シラトリ区のダメ探偵   作:ガガミラノ

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厄災と狐

 

 

 

「テロリスト諸君に告ぐ〜、今すぐ投降すれば尋問の時のカツ丼のカツが多めだぞ〜」

 

「そんな事で投降する訳無いだろ!!」

 

 

やる気の無い投降要請に不良生徒は応じるはずも無く拒否する。

 

ため息を吐き、不良生徒の方を睨んで言った。

 

 

「投降しないと〜……」

 

「投降しないと……なんだよ!」

 

「……えーっと、多分すごい怖い事になります」

 

「曖昧過ぎるだろ!ぜってえ投降しねえからな!」

 

「それにウチらには秘密兵器があんだ、負けねえ!」

 

投降しないのならば仕方ない。

駅に建てられたバリケードの方を指さし、叫ぶ。

 

 

「うーむ、仕方ないですね……それでは、突撃!」

 

 

「「「うおおおおおおっっっ!」」」

 

 

数十人の部下が一斉に突撃を開始し、怒声罵声銃声爆発音が鳴り響く。

 

 

「やァ、暑いのにようやりますね……」

 

 

まあ、命令したのは自分なのだが……

 

こう見ると、一年前の自分を思い出す。

あの頃は熱気に溢れていて、自分の信じるモノをただひたすら真っ直ぐ走っていた。

 

たった一年、たった一年で自分の信実は変わってしまった。

 

何を信じればいいのか、見失ってしまった。

 

 

「お、ヒミコちゃんのとこもやってる感じー?」

 

「ああ、コノカ副局長、どうも」

 

 

コノカ副局長。

 

優しくて、脳筋で、豚骨ラーメンが好きな人。

私の頼れる先輩だ。

 

 

「むー、前みたいにコノカ先輩って呼んで〜!」

 

「部下も見ていますし示しがつかないかと、それよりコノカさん、一つ聞きたい事があるのですがいいですか?」

 

「ん?どしたの?」

 

「今日のジンクスはどうでしたか?」

 

「うーん、今日は特に……あ!」

 

 

そう素っ頓狂な声をするとコノカ副局長は服をばさばさと探し回り、白い目を見せる。

 

 

「……四葉のクローバー持ってくるの忘れた〜!」

 

「むむっ……じゃあやはり今日は……」

 

「げげ、ヒミコちゃんまたあたしのジンクス使ってギャンブルの運勢計ってる〜!」

 

「ヤアヤア、どうも自分で占うと物欲センサーが働いてる気がしまして」

 

「だからって人のジンクスを使わないでよ〜」

 

「へっへっへ」

 

 

ヘラヘラと笑っていると部下の生徒が歩いてきて状況を報告する。

 

 

「副局長!ヒミコ刑事!テロリストの鎮圧終わりました!」

 

「んー、じゃ適当に護送車にぶち込んで公安局に移送しといてー」

 

「了解です!」

 

 

たったった、と走り去る部下の生徒の背中を見届けるとコノカ副局長の方をちら、と見てニヤリと笑う。

 

 

「やれやれ、仕事が終わりましたしラーメンでも食べに行きますか?」

 

「よっしゃ!行こう行こう!奢ってやる!」

 

 

そんな歓声がすると同時に、部下がまた一人走って叫んだ。

 

 

「ヒミコ刑事!カンナ局長がお呼びです!」

 

「うっせー!ヒミコちゃんは今からあたしとラーメン食いに行くんだー!」

 

「し、しかし今すぐ来いと……!」

 

 

慌てている部下の姿を見てため息を吐きつつ、コノカ副局長を諭す。

 

 

「コノカ副局長、カンナ局長にどやされますよ」

 

「ぐ……カンナの姉御ぉ……!」

 

「それじゃ、また後で連絡しますから……後で行きましょう?」

 

「絶対だかんね!忘れんなよ!」

 

 

自分のせいでは無いとはいえ、頼れる友人の事を裏切るのは心が痛むものだ。

帽子を深く被り、ある一つの疑問を聞く。

 

 

「そういえばカンナ局長は第一部隊の指揮に当たっていたのでは?」

 

「その予定でしたが行く直前で眠ってしまった為……」

 

「そのまま休んでいて欲しいものですがね、今すぐ向かうので車を出してください」

 

「はっ!」

 

 

 

━━━━━

 

 

 

(……一体連邦生徒会は私に何をやらせるつもりか)

 

(生活安全局への左遷か、それとも減給か……いや、それにしてはカンナさんの反応が悪すぎる)

 

(うーむ、もっと凄まじい……まさか退学……?)

 

 

 

ズドオオオオン!!

 

 

「うわぁ!?」

 

 

揺れる車の中、色々な事を考えていると突如巨大な爆発音と共に外で砂煙が舞う。

 

突然の出来事に車も急停止、何かしらの事件が起きている事は誰にでも分かるだろう。

 

 

「……運転手、カンナ局長には遅れると伝えて下さい」

 

「わ、分かりました!」

 

 

まったく、どうしてキヴォトスはこうも平穏と言うのを知らないのか。

少しは日向で寝る事を知る人間が増えて欲しいものです。

 

 

(大切な友人の約束を破る羽目になっているんですから……)

 

 

扉を開け、慎重に砂煙が晴れるのを待つ。

 

 

「硝煙の匂い……ふむ、一筋縄ではいかなさそうですねえ」

 

 

段々と砂煙は晴れ、辺りの様子が見える……

 

 

「!……護送車が……ああ、なるほど……」

 

 

目の前を走っていた護送車が倒れ、燃え盛っている。

 

そしてその護送車の上に、確かにいる誰か。

 

 

(まさか本当に秘密兵器が存在するとは、意外ですねえ)

 

 

ハッタリをかましているのかと思えば、意外な手を使ってくるものだ。

 

しかし、だ。

 

兵器にも使って良いものと悪いものがある……そうではないだろうか。

 

 

「ふむ、皆さん気絶していらっしゃいますね……まあヴァルキューレからは解放されましたし、このままでも大丈夫ですよね」

 

 

茶色と赤色の髪の毛。

黒色の和服、狐の仮面。

 

そして、邪智暴虐の気配。

 

 

(……狐坂ワカモをまさか持ってくるとは、悪手にも程がある)

 

「……あら?……」

 

 

狐坂ワカモはこちらの気配に気づき、振り向く。

嗚呼、やはり彼女だ……まったく、相も変わらず血の気が多い人間だ。

 

 

「お久しぶりです、狐坂さん」

 

「あらあら、ヒミコさん、去年ぶりですね」

 

「やはり噂は本当みたいですね、連邦生徒会長が失踪したと同時に脱獄したというのは……」

 

「あそこはどうもカビ臭くて……あるツテを使って脱獄しましたわ」

 

「ええ、そしてシャーレの先生と戦ったみたいな話をお聞きしましたよ……結果は貴方の負けみたいですが」

 

 

そう言うと彼女は耳と尻尾をピン、と立てて少しだけ顔が紅くなった。

 

 

「!!……ヒミコさんは何か勘違いをしていらっしゃるみたいですね」

 

「勘違い?」

 

「私はあのお方と戦ってなどおりませんわ……ただ……」

 

 

「ただ、愛を誓っただけです♥」

 

 

手を組んで顔を紅くさせるその姿は……恋をする乙女の姿……

 

 

「……はあ」

 

 

なるほど、だからシャーレのビルが無傷だったのか……

しかも彼女の様子を見るにシャーレの先生は彼女の愛を何とか受け流したようだ、彼女の愛を受け流すとは中々侮れない部分があるなあ……

 

 

顔を紅くしていた彼女は銃を握り、顔を一変させる。

 

禍々しく、乙女とは言い難い表情で……

 

 

「さて、私と出会ったという事は貴方も見逃す訳には参りませんよね」

 

「ええ、もう一度矯正局にブチ込むまでです」

 

「くすくす、では……やってご覧なさい!」

 

 

 

弾丸が舞う。

ズドン、ズドンと重い音が立て続けに響く。

 

 

「銃を握らずに、私に勝てると思いでっ!?」

 

「……っ!」

 

 

何とか走って弾丸を躱し、遮蔽物まで逃げ込む。

 

 

「私の事を舐めているのなら、その甘ったれた思考を叩きのめすまでですがねぇ?」

 

 

ダン、ダン、と銃弾が遮蔽物を削る。

対する狐坂ワカモは護送車の上から私の事をずっと狙っている。

 

この人手が足りない中助けを求める事も出来ないだろう、護送車を単独で走らせていたのだから戦闘班はもう他の事件の場所に行っているはずだ。

 

ならば私単独で仕留めるしかない。

 

あの、大きな厄災を。

 

 

「私は舐めてもいなければ甘えてもいない」

 

「……ただ、場所を探っていただけですよ」

 

 

ホルダーの銃を握り、照準を向ける。

 

 

狐坂ワカモ━━━ではなく、護送車の給油口に向けて。

 

 

「!」

 

 

 

ダン、と閃光が走った。

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

「か、カンナ局長!」

 

「……む、どうした……?」

 

 

眠い目を擦りながら、慌てた様子で報告しに来た部下の生徒に話を聞く。

 

 

「テロリストを護送していた護送車の通信が切れました!」

 

「通信が……?確か、コノカとヒミコを対処に当たらせていたが……」

 

「コノカ副局長は美食研究会を追っています、ヒミコ刑事は連絡が取れません!」

 

「……今すぐ私が向かう、第一部隊は動けるか?」

 

「はい!今すぐ向かわせます!」

 

 

(まったく……眠れる暇も無くなるばかりだ……)

 

 

彼女がもしも昔と変わらなかったら、少しは心も休めたのだろうか……?

それとも……

 

 

(いずれにせよ、()()がトップなら無理な話だな)




━━━五十嵐ヒミコ
ヴァルキューレ警察学校公安局二年生の生徒。
ぶっきらぼうで常にやる気がなく、仕事をしていない時は居眠りをしているかくだらないギャンブルで遊んでいるかの二択。
好物は塩ラーメンとおでん。
一年生の頃はカンナのように期待されていた敏腕の刑事だった。
そしてカンナの部下だった。





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