「……ふふふっ……やはり……貴方は私の
(やはり貴方は私にとっての風車ですよ、ドン・キホーテのように……)
爆発が起きても尚狐坂ワカモはピンピンとしており、流石災厄の狐と言ったところだろうか。
しかし多少の血は流れているが……彼女にとってはかすり傷と同じだろう。
「では、ここからは小細工抜きです」
銃を構えて、目の前の
「うふふ、そうでなければ面白くありません……」
「……ああ、そうそう!一つ忘れていました」
「貴方には黙秘権がある、貴方の供述は法廷で貴方に不利な証拠として採用されることがありうる」
「癖付けておけ、という先輩からの命令ですので……よろしいですね?」
「法廷に出る事はありませんので」
「それもそうですね」
弾丸が再び舞う。
今度はもっと激しく……
━━━━━
「急げッ、この忙しい中また暴れられたら厄介だぞ!」
車内でそう叫ぶと隣にいる部下が私を呼ぶ。
「局長!護送車が消えたポイントで災厄の狐の目撃情報が出ました!」
「災厄の狐だと……!?こんな時に!」
恐らく奴が護送車を襲ったのだろう。
奴は金を払えば喜んで破壊活動をする奴だ、テロリストの保険として機能したか……!
「それとヒミコ刑事が災厄の狐と戦闘しているとの報告が!」
「ヒミコが!?……くっ、どうして今日に限って……!」
どうしてだ。
ヒミコ、お前は……もう、どうしようもないんだ。
なのに……今ここで抗うなんて……!
あまりにも……!
「たった今第一部隊から包囲完了の報告が、あとはカンナ局長の命令があれば一斉射撃を開始します!」
一斉射撃。
今、それをすれば災厄の狐を捕まえられるかもしれない。
だが……それは……
「……ダメだ、ヒミコがいる……!」
「ですがここで逃がすと!」
「ヒミコは有能な私の部下だ、彼女なら何とかしてくれるはずだ……!」
疲れで頭が回らない中、そんな考えが自然と口に出てしまう。
いくらヒミコでも、災厄の狐を単独で捕まえられるわけが無いのに……それなのに、彼女を頼ってしまった。
私は……一年前の幻想を、未だ捨てずにいれるのかもしれない。
「……局長……」
「……すまない、疲れで正常な判断が……とにかく現場に急いでくれ」
「了解しました」
━━━━━
「っ!」
狐坂ワカモの顔の横に弾丸が掠り、鮮明な赤い傷が出来る。
「……」
がちゃん、とリボルバーを折り、弾を込める。
【
私が名付けたリボルバーの名前。
中折れ式で安定性が抜群の銃……そして私はこの銃のリロード速度を二秒で終わらせる事が出来る。
狐坂ワカモの銃は威力こそ絶大だが所詮スナイパーライフル、リロードに時間もかかるし外せば隙が生じる。
その隙を私は糸を通すように適切に、的確に狙う。
それが私に出来る唯一の戦闘法だった。
「久しい苦戦ですね、私の
「狐坂さん!いい加減倒れてくれませんかねえ……」
「ふふふっ!まだ戦いは始まったばかりですよ?それになんだか周りが騒がしくなってきましたし……!」
(……第一部隊……!)
辺りを見渡すといつの間にか第一部隊が包囲網を組んでいる。
カンナ局長の……いや、それにしては不自然だ。
カンナ局長なら私の援護を第一部隊にさせるかはずだ……!
私と狐坂ワカモだけで戦わせて第一部隊を放置するなんて、らしくない!
(……何かの陰謀を、感じざるを得ない)
誰かが手向けをしている。
私に対してか、狐坂ワカモかはどうでもいい。
ただ、この状況を見て嘲笑っている人間がいるのは確かだ!
「……狐坂さん、一つだけ質問があります……」
「あら、珍しいですね」
「この状況、貴方はどう感じますか?」
「ふむ、そうですねえ……何者かが仕向けたような……そんな違和感を感じます」
「貴方はその何者を知っているのではないのですか?」
低い声が街を響かせる。
ドスの効いた声で、なるべく相手を怖がせる声で。
「……契約ですのでこれ以上は」
物怖じする事無く彼女はそう一言だけ。
そうなると、私は笑いが止まらなかった。
「ああ、やはり……すると今の私は道化師という事ですな」
「ふふっ、道化師でも私を捕まえられれば主人公になれるんじゃありませんか?」
「だが
「貴方は諦めが悪いのが取り柄じゃありませんでした?」
「……もう、燃え尽きましてね」
巨悪に立ち向かい、市民の平和を守る事を望んできたが……たった一年で燃え尽きてしまった。
この世界の巨悪はあまりにも大きく、そしてその巨悪は正義にまで侵食してしまった。
もはや枯れた笑いしか出ない、私の正義は何処にある?
「ヒミコ!」
「カンナ局長」
到着した車のドアが開かれると、中からカンナ局長が現れた。
私の顔を見るとカンナ局長は複雑そうな顔をして耳を垂らし、一言。
「もういい、下がれ」
「……カンナ局長、その前に一つ質問があります」
「……?」
「この包囲網はカンナ局長の指示ですか?」
「……いや、違うが……」
「では誰が?この忙しい中、現場の者にこのような包囲網を考えられる人材はいないでしょう?」
「それは……」
「誰なんですか?誰がこの芝居を?」
「…………五十嵐ヒミコ刑事、今すぐ下がれ、これは局長命令だ」
震えた声。
私はカンナ局長から目を逸らして、後ろに歩みを寄せた。
「……下がります」
「はぁ、興ざめです……では私は予定があるので今日はこの辺りで♥」
「待てッ!全員、一斉射撃開始!」
「遅すぎます」
ズドン。
狐坂ワカモの足元で突如粉塵爆発が起こり、辺りが砂煙に巻かれる。
「では、刑事さん……また逢う日まで」
「もう逢いませんよ……きっと」
━━━━━
「……」
「どうして単独で勝手な行動をしたんだッ」
「…………」
その後、護送車の中にいたテロリストは車の爆発で全員気絶しており誰一人取り逃す事の無く捕まえる事が出来た。
しかしこの事件に厄災の狐が関わっている事が判明し、事情聴取の為にもヒミコを事情聴取室で尋問する事になってしまった。
単独での身勝手な大規模戦闘行為、それは厳重な処罰が下される可能性がある程の重罰である。
「ヒミコ!」
「……ぐぅ……」
「……はあ……」
先程までのギラついていた彼女とは一変、ヒミコはいびきをかいて寝てしまった。
「ヒミコ刑事、あの災厄の狐と戦っている時はかっこよかったんですけどねえ」
「それよりあの包囲網を組めと命令したのは誰か分かったのか?」
問題は第一部隊の命令者だ。
あのような包囲網は指揮としてはありえないほど不適切であり、どこかの刑事がやったのであれば責任問題になる可能性がある。
「それが、連邦生徒会のカヤ防衛室長が……」
「……防衛室長が?」
まただ、また防衛室長……不知火カヤがヒミコを狙っている。
もしもヒミコがいたまま一斉射撃を行えば、ヒミコは重体になっていたはずだ。
どうして……彼女を……?
「……ヒミコが起きたら連絡してくれ、私も少し休む」
「分かりまし……えっ、ここで寝かせるんですか!?」
「そのままにしておいてやってくれ……」
「は、はぁ……」
取調室から立ち去り、コーヒーを飲んで疲れで回らない頭の中を無理やり回らせる。
(防衛室長は何故ヒミコを……?)
━━━━━
「カヤ室長」
「どうかしましたか?」
日々の業務をやっていると、部下から呼ばれ愛想良く対応を見せる。
「マルイカ商店街の道路で災厄の狐が発見されたと……」
「ああ、放っておいても構いませんよ」
「し、しかし……」
「ヴァルキューレの公安局に任せます、何かあれば……」
そんな厄介な事、私が関わるまでもない。
全てヴァルキューレに押し付けて面倒な仕事は任せてしまおう。
「それが以前退学処置を取らせると言っていたヒミコ刑事が災厄の狐と戦闘しているらしく……」
その言葉を聞いた瞬間、私はその問題に興味が湧いた。
「……なるほど、戦闘しているのですか……」
「ど、どうしますか?」
「私が直接命令を下します」
「カヤ室長自らですか!?」
「災厄の狐の直近にいるヴァルキューレの部隊は?」
「第一部隊が……」
「では第一部隊にこう命令してください」
『防衛室長命令です、これより災厄の狐を包囲し一斉射撃してください』
『包囲網に誰がいようと構いません、これは防衛室長命令です』
「……お願いしますよ?」
「は、はいっ!」
(……五十嵐ヒミコ)
(最後に花は持たせたのですから、潔く消えてくださいね?)
(眠れる獅子よ)
━━━尾刃カンナ。
いつものカンナ、ブラック企業の如く忙しい。
ヒミコの上司だった、だがヴァルキューレの公安局長となった事により多忙の日々を暮らす事に。
過去、ヒミコと何かがあった。
━━━狐坂ワカモ。
いつものワカモ。
この後先生の所に行く。
テロリストと誰かからの契約で護送車を襲った、一年生のヒミコと面識がある。
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