屋根ゴミ、キヴォトスに赴任する   作:シャザ

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この物語はフィクションである。
作中の如何なる人物、思想、事象。その全ては貴方の現実に実在する人物、思想、事象とは無関係だ。
以上の事に同意した場合にのみ、この物語の閲覧を許可しよう。












では、これから語るのは青春ともう一つの自分に目覚めた者たちの物語だ。


プロローグ・表 シャーレの雨宮先生、来訪

「私のミスでした。私の選択、そしてそれによって招かれた全ての状況。……こんな結末を辿ってしまって、初めてその間違いに気づくだなんて…」

 

 『彼』の目の前に、不思議な雰囲気の少女が座っている。少女の身体からは大量に血が流れ、白かったであろう制服はところどころ赤く染まっていた。

 

「……図々しいかもしれませんが、後はお願いします『雨宮先生』。きっと起きた時には…私の言葉は覚えていないでしょうけれど。…大丈夫、貴方ならきっと同じ状況で同じ選択をされるでしょうから」

 

“同じ選択…”

 

「はい。重要なのは経験ではなく、選択。貴方が望み、選んだ道。……以前、責任を負う者について話した事がありましたね。……あの時はわからなかったけれど…今は理解できます。大人が負うべき責任と義務、汚い悪意に晒されながらも自身の為すべきことをやり遂げた、貴方の選択。……私が信じられる大人である貴方になら、きっと…」

 

 少女はコホッと血を吐いた。今にも事切れそうな状態の彼女は、それでも目に強い光を宿している。

 

「………この、捻れて歪みきった結末とは違う、別の結果を迎えられると…信じています。だから、先生……」

 

 

 

『おい、起きろジョーカー!!』

 

“!!?”

 

 少年のような声で怒られて、彼は目を覚ます。

 

『オマエなぁ、寝不足だからって人の話を居眠りしながら聞くなよ…』

 

“……モルガナ、すまない…。それで、何の話だっけ”

 

 青年はバッグの中にいる相棒…黒猫《モルガナ》に話しかける。バッグのファスナーから顔を出して相棒はため息をついた。

 

『ワガハイじゃなくてリンに謝れよ!』

 

“………リン?”

 

 コホンという咳払いが聞こえ、青年は目の前にいる大人びた雰囲気の少女に目線を向ける。その頭上に奇妙な輪のようなモノが見え、青年は一瞬だけ目を見開いた。

 

「……もう一度自己紹介が必要なようですね。私は七神(なながみ)リン、学園都市《キヴォトス》の連邦生徒会の幹部です。そして…おそらくあなたはここに赴任してきた先生…だと思われるのですが……」

 

“《キヴォトス》…聞き覚えがあるような、ないような…”

 

「…混乱されているようですね。ですが今は私についてきていただきたいのです……今、あなたにはやっていただくことがありますから」

 

 リンについていきエレベーターに乗ると、窓には東京に劣らないほどの大都市が広がっていた。青年がしばらく風景を見ていると、モルガナが引きつった声を出す。

 

『……オイ、今なんか爆発みたいなの見えたぞ…』

 

“……気のせいじゃないか?”

 

『いや絶対見間違いじゃねぇって!』

 

「このキヴォトスは数千の学園が集まってできた学園都市です。……現在、このキヴォトスに大きな危機が迫っています。私が所属する『連邦生徒会』の長である連邦生徒会長が失踪してしまったのです」

 

“失踪とは穏やかじゃないな。何か書き置きのようなものは残されていないのか”

 

 リンは首を振って否定する。

 

「そういったものは何も…。……あぁ、着きましたね」

 

 チン、という音と共にエレベーターが停止し、部屋を訪れた一行を待っていたのは服装がバラバラの少女たちであった。そのうちの青い髪の少女が眉間に皺を寄せながらリンに詰め寄る。

 

「あ、やっと来たわね代行!アンタのところの連邦生徒会長はどこ!?………って、あれ?その人は…」

 

 困惑の表情を浮かべる彼女に、青年はニコッと微笑んだ。

 

“雨宮蓮です、よろしく”

 

「ええっと、よろしくお願いします。私は早瀬(はやせ)ユウカ、ミレニアムサイエンススクールのセミナー所属です。……って、そんなことは別に問題じゃないんです!代行、あのスーパーウーマンは何処に行ったの!?数週間前から連絡も取れないなんておかしいわ!」

 

 ユウカはリンに連邦生徒会長の行方を聞くが、リンはため息をつくばかり。ユウカの言葉を呼び水にしたのか他の少女たちも抗議を始めた。

 

「風紀委員長が連邦生徒会に対して納得のいく回答を要求されているんですよ。連邦矯正局に収容されている囚人生徒が脱走したという情報もあります!」

 

「スケバンが登校中の生徒に襲撃をかけているんです、治安維持が難しくなっています」

 

「数千の学園自治区がとんでもないことになってるのよ!?うちの風力発電所もオジャンになったわ!」

 

「戦車やヘリコプター、何処から流れてきたかもわからない銃火器の不法流通も2000%以上増加しました。流通量の表と裏が入れ替わっては、学園生活をまともに送れません」

 

“(今、戦車って単語が聞こえたような……)”

 

 蓮は聞き間違いでいてほしかった。一方のリンは冷静に事実を告げる。

 

「……申し訳ありませんが、連邦生徒会長は行方不明です」

 

「……え」

 

「現在、連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。『サンクトゥムタワー』の最終管理者である連邦生徒会長が失踪したわけですから。……これを解決するには、先生の力が必要です」

 

「……先生って、もしかしてそこにいる人ですか?……一体彼に何をさせようと…いえ、そもそも先生と言いましたが、いったい何処に赴任してきたのですか?」

 

「…紹介します。彼はキヴォトスの外からやってきた、雨宮蓮先生です。先生…といっても特定の学園に所属するわけではありません。彼は連邦生徒会長が直々に立ち上げたとある部活の担当顧問…。名を、連邦捜査部『シャーレ』といいます。一種の超法規的機関であり、先生が望むのであればどんな学園の生徒でも所属が可能、さらに各学園での戦闘活動を制約なしで行うことも許可されています」

 

「「「!!??」」」

 

 そのとんでもない無法っぷりに少女たちはざわめきだす。黒髪ロングの少女が冷や汗をかきながらリンに詰め寄った。

 

「せ、制約無しで…戦闘…!?そんな権力をぽっと出の大人に与えるなんて…連邦生徒会長はいったい何を考えているのですか!?」

 

「……わかりません。ですが今はこれを最大限利用するのが最善だと、私は考えます。……モモカ、聞こえていますか?」

 

 リンが端末に声をかけると、ピンク色の生意気そうな女の子の立体映像が映し出される。

 

「はーい、どしたの先輩?」

 

「シャーレの部室まで行きたいのですが、今どうなってますか?」

 

「………シャーレの部室ぅ…?ああ、外郭地区の?大変なことになってるからやめといたら?矯正局から脱走した悪ガキ連中が暴れてて、このままじゃぺんぺん草も生えないくらいの真っ平(まったいら)。マジで近づかない方がいいよ!こっちはお昼のピザが届いたからランチタイム、三十分は食べるのに忙しいからかけ直さないでねー」

 

 ピッという音とともに消えた立体映像に青筋を立てながら、リンは極めて冷静に努めようとする。

 

「………と、いうわけです。皆様にはシャーレの部員として馬車馬の如く働いてもらいます。具体的には矯正局から脱走した囚人を突破してシャーレの部室まで先生を怪我一つなく護衛してください」

 

「……急ですね」

 

「一刻も早く向かわなければ先生に瓦礫に包まれた場所で仮設テントを建ててもらうことになります。……さすがにそれはあんまりでしょう?」

 

 

 急造シャーレの面々は外郭地区に向かう道中で蓮に自己紹介をする。白い髪の少女はトリニティ総合学園の自警団の守月(もりつき)スズミ、髪色も服装も身体から生えているらしい翼も漆黒で色々大きい少女は同じくトリニティ総合学園の治安維持組織『正義実現委員会』所属の羽川(はねかわ)ハスミ、眼鏡をかけていて生真面目そうな少女はゲヘナ学園の風紀委員会所属の火宮(ひのみや)チナツ。

 自己紹介を終えてシャーレの部室近くまでやってきたシャーレ一行は不良生徒と戦闘を開始する。ユウカは眉間にしわを寄せながら自身のSMG(サブマシンガン)の弾を敵に叩き込んだ。

 

「あーもう、どうしてこんなことに!」

 

「サンクトゥムタワーの制御を取り戻すためでは?」

 

 チナツに正論を言われ、ユウカはため息をつく。

 

「そうなんだけど!私ミレニアムだとそれなりの扱いなんだけど!?なんで私が鉄火場、に…」

 

 ユウカは文句を続けようとするが、腹部に銃弾が命中し顔を歪めた。蓮は撃たれたユウカに駆け寄る。

 

“ユウカ!?”

 

 彼は一瞬手を顔に触れさせるが、そこにあるものが仮面ではなく伊達眼鏡であることを思い出す。一方のユウカはまだまだ元気そうに悪態をついた。

 

(いった)ぁ…!あいつら違法JHP弾使ってるじゃない!」

 

「ユウカ、ホローポイント弾は違法指定されてないはずですが…」

 

 ハスミの言葉にユウカはさらに機嫌が悪くなった。

 

「トリニティじゃ合法でもミレニアムでは違法になるの!コレ身体に傷跡残るから嫌なのに…!」

 

“(ホローポイント弾って結構殺傷力高い弾丸じゃなかったっけ…)”

 

「ハスミさん、先生にはヘイローがありませんからホローポイント弾どころか普通の銃弾でも致命傷になります。できるだけ後方に下がってもらいましょう」

 

「そういうことなので、ぜっったいに前に出ないでくださいね!フリじゃないですよ!?」

 

 そう言われた蓮であったが、不敵な笑みを浮かべて答えた。この程度の鉄火場など、自分が彼女たちと同じ年ごろに何度もくぐり抜けている。

 

“それもまた一つの選択だが面白くないな。みんな、今から私の指示に従ってもらえるか”

 

「え、ええ!?雨宮先生戦術指揮の心得があるんですか!?」

 

 困惑するユウカの隣でチナツは素直に頷いた。

 

「わかりました、生徒が先生に従うのは当然のことですから。よろしくお願いします」

 

 その後、連の的確な指示を受けたシャーレ一行は不良たちをあっという間に制圧した。異世界で襲ってくるシャドウたちに比べれば、不良など可愛いものだ。

 懸念があるとすれば…不良たちの中にひときわ目立つ、狐の面を付けた少女だった。彼女の名は狐坂(こさか)ワカモ。元々百鬼夜行連合学院という学校の生徒だったが問題を起こし停学、矯正局に収監されていた。彼女は複数の凶悪囚人とともに脱獄し、不良たちを扇動した今回の事件の黒幕なのである。

 シャーレは彼女と交戦したが、軽くあしらわれたあげく逃走されてしまい確保することはできなかった。しかし、それはワカモが邪魔をしてこなかったということでもある。結果として蓮たちは大きな怪我もなくシャーレの部室へとたどり着いた。

 

“リンさん、部室の奪還に成功した”

 

「……リンで構いませんよ。では私ももうすぐそちらに行きます、建物の地下で合流しましょう」

 

“ああ、わかった”

 

 しばらく歩き、蓮はカバンの中のモルガナに話しかけた。

 

“モルガナ、ついたぞ”

 

 カバンからにょきっと顔を出したモルガナは自分のことのように喜んだ。

 

『おお、やっとか!流石ワガハイの相棒、見事な指揮だったぜ』

 

“もっと褒めてくれてもいいんだぞ?”

 

『だからって調子に乗るんじゃねぇっての!…ったく、何年も一緒にいるがそういうとこは全く変わってねーなぁ…』

 

 とぼけた言葉を言う蓮にモルガナは苦笑いする。蓮はリンと合流するために地下へ足を運んだ。

 

 

 一方そのころ、シャーレの地下ではワカモがシャーレの備品である《クラフトチェンバー》を眺めていた。彼女はシャーレが大切に保管しているなにかを破壊しようとシャーレの部室に侵入していたのだ。

 

「……うーん、どれだけ撃っても傷一つつきませんね…。これでは目的を果たせそうに……。……!そこにいるのは誰です!?」

 

 ワカモは銃口を扉の付近に向ける。何者かの気配を感じたからだ。

 

「………大人しく出てきなさい、さもなくば痛い目に遭ってもらいますわよ?」

 

「にゃーん」

 

 隠れていた黒猫がデスクの上に乗る。出てくるのはシャーレの部員だろうと思っていた彼女は、自分の予想が外れてきょとんと首を傾げた。

 

「……猫?なぜこんな場所に…」

 

 ワカモは猫に一瞬気を取られてしまい、自身の背後に音もなく忍び寄る誰かに気づくのが数秒遅れた。……蓮は彼女の仮面に手をかける。こうなってしまえばあとは簡単、相手が驚いている間に仮面を剥ぐだけだ。

 

「な、何者です!?」

 

“さあ、正体を見せろ!”

 

 蓮は勢いよく仮面を剥がし、バックステップで離れる。振り向いたワカモの顔は怒りで彩られていたが、蓮の顔を見て動きを止める。

 一見目立たないが整った顔に浮かべる不敵な笑みに少女は見惚れてしまったのだ。平たく言えば一目惚れ、というやつである。

 

「あ、その、えっと……」

 

“こんにちは、お嬢さん。私は…”

 

 自己紹介をしようとした蓮は顔を真っ赤にするワカモに怪訝な顔をする。先ほどとは違う理由で顔を赤くした彼女は懐からスペアの狐の仮面を取り出し顔を隠した。

 

「し…失礼いたしましたー!!」

 

 逃走する彼女にあっけにとられた蓮は、モルガナの方を見て困った顔をする。

 

“逃げられちゃったな”

 

『…なあレン、なんでアイツ逃げたんだ?銃だって持ってたし銃剣も付いてたんだから襲ってくると思ったんだが…』

 

“さあ。次に会った時にでも聞いてみるよ”

 

 しばらくすると小走りでリンがやってくる。

 

「お待たせしました。……なんですかその顔は」

 

“いや……途中で誰かすれ違ったりしなかったか?”

 

「いえ…」

 

“ならいいんだけど。たしかサンクトゥムタワーの制御権とやらを取り戻すんだっけ”

 

「ええ、この地下室には連邦生徒会長が残した物が保管されています。……少々お待ちを」

 

 リンはデスクから板のようなものを取り出すと安堵の息をついた。

 

「……よかった、傷一つないようですね…。受け取ってください、雨宮先生」

 

 リンが手渡してきたものはタブレット端末だった。家電量販店に行けば何処にでも売ってそうなシンプルなデザインである。

 

“これは……タブレットか?”

 

「はい、これが連邦生徒会長が先生に残した物。《シッテムの箱》です」

 

“……普通のタブレットに見えるが”

 

「ええ、何も知らなければ私だってそう思います。……ですが、製造会社やOS、その中身すら全て不明なタブレットはどう考えても普通ではありません。……連邦生徒会長は先生が持っているべき物であり、先生がタワーの制御権を回復させるために必須だと言っていました。……恐らく、先生ならば起動できるかと」

 

“……と、言われてもな…”

 

 蓮が《シッテムの箱》を受け取ると、まるで主を待っていたかのように画面が明るくなった。そこに書かれている文章はたったの一行。

 

『システム接続パスワードをご入力ください』

 

“ん………”

 

 蓮には全く心当たりがない。とりあえず適当に入力してみようと彼が入力画面に移った時、奇妙なことが起こった。

 指先が自分の意識と関係なく動いたのである。それは慣れ親しんだパスワードを手癖で入れる感覚に似ていた。

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 パスワードを入れるとタブレットはすぐに反応を示した。

 

『接続パスワード承認。現在の接続者情報は雨宮蓮、確認できました。……《シッテムの箱》へようこそ、雨宮先生』

 

“(………入れてしまった…)”

 

『生体認証および認証書の作成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します』

 

“………あろな?”

 

 蓮が首をかしげるとタブレットから大きな光が放たれる。思わず目をつむった蓮が再び目を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。

 天井や壁が破壊された教室、机やら椅子が積み重なったオブジェ、綺麗な青空。そして机で居眠りしている女の子。呆然とする蓮に足元から困惑するモルガナの声が聞こえてくる。

 

「な、なんだここ…?ワガハイたちはどうなったんだ!?」

 

“…!!?モルガナ、その姿は…”

 

「……ん?うおお!?なんか久しぶりにこの姿になった気がするぞ…」

 

 モルガナの姿は黒猫のそれではなく、二頭身のマスコットみたいな変な生き物に変わっていた。異世界で心の怪盗団として活動していた時のものだ。

 

「どーなってんだよ一体…」

 

“その姿懐かしいな”

 

「猫の姿に慣れすぎて違和感がヤベェ…。……まぁ、それは後でいい。問題はそこで寝息立ててるヤツが敵か味方かってことだ」

 

 二人は眠っている少女に視線を向ける。

 

「………くぅ…むにゃ。カステラにはバナナミルクが最高…うひひ…♪」

 

“なんかすごく呑気な寝言だな…”

 

「寝てるフリかもしれないぜ?こんな場所で眠りこけてるのが普通の女の子だとは思えないしな」

 

“……そうだな。少し警戒はしておこうか”

 

 蓮は少女の肩を優しく揺する。

 

「ふへへ、まだまだありますよぉ……」

 

“授業中ですよー”

 

「………むにゃ?」

 

 どうやら本気で寝ていたらしい少女はむくっと起き上がり目を擦る。声の聞こえた方向…蓮の顔を見た彼女はパチパチと瞬きする。

 

「へ、ありゃ?え、あれ!?えええ!?あ、あの…もしかして雨宮先生ですか!」

 

“そうだけど、きみは誰?”

 

「わ、わー!ちょっとまって、落ち着きますから!えっとその……あ、自己紹介からしなきゃ!」

 

 少女は深呼吸しながらぴょんと跳ねた寝癖を直し、自己紹介をする。

 

「私はアロナ!このシッテムの箱に常駐するシステム管理者兼メインOS兼先生のアシストをする秘書です!コンゴトモヨロシク、です!」

 

 アロナの自己紹介に蓮とモルガナは首を傾げる。

 

「……メインOSぅ?……要するにソフィアみたいなもんか?」

 

「…………?……うわ―――!?なんですかこの猫みたいな生き物は!?何処から入ってきたんです!?」

 

 アロナは珍妙なナマモノにビックリした様子だった。モルガナはあんまりな言いぐさに憤慨する。

 

「失礼なヤツめ!自分をOSとか抜かす小娘よりはマシな存在だぞ!……たぶん」

 

“アロナ、彼は私の相棒のモルガナ。…悪い奴ではないからぜひ仲良くしてほしいな”

 

「わ、わかりました…。……雨宮先生、私はあなたが来る日をずっと待ってました。今の私は色々未熟者ですが、これから一生懸命頑張りますね!」

 

“うん、よろしく”

 

 蓮の言葉を聞いてアロナは恥ずかしそうに頬を染める。

 

「ええっと…そうだ!ではまず生体認証を行いますね!ちょっと気恥ずかしいですけど、規則なので!」

 

 アロナは蓮のそばに近寄ると人差し指を立てる。蓮が?マークを浮かべているとアロナは説明を始めた。

 

「さあ、私の指に先生の指を当ててください」

 

“……こんな感じ?”

 

 人差し指を合わせると、アロナはにっこり頷いた。

 

「はい、そんな感じです!……なんだか、指切りして約束してるみたいですね」

 

“……どっちかというと前に見た宇宙人との交流シーンに似てるような…”

 

「ああ、本家もパロディしたクソ映画の方も見たな…。クソ映画の方は宇宙人を火炎放射器で消毒するひっでぇオチだった……」

 

「パロディなんてあるんですかあの名作…?」

 

“根気が上がるタイプのクソ映画だった。ハッキリ言って人に勧めるのもためらうレベル”

 

「へー…。……はい、これで完了ですよ!」

 

 アロナはクソ映画の話題を記憶から完全に消去してから指を離す。

 

「どうです先生!これがシッテムの箱の最新防犯システムの指紋認証ですよ!」

 

“……割とメジャーな方じゃないかコレ?”

 

「…………ソ、ソンナコトナイデスヨー?」

 

“目をそらすな”

 

 半壊した教室に気まずい空気が流れた。

 

「………ま、まあそんなことはどうでもいいんです!大切なのはユーザー認証が完了したことでサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会長から引き継げるってことですから!」

 

“そうか、ここまで長かったな…”

 

 そこまで言ってから、蓮はふと疑問が脳をかすめた。……蓮たちは彼女にそこまで説明しただろうか?そんなことを思っているとアロナは微笑みながら蓮に言った。

 

「……先生、サンクトゥムタワーの制御権を回収できました!それで、これからどうしますか?今、サンクトゥムタワーは(アロナ)の統制下にあります。……つまり、今の雨宮先生はこのキヴォトスを完全にコントロールしているということです!」

 

“………コントロール、か。要するに…自分にキヴォトスを支配してほしいってことか?”

 

 蓮はしばらく考え込んでいたが、やがて首を振って否定する。

 

“アロナ、私は支配に興味はないんだ。……制御権を連邦生徒会に譲渡できる?”

 

「……!」

 

「……へっ、オマエならそう言ってくれると思ってたぜ」

 

 驚いて目を白黒させるアロナとは対照的に、モルガナは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「………わかりました。それが雨宮先生の選択だというのなら、私も連邦生徒会を信じてみたいと思います」

 

 

 ふと気が付くと、蓮たちはシャーレの地下へと戻ってきていた。……いや、戻ってきていたという表現は正しくない。……()()()()()()()()()()()()()のだから。

 そこそこの時間を過ごしたかのようだったが、実際はパスワードを入力して十秒も経っていなかった。

 

“……リン、サンクトゥムタワー制御権を連邦生徒会に移動させた”

 

「本当ですか!……よかった、これなら連邦生徒会長がいたころと同じように行政管理を進められます。お疲れさまでした、先生」

 

“ああ、リンもお疲れ”

 

「ここを襲撃してきた不良グループについてはお任せください、できる限り迅速に討伐します。……では、《シッテムの箱》も無事に渡せましたし、あとは雨宮先生にシャーレをご案内してから帰りますね」

 

 リンが案内したのはシャーレのオフィスであった。定期的に掃除はされていたのかルブランの屋根裏部屋よりもキレイに整えられている。

 

「ここが、シャーレの部室です。まずはここで先生のお仕事を始めるのがいいでしょう」

 

“それはいいんだが…まずは何をするべきなんだ?”

 

「シャーレには権限はあっても目標はありません。先生はどの自治区にも行くことが出来ますし、その自治区にいる生徒を自由にシャーレの部員として加入させることも可能です。……もちろん、生徒の自主性は尊重してもらいたいですが……」

 

“もちろん、じゃあリンもシャーレの部員になる?”

 

 蓮の勧誘にリンは一瞬目を丸くするが、彼女はため息をつきながら眼鏡を直す。

 

「……はあ、申し訳ありませんが私は連邦生徒会長を探すので手一杯です。ですので、雨宮先生にはキヴォトスのあちこちで起こる問題に対処してほしいのです」

 

“わかった。私にできることなら頑張らせてもらうよ”

 

「はい、それではごゆっくり…。……必要な時には連絡させてもらいますね、先生」

 

 そう言うとリンはシャーレの部室から退出する。蓮はリンが出ていくのを見届けてから椅子に座った。

 

“……モルガナ、今日はなんだか長く感じたな”

 

『そうだな、とんでもねぇとこに来ちまったような気もするが…タイクツはしないで済みそうだぜ』

 

“こうしていると、なんだかルブランにいた頃を思い出すな。軽く掃除したら早めに休もうか"

 

 蓮の言葉にモルガナはにゃふふと独特の笑い声を出す。

 

『ご主人には色々お世話になったなぁ…。オマエも頑張ってあれくらいカッコイイ大人を目指そうぜ』

 

“無茶ぶりなのか本気で言ってるのか判断に困るな”

 

 シャーレの部室が片付いた頃には、あたりはすっかり夜になっていた。

 

“流石に疲れたな”

 

 蓮がそう呟くと、モルガナは待ってましたとばかりにいつものセリフを吐いた。

 

『お、だいぶ綺麗になったな。…んじゃ、今日はもう寝ようぜ』

 

“ああ、明日もきっと忙しいだろうからな”

 

 適当に寝支度を済ませ、彼は眼鏡を外す。あくびを一つしてから布団の中に潜り込んだ。

 

“おやすみ、モルガナ”

 

『おう、いい夢見ろよ』

 

 そうして、雨宮蓮とモルガナのキヴォトス最初の一日が終わりを迎えたのであった。




《人物紹介》
雨宮蓮
ペルソナ5の主人公であり、今作の先生。一人称は私。学生時代の一人称は俺だったが矯正した。
一見真面目そうだが電車内でモルガナを誤魔化すために頭を連打したり「チクッ」と言ったり2/15にチョコは欲しいと抜かす愉快な人物。
……本当に愉快か?結構タチ悪くない?

モルガナ
蓮がキヴォトスの外から連れてきた黒猫。蓮とは結構長い付き合い。一部の人間は彼の言葉がわかる。
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