屋根ゴミ、キヴォトスに赴任する   作:シャザ

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9話 ラインの黄金を手放せ

 追っ手を撃退した覆面水着団は覆面を脱いだ。セリカは額の汗を拭く。

 

「ふう…あっつ…!覆面とか初めてしたわ…」

 

「これだけ暴れたら道路が封鎖される可能性が高いです、急ぎましょう!」

 

「待ってください、先生がまだ戻ってきていません!」

 

 ノノミが心配そうに辺りを見回していると、上の方から蓮の声が聞こえてくる。見上げると三階建てのビルの屋上で手を振っている先生の姿があった。

 

“呼んだ?”

 

「あ、先生!どうしてそんな場所に?」

 

“これでビルを移動してたんだよ。こんな風に…ね!”

 

 蓮はワイヤーフックを器用に使い生徒たちの前に着地する。

 

「おー、凄いね先生!アクション俳優顔負けだぁ」

 

“ふふふ、まさかビルの上を飛び回ってるなんてマーケットガードも思うまい…”

 

『…でも先生は銀行強盗で裏方でしたよね?暴れまわった先輩たちはともかく先生が追われているわけではなかったんじゃ……』

 

“……そ、そうなんだけどね…。あと高所からみんなを探すのに役立ったから無駄ではなかったよ、うん!”

 

 蓮は言い訳をしながら苦笑いをする。途中から楽しくなっていたのは事実ではあるが、明言は避けておこうと思ったのだ。

 

「まあまあ、とりあえず戦果報告しようよ。先生はどうだった?」

 

“とりあえず片っ端から重要そうな書類を取ってきたよ”

 

 蓮は鞄の中から大量の書類を取り出した。

 

“この書類は徹夜で調べるとして……問題はコレかな”

 

 ついでのオマケのように取り出したのは召喚器。

 

「…それどこで拾ってきたんですか?」

 

“倉庫らしい部屋にいっぱい保管されてたんだ。……多分闇銀行は召喚器を商品として売ってたんじゃないかな”

 

「うへぇ…。なんかマーケットガードにペルソナ使いがいたし真っ黒じゃん…」

 

“そっちはどう?ちゃんと目標のブツは確保できた?”

 

 蓮が聞くとシロコは自信満々にそれを見せてきた。集金記録と……現金が大量に入ったアタッシュケースだった。どう見ても一億はくだらない金額が詰まっていた。

 

“………????”

 

「………し、シロコ先輩!?その現金盗ってきちゃったの!?」

 

「全部寄こせって言ったらなんかオマケで付いてきちゃった…」

 

「や、やったわねシロコ先輩!このお金があれば借金の返済も……」

 

「………駄目だよ」

 

 セリカの言葉をホシノが遮る。

 

「な、なんで!?この金は放置してたら悪事に使われてたのよ!?だったら好きに使ってもいいじゃない!」

 

「例えばの話をしよっか。銀行強盗で数億が被害にあったとして、被害額と変わらない金額を借金返済につぎ込んだ貧乏学生集団がいたら…かなり怪しいよね?」

 

「「「………!」」」

 

「それに、こんなことに慣れちゃったらきっと私たちは()()()()()()()よ。真面目にバイトしてる時に『この前銀行から奪った方が稼げたなぁ』って思考が頭をよぎるようになる。……おじさんは可愛い後輩にそうなってほしくないなぁ」

 

 ホシノの言葉を聞いた対策委員会の面々はハッと何かに気づいた顔をする。

 

「……そう、ですよね。こんな金を使うくらいなら、最初から私のゴールドカードを使えばいいだけなんです。でもそれは問題の解決にならない、ですよね。昔、先輩に言われたのを思い出しちゃいました」

 

「ん……だったらコレどうしようか」

 

「今必要なのは書類だけでしょ?どこかに捨ててくるしかないかなぁ」

 

「……私はアビドスの事情はわかりません。けれど、確かにこのお金は手放した方がいいと思いますね。災いを呼び寄せる金塊みたいなものです」

 

 ヒフミの言葉で蓮が思い出したのはニーベルングの指輪に出てくる《ラインの黄金》だ。わざわざ呪わなくとも、膨大な富は人を狂わせて不幸にできる。問題はこの金をどうやって処分するかだろう。

 みんなが悩んでいたその時、アヤネが慌てて報告する。

 

『みなさん、こちらに一人接近中です!警戒してください!』

 

 追っ手の可能性に気づいた全員が即座に覆面を被る。一方蓮は鞄の中に何か顔を隠せるものがないか急いで探った。

 

“なんかないかな……。……お!”

 

 蓮が鞄から引っ張り出したのはキヴォトスに来て初日にワカモから剥ぎ取った狐の仮面であった。いずれまた遭遇することもあるだろうと持ち歩いていたが、こんな所で役立つとは思っていなかった。

 蓮が仮面を被った瞬間にその人物は現れた。便利屋68の社長陸八魔アルだ。

 

「ふう、はあ……ま、待って!」

 

「……!」

 

 シロコは銃口を向けようとするが、アルは首を振った。

 

「落ち着いてちょうだい、私は敵対するつもりはないから…」

 

「……なんでアイツが…?」

 

「お知り合いですか?」

 

「うへ、ちょっとした腐れ縁かなぁ…」

 

 小声で話すホシノたちをよそにアルは感動していた。

 

「さっきの銀行強盗見ていたわ…!たった五分であのマーケットガードを制圧する強さ、目的のモノを奪ったら深追いせずに逃げるクレバーさ!まさに真のアウトローだわ!」

 

 はしゃぐアルを見たシロコはぱちくりと瞬きをする。

 

(……もしかして私たちがアビドスだって気づいてない?…そういえば校舎に襲撃をしてきた時もラーメン屋で会った時点では気づいてなかったって仲間にバラされてたし……結構抜けてるのかな)

 

「わ、私は陸八魔アル!便利屋68の社長よ!あなたたちの活躍で目が覚めたわ、法律や規則に縛られない本当の意味で自由な無法者…あなたたちのようなアウトローになりたかったのよ!!」

 

“え…えーと……。お嬢さん、少し落ち着いて…”

 

「……あらごめんなさい、一人ではしゃいじゃって!……そういえばあなたは…?」

 

 アルは銀行強盗の場にいなかった蓮に気づく。

 

“ジョーカーだ。今回は裏方に回っていたから、襲撃には参加していなかったのさ”

 

「そ、そうなんだよねぇ!いやージョーカー先生には足向けて寝れないねー」

 

「……なるほど。あの停電を起こしたのはあなただったのね!……ところで、あなたたちのチーム名を教えてもらえるかしら?今日の雄姿を心に深く刻んでおけるようにね!」

 

 目をキラキラさせているアルに、廃校対策委員会はホントにコイツ悪党向いてねぇなという思いで一つになった。ノノミは楽しそうにアルの質問に答える。

 

「わかりました、お答えします!私たちは覆面水着団です!」

 

「や、ヤッバーイ!超クール、かっこいいー!」

 

「うへぇ、今日は非常事態だったから覆面だけだけどいつもは水着を着てやってるんだぁ」

 

「えぇ……」

 

 セリカは目の前の社長をからかって遊びだした先輩たちにドン引きした。しばらく変な設定をつけ足して遊んでいたノノミたちを、ヒフミがそんなことをしている場合ではないと止める。

 

「みなさん、そろそろ本当に逃げないと大変なことになりますよ!?」

 

「おぉっとごめんねファウストさん!それじゃあ便利屋のアルちゃん、縁があったらまた会おうねー!」

 

 すたこらさっさと逃げて行った覆面水着団を見送ったアルに、少し遠くから見守っていた便利屋メンバーが近寄った。

 

「あら、みんな遅かったじゃない!」

 

「………」

 

「アルちゃん楽しそうだねー♪」

 

「……あの、アル様…。そこにアタッシュケースがあるんですけど…」

 

 ハルカが指をさす方向を見ると、確かにそこにはアタッシュケースが放置されていた。

 

「本当だ。忘れ物かな?」

 

「………。私が開けてくる」

 

 カヨコが警戒しながら近づき、アタッシュケースを開く。ピシッという擬音と共にフリーズしたカヨコの後ろからアルたちはその中身を確認した。

 中には札束と召喚器が一つ入っていた。

 

「え、えええええええ!!?」

 

 

 校舎前まで戻ってきてから、ノノミはふと気づいた。

 

「……あれ?…先生、現金の入ったケース置いてきちゃいました?」

 

“うん。必要ないんだよね?”

 

「ええ!?もしかしてあいつらに一億あげちゃったの!?」

 

“うん。オマケに召喚器もあの中に入れてきたよ。きっと今の彼女たちには必要だからね”

 

 セリカは文句を言っているが、もはや後の祭りである。

 

「まあまあ、別にいいじゃん。気にしない気にしない」

 

「あはは…悪事に使われないだけマシじゃないですかね…。あの人は良いことに使うと思いますよ……多分」

 

「な、納得いかないなぁ…」

 

『まあまあ、いいじゃないですか。……ところでヒフミさん、門限は大丈夫ですか?」

 

「え。……あ、確かにそろそろ戻らないとまずいかも…。ええっと、今日は色々ありましたけどなんだかんだ楽しかったです!ではまたお会いしましょう!」

 

 そう言いながらヒフミは去っていった。彼女が背負っていたペロロのバッグがジーッとこちらを睨んできていたため、一行は目を逸らす。

 

 教室に戻ってきた一行をアヤネとモルガナが出迎える。

 

「お帰りなさい!」

 

『おかえりみんな!』

 

“ただいま。それじゃさっそく奪ってきた資料を見てみようか”

 

「賛成。何が書かれてるかな」

 

 さっそく集金記録を見た一行であったが、そこにはとんでもない事実が書かれていた。アビドスで集金された金がそのままカタカタヘルメット団への任務援助金にされていたのである。

 

「これ、どういうこと!?」

 

「……そのまま読み解くと、カイザーローンは私たちを襲撃しているヘルメット団に資金提供をしてたってことになるよね…」

 

“というかこの感じだとみんなから返済金を受け取った帰り道にヘルメット団にそのまま金渡してないか?”

 

「………任務補助金?……つまり、ヘルメット団の裏にいるのはカイザーコーポレーション…?」

 

 シロコが呆然と呟く。その言葉に誰も答えられなかった。

 

「………こりゃまた、面倒くさいことになってきたね」

 

 ホシノは思いっきり嫌な顔をする。セリカは知らないとはいえ、ヘルメット団に誘拐未遂を起こされたこともある。帰り道にまた同じことが起きるのではないかとホシノは少し不安になった。

 

「んー………。ねえみんな、今日は学校に泊まっていかない?…理由はないけどなんか嫌な予感がするんだよね」

 

「……ホシノ先輩がそう言うの珍しいね。私はいいけど、みんなは?」

 

「賛成です!なんだかお泊り会みたいで楽しそうですね!」

 

「うーん……先生の持ってきた資料を読んでおきたいので私も賛成です。セリカちゃんは?」

 

 アヤネに聞かれたセリカはビックリした顔をする。

 

「え……みんな学校に残るの!?……まあ、今日はバイトとかもないし、今から帰ると夜になりそうだし…。……残ってあげてもいいけど

 

“みんな今日は学校に泊まるんだな。……じゃあ私が夕食でも作ろうか”

 

「おぉ?先生料理できるの!?」

 

“フフフ…こう見えて料理上手なんだ”

 

 蓮がアビドスの生徒たちに振舞った料理は大好評だった。次の機会があったらカレーでも作ろうかなと思いながら、蓮はみんなと楽しいひと時を過ごした。

 

 

「……シロコちゃん、起きて」

 

「…………うぅん?」

 

 眠っていたシロコが目を開けると、そこには制服姿のホシノがいた。スマホの時計を見ると、11時40分となっている。

 

「………どうしたの先輩」

 

「今から外出るよシロコちゃん、制服に着替えて~」

 

「えぇ………もう深夜なのに…?」

 

「ある意味これからがペルソナ使いにとって本番だよ?ほら、とっとと着替える!」

 

 むう…と不機嫌な顔で制服に着替えたシロコはホシノと共に外に出る。月は、新月だった。

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