のはらリン「今度こそ悲劇の運命を回避するッ!!!」   作:しじみ兆

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ふたりの時間、変わる予感

 

 

夕暮れの影が長く伸びる広い訓練場。

木の葉がそよぎ、石畳に小さく音が反響している。

どんよりした雲が切れた隙間から、最後の光が差し込む。

 

私とオビトは向かい合った。

彼はいつもの髪型のまま、ずるりとゴーグルを下ろしている。

その顔には、本気と照れが入り混じっている。

 

「ちゃんと教えるぜ」

と、彼が言って、仲良く構える。

 

(さっきとは別人みたいに真剣だ……)

 

心臓が軽く高鳴る。

私も呼吸を整えて、構えをとった。

 

 

身体を動かす、初歩のバランス練習

 

「まずは、重心だ。りんは少し前傾すぎる。バランス悪いぞ」

 

私はそっと足を踏み替える。彼の言葉に丁寧に耳を傾けて、そのまま調整する。

目線を低く、手を軽く開く。

 

「うん……こんな感じ?」

 

「そうそう。腰を落として、膝は緩く、それだけで地に足がつく感覚が強くなる」

 

オビトは自分の体幹を見せながら、説明する。

そのトーンは優しいけど、明確だった。

 

 

オビトによる模範の披露

 

「これで拳のブレも減るんだよな」

 

そう言って、実際に構えから軽く突き拳をしてみせる。

その動きは、本当にスムーズで、彼の身体が空気を切る音だけが響いた。

 

「すごい……オビトそんなに上手だった?」と、私は自然に感嘆の声を漏らす。

 

「ははっ、練習したんだよ、見てた? 師範のトレーニング」

 

そう言って、彼は照れた笑顔を返してくる。

 

 

私の一撃とオビトの反応

 

私も拳を打ってみる。

彼がスピードのタイミングを教えてくれる。

 

「もっと速くしろって」

 

と言いながら、軽く構えて、狙った速度に合わせてくれるのが嬉しい。

 

「うん……!」

 

少しだけ乱れたけれど、達成感が胸に広がった。

 

「…できた?」とオビトが目を細める。

 

「うん。――ありがとう」

 

その一言を交換すると、二人の間に静かな共振が走った。

 

 

 

心の会話が溢れる瞬間

 

太陽が沈む。

訓練場は夕闇に包まれ始め、木々の影がくっきりと映る。

 

私は、胸が熱くなった。

 

(オビトは、未来の支えだ)

 

この子の笑顔を守れる力を育てたい――そう願っている自分に気づいていた。

 

オビトはふいに笑い、言う。

 

「りんってさ、そんな顔するよな」

 

「……どんな?」

 

「集中してる顔。真剣そのもの」

 

そう言われて、私ははっとする。

 

「ごめん、ちょっと真剣になりすぎてたかも」

 

「いいよ、そのくらいで」

 

彼が、拳を軽く合わせてくれた。

 

それは、信頼の“印”だった。

 

 

 

 

空がすっかり藍色に染まる頃、私たちは訓練場をあとにした。

足元に落ちた葉がカサリと鳴るたび、今日という一日が少しずつ終わりへと向かっているのを感じる。

 

「なんかさ、今日は……楽しかったな」

 

オビトがぽつりと漏らすように言った。

ゴーグルを頭に押し上げたまま、風を受けるように首を上げている。

 

「うん。私も。ありがと、付き合ってくれて」

 

「べ、別に? オレが火影になるための修行でもあるし?」

 

そう言いつつ、彼はほんの少し、足取りを合わせてくれた。

二人分の影が並んで、道をのびていく。

 

「でも、ほんと上手くなってるよ、オビト。あの体さばきとか」

 

「そ、そうか?」

 

「うん。びっくりしたもん。ちょっとカカシに似てた」

 

「なっ! なんでそこでアイツが出てくんだよっ」

 

慌てた声が響いて、私は思わず笑った。

 

「冗談、冗談。でも、ほんとに頼りになったよ」

 

「……ったく、なんなんだよもー」

 

オビトは口をとがらせたけれど、その頬はほんの少し緩んでいた。

 

私たちは木々の間を抜けて、校舎の裏手へ出た。

 

そのときだった。

 

——風に揺れる葉音の向こう、廊下の奥に“あの人影”が立っていた。

 

白い髪。背筋を伸ばした、整いすぎるほど整った立ち姿。

 

はたけカカシ。

 

彼はこちらに気づいたのか、一瞬だけ目をこちらへ向けた。

けれど、表情はなかった。まるで最初から誰もいないかのように、すぐに目を逸らす。

 

足音は静かに、廊下の先へと消えていく。

 

私は立ち止まっていた。

喉の奥がひりつくように重くなる。

足が、一歩、前に出そうで出なかった。

 

(話しかけなきゃ、って……思ってたのに)

 

その背中は、何も変わっていなかった。

いや、むしろ前よりも遠く、冷たく感じた。

 

「……また、避けられたな」

 

オビトの声が、かすかに苛立ちを含んで響いた。

 

私は答えず、目を伏せる。

 

「なんなんだよ、あいつ……」

 

「……私が、悪いんだよ。たぶん」

 

「は?」

 

「前に……ちゃんと話せなかったから。それで、嫌われたんだと思う」

 

自分で口にして、胸がぎゅっと縮こまる。

 

オビトは一歩こちらに寄ってきて、私の顔をのぞき込んだ。

 

「そんなことで嫌うようなヤツなら、最初から……」

 

そこまで言って、彼は言葉を飲み込んだ。

 

私はかすかに笑った。

 

「いいの。オビトが一緒にいてくれたから、今日も頑張れたよ」

 

オビトはしばらく黙っていたけれど、やがて不器用に「ふん」と鼻を鳴らした。

 

「……火影になるんだからな、当然だろ」

 

私はうなずいた。

彼のその言葉が、今は何より心強かった。

 

そして私は、もう一度決意する。

 

(もう一度、話しかけよう。何度拒まれても。いつか、届く時が来るって信じたい)

 

たとえ過去が変わらなくても。

未来を知っているのが私だけでも。

 

私は、何度でもこの手を伸ばす。

 

——この二人と、もう一度、同じ場所に立つために。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの日々、私は毎日のように訓練場に足を運んだ。

 

最初はオビトひとりだった。

でも次第に、タイミングを合わせたようにして、誰とも約束していないのに彼はやって来るようになった。

 

「……別に、りんが寂しそうだったから来たとかじゃないからな」

 

「うんうん、オビトは火影志望だもんね」

 

「ちょ、お前……それ言いすぎ!」

 

そんなふうに冗談を交わしながら、私たちは術の練習、体術の基礎、チャクラコントロールの調整まで、二人きりでできる限りの鍛錬を繰り返した。

 

ときどき、ふと誰かの背中を思い出す。

校舎の窓から見えた、白髪の少年の輪郭。

こちらを見ようとしないまま、世界のすべてを閉ざすような瞳。

 

声をかけようとするたびに、その瞳が心のどこかを凍らせる。

でも、私はあの日から少しずつ、自分の足で前に進んでいた。

 

(いつか、きっと)

 

その気持ちは、もう希望じゃなくて“意志”になっていた。

 

──そして、ある朝。

 

アカデミーの教室の前に、数人の上忍が並んだ。

教官が用意した木札を手にして、いつもより引き締まった面持ちで生徒たちを見渡す。

 

「本日より、諸君は正式に“下忍”と認められる。以降、三人一組の班を結成し、それぞれ担当上忍の指導を受けることになる」

 

静かなざわめきが教室を揺らした。

 

緊張と期待が入り混じった空気。

私の心臓は、どくんと静かに跳ねた。

 

(ここからが始まりだ)

 

「班の発表は、明朝。掲示板にて通知する。登校は普段どおり。遅刻厳禁だ」

 

その言葉を聞いた瞬間、私はオビトの方をちらりと見る。

彼は椅子に深く座り直して、腕を組んでいた。

その瞳には、ほんの少しだけ、揺れるような光が浮かんでいた。

 

私は静かに目を伏せた。

 

(知ってるよ。私と、オビトと、カカシが……同じ班になる)

 

だけど、記憶の中のその班は、最後に壊れてしまった。

だからこそ、今度は違う。

 

それを信じて、私はこの時間に向かって進んできたんだ。

 

夕方、誰もいない訓練場に立って、風を受ける。

 

明日は、きっと分岐点になる。

 

声をかける勇気を試される日。

手を伸ばす覚悟を試される日。

 

私は拳を握る。

 

(今度こそ、絶対に)

 

 

 

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