自分でもうわぁってなるくらいにね、気づいたらなってたよね。
これあの、予防線とか張っときたいんですけど、国の認可とか要ります?
本人確認書類……あーハイ、マイナン……あー領収書、いや名前いっす。いやうち農家じゃないんで……壺、壺と石すか、自分宗教はうーん……あいや信仰はちょっとまあ、あるっていうか、大体っていうか、大腿四頭筋っていうか……
屈強(屈教)ってね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
青騎士が消えた。リーベがそれを知ったのは年が明け、2024年に入ってからだった。本から新聞へと姿を変えたプレイヤーメイドの羊皮紙が、アイテムショップの軒先で静かに新しい長の名を伝えていたのだ。
思わず立ち尽くしてしまった。曇り空の隙間に見えた陽が、一瞬で嵐に飲み込まれたような気分だ。
だがすぐに違和感に気づく。設けていたはずの安全装置が動いていない。彼の死をきっかけに訪れるよう仕組んだ終末は、まだ来ていない。攻略新聞にはかつての雄のことは詳しく書かれていない。ただ“離脱した”と、それだけだ。
リーベは止まっていた思考を呼び戻すと、すぐに修復案を弾き出す。多少お粗末だと思いながらも、他に代案を組めるほどの時間も残されていなかった。
即ち、追いかけ、見つけ、連れ戻すのだ。
その店に入るのは実は初めてだ。NPC以外、つまりプレイヤーからものを購入することも今まで無かった。ただここを指定したのはそういった事情抜きに、店主が信用できるからだった。リーベにとっても相手にとっても。
見知った鍛冶士が「ちょっと待っててください」と言って奥の部屋へ向かうのを見届けると、適当にすぐそこにあった銀色の剣を取る。なんの変哲もなさそうだが、刃に指を沿わせると今までに見たどの剣より頑丈なことが分かる。
木製の壁掛けラックにはクラシックな武器達が掛かっている。しかし壁際で、特に入り口から視界に入らない位置だから、主役にはなりづらいだろう。代わりに中央の直立式ラックに立て掛けてある武器達は、どれも入念に磨かれていた。
斧刃に仕舞われた剣、鍔の辺りになんらかの機構を据え付けられた大剣、仰々しい構造物が引っ付いた鞘と紅い刀。どれも目を惹くような特異な物ばかりだ。
「すみません、ゴチャゴチャしてますけど椅子なら奥に。まあ客なんてほとんど来ないんで前でも平気だと思いますけどね、ハハハ……」
言いながら戻ってきた鍛冶士がカウンターの倒れたトーテムポールの飾りを置き直している間に、剣を戻して別のものにも目を向ける。持ち手がないせいで石板としか言いようのない大きな剣、その隣には大型化した金槌めいた物体。
リーベにすらどれがどういう代物なのかサッパリだ。武器かどうかすらも怪しい装身具のようなものに眉を顰めていると、足音がスタスタと近づいてきた。
「ナ?ワケ分かんないダロ?ダカラ
「説明書も作ってるんですけどね……」諦めたように鍛冶士が言う。「皆さん“読まずに捨てるタイプ”みたいで、すぐ壊れたとか機能しないとか苦情つけてくるんです。たまにちゃんとした人も居るには居るんですが……攻略組ではないので宣伝効果は……」
そう言う彼には悲哀が漂っていた。≪鍛冶≫スキルを暇潰しでマスターした身としては分かるようで分からないような気分だ。居た堪れないので、適当に目についた代物について聞いてみようと探す。
「これは?」片手用の斧を手に取った。「見た目は普通だけれど」
「あぁそれはですね、捻りながら引き抜くんです。アルゴさん、ちょっと」ちょいちょいと手で退くよう示す。
リーベが言われた通りにしてみると、柄が動く手応えがあった。鼠が移動してできたスペースに、内部で重なるように収納されていた部品が展開され、片手斧はリーベの背丈より長いポールウェポンへと姿を変えてしまった。
「ホホー、コレはコレは……」
「でしょう?一振りで高い汎用性を持つのが
「使い辛そうだナ」
「そう使い辛さを使い辛⁉︎」
「イヤだってそうダロ?」鼠は宙空で指を振り、詳細表示ウィンドウを呼び出して続けた。
「ホラナ、要求スキルが変形前後で違うし参照ステータスも変わってル。武器種が変われば立ち回りもガッツリ変えなきゃイケナイし、その
「アッモウイイデス」
鍛冶士は瞳を潤ませながら言った。柄を縮めたり伸ばしたりして遊んでいたリーベには面白い以上の感想は出てこない。斧から長柄に変えたければ変えるだけだからだ。ただそれでも、彼の情熱だけはなんとなく感じられた。気がする。
「面白いとは思うけれど」
「本当ですか⁉︎」
思わず顔を顰める。耳元で雷が鳴ったようだ。怯んだリーベはゆっくり頷くことしかできない。
「それはそれは!さすがリーベさんですこの子達の魅力が分かるとは!ああ確かリーベさんは斧系の武器がお好みでしたよね⁉︎結構、ではますます好きになりますよ!さあどうぞ!大斧タイプの新製品です!」
「あぁ、いや」成すがまま身の丈ほどある金属塊を持たされる。金属と骨が混ざったような異形の大斧だ。
「逞しいでしょう⁉︎んあぁ仰らないで!見た目は地味、でも華美な装飾なんて見かけだけで汚れるわ欠けるわ研磨の邪魔だわ、ろくな事が無い!刃渡りもたっぷりありますよ!どんな長身が相手でも大丈夫!どうぞ動かしてみてください!」
「アチャー……」鼠の声が遠い。鍛冶士はリーベの右手に乗っている持ち手の根元付近を勝手に操作した。重い金属音と共に斧刃が動く。中央の軸に沿って先端にスライドし、
「良い音でしょう!余裕の音だ!馬力が違いますよ!」
結構深めに床板にめり込んでいるので、リーベは取り敢えずゆっくりと持ち上げようとする。片手を添えようとして、何か押し込める機構に気づいてしまった。握りのところにあったので、気づいたときにはもう動いていた。
「この武器は“
更なる金属音。斧刃は2つに分離し片方の刃が軸の先端を越えてスライドしていく。そうして上下が逆さまになるように回転した。通り道にあった武器ラックが跳ね飛ばされるのを、リーベは止める気になれなかった。
「そう大斧と大剣を切り替えて戦うその姿は正に!スラッシュアッ」
ブィイン!落下物達の合唱の中でもとりわけよく聞こえる音だった。銀の大剣が文字通り
「ああ何を⁉︎ああ待って!ここで動いちゃダメですよ!」
「誤動作も起こすのカ。安全性もバツダナ」
「待って!止まれ!」
リーベは微妙に使いにくそうな片刃の大剣を丁寧に床に置いた。ついでに床についていた傷も隠しておいた。私のせいじゃないと言う代わりに。
「強化詐欺……被害も数件だったシ、バグってことで終わらせたんだっけナ。そういやァ自首してきたのはアンタだったカ。ナルホドナルホド」
「納得してもらえたならちょっと手伝いとか……」
「イヤァナルホド、ネーチャンが見破ってくれたお陰で大事にならずに済んだんだナ。確かに正面から見破るのは無理ダロって感じダシ、チーターってことなら納得ダ」
「意外ですね、もっと敵視されているかと思っていたんですが」
「マー
隣で軽く肩を竦めて言う姿はそれ自体演技のようにも見えて、本音かどうかは絶妙に掴めない。リーベは壁に背を預けたまま軽く息を吐いた。
「それなら、依頼も受けてもらえるということで」
「ソレとコレとは話が別ダゼ?」食い気味にそう言うと、鼠は異名に合わせるように目を細める。
「ネズっちと美人ネーチャンの馴れ初めはよく分かったサ。ケドそれが名前を隠してオレっちを呼びつける理由にはなんないダロ?
それまでメモウィンドウに向けられていた顔をこちらに向けて、「アンタだもんなァ」
2層の攻略会議を眺めていたときを思い出す。その振る舞いや情報屋としての矜持を聞いて、彼女と彼女の扱う品は信用できると判断した。それは間違いではなかったと今でも思っている。
向こうはどうか?床を這いずりながら散乱した売り物を掻き集めている鍛冶士を無視してホログラフィックメモに文字を入力している彼女からは、敵意も信用も感じられない。中立といえば聞こえはいい。ただ少なくとも、味方とは言い切れない。
慎重に言葉を紡ぐ。「厄介で複雑なんです、話しても信じて貰えないような……」
「ンニャ、それは構わねえゼ。確かに聞きたいコトは山ほどある、デモ今日日アンタが“気紛れで1層を突破したコト”も、“それ以降ほっぽり出したコト”も、誰も気にしちゃイナイ。
リーベには脅しに聞こえた。意図してだろう。情報とはつまり事実であり、感情とは違う。だが情報を扱うプロフェッショナルだからといって、感情を持たない訳ではない。情報屋個人が、チーターを恨んでいるとしたら。リーベはこれを無視できない。
「何をすればいいんです?」
鼠は戯けるようにパッと目を見開いた。「オット、そう聞こえたカ?別にそういうつもりじゃあなかったんダガ。マア色々手伝って貰えるなら助かるケドナ」
それまで無表情に近かった顔に笑みを浮かべるのを見て、リーベはなんともいえない気分になる。鼠がササっと手を動かすと数秒もしないうちにフレンド申請メッセージが視界に表示された。
「なるべく目立たない仕事を斡旋するようにしとくゼ。こっちも“青騎士”が居なくなってからゴタゴタがずっと続いてて、これ以上問題が増えるのは勘弁ナンデナ」
肩の力が抜けていくのを感じながら、リーベは≪了承≫ボタンを押して言った。「その“青騎士”の事なんですが、何処に行ったか分かりませんか?」
鍛冶士は遂に床に散らばったものを拾い終わり、途中で見つけた床板の切り傷を隠すように武器ラックを設置していた。その微調整が済むまでたっぷり時間を使い、やっと返事がきた。「探して、どうする?」
いやに静かに言う。リーベはなるべく刺激しないような声色で言った。
「もう一度攻略を率いてもらいたいんです。私は、彼が必要だと思っていますから」
「なんでさ?ヒースクリフだって実力は充分だろ?最近じゃ“神聖剣”なんて謎スキルまで出してんだぜ?」
「彼では駄目なんです。彼は、詳しくは言えませんが、彼はあなた達にとって敵です」
「敵ネ、物騒な言い方だ」
「彼と、それからカウンセラーも」
鍛冶士が遂に内装を整え終わった。入店したときと変わらない状態で、無機物の祭りの形跡など残っていない。レジカウンターの倒れたトーテムポールの飾りまで完璧だ。
「カウンセラー……ユイか。なるほどソイツは大変だ」
とても深刻そうな様子ではない。リーベもそこは期待していない。問題なのはそこではない。
「それで?なんでアンタがディアベルを探してるのさ?攻略のためか?だとしてもなんで、アンタが?」
一瞬答えに窮する。「彼なら、信用できます」
鼠は小さく鼻で笑った。刃物のように鋭く細めた目をこちらに向けて答えた。
「悪いケド、オイラも知らねえゼ。依頼ってのはソレカ?」
「ええ」
「ソーカイ。そんなら1万でイイゼ」
それが高いかどうかはリーベには判断がつかないが、素直に応じる。入金を確認した鼠はしかし、じっと考え込むように動かず、かと思えば唐突に中空のウィンドウを閉じて扉に体を向け、それも途中で止めて顔をこちらに向けた。
「せめて剣を向けられないよう、祈っとくゼ」
どうにか聞き取ってどう解釈したものかと考えるうちにドアベルが鳴っていた。その音が鎮まると鍛冶士は置き直したトーテムポールがもう倒れないように支え代わりの鉢植えを置いて不思議そうな顔で言った。「どういう意味ですかね?」
癖の強い別れの挨拶と受け取るべきか、本気でそういう可能性があると取るべきかは一旦置いて、出しっ放しだったフレンドリスト画面に目をやる。つい先ほど3人に増えたリストの最上には自慢の
「ディアベルさんの行方、アルゴさんでも分からないんですね。良ければウチでも捜索するよう言っておきましょうか?望み薄ですけど……」
リーベはこめかみを抑え、選択肢がほとんどない事実から逃げるように外へ出た。
「……分かってましたよ、僕が助けてもらう用のフレンドですし……でもここ半年はそんなに頼ってなかったし……誰にも言ってないし……ちょっとくらい信用とか……ないよなぁやっぱ……」
上下左右どこを見ても不必要なほどに荘厳さを醸し出す廊下を、リーベは案内役の男に付き従って歩く。この建物の全てが、不必要な威厳を湛えている。あの
「ああ、ちょっと待って下さい」
そう言って先を行っていた男が足を止める。すぐそこにある扉の両脇には部屋を守護する騎士のように2人のプレイヤーがいる。案内役の男は彼らと少し話し、肩越しにこちらを見たり縮こまって内緒の話をしたりしている。やがて戻ってきて言う。
「少し待っていて下さい、今は副団長とお話しされているようで」
リーベはここ最近ずっと(或いは48層でAIと会ってからずっと)感じているじんわりとした焦りを抑えながら頷く。正直にいえば会うならさっさと会わせろと思っているが、この恰幅がよく人当たりのいい男に言うことではない。
それにリーベが頭の中で暇つぶしの連想ゲームを始めるより前にそのときが来たから、結果的にはそこまで待たされてはいない。
扉から誰かが出てくると、2人の扉の守護兵はこちらに向けていた目を正面に戻して部屋から出てきたプレイヤーに会釈する。された方は特に返すことなくツカツカと歩き出す。リーベが居る方向へ進んでいるから、リーベは彼女と一瞬目が合う。淡いブロンドの長髪には見覚えがあった。
「いやあお待たせしました、それではこちらです」
案内役の男に促され、リーベは男と守護兵2人に軽く会釈しながら入室した。
それなりに広い部屋に、仰々しい机と椅子がワンセット。壁沿いには腰の高さくらいの棚類が敷き詰められている。磨かれた白の石床に真紅のカーペットが敷かれ、悪戯に豪華な椅子を占有している男の服と同じ色合いだ。
「君が私に頼るとはな」
扉がしまって遮音されると同時に男は話し出す。外に聞こえたらどうするつもりなのか知らないが、そこに僅かに楽しむような揶揄うような色が見えて、リーベは目を細めた。
「AI調整に手出しさせてくれない誰かのせいで、そうせざるを得ないのよ。私がここに来ること自体、そっちの落ち度よ」
背後では巨大な窓が、透明な癖に存在感を放っている。もはや壁の一面が窓なくらいだ。やっぱり
「それは失礼したな。それで?」
誰がどう聞いても……かどうかは分からないが、少なくともリーベには謝罪の意を全く感じさせない言い方だった。衝動を抑えながら隅の方に整然と配置されたタンス類に向かう。
「メンタルヘルスカウンセラー……そっちがどう言っているか知らないけれど。アレを何とかして」
程よい高さのものに寄り掛かり、幾何学模様の調度品を手に取る。くるくると手の内で回しながら言った。
「なんとかだと?」組んでいた手を解いて言う。「問題が起きているとすればこちらで既に対処している」
「それじゃあ聞くわよ?あのプログラムに思考を読ませる理由はなに?」
彼の表情が目に見えて変わる。ほんのりだがいつもより硬い。「思考を読む?」
「ほらね」調度品をボール代わりに投げながら辟易する。こんなのが開発者で“聖騎士”とは。
「私の名前を勝手に言い当てたわよ。それから私がどうしたいかも。怪しむならログを見てくればいいわ、日付と場所は覚えてるから」
何かを考えるように目線を泳がせている。想定外の事態に困惑してくれているようでなによりだ。
「それと、カウンセリングの様子も見たことがないんでしょう?それも見てくればいいわ。治療でもなんでもない、ただの洗脳よ」
男は何も言わない。リーベは弄んでいた調度品を置いて、他の飾り物を目指して歩く。
「あなたが何を目指しているのか知らないけれど、ごっこ遊びをしている間にAIは進化し続ける。思考を読んで、洗脳を繰り返す。いつかはあのAIがここを支配する」
地球儀めいた球形のオブジェ、台座付きの逆三角石像、平たい棒と歪んだ雫型の石。そこから先は空白。彼らの持つ“意味深アイテム”シリーズはこれが全てらしい。最後のものは新聞にもドロップしたとの記載はなかった。
「あなたの方でも対応できないのは分かったわ」より正確に言うと“分かっていた”だが、そこは譲った。「だから、こっちで対応する」
「対応だと?」
硬い表情はそのままだ。しかし困惑の色はない。声色もいつもの融通の効かない感じだ。リーベははっきりと口に出す。
「AIが支配する前にゲームをクリアする」
「攻略には口を出すな」ピシャリと言い放つ。リーベは肩を竦めて再び棚に腰掛ける。
「"青騎士"を探してるの。どこに行ったか、あなたなら知ってるでしょ」
「1層での君の行動は多くの命を奪いかねなかった」
「あなたが言うの?」と言う前に更に続く。リーベは仕方なく溜め息を吐いて大人しくした。
「ディアベル君が
「よく言うわ、ここ自体立て直しも何もないでしょ?」
「君がここひと月ほど各階層を動き回っているのは把握していた。何をしているのかと思えば、そんな下らない事だったとはな」
それを聞いて無性に怒りが湧いてきた。知っているんだったら最初から言えばいいものを。思いつく言葉をそのまま口に出す。
「じゃああなたが攻略組のシンボルだって言うの?まるで期待できないわね」
「君は勘違いしているようだな、シンボルはなくとも皆戦える」
「それなら絵の具を適当に塗ったようなその衣装も要らないわね、センスが感じられない」
「君が私にセンスを問うか?GUIデザインで匙を投げたのはどっちだったか?」
「暇そうで寂しそうだったからね、手柄が欲しいだろうと思ったのよ。他には?」
「君のアバターは私が作ったものだが」
リーベはすぐには反撃しなかった。手を付いて斜めに傾いた姿勢のまま、一つ大きい息を吐いてから言った。「
椅子の背もたれに寄り掛かり「そうだったな」と言うと、彼もそれきり黙りこくる。無言の時間。お互いにヒートアップしすぎたことを自省していると仮定してもいいかもしれない空気感だった。
「私をいつまでここに居させるつもり?」本来の目的を思い出した。リーベは下らない口論のためにここに来たわけではない。「言っておくけれど、あなたのことも含めて全て公開したって構わないわよ」
彼は溜め息(のようなもの)を吐いてから立ち上がりつつ答えた。「覚悟があるのは良いことだが、その理由がまるで分からないな」
「あなたが他人を理解しようだなんてね」
「君こそ、もう少し自分のことを理解したらどうだ?」
リーベは先ほどの反省から挑発には乗らないようにして、肩を竦めてみせる。
「私のことを監視してたなら、私がどんなのと繋がってるかも分かるはずよ」
彼は窓の方に身体を向けてしばらく黙った。10秒近くそのままだったが、やがていつもの飾り気のない声で言った。
「31層の北西、NPCも居ない炭焼き小屋だ。モブも発生せずイベントも用意していない。森林の奥深くだから、急いでいれば君でも見逃すだろう。プレイヤーハウスでもない小屋に暮らすとは、私も思わなかった」
"31"、"北西"、"炭焼き小屋"。リーベは反芻して棚から降り、扉へ向かう。
「
何のことかはすぐに察しがついた。隠すか悩んだが、勝手に暴かれるのも嫌なので正直に言う。
「ただのイベントドロップ品よ。あとはまあ、“夜の楽しみ”くらいかしら」
「そうか」
拍子抜けして思わず振り返る。柔軟性のなさそうな後ろ姿は角度こそ違えどさっきと同じだ。
「ゲームをクリアするとどうなるかは、分かっているのか?」
軽く息を吐く。「今頃聞くのね」
「どうなんだ?」
今度は明確に溜め息を吐いてから言った。
「分かってるわよ。その上で、必要な事よ」
返答は無い。少し待ってみたが結局それきりだったので、リーベは部屋を出て、待っていた案内役の男が「折角ですから色々見て回りますか?」と言うのを断って、出口までの先導を頼むことにした。外部のプレイヤーは自由には歩けないのでこうするしかないのだ。
「いや確かに美人だわ、俺の好みじゃないけど美人だわ」「ホラな俺の目を信じなかったバカがよ。1000な」「でも団長の知り合いの娘さんだろ?つまり付き合ったらリアルでも団長と会わなきゃいけねえってことじゃんイヤすぎ」「付き合えると思ってて草」
「いやぁしかしせっかく来てくださったんですから、やっぱり歓迎の挨拶くらいはさせてください。あぁそうだ!団長に隠れてこっそり開催している『運営に反省を促す会』の催しでも」
「いえ、この後に予定もありますので。また時間が空いたら、そのときにお願いします」
「それは失礼。そういうことでしたらこの不肖ゴドフリー、誠心誠意努力しておきます故、いつでもお越しください!」
充分に離れたと思ってヒソヒソ話す守護兵や団長室から遠ざかるにつれて雑談がしつこくなる案内役の男をなるべく気にせず建物から出るのには、体感では1時間近く掛かった。
31層は切り立った山間部と濃密な森林が支配している。レッドギルドの拠点を探したとき、あるいは先日のような、あらゆる階層のあらゆる地域を駆けずり回ったときには、ここは移動に困ると判断した。隠れ場所はある程度時間がたてば変えるだろうし、以前にリーベが使っていたように、郊外の奥地や人里離れた場所にもハウスは用意されているからだ。
北西は山と森の境がせめぎあっている地域だ。川沿いに下るとほどほどに敵性モブがポップするようになり、チビチビとコルを稼ぐにはちょうど良さそうに思うが、肝心の使い先は一帯にはない。主街区からは遠すぎるのだ。転移結晶無しで移動するなら、崖登りと森の踏破だけで半日はかかるはずだ。
森に入ってどれくらい経ったか、結局は川の分流を辿っていき、遂に見つけたその家には小さな畑があった。数少ない陽光が当たる位置に押し合うように、恐らく穀物と根菜が植えられている。ボロ木の柵が周囲を頼りなく囲んでいた。
丸太の小屋を挟んで、簡易的な石製の屋根が据え付けられた場所には炭焼き窯が3つ。1つは形を保っていたが、他は崩壊していた。使う気はさらさら無いのであろう、修復を試みた様子はない。石屋根はよく見なくても苔が生い茂っていた。
小屋の扉からノックの返事はなかった。リーベは待った。"
やがてジャンクオブジェクトと化して雰囲気作り要員にしかならない残骸から使えそうなものを掘り当てる作業を始め、遂に僅かに届いていた日光たちすら居なくなってきた頃。ようやく4つ目の耐火煉瓦片を微妙に水分の混じった土と灰と落ち葉から救い出した頃。
彼は布と水が入ったボロ金属バケツを持っていた。暗くて分かりにくいが、その表情は喜んでいるとは言い難かった。彼は何を言うか迷うように口元を歪め、ゆっくりバケツを置いた。
「まずは、汚れを落としてくれ」
ミンミンゼミって、ミだからまだいいよね。シだったらシンシンゼミだよ、超静かだよ。コだったらコンコンゼミだよ、ノックか狐かどっちかだよ。ギだったらギンギンゼミだよ、どう見てもヤバイ奴よ。パだったらパンパンゼミだよ、セーフ寄りのアウトだよコレはもう。
チだったらチンt
マだったらマンm