おかしかった部分を書き換えました。申し訳ありません
時は少しだけ遡り、便利屋68事務所でアルはそわそわと依頼主からの電話を待っていた。自分から依頼を断るのはアウトローの流儀に反するからだ。
「ねぇアルちゃん、その貧乏ゆすりやめたら?」
「こ、これは武者震いよ!」
「……どっちにしてもちょっと抑えた方がいいよ。水飲む?」
「いただこうかしら…。……はあ、相手は上役だけどこれ以上付き合いきれないわ。みんなの命は金に換えられないもの」
アルはカヨコの注いでくれた水を飲んでから、連絡が来るのを待つ。やがて、ジリリンと古いタイプの電話が鳴った。
「………はい、便利屋68です。ご用件は?」
『私だ。アビドスを潰し終えたか?』
「それが……」
アルはアビドス廃校対策委員会との戦いの一部始終を報告する。それを聞いた相手……カイザーPMCの理事は言った。
『……ふむ。興味深い報告だ。……で?練習の報告はそれくらいでいいから実戦は何時の予定だね?』
「……は?」
『予行練習でいい経験ができたではないか。次はもっと忠実な肉壁を用意しておくといいだろう』
「…………………。うちの社員を使い潰せとでも?」
『ああそうだ。部下などいくらでも代わりがいる、情なんぞクソの役にも立たない
それを聞いたアルは極めて冷静に答えようとした。しかし彼女の口から飛び出してきたのは熱せられた鉄を思わせる激怒の感情だった。
「ざっけんじゃないわよこのクズ!!!」
『………なんだと?』
「アンタがカイザーのお偉いさんでも関係ないわ、こちとら三人死にかけてんのよ!!もう二度とアンタたちの仕事は受けるもんですか!!一昨日来なさい!!」
ガチャンと力任せに電話を切ったアルはしばらく息を荒げていた。
「フゥ──……。……れいせいにかいわできたわね」
「冷静どころか激熱だったけど?」
「あー、やっちゃったぁ…。ここまで事を荒げるつもりはなかったのに……」
アルは自嘲したが、三人は首を振って否定する。
「アルちゃんは悪くないよ、ねぇ?」
「少なくともタチの悪い依頼を持ってきたのはあっちでしょ。断ること自体は事前に決めてたんだから、これ以上考えるのは時間の無駄だよ」
「あ、アル様……これからカイザーPMCのビルに爆弾を仕掛けに行きませんか…?わ、私もう我慢の限界です許せません…!!」
ハルカの目が狂気に彩られだしたので、アルは慌ててなだめた。
「だ、大丈夫よハルカ!とりあえず依頼は断ったし、もうアビドスの子たちと戦う必要もないわ。カイザーにカチコミに行くのは後回しにしましょ?」
「うぅ……」
「まあカイザーの依頼キャンセルしたせいで一文無しが確定してるんだけどねー。どうするのアルちゃん、このままじゃ普通にヤバいよ?」
アルはハルカの頭を優しく撫でながら悩んでいたが、観念したのかため息をついてこれからの方針を決定する。
「……こうなったら銀行に融資してもらうしかないわね…」
「アルちゃん銀行のブラックリストに載ってるから無理じゃん」
「ちーがーいーまーすー!私は指名手配で口座が凍結されただけ!風紀委員会め、よくも私の口座をカチンコチンに冷やしてくれたわね!?」
「あはは、冷凍チキンみたいになってる!」
「うぐぐぐ……中央銀行がダメなら闇銀行よ!必ず融資をもぎ取ってやるわ!」
「なんだと言うんだ…。部下を使い潰すなぞ何処でもやっていることだ、しょせんはガキの集まりだな」
アルに電話を勢いよく切られ、カイザー理事は呆れた様子で畜生発言を零す。それを横で聞いていた黒服は楽しそうに笑い声を漏らした。
「ええい、笑うな!それより貴様、データを隠していたな!?」
「いえ、データに不備はまったくありませんとも。砂狼シロコのペルソナ……仮にXとでも呼んでおきましょうか。過去に同じXが発現したペルソナ使いはいません。アルカナタイプが死神のペルソナ使いは強力な力を有していますが、希少でしてね。データが揃っていないのですよ」
「フン……あれだけばら撒いても死神を引き当てることはできなかったというわけか。だがどういうわけだ?連中は愚かだがアビドスを制圧することは可能だと思ったのだが…結果は御覧のざまだ」
理事は再び戦闘結果を計算する。データ上では廃校対策委員会と便利屋68の戦力はほぼ拮抗しており、どちらが勝ってもおかしくない。
「では、少しアビドスを調べてみましょうか。この結果が示すのはアビドスがさらに強くなったということです。何かしら原因があると見るべきでは?」
「……なるほど、一理ある」
アルは信頼する部下たちを引き連れてブラックマーケットの闇銀行にやってきた。さっそく融資してもらおうとしたアルであったが、六時間も待たされて既にヘトヘトであった。
そんな彼女に銀行員はバッサリと切り捨てた。
「えーと…ゲヘナ学園の二年、陸八魔アル様ですね。現在は便利屋68なる会社の社長とのことですが…、困りますねぇ。こんなの誰が見てもペーパーカンパニーだとわかりますよ」
「ぺ、ペーパーカンパニー!?失礼ね、ちゃんと存在してるわよ!」
「どう見ても財政破綻していますよね。たった四人しかいないのに役職を与えたり必要以上に事務所の賃貸料が高すぎたり、経営手腕は下の下です。これでは融資など夢のまた夢、申し訳ありませんがお帰りください」
「そ、そんな…」
アルは現実にうちしがれた。
(な、なんて情けない……。こんなんじゃ一流のアウトローなんてなれないわ…。こうなったら銀行からありったけの金を奪う?)
アルはそこまで考えてから首を振る。
(いや、無理ね…。マーケットガードに取り押さえられるのがオチだわ…。………こんなつまらないことに悩まされてる私なんか御免よ!私がなりたかったのは何も恐れず縛られない、ハードボイルドなアウトロー……)
「あの、話聞いてますか?我々は慈善事業じゃないんですよ、帰らないというならそれなりの対応を……」
銀行員が苛立ち始めたその時だった。いきなり闇銀行の電源が全て切られ、辺りは真っ暗になったのだ。
「な、なんだ!?」
「PCの電源も落ちたぞ!どうなって……」
混乱する闇銀行内に銃声が響く。
「ぐあっ!?」
「な!?おい、しっかr」
マーケットガードたちの悲鳴があちこちから上がり、予備電源で点いた照明が襲撃者たちの姿を明らかにする。そこにいたのは覆面と紙袋で顔を隠した五人の少女たちだった。そのうちの一人である青い覆面が叫ぶ。
「全員その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」
「言うこと聞かないと酷ーい目に遭わせちゃいますよぉ☆」
「あ、あはは…みなさん怪我したくないなら伏せてくださいね………」
「ぎ、銀行強盗!?」
「ひ、非常事態発生!」
銀行員は慌てて叫ぶが、強盗の一人がうへへと笑う。
「うへぇー無駄だよー。外部に繋がる警備システムはぜーんぶオシャカにしちゃったからねー」
「そういうことだから抵抗は無駄よ!とっとと伏せないと穴だらけにするんだから!!」
「お、お願いですからじっとしててください……あう……」
「うへへ、ここまでは計画通りだねファウストさん!さすがはリーダー!」
ピンクの覆面に言われた紙袋ことファウストは寝耳に水だったのか素っ頓狂な声を上げる。
「へっ!!?ふぁ、ファウスト?り、リーダー!?」
「ええ、あなたがリーダーですよファウストさん!ちなみに私は…」
緑の覆面はピシッと決めポーズをきめた。
「覆面水着団のクリスティーナだお♧」
「………だっっっさ!!ちょっと先輩、適当なこと言わないでよ!だいたい水着要素なんて欠片もないじゃない!?」
「そんなぁ……」
「うへぇ、ファウストさんは怒ると超ヤバいんだよー?言うこと聞かないとそりゃあもう……言葉にすることも憚られることになっちゃうんだからー」
ファウストことヒフミは強盗のリーダーに仕立て上げられて紙袋の中で泣いた。
(な、流れでリーダーになっちゃいました…こんなはずじゃなかったのに…)
そんな五人を見て、アル以外の便利屋は彼女らに見覚えがあった。顔こそ隠しているがアビドスの制服である。
「あの子たち何やってんの?」
「……便利屋を襲撃に来たわけじゃないっぽいけど…」
「………アル様??」
アルは目の前にいるアウトローたちに眼を輝かせていた。誰にも縛られず恐れることもなく、自らの信念を貫く無法者たち。まさしくアルが憧れた存在そのものだ。
「か、かっこいい……」
「………へ!?」
ムツキはまたアルが目の前にいる彼女たちがアビドスであることに気づいていないことに目を丸くする。
「あの人たち凄いわ!マーケットガードたちがものの五分で制圧されちゃった!なんて手際の良さ、なんて大胆不敵!!感動して涙が出そうよ……」
「ん、持ってるモノ全部出せ」
「ひ、ひいいいっ!!」
興奮しているアルを気にすることもなく、青い覆面を付けたシロコは銀行員を脅して集金記録を奪い取った。
「しろ……ブルー先輩!目的のブツは手に入った!?」
「とーぜん。それじゃ逃げようか」
「うふふ、アディオース!」
「に…逃がすなァ!!あいつらを全員とっ捕まえろォ!!」
蓮はシロコたちと別行動を取り、ビルの裏口の扉の前にいた。もちろん鍵がかかっているが、彼の手先の器用さなら開きっぱなしとほぼ同義である。
“〜〜〜♪”
永久キーピックでこじ開け闇銀行に侵入する。こんな簡単に侵入されるとは誰も思っていなかったのか、警備はザルだった。不意打ちで何人かを気絶させて蓮は銀行の中枢に潜り込む。
“後はシステムを全部シャットダウンして…と”
銀行内の電源が全て落ち、部屋は暗闇に包まれた。恐らくすぐに予備電源に切り替わるだろうが、その数十秒があればホシノたちが闇銀行のマーケットガードを制圧してくれるだろう。
“(さて、後はシロコたちが書類を奪えば目的達成だけど…。せっかくだしもう少し調べてみようか)”
蓮は《サードアイ》を発動し周囲を見渡してみる。鍵付きの金庫を見つけたので中を見てみると、いくつかの重要そうな書類を発見。根こそぎ掻っ払っていく。さらに探索していくと驚くべき物が保管されていた部屋を発見した。
“これは……召喚器…!?”
高そうな金品と共に数十丁の召喚器が鎮座している。この闇銀行は召喚器の売買も行っていたらしい。後で召喚器の仕組みを調べるために蓮は一つ召喚器を手に取ってから、他の召喚器をどうするか考える。しかし、ヒフミにこの闇銀行で流通しているものは全て犯罪に使われると聞いていた蓮に、これらを見て見ぬふりすることなどできなかった。
“………他は全部壊しておくか”
蓮は自作の火炎瓶(パレスなどで使っていた物とは違い本物)を取り出し新品の召喚器を破壊する。まさかこんな時に役に立つとは思わなかった蓮はマーケットガードが気づく前に銀行から退散した。
逃走した覆面水着団たちをマーケットガードが追いかける。うじゃうじゃと出てくる敵にホシノはめんどくさいなと感じて召喚器を取り出した。
「ホルス!」
《マハラギオン》で雑兵を薙ぎ払うと、ギリギリ効果範囲から逃れた敵が慌てて連絡を取った。
「ペ…ペルソナ使いが混ざっているぞ!猟犬部隊を出せ!!」
「お?」
後方から首輪を付けた不良の二人組が現れる。
「オイオイ、アタシらを呼ぶほどの連中かぁ?なんか雑魚そうだぜ」
「ケヒャヒャ、そん時は甚振って遊ぼう」
「いいな!」
不良たちは召喚器を取り出した。
「来な、《スライム》!」
「突っ込め《チョトンダ》ァ!!」
出てきたのはブヨブヨとした塊と緑色の瓜みたいな色合いのイノシシだった。
「ペルソナ使い…」
シロコは小さく呟くと、ホシノの隣に立つ。ホシノは少しだけ驚いた顔をした。
「一緒に戦う」
「……シロコちゃん。……わかった、ペルソナ使いとして最初の実戦だね」
ホシノはロングロッドを一回転させながらシロコに問いかける。
「ねぇ、ペルソナ使いの戦いで一番大切なことって何だと思う?」
「……?」
「正解は…敵の弱点をついて何もさせないまま倒しちゃうこと!」
「でも先輩…私はあの二人の弱点知らないけど…」
「大丈夫だよ、おじさんが知ってるからねぇ。あっちのぶよぶよことスライムは火炎属性が良く効くし、イノシシのチョトンダは呪怨属性に弱いからシロコちゃんが弱点をつけるってわけ!」
チョトンダの《突撃》を盾で軽くいなしながら、ホシノはペルソナを召喚する。
「燃やせホルス!」
《マハラギオン》で不良たちを攻撃すると異なる反応が返ってきた。
「うおっ!?」
「ぎゃああ!?あっちぃ!!」
WEAK 1More!
一人はダメージこそあるもののまだ動けそうだが、もう一人は転んでいるようだ。
「シロコちゃん、立っている方に《エイハ》を!」
「ん!」
シロコはロボを召喚し、立っている敵に《エイハ》を叩き込んだ。
「うぎゃあっ!!?」
WEAK 1More!
敵を全員転倒させたホシノたちはニヤリと笑う。
「今だよ、総攻撃だ!」
「わかった!」
「ちょ、まっ……」
「待たない!」
シロコは犬歯をむき出しにして獲物にバットを振り下ろした。
「ん、おしまい!」
「やったねシロコちゃん!そんじゃほかのみんなと一緒に逃げようか~」
「うん、撤退!」
ペルソナ使いを倒した二人は他のマーケットガードを倒していた覆面水着団のメンバーと合流して逃走した。
《チョトンダ》
アルカナ:剛毅 耐性:氷結 弱点:呪怨
緑色の瓜のような柄のイノシシの姿をしたペルソナ。影時間の山海経では低レベルシャドウとしても出現する。相手を状態異常にする物理属性スキルを習得しており、弱そうだからと油断していると痛い目を見ることも…。