休憩時間終了直前になり、憑と綿多はやっと舞維を見付けられた。
「舞維ちゃーーん」
綿多は舞維を呼び掛け、大きく手を振る。
「あっ…!
ふわっ
舞維は綿多の声に気付き、綿多に手を振り返そうとした瞬間、隣の憑が目に入る。
「憑ちゃーーーん!!」
舞維は憑にダイブするように抱き着き、頭をワシャワシャと撫でた。
もう片方の手には、憑が今朝買った本が握られている。
「もー! 探したよう!!
どこ行ってたの?
全然見つからないから心配してさ!
もう少しで運営の人に迷子のお知らせを
「舞維ちゃーん。
そこまでにしよー。憑ちゃん困ってるー」
綿多は撫でられて頭がクラクラしてる憑を見て、マシンガントークをする舞維を制止した。
「……?
わっ! ごめん!! 憑ちゃん!」
舞維は急いで憑から体を離し、肩を掴んで謝った。
「う……うん………
だいじょ……ぶ」
憑はふらふらしながら言った。
「と……とりあえず…!
座ろ!! あっ! あっち空いてる!!」
舞維は観客席の空席を素早く探し出し、憑の手を引いてゆっくり急いで向かう。
「憑ちゃーん……
だいじょーぶー? サイダー飲む…?」
綿多は少し酔い気味な憑に心理そうに訊く。
「炭酸……にがて……」
憑は顔を俯かせ申し訳なさそうに言った。
観客席に着いた舞維は憑を座らせ、自分も隣に座った。
「ごめんね……
あ、はいこれ。大事な物でしょ」
舞維は本を憑に両手で渡す。
憑は困惑した顔でいたが、すぐに1人で寂しかったときに本を忘れて、2人を探しに行ったことを思い出した。
「置きっぱなしにしてたから、誘拐されちゃったんじゃないかって、心配したよ。
憑ちゃんかわいいから」
舞維は心配そうな顔でそう言うと、今度は優しく頭を撫でた。
「……ごめんなさい」
憑はまた申し訳なさで顔をそらしてしまう。
舞維は微笑むと憑の手を優しく包み込んだ。
「憑ちゃんの敵討ち、5ご……双次にお願いしたからさ。
憑ちゃんも一緒に応援しよ!」
憑は手を取られ、少し恥ずかしかったが舞維の手の温かさに安心し、ゆっくり頷いた。
温かい雰囲気の2人をみながら、綿多は舞維の隣に座り、少し不安そうな顔をしていた。
(なにもなければいいけど)
憑の体調は少し回復できたが、黒いモヤのことは結局相談できずにいたのだ。
「ふわっち…?
どうしたの?」
難しい顔をする綿多に気付いた舞維は、声を掛けた。
「べつにー。
なにもないよー」
綿多はわざと微笑みそう返した。
「そう……?
ていうか、ふわっち、胸のところ濡れてるけど、大丈夫?」
「胸ー……?
(あっ…!? 憑ちゃんの……!!)」
綿多は舞維に言われて初めて、服の胸のところに憑の涙と鼻水の跡が付いているのに気付いた。
「(まずいー……憑ちゃんに抱き着かれたって言ったら、憑ちゃんガチ勢に殺されるー)
サ……サイダー、溢しちゃってー……」
綿多は苦し紛れの言い訳をした。
「あはは!
なんだあ、ふわっち意外とおっちょこちょい!」
誤魔化せたみたいであり、舞維はそう笑うと憑に視線を戻した。
(セーフ……)
綿多はほっと胸を撫で下ろした。
モコモコも安心したように一息ついた。
休憩時間が終わり、大会が再開した。
双次は顎で掴んで押し切り、充は相手を吹っ飛ばし苦戦なく勝ち進み、ついに決勝の時が来た。
観客席では憑と綿多、舞維、一郎が集まり、双次の勝利を願っている。
「ひが〜〜し〜〜
桑田双次、アギト!!」
町長の掛け声と同時に、双次はマントを手で翻し、クワガタの顎のような髪の毛を携え、華麗に土俵際へと向かう。
肩ではアギトが顎をガシガシ鳴らし闘志を燃やす。
「がんばれーー!!!
あんな奴なんかぶっ
「はいはーい。
対戦相手の悪口言わなーい」
観客席では舞維が応援しているが、ヒートアップし過ぎているため、綿多が手で口を塞いで場にそぐわない発言を防いだ。
「に〜〜し〜〜
須藤充、BIG.E!!」
充はBIG.Eを片手に乗せて、ドシドシと体を揺らし土俵際に現れる。
なぜだかその表情は不満げだった。
「ちょっと待つド!
なんで、オラが全部西側なんだド!!
オラは前回優勝者だド!! 納得いかないド!!」
充は町長に指を差し、番付に文句をつける。
「はて?」
だが、町長は何のことか分からず、首を傾げた。
「へえー、そんな意味じゃったのかー」
そして、装束の袖からスマホを取り出すと、東側が強者であることを知ると、納得し頷いた。
「知らずに行司やってたかド!?」
「適当に試合表の左右で決めてたわい。
すまんの」
驚く充に町長は軽く謝ると、土俵に向き直った。
充は呆れた顔で町長を見ると、双次に顔を向けた。
双次も充を睨むようにして見る。
「ストマック!
昨年お前に負けてから、お前を忘れたことは一度もなかった!
この雪辱……いま果たさせてもらう!!」
双次はマントを脱ぎ、投げ捨てながら力強く宣言する。
マントはちょうど一郎のところへと風に流され、一郎は慣れた手つきでキャッチする。
(このコントロール力はなんなんだよ)
一郎はマントを手で巻いて畳みながら、心の中で呟いた。
「その変な頭覚えてるド!
でも、どんな戦いをしたか覚えてないド!
どうせ、一瞬でやられた雑魚だド!!」
充の言葉に、双次は昨年のアクマ相撲大会を思い出す。
1回戦で充に当たり、一瞬で吹き飛ばされてしまった。
クラスでは一郎以外に負けなしだった双次にはこの上ない屈辱だった。
「…………そのときのオイラたちとは……強さも! 覚悟も! 思いも違う!!」
双次の宣言と同時に、アギトは土俵へと降り、顎をガシガシと鳴らす。
「ハハハ!!
かっこ付けド!!
オラに負けて赤っ恥をかくのがオチド!!」
充はBIG.Eを投げ下ろす。
土俵から砂煙が巻い、BIG.Eを隠してしまうが
「おやつ1年分はオラのものだド!!!」
充の宣言と共に、BIG.Eは鼻をふんとぶん回し、砂煙を払い除けた。
2人の主と2人のアクマは、互いに互いを睨み合う。
緊張と熱気がピークに高まる。
熱い闘志にみな固唾をのんで見守った。
舞維も黙って手を組んで、双次の勝利を祈る。
(すごい……これが…………大会)
憑は今まで味わったことのない雰囲気に、緊張と高揚感で胸がいっぱいだ。
「見合って見合って!!
はっけよーい」
町長の掛け声に、双次と充は睨み合いを止め、土俵に全神経を集中させた。
(見ててくれよ……オイラ…………絶対に勝つからよ!!)
双次は心の中でそう誓い、深く息を吐いた瞬間
「残った!!」
立ち合いが始まった。
BIG.Eはいつも通り、巨体を猛スピードで突進させる。
対するアギトも突進。
鋭く大きな顎を構え、捕まえにかかるが
顎は空を切り、宙を掴んだ。
(ここ1番でミスるとはおマヌケだド!!)
充は一瞬の隙を見逃さず、勝機と捉えニヤリと笑う。
それに呼応するようにBIG.Eもより前傾姿勢になった。
アギトが顎を開いた瞬間に、BIG.Eはアギトのまあるい体へ突進。
両者の突進の勢いは凄まじく、土俵からは砂煙が舞い、立ち合い中の2人の姿を隠し、観客席まで衝撃波が届いた。
「わっ…!
大丈夫…?
憑ちゃん?」
「……うん…」
体を揺らす衝撃に、舞維は憑を心配する。
憑は驚きはしたが、それ以上にその勢いに関心していた。
「ハハハ!!
こんな衝突くらったら、お前の貧弱アクマなんかひとたまりもないド!!
おやつ1年分は貰ったド!!!」
充は砂煙と衝撃波の手応えから、勝利を確信し高笑いする。
双次は静かに土俵を見て砂煙が晴れるのを待つ。
少しずつ煙が風に流され、土俵やアクマたちが見えてくると、双次は充に目を向けた。
「言っただろ」
「……?」
充は不思議そうな顔をし、土俵を見ると感心したような顔をした。
双次はそれを見てドヤ顔をする。
「昨年のオイラたちとは、なにもかも違うってな!!」
「お前も楽しませてくれるかド!!」
土俵ではアギトがBIG.Eをがっしり掴んでいた。
まあるい体の跡が土俵中央から20cmくらい続き、そこで耐え抜いていた。
「すごいすごい!!」
舞維は嬉しさと凄さに思わず立ち上がった。
「アギト、意外に強ーい」
綿多もモコモコと目を合わせながら感心している。
充はニヤリと笑う。
「だけド!!
お前はもう終わりだド!!」
そう言い放つと、BIG.Eは鼻を大きく振り上げた。
アギトは自慢の顎で、まあるい体を捕えることはできたが、鼻はフリーだった。
「アギト!」
双次はアギトに呼び掛けると、アギトは目を鋭く輝かせ、片方の顎の力を抜いた。
すると、力任せに振り上げた鼻の勢いでBIG.Eの体勢が崩れた。
「なに……ド!?」
その動きは想定外のようで充は困惑する。
「決めろ!!
アギト!!」
その隙に、アギトはもう片方の顎で薙ぎ払うようにBIG.Eを倒そうとした。
「……くっ…! 離れろド!!」
BIG.Eは体を捻るようにして、なんとかアギトの顎の力をいなし、体勢を整えるため大きく後ろに飛び退いた。
「今だ!! 攻めろ!!
アギト!!」
双次はそこが好機と捉え、アギトを突進させる。
「ちっ…!!
ふっとばせド!!」
BIG.Eは鼻を振り回しながら応戦。
アギトの顎が閉じるのと同時に、そこに鼻を合わせた。
「ああ…!
惜しい!!」
舞維は悔しそうに呟く。
(鼻痛そー)
綿多はアギトの顎に鼻を挟まれているBIG.Eに少し同情した。
BIG.Eは痛みに顔を歪ませるが、力を込め、鼻でアギトを持ち上げた。
「いいぞド!!
そのまま投げろド!!」
「離せ!
アギト!!」
アギトはBIG.Eが鼻を振り回す前に、顎を離し、投げられるのを阻止した。
だが、持ち上げられている最中に離したため、真上に大きく飛んでしまう。
「これで決めろド!!」
充は落下するアギトを目で追い、BIG.Eに指示。
BIG.Eはまあるい体にググっと力を込める。
「がんばれ!! アギト!!
構えろ!!」
アギトは双次の声援を受け、空中で体勢を立て直し、顎をBIG.Eの正面に構えた。
そして、アギトが土俵に着地した瞬間、
BIG.Eは力を解放し、アギトに突進……
したと思うと、アギトの側方の土俵際ギリギリのところに突撃した。
(なんだ…………?
……まさか…!?)
(今頃気付いても遅いド)
BIG.Eは方向転換し、アギトの顎がない側方に突進した。
無防備な場所への突撃はアギトのまあるい体を浮かばせる。
このままでは土俵の外へと吹き飛ばされてしまう。
「負けるなあ!!!!!!」
双次はアギトに向かい叫んだ。
アギトはキラリと目を光らせると、片方の顎をBIG.Eに引っ掛けた。
「なんだド!?」
すると、BIG.Eの体も勢いを抑えきれず浮き始め、一緒に宙に投げ出された。
2人のアクマは空中で回転をしながら、土俵の外へ向かう。
「踏ん張れド!!」
あと半回転し、BIG.Eが外に投げ出されそうになったとき、充が叫んだ。
するとBIG.Eはなんとか大きなまあるい体を土俵に突き、大きく飛び跳ね、土俵のど真ん中にアギトと一緒に着地した。
再び、砂煙が舞い、アギトとBIG.Eの姿を隠した。
「なに今の!? めっちゃすごい!!」
舞維はアクマの特徴を活かした技の応酬に目を輝かせ、思わず息を漏らす。
「すごいね!! 憑ちゃん!!」
憑にも同意を求め、憑も興奮した様子で大きく頷いた。
「桑田さーん。
結構強いんだねー」
綿多は感心した様子で一郎に話し掛けた。
一郎は真っすぐ双次の顔を見ながら話す。
「アイツは昨年から努力に努力を重ねてきた。
それに、この大会のときもずっと、ストマックのことを研究してた。
最初のぶつかり合いのときも、モコモコの特徴を参考にして、一度顎を空振りさせて空気の層を作って衝撃を吸収させた。
他にも、鼻や側面の攻撃にも対処できるようにストマックの試合と休憩時間以外は全部ストマック対策に時間を割いてた。
それに……」
一郎はそう言うと、舞維をチラリと見るとまた視線を戻し続けた。
「アイツとストマックじゃ、背負うものが違う」
一郎の話を聞いた綿多は微笑むと、モコモコを優しく撫で、モコモコだけに聞こえるように囁いた。
「モコモコがいい勝負しなきゃー、今回の決勝は盛り上がらなかったってわけだねー。
すごいよー、モコモコー」
モコモコも誇らしげだ。
土俵の砂煙が晴れた。
そこではアギトが顎でBIG.Eを掴み、BIG.Eは鼻をアギトの体を包んでいた。
一見、力は拮抗しているように見えるが、BIG.Eの強大な力にアギトは少しずつ押されている。
「負けるな!!
負けるな!! アギト!!」
アギトは双次の声援を受け、踏ん張ろうとするがそれ以上に巨体から溢れるBIG.Eのパワーは強く、抑えきれない。
互いに組み合い、力を少しでも抜くものならそのまま押し切られる。
もう搦手は通用しない。
「ハハハハハ!!
久しぶりに楽しませて貰ったド!!
これで!! おやつ1年分はオラのものだド!!」
充は勝ち誇り、宣言する。
BIG.Eも鼻を鳴らし、目前の勝利に興奮しさらに力が増した。
「がんばれ!!
がんばるんだ!! アギト!!
約束しただろ!!
オイラは……オイラは…!!」
双次は応援するがアギトの力では敵わない。
もう土俵際まで来ている。
あと少しで、押し出されてしまう。
諦めかけたそのとき
「がんばれええええええ!!!!
双次いいいいいいい!!!!!!」
観客席から、舞維の応援の声が聴こえた。
(双次……双次……!!
双次!!!)
その声は頭の中をリフレーンする。
約束を交わした大切な人の大切な声援……そして、普段のあだ名呼びとは違う、下の名前で呼ばれ、双次は
「うおおおおおおおおお!!!!!」
覚醒した。
雄叫びを上げ、諦めかけていた闘志に再び火が着いた。
それと同時に、アギトの顎がグググっと伸び、ハートのような形になって、BIG.Eを取り囲んだ。
アクマとその主の心は一心同体。
双次の気持ちは直に、アギトに反映されたのだ。
「いけえ!!!
アギト!!!!」
覚醒したアギトの目がキラリと光り、BIG.Eの体を押し返し始めた。
「な……なんだド……!!!!??」
今まで優勢だったはずが急に逆転され充は狼狽する。
BIG.Eも驚きを隠せず、まあるい体を踏み込み、勢いを止めようとしたが、まるで意味がなかった。
「なにやってるド!!
また、おやつ抜きになるド!!!
しっかりしろド!!!!!」
充はBIG.Eに怒鳴り付ける。
その体からは小さく黒いオーラが発せられた。
「いけえええええ!!!!!
やっちゃええええ!!!!!」
舞維は大興奮で、隣に座る憑が大声でフラフラしてるのにも気付かず、声援を送る。
「うおおおおおおお!!!」
声援を受けた双次は雄叫びを上げる。
それに呼応するように、アギトは顎を大きく持ち上げ、BIG.Eの体を浮かせた。
「決めろ!!!」
双次の指示と同時に、アギトはBIG.Eを持ち上げたまま大きく飛ぶ。
そしてBIG.Eを下に向けながらキリモミ回転。
BIG.Eは身動きが取れない。
「必殺!!
大天空フォーリン・ラブ!!!」
双次の叫びと共に、アギトは土俵の真ん中にBIG.Eを叩き付けた。
また砂煙が舞ったと思うと、すぐにアギトは顎を振り回し、砂煙を晴らし、BIG.Eの上に乗ったまま大きくその大顎を天に掲げた。
この勝負、双次の勝ちだ。
「っしゃあああああああああああああ!!!!!!」
双次は勝利の喜びを噛み締め、大きくガッツポーズをする。
「やった!! やったよ!!
憑ちゃん!!」
舞維は大きく飛び跳ねて喜び、フラフラしてる憑をギュッと抱き締めると、すぐに放し、双次の元へ走った。
「憑ちゃーん、大丈夫ー?」
「う……うん…………」
心配してくれた綿多に、憑は頷いた。
「でも……すごかった」
憑は少し笑いながらそう言った。
「うん! すごかったー!」
綿多も憑に微笑みかけた。
「よく頑張ったな!
アギト!!」
双次はアギトを手で包むように拾い上げ、体を優しく撫でた。
アギトは自慢げに顎をガシガシ鳴らす。
もう顎は元の形に戻っていた。
「おめでとう!!!!」
ふと、女の子の声が聞こえたと思い、双次は顔を上げた。
その瞬間、舞維が双次に抱き着き、すぐに体を離した。
「すごいよすごい!!!
あのストマックに勝っちゃうなんて!!
テンションアゲアゲだよ!!!
すごい!! 天才!! いやもうほんとに!! すごい!!」
舞維は嬉しそうにとびきりの笑顔を双次に向けた。
「ま…まあ、別に。
楽勝だったし」
双次は顔を赤らめ、視線をそらしてしまう。
「ねえねえ!!
あの空中でくるくるーって奴なんだったの!?
あとさ! 最後にぴょーんって跳ねてギュルルウウウウ!!! ってのも!!
アギトだけの必殺技!?
なんだっけ……えっと、大……なんとかかんとか!!」
舞維の興奮は収まらず、マシンガントークが止まらない。
双次は説明しようと思うのだが、なぜだか詰まってしまい言葉がでなかった。
「ほら、城都。戻るぞ。
表彰の邪魔だ」
そこに、一郎が舞維の肩を掴み、連れ戻しに来た。
「えーー?
いいじゃーん!
もうちょっと!! もうちょっとだけ!!」
「だめだ。 てか城都ずっとうるせえ。
もう少し周り考えて声量落とせ」
「えーー……
けちっ!!!!」
舞維は文句を言いながら、一郎に強制連行されてしまった。
双次は顔を赤くしながらボーッと、その様子を見ることしかできなかった。
「うそだド……!!!
こんな結果ありえないド!!!」
敗北に項垂れていた充が急に大きく叫びだした。
目に涙を浮かべ、双次を憎しみの表情で睨み付ける。
「絶対インチキ使ったド!!
そうじゃなきゃオラのBIG.Eに勝てるはずないド!!」
負の感情が高まり続ける。
周りのオーラが少しずつ濃くなっていった。
双次は充の声で正気に戻る。
「負け惜しみか?
オイラの方が強かった!!
勝利の女神は諦めない方の味方なんだぜ!!」
双次は腕を組み、勝ち誇るかのように言う。
だがそれは充の怒りをさらに増幅させてしまう。
「うそだド!! うそだド!!
認めないド!!
昨年優勝してからオラはこの日のために努力してきたド!!
すべてはあの日!!
優勝した次の日……
遊びから帰ってきて、おやつを食べようとしたら、かあちゃんが全部ママ友の集まりに出して配ってしまったド!!!
オラのものって言ったら、卑しいだとかって怒られてそれからおやつを抜きにされたド!!!
だから、今年のおやつはオラが全部食べるんだド!!!
おやつはオラのものだド!!!!」
充の怒りの言葉に、BIG.Eが反応する。
目が赤く妖しく光り、体から充と同じオーラが溢れ、充の体に飛び付こうとしている。
(あれは……!
やっぱりアクマ暴走!!?)
怒号を聞いて様子を見ていた綿多は、充の以前の自分と似た状態、そして、時折みえた黒いオーラから、充がアクマ暴走してしまうのだと思った。
綿多は無意識に憑を見る。
憑も気付いていたが、肩を触りながら首を横に振る。
「デビルルが……いない」
憑は泣きそうな声をしながら綿多に言った。
憑のアクマ合体は、アクマ暴走解決の大きな力になるのだが、デビルルがいなければならなかった。
1回戦で吹き飛ばされてから未だに戻ってきていないので、アクマ合体はできないのだ。
綿多は何もできないまま眺めていると
「なんだ?
お前、そんなにおやつが欲しいのか?
なら、やるよ」
と双次は充に軽く言った。
「……え?
いま、なんだド?」
充は驚いた表情をし、聞き返した。
体から発散されるオーラが少し薄まる。
「だから、優勝賞品のおやつやるよ!
オイラ、お前とまた戦いたかったから、アクマ相撲に参加したから、別におやつはいらねえんだ!
お前の方が、美味しく食べれそうだからな!
そっちのほうが、おやつも食べられ甲斐があるだろ!!」
双次は手を差し伸べ、にっこり笑いながらそう言った。
「お……おま……お前………」
充は顔を俯かせ、体が震える。
BIG.Eは黒いオーラを纏いながら、充に突進する
が
「いいやつだなあああああ!!!」
充は大泣きしながら、双次の手をがっしり掴み感謝を述べた。
BIG.Eは弾き出された。
行き場を失った負のオーラは体を離れ、空に立ち昇り
「なんだ?
終わっちまったのか?
ケケケ!」
アゲエに運ばれているデビルルが吸い上げた。
「デビルル!!」
憑はデビルルの姿を見ると嬉しそうに笑った。
綿多は未然の解決にホッと胸を撫でおろす。
「ケケッ!」
デビルルは吹き飛ばされる前より明るくなった憑の表情を見て、面白そうに笑った。
アゲエは憑の手にデビルルを乗せると、疲れ果て、力を失い墜落する。
「おっとー
アゲエー、おつかれー」
綿多はアゲエを掌に乗せ、触角を優しく撫でた。
「長かったねー、冒険してきたのー?」
「ケケケ!
それは凄い凄い冒険でな!!
笑いあり涙あり、出会いと別れの感動超大作ってものだぜ!!
聞きたいか!!」
「いや別にー」
語りそうなデビルルは、綿多は即答で答えた。
「ケッ!
やっぱクソガキだな!! お前よう!!」
デビルルは不満そうな顔で悪態をついた。
憑はそのやり取りに小さく笑いながらデビルルを肩に乗せた。
「ケケケ!
俺様がいなくて寂しかったか?」
デビルルはおちょくるように訊いた。
憑は綿多の方を見ると
「ぜーんぜん!」
と楽しそうに答えた。
おしまい