シラトリ区のダメ探偵   作:ガガミラノ

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ダメ刑事からダメ探偵へ

 

 

 

ラーメンをハシゴした翌日、私は色々な退学手続きを取る事になった。

刑事という立場な為、後継作業がある……のだが私はそういうのが苦手な為部下とカンナ局長に全部任せて生活安全局まで顔を出しに来たのだ。

 

 

 

「ヤア」

 

「ヒミコ刑事ですか!?お久しぶりです!」

 

「お、久しぶりじゃん、サボり魔師匠」

 

 

白髪と青髪のちっこい二人の生徒……私の後輩だ。

 

 

二年生になった頃、私は二人の生徒に警察としての基礎を教える事になった。

 

中務キリノと合歓垣フブキ。

 

 

キリノさんには射撃と市民安全のいろはを。

 

フブキさんには市民安全とサボりのいろはを

 

 

久方ぶりに二人を見たが元気そうで本当に安心した。

 

 

「ヤアヤアヤアヤア……」

 

「ふむ、どうやら色々あって退学処分を受けてしまって二人に教えたかった事を教えられなくなってしまって悲しいらしいね」

 

「なんで分かるんですか???」

 

 

私の架空言語をフブキさんが翻訳……いや本当になんで分かるのだろうか。

 

 

「ヤアヤア」

 

「でも二人なら絶対に良い警官になれるってさ」

 

「……ちょっと待ってください!ヒミコ刑事、退学するんですか!?」

 

「ヤア」

 

「ちょっとしたゴタゴタの標的にされたらしい」

 

「ゴタゴタって……で、でもいつか戻って来られるんですよね?」

 

「原因を突き止め、解決出来れば……可能性はあるかと」

 

「うわ急に落ち着いた」

 

 

一歩、二人に歩みを寄せて微笑む。

 

 

「キリノさん、フブキさん、貴方達にもいつか後輩が出来るでしょう」

 

「その時はまた私のいろはをその後輩に教えてあげてください」

 

「りょーかいりょーかい、ヒミコ刑事も忙しいねえ」

 

「フブキさんにはサボりのいろはも教えましたけどね」

 

「一つ、バレないように眠れ、二つ、心地よく眠れ、三つ、迷惑をかけない程度に眠れ……ま、おかげで色々と助かってるよ」

 

 

そう言ってにひひっ、と笑うフブキさん。

 

一方キリノさんは不安げな表情で私を見つめている。

 

 

「……ヒミコ刑事、本当に退学するんですか……?」

 

「退学しますよ、防衛室長の命令でね」

 

「防衛室長って……キヴォトス警察機関のトップじゃん、何やらかしたの?」

 

「特に何も」

 

 

本当に何かをやらかしたりした訳ではない、いくらサボり魔で有名とはいえ退学処分をされるほど迷惑をかけたつもりは無い。

 

 

「いやー、もしかしなくてもヒミコ刑事結構な厄介事に駆り出されちゃった?」

 

「ですねえ」

 

「サボり魔師匠には似合わないね〜」

 

 

和気あいあいとしているとポケットにしまっているスマホが震える。

 

 

【この書類どうすりゃいいですか?】

 

 

後輩の生徒だ、そういえばそろそろ戻らないとカンナ局長から怒声が飛ぶ頃だろう。

 

 

「おっと、では私はこれで」

 

「ああ、あとこれ生活安全局の皆で食べてください、期間限定のドーナツです」

 

「わ、美味しそうですね……!」

 

「おおおおおっ!!師匠、分かってる〜!」

 

 

ドーナツのが入っている大きな箱をフブキさんに渡し、微笑む。

 

 

「独り占め……いや、二人占めしちゃダメですよ」

 

 

そう言いその場を去ろうとすると中務キリノはぺこりと丁寧なお辞儀をして……大きな声で私の名前を呼んだ。

 

 

「ヒミコ刑事!ありがとうございました!」

 

「ありがとね〜ししょ〜」

 

 

私は振り向く事なく、ただ二人を背に手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで最初ヤアヤア、しか言えなかったんですかね」

 

「ヴァルキューレを去る寂しさで口癖のヤアしか言えなかったらしい」

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

「カンナの姉御ぉ!!」

 

「なんだ、副局長」

 

 

コーヒーを飲みながら、業務をこなしているとドタドタとトラブルメーカーの副局長が走って局室の扉を開く。

 

 

「ヒミコちゃん退学にするって本当っすか!!」

 

「……ああ、本当だ」

 

 

机に手をバン、と押し付けて私に怒鳴る副局長。

私はその真っ直ぐな目を合わせる事も出来ずにいた。

 

 

「なんでですか!あの子が何をしたんですか!」

 

「……防衛室長の意向だ」

 

「そいつをぶん殴ればいいんですね!?」

 

「落ち着け、副局長……私だって納得している訳じゃない」

 

「じゃあどうして!!ヒミコちゃんがそいつと何の関係があるんすか!」

 

「あたしの後輩は、そんな会った事の無い奴のせいで退学になったんすか!!」

 

「副局長……」

 

「カンナの姉御も少しは庇ってやって下さいよ!!大切な部下っすよね!?」

 

「……すまない」

 

 

すまない。

 

そう言うしか出来ない、私にはどうする事も出来ない。

 

 

 

私は……無力だ。

 

 

 

「姉御!!」

 

「ヒミコちゃんは!姉御の事をすごく慕ってたんすよ!?」

 

 

私を慕っていた、という怒鳴り声が聞こえた瞬間私の口から感情の波が溢れた。

 

 

「分かっているッッ!!……だが最早この問題は、私達の手には負えないんだ!」

 

 

知っている!知っているさ、彼女が私を尊敬していた事もずっとサポートに徹していた事も、何もかも!

 

だが、私は……私は!

 

 

「私は……巨悪に手も出せもせず、その巨悪に屈してしまった……!」

 

「どうすればいいか、もう分からないんだ……!」

 

 

どうすればいい。

どうしたらヒミコを守れた?

 

私の権力を投げ捨てれば良かったのか?

それとも、あの防衛室長を告発すれば良かったのか?

 

 

どちらにしても、残るのは混乱だけだ……!

 

 

「はあああああっ〜……姉御!!」

 

「ヒミコちゃんは、その巨悪を追うつもりなんですよね!?」

 

「……ああ、そう言っていたな」

 

「じゃああたしらも手伝いますよ!その巨悪を追うのを!」

 

 

 

 

「ヒミコちゃん一人だけ背負わせるつもりはないっすから!!」

 

 

 

 

「……副局長……」

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

「……引き継ぎ完了」

 

 

綺麗に整ったデスク。

何も残っていない本棚。

 

 

「ヒミコ刑事、行っちゃうんですか?」

 

「ええ、少し……長旅をしようかなと」

 

 

通りすがりの後輩の生徒から寂しそうな声が聞こえる。

少し長い旅だ、いつかきっとこのデスクに戻ってくる……かもしれない。

 

 

「ギャンブルしすぎて破産しないでくださいね?」

 

「努力しますよ〜」

 

 

そう言って、局を去ろうとした時。

 

 

「ヒミコちゃーん」と呼ぶ声が聞こえた。

 

「コノカ副局長、どうかしましたか?」

 

 

慣れ親しんだ声で彼女は私の肩を掴み、微笑む。

 

 

「行っちゃうんでしょ?見送り見送り!」

 

「それはどうも、ありがたい限りです」

 

 

私も微笑んで、荷物を持って歩きながらコノカ副局長に聞いた。

 

 

「……局長の様子はどうでしたか?」

 

「だいぶやつれてたね、中間管理職って感じだった」

 

「どうもあの方は背負いすぎている、そのせいで付け込まれて……取り返しのつかない事が起こる」

 

「……ヒミコちゃん、姉御が何を背負ってるか知ってんの?」

 

「いえ、詳しくは、ですが巨悪の正体は知っている」

 

 

巨悪……

 

連邦生徒会防衛室長、不知火カヤ。

 

 

そして不知火カヤは単独で何かを企んでいる訳では無いだろう、後ろ盾があるはずだ。

 

(いつか証拠を探し出して……このヴァルキューレに戻ってきてみせる、そしてカンナさんの事も助けてみせる!)

 

 

決意した時コノカ副局長は神妙な顔で私に聞いてきた。

 

 

「あたしにも教えてよ」

 

「コノカ副局長にはまだ早いですよ」

 

「うっせー!皆もっと副局長を頼れ!」

 

 

確かに彼女は頼り甲斐のある副局長だが、わざわざ私の戦いに巻き込む必要は無い。

それに、彼女は政争や汚職とは関係の無い所で笑っていて欲しいのだ……

 

 

「……ヒミコちゃん、これからどうすんの?」

 

「巨悪を追います、もしかしたら途方もない時間がかかるかもしれない」

 

「だが、いつか必ず追い詰める」

 

 

拳を握りしめて、歯も噛み締める。

 

 

「いやいや、そっちもそうなんだけど……どうやって生計立てるの?」

 

「ええ……そうですね……小さい頃夢だった探偵にでもなろうかな、と」

 

「探偵ー!?あのサボり魔のヒミコちゃんがー!?」

 

 

そんなコノカ副局長の驚く声が学校中に響く。

 

確かにいつも居眠り、たまに起きたらギャンブルの私が探偵だなんてとんだお笑い草だ。

 

 

「ええ、あのサボり魔ヒミコが探偵を目指す……これで一週間は話題に困りませんね」

 

「あっはははは!ホント……困んないね」

 

 

校門に着いた頃、腕時計を見たあとコノカ副局長の方を振り向く

 

 

「もうこんな時間ですね、では私はこれで」

 

 

校門を背に、立ち去ろうとした時。

 

走る音が聞こえる、この隙の無い走り方は……!

 

 

「……どうやら、もう一人お客さんがいるみたいだぞ?」

 

「カンナ局長!」

 

 

 

私らしくない大声が響く、どうやら私は心の底で彼女が来る事を望んでいたらしい。

 

カンナ局長は私の目の前まで走って来て、はあはあと息を切らしている。

 

 

「はあ、はあ……ヒミコ……」

 

「ふふっ、今日は朝食を食べてきたみたいですね?」

 

「ああ……何を食べてきたか、お前でも流石に当てられないだろう?」

 

 

ニヤリと笑う彼女を見て、私は自信満々に述べてみせた。

 

 

「スクランブルエッグとレタス、インスタントの味噌汁……タンパク質が足りませんね、ソーセージかベーコンを食べた方がよろしいですよ」

 

 

そう言うとカンナ局長は目を丸くして、笑った。

 

 

「……お前には、いつも驚かされるばかりだ」

 

「すげぇ!ヒミコちゃんそんな特技あったの!?」

 

「ふふっ、秘密ですよ?…………カンナ局長、以前も言いましたが私は諦めるつもりはありませんから」

 

 

私はニヤニヤとした目から、真っ直ぐな目をカンナ局長に見せると彼女はおろおろとしながら耳を垂らした。

 

 

「ああ、その……すまなかった、お前を退学にまで追い込んで……」

 

「謝る必要はありません、貴方は十分努力してくれた」

 

「ですから、その努力に報いる為に私は貴方を押し潰そうとしているモノを排除しなければならない……」

 

「……また会いましょう、カンナさん、コノカさん」

 

「……ああ、また……あのおでん屋に行こう」

 

「うっし、またな!」

 

 

 

 

 

こうして私はヴァルキューレを去った。

 

ダメ刑事だった私は今、ダメ私立探偵になってしまったのだ。




━━━不知火カヤ
黒幕。
原作と変わらず小物だがこの時期はイケイケな頃。
ヒミコの事を知っているし、見たこともある。



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