カルデア食道楽   作:ヴィルヘルム星の大魔王

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オムライス。それは、ケチャップライスを彩る黄色のドレス。
様々な具材が詰まった赤いライスを優しく包む洋食。
時代を越えて愛される子供たちの大好物。お子様ランチの主役といっても過言ではない。


一品目 オムライス

 

 南極にある人理継続保障機関フィニス・カルデア。

 人類史の白紙化を防ぐ為、日夜活動している特殊機関である。そこでは、魔術の魔の字も知らない一般人である一人の少年が、不慮の事故で失った47人のマスター候補の代わりに、古今東西に名を残したあらゆる英雄達の影法師である【サーヴァント】と共に世界の危機を救っていた。

 

 

 そんなカルデア最後のマスターである藤丸立香は、机の上でうつ伏せに突っ伏していた。身体中の骨の関節がパキパキと鳴っている。

 

 

 「はあ〜訓練疲れた〜!もうお腹ペコペコだ〜」

 

 「スカサハ師匠直々の鍛錬はやっぱ厳しいな〜身体中がバキバキだよ」

 

 先程まで、ケルトの死の国の女王にして、槍の師匠の一人であるスカサハに鍛えてもらっていた。

 彼女による厳しいケルト式修行で身体中が筋肉痛になり、現在に至る。

 藤丸の目の前に一つのコップが置かれた。顔を上げると浅黒い肌に銀髪の青年が、エプロン姿で藤丸を見ていた。

 

 

 「お疲れのようだな、マスター。ほら、レモン水を飲みなさい。レモンには、疲労回復に効果的なビタミンCが含まれている」

 

 彼の名は、エミヤ。クラスは弓兵。弓兵だが、剣を使う特殊なサーヴァント。英霊として名を残した存在ではなく、世界の抑止力の代行人であると本人は語っている。また、カルデアキッチンの厨頭を務めており、マスターからのレイシフト要請以外は、基本的に食堂で料理を振る舞っている。あと、槍のクー・フーリンといがみ合っている。

 

 

 「ありがとう!エミヤママ」

 

 「ママは余計だ。さっさと飲みなさい」

 

 「は〜い!ごくっごく!っうはー!生き返る〜」

 

 藤丸は、エミヤからレモン水が入ったコップを貰い、喉に流し込む。キンキンに冷えた水とほんのりと感じるレモンの酸味が訓練で疲弊した体に染み渡る。

 

 

 「そうだ、マスター。君は、まだ昼飯を食べていないだろう?リクエストがあれば、何か作るぞ」

 

 エミヤの言葉を聞いた藤丸は、う〜んと悩む。

 育ち盛りの少年である彼は、訓練終わりだからガッツリとした料理が食べたい。しかし、食べ過ぎると午後の時間に支障が出る。だが、腹に溜まるものを食べろと藤丸の脳内にいる悪魔が囁く。

 

 悩みに悩む藤丸は、自分が一番食べたいものを頭の中に導き出した。母親が作る家庭の味の一つであり、子供なら皆大好きな卵料理だ。

 

 

 「オムライス!オムライスが食べたい!」

 

 「オムライスか⋯承知した。ソースはどうする?

 デミグラスやケチャップ等の種類があるが?」

 

 

 藤丸からのリクエストを聞いたエミヤは、オムライスに掛けるソースの種類を提案する。かつてのカルデアでは、食料物資の補給経路が困難であり、俵藤太の宝具やレイシフト先での補給を頼りに生活していた。 だが、アマゾネスが運営するアマゾネス・ドットコムがカルデアと提携を始めた。食堂関係者からしてみれば、大助かりである。

 

 

 「ケチャップで!」

 

 「ふっ、オムライス⋯承った!」

 

 

 三角巾を付けたエミヤは、台所に入り、冷蔵庫から必要な材料を取り出す。

 

 「さて、調理を始めるとしよう」

 

 先ずは、冷蔵庫から卵、マッシュルーム、玉ねぎ、ニンニク、鶏モモ肉を取り出す。包丁でマッシュルームを薄切りに、玉ねぎを粗いみじん切りにして、トレーに移す。次にソース作りだ。ニンニク一欠片を刻み、フライパンにオリーブオイルを回し入れ、刻んだニンニクを投入し、よく炒める。

 

 次に、トマト缶と砕いたコンソメを入れ、塩、胡椒、砂糖などの調味料にバターを加え、木べらで軽く混ぜる。

 

 「これでソースは完成した。さて、次に取り掛かるとしよう」

 

 エミヤは、続けて、鶏モモ肉を賽の目状に切る。そして、新しいフライパンにオリーブオイルと鶏モモ肉を入れ、中に火が通るまで炒める。

 その次に、玉ねぎとマッシュルームを加えて、再び炒めた。そこに、準備した塩に粗挽き胡椒、砕いたコンソメとケチャップを加え、全体に馴染ませながら酸味を飛ばす。炊飯器からお椀によそった白米を加え、ケチャップソースが馴染むように木べらで切るように混ぜ合わせる。これで、ケチャップライスが完成した。

 

 「別に、コレを揚げてしまっても構わないのだろう?」

 

 エミヤは、キリッ!、とカッコつけながら馬鈴薯を握る。馬鈴薯の芽を包丁で取り除き、土汚れを水洗いでしっかりと落とす。キッチンペーパーで水気を拭き取り、八等分のくし形切りにする。エミヤが今から作るのは、所謂、ウェッジカットポテトだ。ボウルに入れたポテトの上に強力粉をまぶし、全体に馴染ませる。

 

 エミヤは、揚げ鍋に菜種油を大量に注ぎ、点火する。火で温めた油にくし切り形の馬鈴薯を入れた。ジュワァと油の奏でる音と匂いが、藤丸の耳と嗅覚を支配する。

 

 

 「油の良い匂い〜。何だろう?オムライスだから、フライドポテトかな?」

 

 

 藤丸は、厨房から香る揚げ物の匂いに涎が出そうになる。また、揚げ物の揚がる音に自然と身体が小刻みに揺れる。

 

 エミヤは、キッチンペーパーを乗せたトレーに揚がったフライドポテトを移し、油を吸わせる。最後に塩ミルで塩をふりかけ、フライドポテトが出来上がった。

 

 

 「次は、オムレツ作りだ」

 

 

 卵を二つ割り、ボウルに投入する。塩を少々入れて掻き混ぜる。熱したフライパンにオリーブオイルを入れ、半熟になるように箸で掻き混ぜる。この時、スクランブルエッグにしない程度の力と火加減で混ぜるのがコツである。

 手首の返しを利かせ、フライパンを寄せる。中身の半熟が溢れないように卵の接続面を丁寧に焼き、半月状に整える。

 

 型抜きにケチャップライスを詰め、皿に乗せる。

 その上にオムレツを乗せ、仕上げにケチャップソースを掛ける。揚げ上がったポテトを添えることでオムライスの出来上がりだ。

 出来上がったオムライスが藤丸の元に運ばれる。

 

 

 「マスター。御所望のオムライスにオマケの皮付きフライドポテトだ。嗜好を変えて、旗付きのオムライスにしてみた。国旗は日本国旗だ。高校生といえど、日本人ならワクワクするだろう?さあ、冷めない内に召し上がれ」

 

 

 藤丸の腹の虫が鳴る。藤丸の食欲が食わせろ、待ち切れないと懇願している。黄色と赤の鮮やかなコントラストが藤丸の視界を支配していた。

 

 藤丸は、手を合わせて、目の前の食事に感謝する。

 

 

 「いただきます!」 

 

 

 早速、ナイフを手にした藤丸は、半月型のオムライスを切る。柔らかい切り込みでナイフを滑らせる。

 半熟のオムレツが開き、見事な楕円形となる。

 スプーンで卵と米を一匙掬う。刻み玉ねぎとマッシュルームの彩りがケチャップの赤に映える。

 藤丸は、嬉々としてオムライスを口に運ぶ。

 オムレツは、とろとろで滑らかな半熟卵の舌触り。

 ケチャップライスは、ケチャップの程よい酸味に加え、玉ねぎの仄かな甘みとシャキシャキ食感。マッシュルームによる茸の旨味が噛む度にオムライスの味と調和している。

 

 「これが⋯完全調和」

 

 あまりの美味しさにとある地獄兄弟の台詞を呟く。

 続いて、フォークでポテトを一口齧る。揚げたて熱々のポテトに舌を火傷しそうになるが、ハフハフと空気を送り込むことで熱を逃がす。塩味というシンプルな味付けが馬鈴薯本来の味と旨味を増幅させる。

 

 「ホクホクで美味ひい〜」

 

 オムライスからポテトと交互に食べ進む。止まらない食欲に抗えず、ものの数分で完食してしまった。

 

 その時、藤丸の背後から誰かが声を掛けてきた。

 

 「おや、マスター。この時間帯にいるとは珍しいですね」

 

 「アルトリア!」

 

 やって来たのは、イングランドの物語である『アーサー王伝説』の主役を務めるアルトリア・ペンドラゴン。史実では、ブリテン島の国王を務めた男性であるが、女性として顕現されたサーヴァント。彼女は、かなりの健啖家であり、当時の食に乏しい土地柄の影響か。カルデアでは、大盛り料理を食べている姿が目撃されている。

 

 「アルトリアもお昼を食べに来たの?」

 

 「はい。円卓会議でお昼を食べそびれてしまいまして。それより、マスターは何を召し上がっておられたのですか?」

 

 アルトリアは、藤丸が食べていた皿を見て、疑問符を浮かべる。

 藤丸は、アルトリアの問いに気兼ねなく答える。

 

 「オムライスだよ。いや〜エミヤの料理はいつも美味しいね」

 

 「⋯オムライス」

 

 「騎士王様もお望みならオムライスを作るが?」

 

 アルトリアは、凛とした顔つきから柔らかい表情に変わる。

 

 「では、ご厚意に甘えて、いただきましょう」

 

 アルトリアの目の前にオムライスが置かれる。アルトリアは、差し出されたオムライスを慣れた手つきで切り込みを入れ、スプーンで一匙掬い、口に運ぶ。

 彼女のアホ毛がぴょこぴょこと揺れている。アルトリアの頬が少し緩んでいた。彼女は、スプーンを置いて、オムライスを見つめた。

 

 「アルトリア?どうしたの?」

 

 「いえ、大丈夫です。ふふ⋯何故でしょう。オムライスを見ると⋯何処か懐かしさを感じるのです」

 

 アルトリアは、オムライスを見て、嬉しそうに微笑んだ。

 

 「何故だろうな。オレも他人事には思えん」

 

 エミヤは、皿洗いをしながら、アルトリアの言葉に呟いた。彼等は、断片的な記憶を思い浮かべる。

 現代に似た世界でエミヤがオムライスを調理し、御粧しをしたアルトリアがオムライスをもくもくと食べていた記憶。

 

 

 「よっ!マスター!師匠との鍛錬が終わったんだろ?飯食い終わったらよ。釣りに行かねえか?」

 

 軽快な男性の声が聞こえ、一同は振り向く。

 全身青タイツの姿で朱槍を持つ男は、ケルト神話におけるクランの猛犬にして、光の御子。

 気さくな性格が特徴の兄貴的存在。藤丸は、彼の顔を見て、嬉しそうに声を上げた。

 

  

 「槍クフ!」

 

 「略すな略すな。しっかし、今日もコテンパンにヤラれたみたいだな。師匠も手加減しろよな。あ、もういい年だからなブゲフォッ!?」

 

 何処からか飛来した槍【ゲイ・ボルグ】がクー・フーリンの胸を貫く。クー・フーリンは、激しく地面に倒れた。立ち上がったアルトリアは、彼の惨状を見て、叫んだ。

 

 「クー・フーリンが死んだ!」

 

 『この人でなし!』

 

 エミヤと藤丸は、アルトリアの叫びに応じて、お決まりの如くある台詞を放った。

 

 

 「この槍は!?あの紫ババ⋯あふん!?」

 

 口から血を流し、身体が震えながらも、自身の身に起きた惨状を分析するクー・フーリン。

 本来なら、心臓を貫くゲイ・ボルグ一本で行動不能になるが、スキル【四枝の浅瀬A】によるガッツで耐えた。だが、口から滑った失言により、二本目の槍がクー・フーリンの尻に突き刺さる。

 

 クー・フーリンは、真っ白に燃え尽きた状態で気絶した。エミヤと藤丸は、クー・フーリンの末路に思わず臀部を隠す。その時、食堂の扉に誰かが入室してきた。

 

 「何やら、儂を侮辱したバカ弟子の気配がしてな。思わず、ゲイ・ボルグしたわ」

 

 入室してきたのは、ケルトの死の国の女王であるスカサハ。見た目は、長髪の紫髪に全身紫タイツの巨乳美女だが、弟子に対する扱いが酷い。その際、弟子による無神経な発言が原因だが、両者にとって、戯れ合いのようなものである。

 

 「今から此奴に少しお灸を据えねばな。では、マスター。儂はこれで失礼する」

 

 スカサハは、気絶した青タイツの首を掴み、食堂から連れ去る。

 

 嵐のようなケルトサーヴァントのやり取りを見た藤丸一行は、いつもの事である為、気にならなかった。

 

 「スカサハさんがクー・フーリンさんを引っ張っていましたが、アレは一体何でしょうか?」

 

 「フォウ!」

 

 「マシュ!フォウ君!」

 

 入れ替わりで藤丸の後輩であるマシュとペット枠のフォウ君がやってきた。

 

 「先輩!食堂にいましたか!ダ・ヴィンチさんから英霊召喚の呼び出しがありましたよ」

 

 「分かったよマシュ。少し待っててね」

 

 藤丸は、食べ終えた皿を返却口に置き、エミヤの方に振り返る。

 

 「エミヤ、ご飯ご馳走様でした!」

 

 「ふっ、お粗末様だ。夕飯も楽しみにしてなさい」

 

 藤丸は、元気良く返事をし、マシュと共に召喚室へと向かった。カルデアの新たな戦力であり、仲間となるサーヴァントを迎えに行く。

 

 彼等は、人類史を救う重い任務を背負っている。しかし、食事を通して培われた日々は、色褪せることなく続いていく。

 これは、人類史の白紙化を防ぐ為に冒険を繰り広げる物語ではない。カルデアや様々な特異点で古今東西津々浦々の食を巡る日常物語である。

 

  

 

 

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