シラトリ区のダメ探偵   作:ガガミラノ

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あとしまつ

 

 

 

「くかー……」

 

「あ、ヒミコちゃん、取調室で寝てる」

 

「ホントだ、よく寝れるなあ」

 

「……かんなさん、ラーメン……むにゃ……」

 

「でも今日のテロリストの件で凄い活躍したらしいよ?」

 

「うっそだー、あのサボり魔ヒミコちゃんがー?」

 

 

「……はっ!?」

 

 

がたっ、と机が揺れ目が覚める。

 

 

「あ、起きた」

 

「あたふたしてる、まあ流石に取調室で寝るのはマズイよねぇ……」

 

「ちょっと!そこの君!」

 

 

私の事をチラチラと見ている生徒を見て、その生徒を呼ぶ。

 

 

「え?あ、ど、どうかしました?」

 

「新聞!今すぐ取ってきて!」

 

「新聞ですか?わ、分かりました」

 

「急に起きて新聞……何か閃いたのかな……?」

 

 

そんな小言が聞こえる中、ばさりと新聞を開く。

 

一番、メトロダイヤリー

二番、カツレツメツ

三番、ヨーグルトソース

四番、ペロペロキャンディー

五番……

 

 

「……うーむ、やはり二番のカツレツメツが本命か……」

 

「ギャンブルだった……」

 

 

ガチャ、と扉が開かれると私の名を呼ぶ声が響く。

 

 

 

「五十嵐ヒミコ!!」

 

 

 

「わっひゃぃ!?……カンナ局長っ!?」

 

「取調中に居眠りをして起きたと思ったら競馬とはいい度胸だな?」

 

 

たちまち顔が真っ青になっていくのが自分でも分かる、背筋は凍り、血が失ったような感覚が私の身体を巡っている。

 

私はなんとか振り向いて、一言。

 

 

「か、カンナ局長も予想します……?」

 

「……馬のようにグラウンド20周してくるか?」

 

「それだけは勘弁してください!!」

 

 

そんな私の悲痛な叫びに呆れたのか、ため息を吐いて目の前にある椅子に座るカンナ局長。

 

 

「はあ、まあこれで目も覚めただろう」

 

「それで、例の手紙の件ですか?」

 

「……ああ、非常に言いづらいが……」

 

 

言いかけた彼女の言葉を遮り、笑顔で自分の予想を言う。

 

 

 

「ズバリ退学、そうですよね?」

 

 

 

「……どうして分かったんだ?」

 

「まず貴方のあの時の驚いた表情から悪い情報であるのは間違いないと考えました」

 

「そして私に見られてはまずいモノ、まあ最初は生活安全局への左遷とかそういうのを想像しましたよ」

 

「退学処分にするには突飛すぎるし、理由が無い……」

 

「しかし、先程からどうも私に対する陰謀を感じましてね、パラノイアと言ってしまえばそうかもしれませんが……」

 

 

そう答えてしまうとカンナ局長は私から目を背けてしまう。

 

 

「……すまない、ヒミコ……」

 

「カンナさん、私は一体どうすれば良いのでしょうか?」

 

「自分の信じる真実を見失い、居場所も失い……私には何が残されるのでしょうか?」

 

「……」

 

「巨悪に対して挑む事すら出来ずに散ってしまうなんて……情けない話ですよ」

 

「ヒミコ、お前は……」

 

 

 

「しかし、これは再起の可能性でもあります」

 

 

 

「このヴァルキューレから離れる事により、私は本当の巨悪に立ち向かう事が出来る」

 

「それが蛮勇だろうと、自分の信じる道を変えるつもりはありません」

 

「真実は見失いましたが、道はまだ……見失っていないので」

 

「……ヒミコ……」

 

「カンナさん、その手紙の送り主は誰ですか?」

 

「その人が巨悪の源、そのはずです」

 

 

「……」

 

 

手紙を渡され、私はその内容を読む。

 

 

「……連邦生徒会防衛室長」

 

 

 

 

「不知火カヤ」

 

 

 

 

(……不知火カヤ)

 

(その名前、しかと覚えましたからね)

 

(売られた喧嘩は隅の隅まで買って……叩き潰す!)

 

 

私はカンナさんの方を見て、ニコリと曇りのない笑顔で笑ってみせた。

 

 

「カンナさんも、自分の信じるべきものを早く見つけて下さいね?」

 

「待っていますから」

 

「……あ、ああ……」

 

 

退学処分を食らったというのに何だか軽い気持ちだ。

これからの事なんて何も考えていないのに、それなのに━━━

 

 

(……私の大切な友人を穢した罪は、どんな罪よりも重いですよ)

 

(防衛室長)

 

 

 

私の大切な友人の事を穢したフィクサー(黒幕)を憎んでいた。

 

 

 

━━━━━

 

 

 

『さあ、3コーナーをカーブ!先頭は依然カツレツメツ!後続との差は一馬身、外からメトロダイヤリーが追い込んで来たァ!』

 

『内から三番ヨーグルトソースが伸びて来ました!これは三つ巴のレースになるか!』

 

 

「くっ、勝て……っ!そのまま……っ!」

 

 

『ゴールイン!勝ったのはヨーグルトソース!ヨーグルトソース!』

 

 

「……はあああああ〜っ、また負けた……」

 

 

 

 

 

『ヒミコ、馬なんて当たらないんだからやめておけ』

 

『当たらないんじゃない、当てるんです』

 

『お前はそのギャンブル癖さえどうにかなれば……』

 

 

 

 

(……当てるんですよ、誰であろうと……)

 

ラジオを切って昔の事を思い出しているとスマホの通知が来ている事に気づく。

 

 

「……ん?」

 

 

 

【終わったろ!!ラーメン食べに行くぞ!!】

 

 

 

モモトークの主はコノカ副局長だった。

スマホをひょいと拾い上げ、ポチポチと連絡を返す。

 

 

【何処のラーメンに行きます?】

 

【あー、じゃああたしのイチオシのとこ行くぞ!】

 

【それは楽しみですね】

 

【校門前で待ってろ!】

 

 

 

「……思えば、こうやって気軽にラーメンを食べに行く事も出来なくなるのですね」

 

「寂しいものです」

 

 

 

……

 

 

 

「おせーぞ!もう晩飯の時間だ!」

 

「すいません、どうも長引いてしまって」

 

 

校門に着くとコノカさんが待っており、むきーっ、と怒られる。

 

 

「その代わり今日はとことん付き合ってもらうかんね」

 

「ええ、どこまでも付き合いますよ」

 

 

何度か約束を破ったツケだ、こうなればコノカさんに地獄まで付き合ってあげようではないか。

 

 

「うっし、それじゃ早速アビドスまで行くぞ!」

 

「……アビドス!?」

 

「アビドスにチョー美味いとこあるんだよ!付き合え付き合え!」

 

 

アビドスと言うとキヴォトスでも随一のスラム&貧困地帯だ、学園の経営は破産したも同然でインフラ整備は整っておらず非定期で砂嵐が襲い……と、まあどうしようもない場所だ。

そんな場所にチョー美味いラーメン屋なんて秘境を探す探検家のような気分になる。

 

 

(……これはちょっとした旅になりそうですねえ……)

 

 

「そういやヒミコちゃん、厄災の狐と戦ったんだって?」

 

「ええ、まあ」

 

「ヒミコちゃん寝てたから気づいてないかもだけど局内でもめちゃくちゃ話題になってたよー、サボり魔ヒミコが覚醒したって」

 

「まったく、私も刑事の端くれですよ?脅威を目の前にしたら戦いもしますって」

 

「もしかして前のギラついてた頃の血が目覚めた?」

 

 

そんな言葉を聞き、私は一年前の事を思い出し……

 

 

「……いえ、ただの成り行きですよ」

 

「そっか」

 

「それより今からアビドスまで連れていくんですからそれはそれは美味しいんでしょうね?」

 

「おー!任せとけ!」

 

「ふふっ……期待していますよ?」

 

 

 

━━━━━

 

 

 

「局長!」

 

 

どたどたと走る音が聞こえたと思ったら、バタンと扉が部下の生徒によって勢いよく開かれる。

 

 

「どうした?」

 

「防衛室長からの連絡です」

 

 

そう言って固定電話を渡される。

恐る恐るといった様子で電話を耳に当て……

 

 

「……もしもし?」

 

『カンナですね?』

 

 

うんざりするほど聞いたその声。

憎しみでもあり、嫌悪であり、私の事実上の上司でもある者。

 

 

「今回は一体どういった要件で……」

 

 

私が話していたのを遮って彼女は話す。

 

 

『包囲網の一斉射撃を止めたそうですね?』

 

「それが、私の部下が戦闘していたので……」

 

『はい?』

 

『貴方はたった一人の部下の為に極悪指名手配犯を逃がしたのですか?』

 

「それは……」

 

 

それは、その通りかもしれない。

組織的に見れば私は無能な人間だ、だがあそこで一斉射撃を命令すれば……

 

 

『まあ、その無能な部下には処分が下るので今回の件は不問にしましょう』

 

 

無能な部下。

そんな言葉に怒りを覚え、私は叫んだ。

 

 

『ぼ、防衛室長は一体何故ヒミコを!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……しばらくの沈黙、四秒……いや、十秒ほどの静音。

 

そして、その沈黙を破ったのは防衛室長だった。

 

 

『……彼女はヴァルキューレに置いておくには危険すぎる存在です』

 

『あの獅子のような目、上司だった貴方には理解出来るでしょう?』

 

 

矛盾している。

無能だから退学処分に追い込むのではないのか?ならばどうしてその獅子のような目を利用しようとしない?

 

簡単だ、防衛室長はヒミコを恐れているのだ。

 

ヒミコが昔のようにカイザーコーポレーションの犯罪を暴こうとしたり、指名手配犯を捕まえる事を厄介だと思っている。

 

だから退学処分という軽々しく出せない大きな裁定を出した、それほど恐れているのだ。

 

 

……だが、上司である私には彼女を守ってやることすら出来ない。

 

 

『カンナ、彼女の処分は決まった事です』

 

「……了解、しました」

 

『ご理解して頂けたようで幸いです、それではまた』

 

 

(……自分の信じるべき物、か……)

 

(私はどこで間違えてしまったんだろうな……?)

 

 

 

(五十嵐ヒミコは必ず私の計画の邪魔になる)

 

(眠れる獅子は永遠に眠らせておいた方が得ですしね)

 

 

 

━━━━━

 

 

 

「へっくしょん!コノカさぁん!」

 

「うぉ、どしたぁ!?」

 

「砂漠の夜はスコールが発生しやすいって知ってましたぁ!?」

 

「うーーん、もっと先に言えーーー!?」

 

 

 

 

土砂降りの中、私は走る。

秘境を探す探検家の如く、ラーメン屋というオアシスの為に……




━━━コノカ
脳筋でジンクスを信じてる子。
豚骨ラーメンニンニクマシマシが好きで、ヒミコをよく誘っている。
とぼけているように見えるが、彼女は腐っても副局長である。

因みに退学処分の事は何も知らない。


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