屋根ゴミ、キヴォトスに赴任する   作:シャザ

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13話 始まりのペルソナ使い

 これは、雨宮蓮とモルガナがキヴォトスにやってくる二年前の話。その日、アビドス自治区はゲヘナを支配する雷帝の配下によって侵略されていた。雷帝にアビドスを攻める目的があったのか、あるいは気まぐれか…いずれにせよ、今となっては分かりようがない。

 

 そんな危機的状況にあっても、当時一年生であった小鳥遊ホシノの心は動かなかった。そもそも心が壊れかけていたのだ。

 

「………先輩……」

 

 彼女の《先輩》が死んで、二週間が経とうとしていた。最初の一週間はもはや何もする気が起きず、その次の週は何かに取り憑かれたかのように先輩の遺品をかき集めていたのだ。ホシノは虚ろな目で独り言を呟いた。

 

「………ゲヘナを支配してる雷帝が、大軍を連れてこんな砂以外何もない場所に来るそうです。これまで外のお客さんなんてまったく来なかったのに、先輩がいなくなった途端コレ。……大丈夫、たぶん私もそっちに向かいますから、寂しくないですよ」

 

 ホシノの目に、どす黒い炎が揺らめいた。

 

「………ここは、アビドスだ。私たちの場所だ。あんな奴らに我が物顔で踏み荒らされるなんて許さない……!!」

 

 ホシノは先輩の遺品の中に転がっていた赤いお面を手に取る。お祭りでよく見る特撮ヒーローを模した安っぽいそのお面を、少女は顔に付けた。

 

「……さて、往くかな」

 

 

 アビドスを進軍していた雷帝軍は、砂漠の真ん中に佇む少女に気づく。小柄な少女がヒーローごっこのようにヒーローのお面を付けている様子は滑稽ですらあった。……巨大な殺気が彼女から零れていなかったら、の話だが。

 

「……なんだあいつ?」

 

「………止まれ。ここはお前らがヘラヘラ踏みにじっていい場所じゃない。これ以上進むというなら…全員ぶっ潰す」

 

「ぎゃははは!!現実の見えてない馬鹿発見!ガキみてぇなお面付けやがってよ、引っぺがして鼻っ柱折ってやるぜ!」

 

 仮面の少女ことホシノに無警戒で近寄った兵士は彼女の胸倉を掴もうと手を伸ばす。ホシノはそいつの人差し指をへし折った。兵士は一瞬何が起こったのかわからなかったのか首を傾げ…すごい勢いで冷や汗をかいた。

 

「あ…ああああ!!?あ…アタシの指がぁ!!」

 

「…もう黙ってろよ」

 

 ホシノはロングロッドをフルスイングして兵士の意識を刈り取った。雷帝軍の指揮官が金切り声を挙げる。

 

「アイツを殺せ!!」

 

 ホシノは雷帝軍を迎え撃つ。ロングロッドで数人を吹き飛ばしながら、召喚器を取り出した。

 

「ペルソナァ!!」

 

 ホシノにとってもう一人の自分である炎を纏った隼が呼び出される。雷帝軍はいきなり顕現した巨鳥に動揺が走った。

 

「な…なんだアレは!?」

 

「ヒィッ!?」

 

「燃やせ、《ホルス》ゥ!!」

 

 《マハラギ》が雷帝軍を焼き払う。当然のことだが、彼女たちは砂漠への備えはしていても火炎属性への備えはしていなかった。

 

「あああああああ!!熱い、熱いィイイイイ!!?」

 

「ふ、服が燃える…!?」

 

「あ、あぁ……」

 

「オイ、しっかりしろ!」

 

 大惨事でパニックになった雷帝軍を、ホシノは容赦なく追撃する。

 

「そこだぁ!!」

 

「へぶぅ!?」

 

 ロングロッドで敵の鼻をへし折り、ショットガンの連射で複数人を黙らせる。鬼気迫る戦いぶりを見せるホシノに、雷帝軍の部隊を率いていた部隊長は恐怖に襲われた。

 

「な…なんだこれは……私たちは、雷帝様の忠実なしもべだぞ…!なんで、なんで……たった一人にここまで被害が出る!?私たちはいったい何の尾を踏んだ!?」

 

「ホルスゥッ!!」

 

 ホシノに呼ばれた巨鳥の咆哮が砂漠に響く。……その日始まりのペルソナ使い《暁のホルス》が表舞台に現れたのだった。

 キヴォトス三大校の上層部は暁のホルスという異常な存在に対して異なるアプローチを取った。

 ゲヘナの雷帝はペルソナという力を欲し、研究に没頭したが…その一端を掴めたかは不明である。

 トリニティのティーパーティーは情報統制を行いなかったことにした。暁のホルスはアビドス自治区を縄張りにしていたが、トリニティの生徒たちに適当な理由でアビドス砂漠に近づくなと注意勧告をしておけば彼女に接触してしまう事故は避けられるからだ。

 そして、ミレニアムはというと…。

 

 

 

「…………むにゃ」

 

 ホシノはハッと目を開いた。アヤネの冷たい目線が突き刺さって、暁のホルスである彼女は目を逸らす。

 

「……おはようございます先輩」

 

(……あー、居眠りしちゃってたのか…。ゲヘナが攻め込んできたから思い出したのかな…)

 

 ホシノは砂漠で雷帝軍を迎え撃った日の夢を見ていた。二年前、ホシノは自身の怒りのままに雷帝軍を殴り、撃ち、燃やし尽くし…最終的に壊滅まで追い込んだのである。

 

「えーっと…何の会議してたんだっけ…」

 

“まず、昨日の風紀委員会との小競り合いを謝罪する書類が届いたよ。これはヒナから事前に聞いていたから後で確認するとして…。問題は彼女が伝えてくれた情報だ”

 

「一体何を言われたの?」

 

“………カイザーグループがアビドス砂漠で悪だくみをしているらしい。……みんな心当たりはある?”

 

 アビドスの生徒たちは揃って首を傾げている。

 

「街中ならともかく、砂漠で悪だくみぃ~?あんな砂以外ない場所で何を企むっていうのよ!」

 

「……人がいないから都合がいいってこともあるよね。兵士を訓練したりとか…」

 

「うへぇ…どっちにしてもこの広ーい砂漠からカイザーの痕跡を探すのは時間がかかるねぇ。……先生、ちょっと耳貸して」

 

 ホシノは蓮に耳打ちする。

 

「影時間の時にしばらく一人でホルスに乗って砂漠を飛んでみるよ。もし仮にカイザーグループが陣取っていても大多数は非ペルソナ使いのはずだし…」

 

“なるほど…あんまり深入りしないでね。場所が分かるだけでもありがたいんだから”

 

「はいはい、任せてー。おじさんほどほどに頑張ってくるねー」

 

 

 そしてその日の影時間。ホシノはジョーカーに一枚の紙を渡す。

 

“これは?”

 

「ちょっとおじさん用事があるから友達に代役頼んだんだ~。これに待ち合わせ場所書いたからよろしくね。シロコちゃん、ちゃんと相手の言うこと聞くんだよ?」

 

「ん、考えとく!」

 

「…………駄目そうだからちゃんと手綱握っててね先生?」

 

 ホシノがその友人との待ち合わせに指定した場所は、アビドスとゲヘナの境界線だった。そこに現れたのは、ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナ。

 

「………!」

 

「こんばんは。今日も嫌な月夜ね」

 

“君もペルソナ使いだったのか、ヒナ…”

 

 ジョーカーが意外そうな顔をしていると、ヒナは彼を見て首を傾げる。シロコとホシノの隣に見覚えのない人物が立っていたからだ。

 

「ええっと、あなたは……シャーレの先生ね。前に会った時とは雰囲気が違うから、一瞬誰かわからなかった」

 

“それでも気づいてくれたのは嬉しいよ。今夜はよろしくね”

 

「ん……本当に強いの?」

 

 シロコは訝しんでいる。いくらゲヘナ最強の生徒といえど、相手は血も涙もないシャドウだ。不良との喧嘩とはだいぶ勝手が違う…とシロコは思っていたのだが。

 

「……そこは心配しなくて大丈夫。彼女ほどではないけれど、私もペルソナ使いとしては長くやってきたつもりだから安心してほしい。それに…」

 

 ヒナは後ろから飛びかかってきたシャドウに自身の愛銃である終幕:デストロイヤーの弾丸を叩き込んだ。

 

『ギャウンッ!!?』

 

 バラバラに吹き飛んだ獣型シャドウに、ヒナはため息をつく。

 

「……はあ、もう少し張り合いのある相手を探さないとね…」

 

「その必要はなさそう。……ほら、群れが来てる」

 

 シロコが指さした方向から先ほど倒されたものと同じ姿のシャドウ…《オルトロス》が三匹こちらに向けて走ってくる。

 

「あら、本当ね。それじゃあ今度は…」

 

 ヒナは手のひらから()()()()()を出現させ、グシャリと握りつぶした。

 

「……来て、《バアル》!」

 

 砕かれた青いカードはヒナのヘイローと融合し、青い肌の女剣士の姿を取る。

 

「凍てつかせなさい!!」

 

 バアルの剣の軌跡が大気を凍らせ、オルトロスたちを氷柱に閉じ込める。《マハブフーラ》で弱点を突かれたオルトロスは完全に身動きができない状態でマシンガンで粉砕された。

 

「………まあ、こんなところかしら」

 

「……ペルソナがなくてもとても強いね、風紀委員長。どうやったらそんなに強くなれるの?」

 

 シロコの質問に、ヒナは微妙な顔をする。

 

「食事が不味いからと大暴れしたり温泉を掘ると言いながら周囲をペルソナで燃やす不良を制圧したり、影時間の時ゲヘナエリアのパトロールをしたりしてたらいつの間にか……ね」

 

 ヒナは疲れた顔で銃を背負いなおした。ジョーカーとシロコはなんだかかわいそうになってきた。

 

“苦労、してるんだね…”

 

「三大校には三大校で大変なこともあるんだ…」

 

「……アビドスほどじゃないわ。それじゃ、指示は任せたわよ先生」

 

 

 しばらくシャドウ狩りを行っていると、ヒナはシロコにこう言った。

 

「あなた、そのバットずいぶんボロボロになってるけど…他にもっと武器はなかったの?」

 

「ん、拾ったヤツ」

 

“なんかいつの間にか持ってたよねそれ。流石にこの辺りのシャドウとの戦闘には耐えられないか…”

 

「んー……。といってもこれ以外に近接攻撃となると銃で殴るしか……」

 

『……トリックスター、少々お時間よろしいでしょうか』

 

 ジョーカーの持つシッテムの箱からラヴェンツァの声が聞こえてくる。

 

“どうしたのラヴェンツァ?”

 

『いえ、装備の更新についてですが…。シャーレの地下室にあるクラフトチェンバーを利用するのはどうでしょう?アレは不要な物資を引き換えにアイテムを精製できます』

 

『ちょ、ちょっと!ラヴェンツァさん、私の説明取っちゃ駄目ですよ!』

 

『あら、ごめんなさいアロナ。なので今夜はシャドウを倒した時に手に入る素材を集めるとよろしいかと』

 

“わかった、そうさせてもらう”

 

 ジョーカーはシロコの新しい武器を手に入れるためにシャドウの素材を集める事を伝える。ヒナの視線はシッテムの箱に向けられていた。

 

「そのタブレット、影時間でも動くのね」

 

“こう見えて超技術が使われたオーパーツらしいよ”

 

 

 翌日、蓮は久しぶりにシャーレに戻ってきていた。その隣にはシロコの姿もある。

 

「ここがシャーレ?」

 

“そうだよ、ゆっくりしていってね”

 

 蓮たちはさっそく地下室に配置されているクラフトチェンバーの所に向かった。

 

“さて、さっそく使ってみよう。まずは起動して…”

 

 シッテムの箱を持った蓮が近づくと、クラフトチェンバーはブオンという音と共に光を放った。

 

『おお、こりゃずいぶん雰囲気が出てきたじゃねーか』

 

“起動したら、次はキーストーンを投入する。これだけでもアイテムは精製できるけどあまりいい物は出ないらしい。ここからシャドウの素材やらよくわからない物を入れて…”

 

 蓮は影時間で集めたシャドウの仮面の欠片や槍の穂先を入れ、精製を開始する。

 

『………で、これ何時できるんだ?』

 

“えーっと…お昼には完成しそうだね。何かパパッと作るよ”

 

「ん、楽しみ」

 

 蓮は備え付けの冷蔵庫に残っていた余りものでチャーハンを作り、シロコに振る舞う。一口食べたシロコの目がキラキラと輝いた。

 

「おいしい…!」

 

“よかった、お代わりもあるよ”

 

「ありがとう先生。………先生の料理を食べてると、なんだか力が湧いてくるね」

 

“そう言われると照れるなー。そうだ、余った分はタッパーに入れておくよ。影時間の時お腹が空いたら食べようか”

 

 昼食を済ませた一行は地下室に戻りクラフトチェンバーを確認する。そこには3Dプリンターで今しがた造られた武器がシロコを待っていた。シロコは恐る恐るその剣…《S.C.H.A.L.E(シャーレ)正式片手剣》を手に取る。

 

「これが…新しい武器…!」

 

“(模造刀じゃなくて真剣か…。まあキヴォトスじゃ銃弾が飛び交っても日常茶飯事だしこのくらいの武器持っててもワルキューレのお世話になることはないはずだ)”

 

「さっそく試し斬りに行ってくる!」

 

 シロコは新しい玩具を買ってもらった子供のようにキラキラした目で階段を駆け上がっていった。蓮が慌てて外に出ると、通りすがりの住人を脅していたらしい不良たちを相手に覆面を被ったシロコが大立ち回りを繰り広げていた。

 

「な、なんだこいつ!?」

 

「……通りすがりの、ヒーローだよ」

 

「いやどう言い繕っても不審者……ギャーッ!!?」

 

“……助太刀しないでも大丈夫そうだな…”

 

 楽しそうに戦うシロコに蓮とモルガナは苦笑いをするしかなかった。




《バアル》
使用者:空崎ヒナ アルカナ:運命
耐性:氷結 無効:呪怨 弱点:火炎

ヒナのヘイローに似た王冠を被った青肌の女剣士の姿をしたペルソナ。氷結属性の魔法で敵を凍らせ物理属性スキルで粉砕する戦法が得意。女神としての側面が強く出ているらしい。

《S.C.H.A.L.E正式片手剣》
シャーレのエンブレムが刻まれた片手剣。特殊な力はないが、中々の切れ味。
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