充が自分を見下ろし怒りを向けたときに見えた黒いモヤを思い出しながら。
「不破原さん……」
そう思ってると、憑本人の方からオドオドした様子で綿多に寄ってきた。
「……あれー?
憑ちゃーん、どったのー?」
綿多はちょうどいいのか悪いのかのタイミングに少し驚きつつ、憑を怯えさせないよう平静を装う。
憑は首を横に振りただ近寄るだけ。
綿多はふと、憑の肩を見た。
そこには、デビルルがいない。
吹き飛ばされてから、まだ戻ってきていないのだ。
舞維も綿多が席を外す前に、血相変えて飛び出してしまったので、憑は1人になってしまっていたのだ。
(今はやめておくかな)
綿多はモコモコと顔を見合わせ、黒いモヤの相談はしないことにした。
「モコモコ」
綿多はモコモコに呼び掛けると、モコモコは憑の肩にジャンプした。
憑は驚きつつも、遠慮がちに指で撫でた。
綿多は微笑むと、サイダーの瓶を軽く振り、霞雲がかかった空を見上げ、ゆっくり口を開いた。
「大会って面白いよね。
いろんな人がいて……いろんな思いを持ちながらその思いをぶつけ合ってる。
それが大きくても小さくても、ぶつけたものって心にジーンと響くものだよ」
憑はいつの間にかモコモコを撫でる手を止めてその言葉を聞いていた。
「だから、みんな勝ってうれしいって負けて悔しいっていつも以上に思うんだと思う。
私も……悔しい」
綿多は憑に視線を戻し優しく微笑みかけた。
「不破原……さん」
痛々しい笑顔で語る綿多に、憑はどう反応したらいいのか分からなかった。
それでも、今自分の中に渦巻く色んなモヤモヤが、少しだけほんの少しだけ軽くなった気がした。
「心配させちゃったかなー?
私は平気だよー」
心配そうな目付きをする憑に綿多は優しく微笑みかける。
「私は、憑ちゃんに大会に出てもらってとってもうれしいよー」
綿多の言葉に、憑の顔が少し曇った。
出たところで1回戦で瞬殺されたのだ。
せっかく紹介してくれたのに自分が情けなかった。
綿多はやれやれと顔をして、モコモコに指で指示を出す。
モコモコは憑のほっぺたに頬擦りをした。
サラサラふわふわな毛ざわりはどんな状況でも気持ちよく、曇った憑の表情を少し明るくする。
「1人で自分の好きなことに真っすぐ打ち込んでる憑ちゃんも私は尊敬するし好きだよー。
でも、そんな憑ちゃんとー……“友達”と一緒の空間で一緒なことをしていのが私は嬉しかったのー。
大会前の緊張もー、大会の盛り上がりもー、試合の負けも…………舞維ちゃんの応援もー。
一緒に味わって一緒の思い出になった。
それがー、なによりも嬉しいよー」
綿多はニッと微笑む。
そこに痛々しさはない。
むしろ、開放的でとても明るく優しく温かかった。
憑の目からいつの間にか涙が溢れていた。
今までアクマ相撲に誘われたのは、アクマ暴走のときに見せたデビルルの力をもう一度見たかったからだと思った。
自分はおまけで、弱い自分には価値なんかないと。
でも、綿多の真意は違った。
憑は恥ずかしく、申し訳なく逃げ出したくなった。
でも、
それ以上に……
「………憑……ちゃん…?」
憑は綿多に抱き着いた。
「もう少し……こうしてていい……?」
憑の小さく恥ずかしそうな声に、綿多は優しく頷いた。
「いいよー」
それ以上にとってもとーっても嬉しかった。