のはらリン「今度こそ悲劇の運命を回避するッ!!!」   作:しじみ兆

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未来はまだ決まらない

 

 

任務の帰り道だった。

夕暮れの木ノ葉の里には、明かりがぽつぽつと灯り始めていた。

赤く染まった空を背に、私はひとりで裏手の林を歩いていた。

肩には擦り傷がひとつ。

致命的なものではなかったけれど、心の中は穏やかじゃない。

今日の任務中、ほんのわずかだが、私は動きが遅れた。

そのせいで、オビトは無理をした。少しだけ、無茶をした。

 

(……私がもっと早く動けていれば)

そう思わずにはいられなかった。

あの頃から、何も変わっていない。いや、むしろ“想い”は強くなっている。

オビトを「助けたい」

ただそれだけの気持ちが、こんなにも胸を締めつけるようになるなんて。

木々の合間をすり抜ける風が、頬を静かになぞる。

目を閉じると、あの言葉がよみがえってくる。

 

『オレを救うってことは、世界を救うのと同じだろ』

 

笑いながら言った、あのときのオビトの声。

痛みに耐えながら、笑って誤魔化していた、その姿。

当時の私は、その“重さ”を分かっていなかった。

けれど今は、嫌というほど分かる。

彼の心の奥には、ずっと深い闇があった。

孤独と、理解されない日々。

期待されず、誰にも信じてもらえない苦しさ。

そんな中で、彼はそれでも、私の前だけでは笑おうとしていた。

『リンにだけは、ちゃんと見ててほしい』

 

あの目が、そう言っていた。

私は歩を止めて、手のひらをじっと見つめた。

この手で、何ができるのか。

何を守れるのかは、まだ分からない。

だけど、“彼の世界”を守れるなら――

私は、何度でも立ち上がる。

 

「……オビト」

名前を口に出した。

届かなくてもいい。

今はまだ、“ただの仲間”でしかないかもしれない。

でも、いつかきっと――

 

(あの言葉の続きを、私が見せてあげる)

(あなたの世界が壊れないように、私は何度でも、あなたを呼ぶ)

夜空に向かって、胸の奥にある小さな誓いが、静かに染み込んでいった。

 

 

 

 

朝。

里の訓練場には、柔らかな陽の光が差し込んでいた。

その中心には、すでにひとつの影がある。

オビトだった。

黙々と、基本の型を繰り返していた。

その背中には、もうあの頃の「遅れがちで頼りない少年」の影はなかった。

私は、しばらく遠くから彼の動きを見ていた。

そして、そっと一歩を踏み出す。

 

「オビト。今日の型、見せてくれる?」

彼は少し肩を跳ねさせて、私のほうを振り向いた。

「え、ああ……うん。いいよ」

 

不器用な返事。でも、どこか誇らしげだった。

私は彼から少し離れて、腰を下ろす。

目を細めて、その動きを見つめた。

彼のチャクラの流れが、芯から放たれていくのが分かる。

強くて、けれど乱暴じゃない。

まっすぐに、律儀に流れている。

型が終わると、彼は額の汗をぬぐいながらこちらを見た。

 

「……どうだった?」

私は微笑んで頷いた。

「すごく良かった。ちゃんと集中できてた」

その言葉に、オビトは少しだけ目を細め、小さな笑みを浮かべた。

「……リンはさ、なんでこんなに見ててくれるの?」

 

その言葉に、私は胸の奥がきゅっと鳴るのを感じた。

でも、落ち着いた声で言った。

 

「だって、オビトが前に言ったでしょ。

“ちゃんと見ててほしい”って。

私はそれを、守ってるだけだよ」

 

彼の視線が一瞬だけ揺れた。

目をそらし、頬をかいて、照れたように笑う。

「……そっか。ありがと」

その声は、まるで小さな羽のようだった。

でも確かに、私の胸に届いた。

 

 

 

昼過ぎ、私は一人で医療忍術の訓練をしていた。

チャクラを指先に集め、訓練用の人形に当てる。

皮膚の再生、筋繊維の補填、血流の均衡。

すべては、“あの日”を越えるため。

再びカカシの刃が、私の胸を貫く未来が来ても。

今度は、死なない。

助かる術を、自分の手で身につける。

誰かのために命を投げ出すなんて、もうしない。

「生きて助ける」。

それが今の私の目標だった。

「……まだ甘いな」

背後から、声がかかった。

振り向くと、木陰にカカシが立っていた。

すっかり中忍になった彼は、あの頃よりも少し大人びていて、静かな目をしていた。

「チャクラの出力、強すぎる。

それじゃ、逆に患部を焼く」

「……うん、分かってる。でも、あと少しだけやらせて」

私の言葉に、カカシはほんの少しだけ、目を細めた。

「……オビトのこと、よく見てるんだな」

唐突にそう言われて、私は言葉を返せなかった。

「前はさ、自分のことばっかりだったよな、あいつ。

でも今は、なんか違う。お前ばっかり見てる」

私は少し目を伏せ、それから顔を上げて言った。

「見てくれてるなら、嬉しいよ」

その言葉に、カカシはわずかに笑って、静かに背を向けた。

「……あいつ、強くなるかもな。お前がそばにいれば」

風が吹いていた。

葉が揺れる音の中に、どこか懐かしい気配が混じっていた。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

鳥のさえずりが、風に揺れていく。

その音は、ずっと遠くへ運ばれて、静かに空に溶けていった。

ふと気づくと、オビトの歩みがわずかに遅くなっていた。

私の歩幅に、無意識に合わせようとしたのかもしれない。

そういうささやかな気遣いが、この子の根の優しさだと思う。

──私は、ふと、問いかけたくなった。

「オビト。ねえ、もしも──」

「ん?」

「もしも、いつか……私のことが分からなくなっちゃったら、それでも、見つけてくれる?」

オビトはぽかんとした顔で私を見た。

冗談にしては妙に真剣だったせいか、少し戸惑っていた。

「な、なんだよそれ……迷子になるってことか?」

「……そうかも。迷子とか、違う場所にいるとか、そんな感じ」

少し沈黙が流れたあと、オビトは鼻の頭をこすって、ふっと笑った。

「そんなの決まってるじゃん」

私が顔を上げると、彼は指をこめかみにあてて言った。

「リンの声なら、ちゃんと届く。……オレの中に、ずっと残ってるから」

私は、その言葉に答えられなかった。

言葉が詰まって、喉の奥で温かく渦を巻いた。

(……ずるいよ、オビト)

こんなにも真っ直ぐな声で、未来を信じてくれるなんて。

その未来に、私はいないかもしれないのに。

だけど。

「うん。ありがと」

その言葉だけは、なんとか、ちゃんと伝えられた。

 

 

 

 

夕暮れの空が、朱に染まっていた。

私は再び、訓練場の片隅に立っていた。

午前の練習の続き。医療チャクラの制御。

呼吸はゆるやかに、手のひらに意識を込めて。

 

「……今度こそ、あの時を超える」

布人形の表面にチャクラを流しながら、私は心の中でそう呟いた。

皮膚の再生、筋繊維の補填、内圧の均等化。

全部、“その時”のための準備。

──あの瞬間、カカシの手が突き刺さったあの場所。

胸の奥に、確かに残っていた“冷たい痛み”を、私は何度も思い出していた。

でも、今の私は違う。

再び同じ刃が貫いてきても、

“死なない方法”を、確実に身につけてみせる。

 

(私はもう、犠牲になるつもりなんてない)

(誰かの命を繋ぐために、今度は自分の命を諦めたりしない)

 

「……“生きて助ける”って、難しいけど」

そのとき、また風が吹いた。

私の肩に、誰かの気配が落ちた。

振り返ると、そこにはオビトが立っていた。

 

「よ。まだやってたのか」

「うん。ちょっとだけ」

「……なんかさ。オレもやろっかなって思って」

「え?」

 

オビトはポケットから布人形の端切れを取り出し、ぎこちなく笑った。

「別に医療忍術は向いてないけどさ。……リンがやってること、オレもちゃんと知りたくて」

私は、目を見開いた。

彼の笑顔は、どこまでも不器用で、

だけどそれが、いちばん胸に染みた。

 

「……うん。教えるよ」

私は、そっと彼の手を取った。

その手のひらに、自分の手の温度を重ねる。

 

「この辺にチャクラを集めて。強くしすぎると、繊維が焼けちゃうから」

「へぇ~……すっげぇ、難しそう……」

「でも、あなたならきっとできるよ。ちゃんと、誰かを助けたいって思えるなら」

彼は、何かを呑みこむように息を吸って、小さく頷いた。

 

──この夜の小さな灯が、

やがてあの“最悪の未来”さえ覆してくれると、

私は信じていた。

 

 

 

 

 

 

その日、夜更けにノートを開いた。

書きかけの言葉を、迷いなく記す。

 

「この未来は、少しずつ、変わり始めている」

「今度こそ、“あの瞬間”を超える準備は進んでいる」

「でも、気を抜かない。たとえほんの一秒でも」

「私は、絶対にもう二人を失わない」

灯りを落とす。

ただ、微かな満足と、静かな決意を胸に──私は布団に身を沈めた。

風が障子をわずかに揺らしていた。

まだこの先に、どんな闇が待っているか分からない。

でも、今日の一歩は確かだった。

私は生きている。

オビトも、生きている。

そして、

未来は──まだ、決まっていない。

 

 

 

 

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