拙い出来ですが宜しくお願いします
1000キログラムのドブ
……あれから、一週間が経った。
私はその場のノリで探偵と言ってしまったが探偵となるにはまず特許が必要だった。
まあその特許は元々ヴァルキューレ所属だったという事もあり色々な手続きを終えて見事探偵業を開業する事を許された……のは良かったんだが。
(……流石に自分のアパートを事務所として使う訳にはいきませんよね)
探偵業を営むからには事務所が必要だ。
とは言ってもシラトリ区の賃貸は尋常じゃないほど高い、私のようなぺーぺーサボり魔元刑事に良い土地が用意出来るはずもなく……
「お邪魔します」
ぎいい、と鳴る扉を開き恐る恐る部屋の中を覗く。
「んみゃあ、あんまり防音設備は整ってねえですので叫ぶと隣の隣の隣、そのまた隣まで聞こえますのでご注意を……」
「ええ、私は静かな所が好きなので大丈夫かと」
「んみゃ、そうですかぁ……それじゃ」
そう言って大家の老婆は立ち去り、中に入ると……
「ひゃあ」
埃と蜘蛛の巣まみれの部屋、スプリングがはみ出したソファー、数十年前のブラウン管テレビ、隙間風が零れる程脆い木造の床と壁。
(まるで肝試しに来たような気分ですね)
しかし日当たりは良いらしく、カーテンを上げると日差しが差してくる。
「ああ、忘れておりました」
「このビルは貴方以外の方は私しかおりませんでした、あっひゃっひゃっ……」
「それはそれは」
……さて、まずは掃除でも始めるとしましょうか。
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「……はぁっ!?サーモバリック爆弾が盗まれたァ!?」
怒声に似た声が公安局に響く。
━━━某日。
テロリストのアジトを発見した公安局はそのアジトに踏み込み、およそ総勢1トンに及ぶ大量のサーモバリック爆弾を発見した。
それら全ては押収され、公安局内の押収管理課で保存されるか廃棄されるはず━━━
だった。
「ンな馬鹿な事あるかァ!1トンだぞ!1トン!大体200個くらいだ!」
「で、でも……本当に無いんですよ!!」
「一晩で、警備を掻い潜りながら1トンを運べる訳がないだろぉ!?……今すぐそこに行くから待ってろ!」
「…………あーーー!絶対今朝四つ葉のクローバー見つけられなかったせいだ……サーモバリック爆弾1トンが消えるのは流石にヤバいって……」
一時的に押収管理課で保存されていた総勢1トンあるサーモバリック爆弾は一晩で全て消えてしまい、行方を消した。
「……マジで、何処に消えたの?」
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「……くかー……むにゃ……」
「……こら、コノカ副局長……聖ヴァーツラフの王冠被っちゃダメですよぉ……」
「……ああっ、カンナ局長……ムラサキカガミを20歳まで覚えちゃダメです……死んじゃいます……」
「……すやぁ……」
……私が一人でこの埃まみれの場所を掃除できるとでも思いましたか?
ハッハッハ、出来ると思っていた貴方はまだ「シラトリ区のダメ探偵」初心者です。
ジリリリリン!ジリリリリン!
「わっひゃぃ!?……電話……」
ぽんと床の上に置かれた受話器を拾い上げ、もしもしと聞く。
「も、もしもし……ヒミコ刑事……ですか?」
聞こえたのはか弱い声……自信の無さそうな声の生徒だった。
ヒミコ刑事━━━と呼ぶ辺り、ヴァルキューレの生徒だろう。
「あの、私……ヴァルキューレ公安局押収管理課のチズコと申します……その、お時間よろしいでしょうか……」
「ええ、構いませんよ」
「その、この前テロリスト集団のアジトを捜索してサーモバリック爆弾を1トンも押収したんですよ」
「そのサーモバリック爆弾は公安局の押収管理課に置かれてて、絶対に誰も盗んだり出来ない状況だったのに……」
「……今朝、サーモバリック爆弾が全て消えてて……」
サーモバリック爆弾、1トンが全て消えた。
一晩で、厳重な警備を掻い潜って……
正直素人には信じられない、そんな事は物理的にありえない。
だが……消えたのだ、綺麗さっぱり。
「それで、ヒミコ刑事に一度現場を見て欲しくって……」
「私は刑事を辞めました、今はしがない探偵です」
やんわりと否定するも、チズコ氏は食いつく。
「……それなら、ヒミコ探偵に見て欲しいんです」
後輩の一年生なら私を頼る事なんて無いはずだ。
……では、まさか?
「待ってください、貴方、何年生ですか?」
「三年生の押収管理課課長の……佐王寺チズコです」
そう、食らいつかれれば仕方ない。
私はため息を吐きながら立ち上がり、その提案を受け入れた。
「……仕方ないですねえ、今から行きますので少々お待ちください」
「あ、ありがとうございます……!」
(……やれやれ、1トンですか)
兎にも角にも現場を見に行かなければどうしようも無い。
トレードマークの帽子を被って、私は扉を開いた。
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「だから、なんで警備体制に異常ないのに盗まれてんだよぉ!?」
「わ、分かりませんよぉ……」
倉庫のような広さの押収物管理室でコノカの怒号が木霊する。
警備体制には特に問題が無く、不審者一人もいなかった……という事実がコノカに重くのしかかった。
「カンナの姉御は今日休みだし……あーもうどうしよう……」
「こ、コノカ副局長……」
「んぁ?どした?」
一人の気弱そうな生徒が悩むコノカに話しかける。
「そ、その……ヒミコさんを呼んでみたのですが……」
「ヒミコちゃんを?なんで?」
「……その、ヒミコさんなら解決してくれるかもって思って……」
「ヒミコちゃんがー?……ヒミコちゃんが……かぁ」
納得とも、疑問とも取れない声。
コノカは頭を掻きながらうーむ、と悩み続けていた。
「コノカ副局長は知らないかもしれないですけど、昔ヒミコさんはこういう時犯人のトリックを言い当ててたんですよ」
「あのヒミコちゃんが……かぁ、確かにあたしヒミコちゃんと一緒に現場行った事ないかも」
「で、ですので!どうかヒミコさんに現場を見せてあげてくれませんか?」
「うん、いいよー……ま、それはそれとしてあたし達もサーモバリック爆弾の行方を探すぞ」
「は、はいっ!」
バタバタと部下の全員が証拠を探しに、走り去る中コノカは葛藤していた。
(……しょーじき、あんまり信じられないなあ……でもヒミコちゃんのあの時の目はマジでやる気っぽかったし……)
そう悩んでいると、一人部下の生徒がコノカの元に走ってきて一言。
「コノカ副局長!ヒミコさんが……」
「おーし、入れたれー」
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「お久しぶりです、コノカ副局長」
「久しぶりって……一週間ぶりでしょ?」
「ジョークですよ、ジョーク……さて、総勢1トンのサーモバリックが盗まれたらしいですね?」
はっはっは、とケラケラ笑っているとコノカ副局長は怪談をする時のようにおどろおどろしく詳細を話す。
「そう、しかも一晩で、数にして大体200個くらい、一個5kgでさー……ヒミコちゃんもこのトリックは分かんないっしょ?」
「見ない事には分かりませんが……ここがその?」
「劇物押収管理室」
劇物押収管理室。
キヴォトスでは違法な武器、爆弾、兵器が多くある。
そんな違法な兵器が治安組織のヴァルキューレに押収される事は珍しい話でもなく、多くの兵器が押収される為他の管理室よりかなり広く作られている。
そした今回のサーモバリック爆弾もその一つで、屋内で使用すれば凄まじい効力を発揮する。
そんな凄まじい兵器なので、勿論多くの自治区、学園で禁止されており無論シラトリ区でも禁止されているのだ。
「この部屋の監視カメラは?」
「よくぞ聞いてくれました!……どうやらこの部屋とキッチン、そしてそこに繋がる廊下が電子ハッキングされたみたいでデータがパァ!」
「となるとキッチンには何も証拠は無いと」
「そ、なーーーんにも無かった!」
監視カメラはハッキング済み……しかし、キッチンというのがどうも引っかかる。
「……キッチンに行きますよ」
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キッチンに辿り着くも、キッチンはおかしい所も何も無く、ただただ清潔だった。
ただ、一つの違和感を除いて。
「ま、普通のキッチンだわな、鑑定が色々と探し回ったけどなんも無かったぞ」
「少しドブ臭いですね」
「……まあ確かにちょっとだけくせーけど……気のせいじゃね〜の?」
微かに不愉快な臭いがする。
ほんの微かに、鼻をつんざくような……
「生ゴミのような、まるで……」
生ゴミのような臭い。
しかし、こんな場所で生ゴミが……
「……生ゴミ……?」
稲妻が走る。
「……なるほど、分かりました」
私はコノカ副局長の方を見て一言。
「ドブだ」
「ちょっ、唐突な悪口やめろよ!?」
「貴方の事ではなく……そう、犯人が侵入した経路、そして何処から逃げたのか……全てはこのキッチンに繋がっています」
「はぁ!?」
「やァ、どうもヒントがあれば簡単な話ですよ」
歩きながらキッチン━━━の隣にある倉庫の扉を開き、床にある丸い蓋を指す。
「ここのキッチンは公安局だけではなく、生活安全局や警備局、ヴァルキューレ警察学校の全ての食事を作っています」
「そんな場所なのでゴミ袋にわざわざ生ゴミや残飯なんかを捨てる訳にもいかない、凄まじい量ですからね」
「その為、この倉庫には生ゴミや残飯なんかを捨てる為に下水道に直結しているマンホールがここにあります」
「……まさか!?」
「そしてこのキッチンは押収管理室からかなり、近い場所にある……となると、犯人はここから侵入した可能性が高いです」
「少しだけ下水のような臭いがしたのも、犯人が下水道から侵入したから、そうなれば一晩で250個の爆弾を運ぶのも簡単でしょう」
「一人10個は持てるし、数人で運べばあっという間だな」*1
「シラトリ区の下水道は広い、ちょっとした小型ボートが2、3台あれば運ぶ事も容易です」
犯人は下水道からこのキッチンに侵入し、押収管理室へ。
そのまま爆弾を持ち去り、小型ボートで逃走……
「……すげーーー!!!!ヒミコちゃん、本当に謎を解いちゃった!!!」
「コノカ副局長、周辺地域の監視カメラを確認して下さい、恐らく一部のカメラにボートが映っているはずです」
「りょーかいっ!!」
(……しかし、1トンのサーモバリック爆弾を何の為に……)
(それに、何故公安局の間取りをこう深く知っている?監視カメラと言い、何処かに漏れている可能性が高い……)
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「すごい……本当に謎を暴いちゃった!」
影でヒミコを見ていたのは……押収管理課課長の佐王寺チズコとその同級生の生徒。
チズコは興奮しながら目を見開いて、語る。
「そ、そうだよ……アレが伝説のスケバンと慈愛の怪盗を捕まえた生徒……」
「……ヴァルキューレの獅子、五十嵐ヒミコ……」
「でもそれならなんでいっつもサボってたの?」
「ひ、ヒミコさん……昔、カンナ局長と喧嘩しちゃって……それからずっとあんな感じで……」
「ヒミコちゃんとカンナ局長、そんなに仲悪そうじゃなかったよね?」
「喧嘩はしたけど、すぐ仲直りして……でもヒミコちゃんは何だか燃え尽きちゃったみたいで」
「なんだか勿体ないなー」
「……で、でも今のヒミコちゃんの瞳、凄く……昔に似てる……!」
━━━佐王寺チズコ
公安局押収管理課課長の三年生。
気弱な性格で、押しに弱い。
だが立派な正義感の持ち主でもある。
昔、カンナの補佐をしていた。
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