シラトリ区のダメ探偵   作:ガガミラノ

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さよなラーメン

 

 

 

 

「……獅子?」

 

 

そんな言葉を聞き、私はため息を吐く。

 

 

「ああ、どうやら犯罪をどんどん検挙しているお前についた異名らしいぞ」

 

「馬鹿らしい、そんなモノが犯罪減少に役立つとは思えませんね」

 

「……私も狂犬という異名がある、ハッキリ言ってあまり好きではないがこの名のお陰で尋問の時に吐いてくれる事もあるから憎めずにいるがな」

 

 

獅子。

ライオンだとか、そういう意味がある。

不良生徒は私の事を獅子と呼び、恐れる……ハッキリ言ってどうでもいいの一言だ。

 

 

「それより今回はカイザーコーポレーションの跡はあったんですか?」

 

「いいや、今回もまったく見つからなかったそうだ」

 

「いつかカイザーコーポレーションはこのキヴォトスに刃を向ける、それを阻止しなければなりません」

 

 

床の弾薬を丁寧に拾い上げ、袋に入れる。

 

カイザーコーポレーション

 

キヴォトスで一番の会社……だが黒い噂は依然絶えない。

良からぬ計画、スピリチュアル、都市伝説が後を絶たない、そしていくつか事実があるだろう。

 

キヴォトスを支配しようとするこの会社を止めるのが我々の役目だ。

 

カンナ刑事もそれを理解しているはず。

 

 

「……検挙に熱心なのは構わないが冤罪は無いだろうな?」

 

 

そう言われて私は立ち上がり、カンナさんの目を見る。

 

 

「当然、そういう事は人の()を見れば分かります」

 

「曖昧すぎないか?」

 

 

じーーーーーーーっと、見つめて……恥ずかしくなったカンナさんが目を背けた瞬間、私はため息を吐いた。

 

 

「……カンナさん、今日も朝食を食べずに来ましたね?」

 

「おまけに睡眠も浅い、少し休息が必要では?」

 

 

しかしそんな情報を出すとカンナさんは目を見開いても物珍しい表情をした。

 

 

「……お前の洞察力には驚かされるばかりだ」

 

「仕方ありません、今日は例のおでんを奢るので明日からはちゃんと朝食は摂ってくださいね」

 

「後輩に奢られる程落ちぶれていないぞ」

 

「いつもお世話になっているお礼ですよ」

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

「寒い……」

 

「砂漠の夜は寒いですよ、スコールは過ぎましたがそのお陰で冷たさが倍増している」

 

「ラーメン屋はまだかー!?」

 

「もうちょっとです、誘った貴方が分からなくてどうするんですか」

 

 

ざく、ざくと砂とも道路とも言えない場所を歩いている。

街明かりは少しだけあり、寂れる前はそれなりに発展していた都市だったのが想像できる。

 

……それにしても、至る所でカイザーコーポレーションの店が並んでいる。

あまり快くは無い、彼らがこの地で土地を買い漁っているという噂もあるし……何を企んでいるのだろうか?

 

 

星空が煌めく中、コノカさんが神妙な顔で私に問う。

 

 

「……ヒミコちゃん、姉御と何話したの?」

 

「他愛も無い事ですよ、ただ……」

 

 

今、退学処分の話をしても気持ち良くラーメンを食べられないだろう。

 

 

「……今話すと、飯が不味くなる話です」

 

「飯が不味くなる……まさか、生活安全局に左遷とか?」

 

「あそこは良い子が沢山いますが、少し違いますね」

 

「警備局……ってワケでもなさそーだな」

 

 

生活安全局というと、新しく入った二人の生徒の事を覚えている。

 

中務キリノと、合歓垣フブキ。

 

彼女達二人が入学したての時、私が市民安全のいろはを教えた記憶がある、いつか活躍してくれるだろう。

 

 

「そういえば生活安全局の中務キリノさんと合歓垣フブキさんは元気でしょうか、ここの所忙しかったせいで中々会えずにいますが」

 

「忙しい……って、ヒミコちゃんはずっと居眠りしてたじゃん!?」

 

「あ、バレてましたか、梅雨とか春の時期はどうも眠くて……」

 

 

 

 

そう他愛も無い話をしているとついに辿り着いた。

 

 

 

柴関ラーメン。

 

 

 

「ふむ、ここですか?」

 

「おー!ついに着いたか!よっしゃそれじゃ早速行くぞ!!」

 

「うわっ引っ張らないで制服が伸びる」

 

 

 

━━━━━

 

 

 

「いらっしゃいま……うわっずぶ濡れ!」

 

「ヤアヤア、どうもスコールに直撃しましてね」

 

「さみいよぉ〜……」

 

 

がらら、と引き戸を開くと黒髪の少女からそんな驚く声が聞こえる。

 

店の中は綺麗で、掃除が行き渡っているのが分かる、いい店だ。

 

 

「えーっと、メニューを頂けませんか?」

 

 

カウンター席に座り、帽子を机に置くと大将から二枚のタオルを渡される。

 

 

「お嬢ちゃん達、その前にこれで身体拭いた方がいいぞ?」

 

「えっ、いいんすか!?」

 

「寒い中ラーメンを待つのも嫌だろ、サービスサービス」

 

「大将っ!」

 

「まさにオアシス……ありがとうございます」

 

 

なんて店だ、見ず知らずの客にタオルのサービスをしてくれるだなんてそうそうないだろう。

コノカさんの方を見るとニヤリと笑っており、やはりこういう情報で彼女に勝てる人はいない……そう納得させられてしまった。

 

 

「こちらメニューとお冷です」

 

「どうも」

 

 

アルバイトらしき子にメニューを渡され、それを広げる。

 

 

「あたしは決まってるからヒミコちゃん決めちゃいな〜」

 

「ふむ」

 

 

 

醤油、豚骨、味噌、塩……柴関ラーメン?

 

 

「この柴関ラーメンというのは?」

 

「ウチの目玉メニューです、アビドスでも評判なんですよ?」

 

「なるほど」

 

 

私はラーメンは塩派だが、どうもこの柴関ラーメンというのが気になる。

冒険をするべきか、そうでないか……

 

……いや、この大将ならば私を満足させられるラーメンを提供してくれるはずだ。

それを信じなくて、刑事が務まるか。

 

 

「それでは柴関ラーメンを」

 

「あたしもー!」

 

「あいよぉ!」

 

 

威勢の良い返事が響く。

 

 

「おや、珍しく豚骨では無いんですね?」

 

「へへっ、ここの柴関ラーメンはすっごい美味しいって評判だからなあ」

 

「ふふっ、私の腕を見越しましたね」

 

「ヒミコちゃんの洞察力はヴァルキューレで一番だからなあ、うりうり」

 

 

肘をぐりぐりと押し付けられる。

 

しかし、こんなやり取りも今日限りで終わりなのだろうか。

そう考えると何処か寂しいと感じてしまう……

 

 

「……」

 

「……ヒミコちゃん、姉御と何話したの?」

 

「ラーメンが美味しくなくなりますよ」

 

 

ごく、と水を一口飲むとコノカさんは私の心情を察したようでそう聞かれてしまう。

 

 

「後輩の一人だけ不味い飯を食わせたくないかんね、先輩のあたしにもその悩みを話せー?」

 

「……私はヴァルキューレを退学する事になるそうです、防衛室長の命令で」

 

「はぁ!?」

 

「た、退学!?」

 

 

あまりの突飛さにアルバイトの子も驚いている。

そりゃそうだ、退学処分を食らうなんて余程の事をした時だ。

 

学園の転覆だとか、経営が傾く程の横領とか……

 

しかし私はそれらに該当しない。

 

不知火カヤの陰謀、それだけが私を付け狙っている。

 

 

「防衛室長命令って事は……姉御の上司だろ!?」

 

「コノカさん、大声は店の迷惑になりますよ」

 

「で、でもぉ……」

 

 

戸惑っている彼女を尻目に、アルバイトの子がラーメンを二つ持って現れる。

 

 

「お、お待たせしました、柴関ラーメン二丁です……!」

 

「ありがとうございます……まあ、私は私なりに正義を貫きますよ」

 

「貫くって、どうやって……?」

 

「いただきます」

 

 

割り箸を割って手を合わせる。

 

 

「おぉい!無視すんな!」

 

「貫きますよ」

 

 

ずる、と麺を啜って飲み込む。

 

 

「……この世界には確かな巨悪が存在する、それを仕留めるだけ、おいしっ

 

「そ、そんな事……」

 

「コノカさん、ラーメンが伸びますよ」

 

 

ずるずると麺を啜りながら、涙目になっている彼女を諭す。

 

 

「う、うう……ヒミコちゃ〜ん……」

 

「コノカさんも、自分の正義を貫いて下さいね」

 

「……でもラーメン美味しい〜……」

 

 

 

ああ、くそ。

 

こうなると、やっぱり口の中は寂しいものばかりだ。

 

 

 

━━━━━

 

 

 

「特製烏龍茶一つ」

 

「あいよ」

 

 

がた、と一杯のコップを渡される。

 

 

「んぐ……はぁ……」

 

 

飲んでも、飲んでも……悩みは消えない。

前のように彼女(ヒミコ)が隣にいて「お酒のように飲みますね」と言ってくれる事も無い。

 

 

「……自分の信じる道、か……」

 

 

串に刺さったちくわをかぶりつきながら、頭に残ったそれを考える。

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

「ご馳走様」

 

「ごっそーさん大将!!」

 

 

口を拭きながら、スープまで飲んでしまった器を大将に渡す。

うむ、非常に美味だった、コノカさんが推す理由も分かるクオリティ……通いたいものだ。

 

 

「あいよー、いい食いっぷりだねえ」

 

「やっぱクチコミ通り大将の腕は最高だなー!また来るぞ!」

 

「あんがとなー嬢ちゃん!」

 

 

そんなやり取りを見ていると、何だかため息が出てしまう。

 

 

「……はあああああ……」

 

「やっぱりヒミコちゃんも効くよな、退学処分って……」

 

 

「いえ、今日賭けた馬に貯金全額突っ込んだんですよ」

 

 

 

「……は!?!?!?」

 

 

「それなのに間一髪で負けちゃって、明日からどうしよ〜〜〜」

 

 

そう言って、馬券を見せるとコノカさんは顔が真っ青になっていく。

 

 

「嘘でしょ、ちょ、嘘でしょっ!?」

 

「コノカさん、やっぱり今日はダメな日だったんですねえ……」

 

「それじゃ明日からヒミコちゃんホームレス!?」

 

「そうなりますね、よよよ」

 

 

と、嘘泣きを見せるとコノカさんは段々と冷静になったようで……

 

 

「…………ヒミコちゃん、負けた時いつも馬券捨てるのになんで持ってるの?」

 

「おや、バレましたか」

 

「先輩を揶揄うな!」

 

 

ぽかっ、とげんこつが飛んでくる。

 

 

「いてて、半分は負けなんですよ?」

 

「それで、当たった分はいくらになるの?」

 

 

そう言われ、私は指を折りながら計算する。

 

 

「うーむ、本命では無かったので1()0()0()()くらいですかね」

 

「……!?」

 

「本命が当たれば500万になったんですがね」

 

「ちょ、普通に……いくら賭けたの!?」

 

「貯金全額ですよ、貯金全額……ああ、一応プラスにはなりましたよ」

 

「ヒミコちゃん……あたしはヒミコちゃんの才能が恐ろしいよ……」

 

 

何だか畏怖の目が向けられている気がする、コノカさん、私は前からそういう人間だったはずですよ。

 

さて、ラーメンも食べ終わったし帰ろうかと思い始めた頃、アルバイトの子が私を呼ぶ。

 

 

「……ね、ねぇっ!」

 

「ん?」

 

「今、ウチのアビドスで生徒を集めようとしてるんだけど……もし良かったら来な……来ませんか!?」

 

「アビドスですか」

 

 

勇気のある告白だったのか、彼女は少し震えている。

見ず知らずの人を誘うのだ、無理もないだろう。

 

 

「……アルバイトさん、私の事をご存知で?」

 

「い、いえ……でも、退学になるんだったらウチで……」

 

「私はサボり魔です、それも学園で一番の」

 

「えっ」

 

「趣味は居眠り、サボり、そしてギャンブル!」

 

「学園内ではサボりにサボり、外に出たと思えば競馬場や競輪に勤しみ……」

 

「え、っと……」

 

「そしてスる!見事に!跡形もなく!!

 

「……で、でもっ……!」

 

「アビドスは今カイザーコーポレーションに借金を抱えているのでしょう、それなら私がプラスに……」

 

 

ニヤニヤとした顔をして見せると私の肩に手が置かれる。

 

 

「ヒミコちゃーん、ストップストップ」

 

「あの子、フリーズしちゃってるよ」

 

「おや」

 

「ホシノ先輩が二人……」

 

 

白目を剥いている、一年生には少しショッキング過ぎただろうか。

 

 

「という事で有難い提案ですがお断りさせていただきます」

 

「……はっ、す、すいません急に……」

 

 

そうぺこりと謝る彼女に、私はお冷を飲みながら笑う。

 

 

「アルバイトさん、焦ってはいけませんよ、チャンスは必ずやって来ます」

 

「それを掴めるまで、待つのが吉です」

 

 

そうだ、待つのだ。

チャンスは忍耐だ、チャンスを待った者が勝つのだ。

 

巨悪の打倒も借金返済もそう変わらない……そう考えると気が楽になったような気がする。

 

 

「……うっし、ヒミコちゃん!もう一軒ハシゴすっぞ!」

 

「もうお腹いっぱいですよ……」

 

「うるせー!行くぞ行くぞ!」

 

「大将!勘定を」

 

「あいよぉ」




━━━黒見セリカ
いつものセリカ。
まだギリ先生と会ってない、一週間もしない内に会う事になる。


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