シロコの武器を新調した翌日、蓮はホシノの元に向かっていた。流石にまだ見つけられてはいないだろう…と思いながらも、もしもということはある。
“ホシノ、いるかい?”
いつも集まっている会議室にいなかったので砂に浸食されてない教室の何処かにいるだろうと当たりをつけ、ホシノを探す蓮はある教室の扉の前で立ち止まる。
“………ホシノ?”
「…………むにゃ…」
日なたが差し込む教室で、ホシノが居眠りしていた。ご丁寧にマットまで敷いている。
“ホシノ、起きてくれ!”
「……ん、んぅ……。……むぅ?先生、おはよー…」
“おはよう。……そのマットどこで手に入れたの?”
「うへへ…いいでしょコレ。これダウンマットなんだよ?本物のダウンフェザー100%の高級品!資材倉庫で見つけたんだぁ」
蓮もマットに触れてみると、中々素晴らしい手応えが返ってくる。
“おお…確かにこれはいいものだ”
「うへへ…昔のアビドスは三大校にも引けを取らないくらいのマンモス校だったんだってさ。まあお金になるものはだいたい売っぱらって借金返済に充てられたんだけど…たまに掘り出し物が見つかるんだよね」
栄枯盛衰の象徴であるダウンマットをフカフカしてから、ホシノはよっこらしょと立ち上がった。
「それでおじさんに何か用?安否確認だけなら寝直しちゃうけど」
“ああ、そうだった。ホシノ、砂漠探索の進捗はどう?”
「まず怪しい場所はある程度探ってはみたよ。ハイランダーが撤退してもう使われてない駅とか、砂漠に呑まれてるはずの住宅地だった場所とか…。流石にそういうとこにはいなかったね」
“……まあ、堂々と目立つ場所でやってたら普通に見つかるよね…。何もない砂漠のど真ん中じゃ砂嵐などに遭った場合大きな被害が出る可能性がある。カイザーの本来の拠点からそこそこ近くて、見つけにくく…尚且つ外的要因によって脅かされる可能性の低い場所が望ましいよね”
蓮は結構無茶な条件を言ってみたつもりだったが、ホシノは真剣な顔で考え込んだ。
「んー………。………あ」
“どうしたの?”
「……いや、うん…。当てはまる場所あるかも…。今夜ちょっと行ってみるね」
ホシノは珍しく難しい顔をしている。そんな彼女に蓮は何ができるかを考えた。
“(ホシノと遊びに行くには優しさが《聞き上手》、魅力が《気になる存在》くらいあれば大丈夫そうだ。……もちろん当の昔に人間パラメータは全部カンストしてるけどね)ホシノ、何処かに遊びに行こうか。根を詰めるのもいいけど、息抜きも大切だよ”
「………うへへ、いいよぉ。それじゃあ、行き先は先生に任せていい?」
“……そうだなぁ。………ちょっと思いつかなかったからD.U.エリアをブラブラ歩かない?”
「わかった。何かいい物が見つかるといいね」
ホシノと蓮はD.U.に着くと、そのままあてもなく歩いた。道の端っこに立っている自販機のラインナップを見たホシノは思わず立ち止まる。
「お!ガッツドリンクと妖怪MAXバナナ味が売ってるじゃん!早く買い占めよう先生!」
“………SPを回復する飲み物か?”
「そうそう、長丁場には欠かせないからよく売り切れるんだよねぇ。今日はまだこの辺りを拠点にしてるペルソナ使いが買ってないみたい」
ホシノは小銭を取り出すとありったけの飲み物を買って鞄の中に詰め込む。
「うへへ、儲け儲け!これだけでもD.U.に来た甲斐があったねー」
“それはよかった。それじゃ、次の場所に行ってみようか”
二人が次にやってきたのはショッピングモールの中にある本屋だった。
「そういえば、今日は月刊アクアホビーの発売日じゃん!うっかり買い忘れるとこだったよー」
“月刊誌か、子どものころは漫画雑誌を買ってたなぁ”
「見て、今月は特別号なんだって!千円で図鑑の付録が付いてるの凄くない!?」
ホシノはルンルンと月刊誌を手に会計に向かう。蓮は面白そうなライトノベルを表紙買いして店内を出た。
「いやー、もう家に帰るのも待ちきれないよ!どこでもいいからお店に入って読もう!」
そのままホシノと共にカフェに来た蓮は注文したデザートを待つ間、読書にいそしんだ。
「へぇ~、見てよ先生。家でウニを飼育する方法だってさ。海水の水槽って作るのも管理も大変だって聞いたんだけどね、ふーん…」
“ホシノは魚が好きなんだね”
「まあね。いつか余裕ができたら飼ってみたいなとは思うけど…影時間に突っ込んでる以上いつか死ぬかもしれないし。そうなったら飼ってた魚が可哀想じゃん?見るだけで今は充分だよ」
そう言いながらホシノはパフェを平らげ、雑誌の続きを読む。ページが最後の方になり名残惜しそうな彼女だったが、ふと何かに気が付いた。
「……あれ、これは…。スクラッチくじがついてるよ」
“本当だ、アクアリウム開場記念無料入場券三十名抽選チケットだって。つまりかなり大きい水族館だよ。特別号と銘打ってるだけあって豪華だなぁ”
「そ、それって…普通だったら一万円以上するペアチケットを無料でくれるってこと!?スクラッチくじで当てれば!?」
ホシノはコインを取り出してスクラッチを削ろうと試みる。
“流石に三十人は厳しいと思うけどね”
「うっへ~、それは言わないお約束だよぉ」
カリカリとコインがスクラッチを擦る音が聞こえる。二人はポカンと口を開けた。
「………マジで?」 “うっそぉ……?”
スクラッチくじの中身は、当たりであった。二人とも流石に外れるだろうなと思っていたので予想外の幸運にうろたえ始める。
「あ、あわわわ…当たっちゃった…」
“……こんなに驚いたのは何時ぶりかな…。これは是非行かないと”
「う、ううん……。こんなラッキーだと揺り戻しが来そうで不安だよぉ…。ねえおじさんは大丈夫だから、先生シロコちゃんと行ってきたら?」
ホシノは誤魔化すように笑いながらくじを蓮に渡そうとする。蓮は首を横に振りながら突き返した。
“それは君のものだ、ホシノ。これは君が買った雑誌についていたスクラッチで、スクラッチを削ったのも君。それに、本当は自分で行きたいって顔に書いてるぞ”
「………うへへ、バレてたか。実際行ってみたいけど、今はちょっと忙しくてね…。カイザーの悪だくみをどうにかしないと夜もぐっすり眠れないよぉ」
“だったら約束しようか”
「約束?何の?」
“もちろん水族館デートの。ひと段落したら一緒に行かないか?”
ホシノはポカーンと口を開けて驚いていた。
「デート?……おじさんと、先生が??」
“そうだよ?”
「……………。先生ってさ、変な人だよね。本当におじさんでいいの?楽しくないかもだよ?」
“そんなの行ってみないとわからないだろう?”
ホシノの困った顔がなんだか面白くて、蓮は思わず笑顔になる。
「もう、わかったよ。カイザーの問題が終わったら先生とアクアリウムに行く。……言い出しっぺなんだからちゃんと約束守ってよね先生?」
“もちろん。そっちこそ忘れないでくれよ。すっぽかしたら君のいる場所まで迎えに行くからそのつもりで”
そう言いながら蓮はホシノと指切りをする。
ホシノはなんだか気恥ずかしそうだ…。
★★★★★★★★★★
「うへへ…指切りなんて子供のころ以来かも。じゃあ、そろそろ帰ろっか」
“ああ、またねホシノ”
その夜、ホシノは悶々としながら影時間の準備をしていた。
「……ちょっとらしくなかったかなー。………本当に先生と過ごしてると調子狂っちゃうよ」
彼女にとって大人という生き物はごく一部を除きほとんどがカスであった。柴大将のような立派な大人というのは希少種で、キヴォトスはろくでもない大人の見本市なのである。
そんな中、キヴォトスの外からやってきた蓮はホシノの知る大人とは何かが違うと感じていた。悪い大人の匂いはするのに同時にお人好しの善人なのだ。最初は何か裏があるんじゃないかと警戒してたものの、馬脚を露すこともなくただ気疲れが溜まる結果に終わってしまった。ホシノはブンブンと首を振って気持ちを切り替えた。
「先生のことはもう後で考えよう!今はやるべきことがあるし!」
ホシノはホルスに掴まって影時間の空を飛ぶ。目的地は、かつてオアシスがあったとされる場所だ。しばらく空の旅を楽しんでいたホシノであったが、ふと違和感を感じる。
(……空気が変わった…?)
オアシスがあった場所につくと、かつてとは大きく様変わりしていた。何もなかったはずの場所に工場のようなものが建築されているのだ。ホシノは中央にそびえる塔に顔をしかめる。
「………ビンゴ。さてと、軽く荒らしてここがカイザーの拠点か確かめないとね」
ホシノは地面に降り立つと周りを警備していたシャドウを発見し身を潜める。オートマタにシャドウの仮面が付いているタイプである。
「……ホルス!」
ホルスを召喚し、敵に《マハラギオン》を放つ。三体いたうちの二体はのたうち回るが、残った一体は炎をものともせずホシノに接近してきた。
『ギ、ギギ……!!』
シャドウがガワを脱ぎ捨てると、全員頭部が渦巻いている甲殻類のような姿になった。ホシノは眉をひそめる。三体とも同じシャドウなら耐性は全く同じはずだからだ。じっと観察してみると、炎をくらってピンピンしていた個体は身体にジェルのようなものが纏わりついている。
「……アレのせいか!」
ホシノは舌打ちしてシャドウ…仮称《脳狩りの甲殻類》をロングロッドでぶん殴るが、ニュルンと滑り有効打を与えられない。
(物理耐性と火炎無効…。それなら!)
ホシノはブフーラジェムを取り出しシャドウに叩きつける。凍り付いたジェルごとシャドウを粉砕し、炎で焼かれてちょっといい匂いがする残りの二体の頭部にロングロッドを叩きつけてトドメを刺した彼女を、十体以上のジェルを纏った《脳狩りの甲殻類》が取り囲んだ。
甲殻類はハサミをギチギチと鳴らしながら、不自然な発声で言った。
『ブキお捨テRo、抵抗はムだ駄』
「………わかった、降参する」
ホシノは渋々装備を投げ捨てる。十体も火炎無効があるようなヤツを一人で相手取るのは無謀だ。武器を捨てたのを見た《脳狩りの甲殻類》は満足そうに頷く。
『そレDEイい。つ伊て来い』
『ナぁ、恋
『………そ野
シャドウたちはホシノの装備を拾うと何処からか縄を取り出し少女を拘束する。彼らはそのまま施設の中に入っていく。
「どこに連れて行く気?」
『す愚ニワカru』
シャドウに連れられたホシノは、施設内にカイザーPMCのロゴを発見する。やはりここはカイザーグループの拠点らしい。目的は達成したが、次はどうやって脱出するかとホシノは考えていた。……が、ふと違和感が脳裏を掠める。
(……いや、それにしたって妙じゃない?ここのシャドウたち、理性的過ぎる…。ペルソナ使いの装備を奪ってそのまま連行なんてまだるっこしい真似、今までされたことないんだけど…)
ホシノは応接室らしき部屋に通される。そこにいた人物が彼女に声をかけてきた瞬間、ホシノは全てを悟った。
「……来ましたか。では座ってください」
「黒服……」
ホシノは苦い顔で黒服を睨む。黒服は肩をすくめた。
「そのような顔をされると、こちらとしても傷つくのですよ?……では少々貴女にとって都合の悪いことが起きたので、そのことについて話しましょうか、小鳥遊ホシノ」
「都合が悪いこと?」
黒服はクックックと真意のわからない笑みを浮かべていた。
「ええ、もはや一刻の猶予も許されない状況です。カイザーグループは、アビドスを文字通り
「……は?均す?……どういう意味?」
「文字通りアビドスを全て破壊し、その上にカイザーグループの自治区を創造するという意味です」
「…………。……い、いやいや…。全部壊すって、少なくなったけどアビドスにはまだ住人が住んで……」
「ええ、住人もろともです」
ホシノは絶句する。カイザーの計画は一企業が行っていい悪行を飛び越えていた。
「………アビドスが抱えてる借金は?」
「あんなものはマクガフィンにすぎません。翌日借金の利子が三千倍に膨れ上がり、その利子をカイザーグループは即日払いしろと要求し…アビドスは破産し廃校を強制されるのです。馬鹿馬鹿しいとは思いませんか?」
黒服は言葉とは裏腹に憤りを隠せないようだった。
「……このような形で貴女という才能を喪うなどあってはならない。有象無象などどうでもいいですが、貴女という存在は私の研究に多大なる成果を生み出しました。……私は、泥船が沈む前に貴女という特大の宝石を回収したいのです」
ホシノはしばらく無言だったが、ポツリとつぶやいた。
「…………シロコちゃんたちは?」
「………砂狼シロコは回収の余地がありますが…残りの三人にそこまで価値は感じませんね」
「……………………正直、そんなことを言われてもいまいち信用できないかな。考える時間が欲しいんだけど…」
「もちろん構いません。ですが時は有限、早めに決めた方がよろしいかと」
「……忠告ありがとう。知りたいことはだいたいわかったし、そろそろお
ホシノはソファから立ち上がり応接室から出ようとする。黒服は身動き一つせず言った。
「では、いい返事を期待していますよ」
「………はいはい、またね」
カイザーの秘密基地から数キロメートル離れ、監視の目がないことを充分確認したホシノはホッと息を吐く。
「……よかった、ひとまず生きて帰れそう…」
ふと、ホシノはカイザー基地のあった方向を見る。あれだけ大きな基地がここからだとまったくわからないことに気づき、彼女の背に冷たい汗が流れた。
「……何も気づいてない時にうっかり迷い込まなくてよかった…」
ホシノはこれからのことを悩みながらホルスで空を思うままに飛ぶが、いつもよりも動きが悪いように感じた。
《ガッツドリンク》
いわゆる栄養ドリンク。社会人とペルソナ使いが買い占めていることが多く、自販機で売られているものはよく売り切れている。味方1体のSPを5回復する。
《妖怪MAXバナナ味》
独特な味がするエナジードリンク。味方1体のSPを5回復する。妖怪MAXのフレーバーには複数種類が存在するが、何故かこのバナナ味のみSPが回復する。中身の成分がちょっと違うのかもしれない。
《ミ=ゴ》
アルカナ:月
耐性:電撃 弱点:銃撃、火炎
(熱吸収ジェル装備ミ=ゴは物理と銃撃耐性、火炎無効、氷結弱点)
頭部が触手の生えた渦巻のような甲殻類の姿のシャドウ。黒服によって調整が施されており彼の命令には忠実に従う。ジオンガと電撃ブースタを初期習得しており、ジオンガの威力が高くなっているので注意が必要だ。