陸八魔アルはアビドスと風紀委員会の戦闘を少し離れたところから見ていた。
「なんか大変なことになっちゃったわね…」
「どうするアルちゃん、今風紀委員会はアビドスの子たちと戦ってるから頑張れば逃げられるよ」
「……逃げる?」
ムツキの発言に、アルはキョトンと目を丸くする。
「…………なんで?あの馬鹿の行政官に虚仮にされてるのに逃げ帰るなんてアウトローらしくないわ!!」
「まあ確かに」
「それに先生に恩を売れば何かしら依頼が舞い込んでくるかも!そうとなればアビドスの子たちを助太刀しなきゃ!」
「あ、アル様っ……!」
ハルカは感動しているのか目を潤ませている。
「さあ、ドカンと一発キめましょう!」
アルは召喚器を手に取り、こめかみに突き付ける。
「来なさい、《ベリアル》!!」
グリッと半回転させた召喚器の引き金を引く。炸裂した紫電と共に現れたのはドラゴンを彷彿とさせる真紅のバイクに乗り黒いコートを羽織った悪魔のアウトロー、《ベリアル》。ニヤリとニヒルに笑う悪魔に笑い返し、アルは風紀委員会に全力を叩き込んだ。
「《マハジオ》ー!!」
広範囲を電撃が迸り、風紀委員たちを文字通り痺れさせる。
「ぎぃ……!?」 「きゃあ!」
対策委員会は一瞬驚いた顔でアルたち便利屋を見るが、すぐににやっと笑みを浮かべる。
「ナイス!」
“いいのかい、逃げなくって”
蓮も呆れた声とは裏腹に満面の笑みを浮かべている。アルはどや顔で答えた。
「ええ、空崎ヒナのいない風紀委員会に逃げるなんてアウトローのやることじゃないわ!助太刀するわよアビドスのみんな!」
「ん、頼もしい」
「それでもあっちは結構数いるわよ!気合い入れなさいアンタたち!」
アコは結託を始めた便利屋と対策委員会に青筋を立てるが、すぐに冷静さを取り戻した。
『ふ、ふん!一纏めになったのならそれはそれで好都合です!やってしまいなさい!』
「……よし、第2ラウンドといこうか!」
イオリが再び前線に現れ、シロコとムツキの前に立ちはだかる。
「いいよ、トコトンやろう」
「サポートするよシロちゃん!」
シロコは召喚器を、ムツキは手榴弾を取り出した。
「……来て!」
シロコが自身のペルソナのロボを召喚すると、イオリはちょっとだけ嬉しそうな顔をする。
「……ペルソナか、ここいらでぶっ倒してヒナ委員長にいい報告したかったところだ!」
「シロちゃんシロちゃん、ちょっといい?イオリについてちょっと教えたいことがあるんだけど」
「なに?」
ムツキは小声でごにょごにょとシロコに耳打ちする。
「……本当にそれで引っかかるの…?」
「うん、引っかかる。前に見たもん」
シロコは怪訝そうに首をかしげるものの、前に見たと断言されたらもう否定はしない。突っ込んでくるイオリに向かって剥がしたマンホールをぶん投げた。
「おぉっと!?」
避けたイオリに、召喚状態で待機していたロボが《エイハ》を放つ。連続で回避できなかったイオリに闇の呪詛が襲い掛かる。
「ぐぅっ……意外と痛いなそれ!だが耐えたぞ、反撃だ!」
「ん!」
シロコはイオリから距離を取ろうとする。もちろんイオリは一直線に追いかけた。
「待て、逃げるな!」
タタタッと軽やかに駆けるイオリであったが、彼女は視野が狭い。罵倒ではなく事実である。故に……先ほどシロコが蓋を投げたマンホールに足を突っ込むのはある意味で当然だった。
「…………へ??」
勢いよく落下していくイオリ。ムツキはシロコがぶん投げたマンホールの蓋を元に戻し、さらにガムテープで厳重に封印する。しばらくは出てこれないだろう。
「これでヨシ!」
「…………まあいいか」
シロコは落ちたイオリのことを一旦頭の中から追い出し、仲間たちの援護に向かった。
一方、対策委員会と便利屋連合は大人数の風紀委員たちを相手取っていた。順調に倒せているように見えてもその後方には第二波、第三波が控えていることを考えると戦況はあまり良くないと言えるだろう。
“(文字通りすり潰すことを目的にした物量だな。銃弾はもちろん、ペルソナだって使い続ければガス欠する。彼女はそれがわかっているから泥沼の長期戦に持ち込んでいるんだ)”
そんな蓮の危機感をよそに、アルは自身のペルソナと共に戦場を自由自在に駆けていた。二人乗り状態のバイクは風紀委員を数人まとめて轢き飛ばす。
「ぐああっ!」
「ベリアル、撃ちなさい!」
『ハッハァ!!』
ベリアルは何処からともなくショットガンを取り出し、《ダブルシュート》を敵に叩き込んだ。全力で暴れたアルはちょっと疲れを覚えたが、蓮はすぐに対応する。
“アル、救援物資のスナフソウルだ!”
「あら、ありがと!ほかのみんなは…」
「ペルソナが使えなくたってぇ!」
そう啖呵を切りながらセリカがハルカとともに敵陣に突っ込んでいく。
「死んでください死んでください死んでください死んでくださいぃいいいい!!」
手斧とショットガンで大暴れするハルカを遠くから見ていたノノミは近くで銃弾を叩き込んでいたカヨコと目が合った。
「あの、いつもあんな感じなんです?」
「まあだいたいは。こういう時は頼りになるよ、たまに人の話聞かなくなって勝手に爆破したりするけど」
「確かに頼りになりますねー…」
ノノミのガトリングが火を噴き、敵の戦車を盛大に破壊する。
しかし、一気呵成に攻められた風紀委員会を見ても、アコは余裕を崩さなかった。
『ふふ、意味がないとわかっていながら抵抗するなんていじらしいですね。さて後方にいる部隊を動かして詰ませるとしましょうか』
アコが待機させていた後詰の部隊で、消耗した廃校対策委員会と便利屋を叩きのめそうとする。………が。
『………な、なんで来ないんですか!?』
いくら進軍の指示を出しても、戦場に増援が現れる様子はない。動揺するアコの後ろから小柄な影が近寄ってきた。
「やあ、お困りごと?」
『………は?』
アコは見覚えのない桃色の髪の少女に一瞬怪訝な顔をするが、すぐにその正体に気づきダラダラと冷や汗をかいた。
『あ……暁のホルスッ……!?』
「えーっと、道をふさいでて邪魔だった連中ってもしかして君の仲間だったりした?アビドスがどうのこうの言って襲ってきたから返り討ちにしちゃったんだけど…」
『か、返り討ち!?ふざけないでください、
「うへぇ、そう言われても…。というか人を珍獣扱いしないでほしいな?」
よく見ればホシノのアイアンロッドは返り血に塗れている。もし立体映像でなかったら頭に叩き込まれていただろうとアコは内心恐怖していたが、顔には出さない。なお、アコにとって悪いことは続いていた。
『……アコ、今どこにいるの?』
風紀委員長空崎ヒナからの連絡である。
『ひ……ヒナ委員長!?ええっとその…風紀委員のメンバーと一緒にゲヘナ自治区のパトロール中です!そ、それより委員長はどうして連絡を…?』
『あら、出張から戻ったついでに他の自治区にいる友人に挨拶でもしようと思っていたのだけれど、良くなかったかしら?』
『そ、そうでしたかぁ…!そのぉ、今すぐ迅速に処理しないといけない用事がありまして!では後ほどご友人とのあれこれを聞かせてもらいますね!』
『………立て込んでる?』
ヒナの眼光が鋭さを増した。
『それは……「アビドス自治区で委員会のメンバーを暴れさせていることと関係があること?」
ヒナの立体映像の隣に本物のヒナが立っていた。
『………ぁ、ぇ…?』
「やっほーヒナちゃん。こうやって直接会うのは久しぶりかな?」
ホシノはにへーっと緩んだ笑みを浮かべた。ヒナも微笑みを返す。
「ええ、モモトークと電話越しでは話しているけどね。それよりあなた、スマホの電源切ってたでしょう?」
「うへぇ、ごめんごめん。ちょっと色々話をしてたからさー」
ヒナとホシノが和やかに会話しているのを、周囲は呆然と見ているしかなかった。
「あれがゲヘナ最強の風紀委員長、空崎ヒナ…。なんかちょっと想像してたのとは違いますね?」
「ねー…。なんかもっと血も涙もなさそうなヤツだとばっかり…」
“二人が現れてみんな困惑しているみたいだね。まあ、戦闘云々言ってられない状況になったのは良かったかもしれない”
ヒナはホシノとの会話を止め、アコに冷たい目線を向ける。
「アコ、申し開きは?」
『そ、その…便利屋68を捕らえようと…』
「便利屋?……この場にいるのは風紀委員会とアビドスの生徒だけよ」
『えぇ!?便利屋ならそこに…』
アコが先ほどまでアルたちがいた場所を見るが、彼女たちは忽然と姿を消していた。どうやらヒナの姿を見た瞬間速攻で逃走したらしい。
『って、いない!?なんて逃げ足……』
「とりあえず、話は後で聞かせてもらうわ。相応の罰は覚悟してもらうわよ」
『………はい』
アコの立体映像が消え、ヒナは深くため息をつく。
「……はあ。それで、これからどうするの?」
「………すいません、少しいいでしょうか。アビドスの対策委員会所属の奥空アヤネです。ゲヘナの風紀委員長ですね、初めまして」
アヤネは緊張しながらヒナに交渉を試みた。
「ええ、私はゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナ。何か聞きたいことがありそうだけど…」
「その、今の状況についてどのくらい理解されているでしょうか」
「……だいたいの状況は分かっているつもり。事前の通達無しでの他校自治区における無断の兵力運用、そしてその結果発生した他校との衝突…。でも、風紀委員会の公務をそちらが妨害した…とも捉えることができるわ。見方次第でどうとでもなる範囲よ」
「そ……そんなの詭弁じゃないですか!!」
アヤネの反論を聞いたヒナは頷いた。
「そうね、詭弁だわ。でも、もしアコの率いる風紀委員会に負けていたらそれが現実だった。……間違ったことを言ってるかしら?」
「それ、は………」
俯いたアヤネを見てしっかりしているなぁ、うちのアコとかイオリも見習ってくれないかなぁと切なくなっていたヒナに、ホシノは苦笑いしながら言った。
「はーいストップヒナちゃん、あんまウチの後輩苛めちゃ駄目だよ」
「そうね。頭のいい後輩がいるのは羨ましい限り、大切に育てなさい」
ヒナは深く頭を下げて謝罪する。
「事前通達無しでの戦闘行為、他校の自治区で騒ぎを起こしたこと。このことについてゲヘナ風紀委員会委員長空崎ヒナとして公式に謝罪させてもらうわ。後日、正式な書類をそちらに送らせてもらう」
「「「!!」」」
「今後、このような事態を起こすことは無いと約束する。どうか許してほしい」
「い、委員長…」
風紀委員たちの困惑をよそに、ヒナは命令する。
「みんな、先に帰ってて。私はちょっと用事があるから」
「は、はい!」
風紀委員会たちは一糸乱れぬ行軍でその場を後にする。残ったのはアビドスの生徒たちと蓮、ヒナだけであった。
「………ふう、とりあえず今日の仕事はお終いかな」
「いやー、これ以上やりあうことにならなくって良かったねぇ」
“今日は散々だったな…”
蓮がため息をついていると、封印されていたマンホールが吹っ飛んで中からイオリが出てきた。
「はあ、はあ…。クソ、酷い目にあった!」
「あ、出てきた」
「……イオリ?そんな場所で何をしてるの?」
ヒナに怪訝な目を向けられたイオリは委員長がいることに気づいて目を丸くする。
「あれ、ヒナ委員長?……他のみんなは?」
「もう帰らせちゃったわよ。あなたも帰りなさい」
「はーい…。……おい、お前!」
イオリはシロコに向かって指を指す。
「次は負けないからな!」
「ん。またね」
イオリは満足そうにその場を去っていった。
「……青春だねぇ」
「そうね、昔を思い出すわ。……あなたがシャーレの先生ね」
“ああ、シャーレ顧問の雨宮蓮だよ。どうしたの?”
「少し伝えておきたいことがあるの。耳を貸してちょうだい」
ヒナは小声で言った。
「……カイザーコーポレーションのこと、知ってる?」
“……そりゃもうよく知ってる。アビドスに法外な借金を背負わせて裏で召喚器売りさばいてるとんでもない会社だ”
「それなら話が早い。……アビドスの砂漠でカイザーコーポレーションが何か企んでる」
“……!”
「風紀委員会が独自に入手した情報だから信ぴょう性は薄いけど…『あいつらならやりかねない』と思われるくらい真っ黒な会社だってことは確か。……気を付けてね」
ヒナは蓮たちを心配してくれているようだ。蓮はかなり苦労してそうな性分だなと同情する。
“教えてくれてありがとう、ヒナ。よかったらシャーレに入部してみない?”
「………考えておくわ」
「マジメな話終わったー?それじゃおじさんはヒナちゃんとしばらく駄弁ってるから今日は解散ってことで!お疲れー!」
ところ変わって、ゲヘナ自治区のとある建物にて。
「ああああああああああああ!!!なんなんですかもおおおおおお!!」
天雨アコはたった一人で発狂していた。
「なんで追撃しようとしたら暁のホルスが出てきて後続をボッコボコにするんですか!?なんで今日に限ってアビドス自治区にヒナ委員長が現れるんですか!?もうやだああああ!!」
床に転がってじたばたしている彼女の目論見は、自身が関与できない部分のせいでことごとくとん挫していた。
(二年前アビドス自治区に侵攻した雷帝軍を
アコはヒナとホシノがどうして友人をやっているか知らなかったが、ヒナはたまにアコにホシノの話をしていた。基本的には他愛もない話であったが、うっかり一度だけホシノが暁のホルスだとバラしてしまったのである。徹夜五日目で注意力が落ちていた可能性が極めて高い。
「ええい、ヒナ委員長の一番の理解者は私です!*1歴戦のペルソナ使いである暁のホルスを私の直属の部下にしてヒナ委員長に褒めてもらって、暁のホルスにマウントを取るつもりだったのに…どうしてこうなったんですか!!」
アコは自身の見積もりが甘かったことを自覚しないまま駄々をこねるのだった。
《ベリアル》
使用者:陸八魔アル アルカナ:剛毅
耐性:電撃 弱点:火炎
真紅のドラゴンを思わせるバイクで戦場を駆ける悪魔のペルソナ。銃撃系スキルと電撃属性スキルに長けている。アルの理想のアウトロー像が反映されているようでかなりのイケメンだが、たまにアルと同じ顔芸をする。