屋根ゴミ、キヴォトスに赴任する   作:シャザ

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3話 ラーメン屋に行こう

 蓮は目を覚ました後対策委員会たちの溜まり場である教室に向かう。ひと足先に来ていたホシノは装備のメンテナンスを中断して挨拶した。

 

「あ、おはよー先生。よく寝られた?」

 

“あ、あぁ。そっちも随分と早いな”

 

 よく見ると彼女の頬には絆創膏が貼られている。蓮は先日までなかったはずのソレが気になった。

 

“そのほっぺの怪我はどうしたんだ?”

 

 ホシノはパチクリと瞬きをする。そんな事を聞かれた経験がなかったのか、彼女はうへへと誤魔化すような笑みを浮かべて言った。

 

「えーっとね……大した事じゃないんだ。うん、気にしないで?」

 

 そう言われては蓮もこれ以上追及できない。

 

「今日は自由登校日だから基本的にみんな自由に過ごしてるはずだよ。先生はどうするー?」

 

“……そうだなぁ…このあたりの地理も知りたいし、街の方に行ってみようかな”

 

『ワガハイも賛成だ。……この地区のことについて、ワガハイたちはあまりに無知すぎるからな』

 

「…………うん?街の方に行くんだったらおすすめのラーメン屋があるよ~。案内するから先生おごって?」

 

 ホシノのお願いを聞いた蓮は苦笑しながら頷いた。

 

“……わかったよ、お腹も空いてきてるし案内してもらいたいな”

 

「うへへ、ちょっと待ってね出かける準備するから」

 

 ホシノは自分の装備を整えるとスマホをポチポチし始めた。キヴォトスで最も使用されている連絡アプリ《モモトーク》だ。一応蓮も自分の連絡用端末に入れてはいるが、中々登録される人数は増えない。

 

「これでヨシ!いやー、太っ腹だなぁ先生は」

 

“…今なんでモモトーク起動したの?

 

 ホシノが誰に連絡したのかはすぐにわかった。通学路の途中でセリカ以外の対策委員会と出くわしたからである。

 

「ん、ラーメン楽しみ」

 

“……ホシノさん??”

 

「うへ、ゴメンね先生。みんなも誘っちゃったぁ」

 

 ホシノは悪びれる様子もなくにへっと笑う。

 

“別に怒ってるわけではないけど、ちゃんと言ってほしかったな”

 

「もう、ホシノ先輩ったら…」

 

“とりあえず約束は守るよ、今日はおごりだから遠慮しないでほしいな。……ところでセリカは?”

 

「セリカちゃんはたぶんバイトですねー」

 

 ノノミはほわわんとした優しい笑みで答える。ホシノもモモトークの画面を見せて頷いた。

 

「モモトークにも既読ついてないしねぇ…」

 

“そっか。まあ結果的に仲間外れにしてしまったし、何か埋め合わせを考えるよ”

 

 

 しばらくワイワイ騒いでいた一行は一軒のラーメン屋にたどり着いた。看板には柴関(しばせき)ラーメンと書かれている。入店すると何処かで見覚えのある少女が素敵な笑顔で応対してくれた。というか黒い猫耳が可愛らしいアビドス生のセリカである。

 

「いらっしゃいませー……エ???」

 

 セリカの笑顔が引きつった。

 

「やっほーセリカちゃん」

 

「あの~☆五人なんですけど席ありますか~?」

 

「あはは……お疲れ、セリカちゃん」

 

「おつかれ」

 

「え、なんでぇっ…!?」

 

 セリカは慌てふためいた様子で蓮がいることを確認し、ニャーと威嚇する。

 

「あ、アンタ何みんなを連れて私のバイト先に押しかけてきてんの!?営業妨害よ!!」

 

“ラーメンを食べに来ただけなんだけどなぁ……”

 

「うへー、そうだよ?先生のおごりなんだぁ」

 

 セリカがぐぬぬと煮え切らない表情をしていると、店長らしき存在が他の客に向けたラーメンを作りながら言った。……らしき、というのはそれが擬人化した柴犬っぽい奴だったからである。キヴォトスでは珍しくもない。

 

「アビドスの生徒さんだね。セリカちゃん、おしゃべりはそのくらいで席に案内してあげな」

 

「は、はい柴大将!五名様ご案内でーす!」

 

 広い席に案内されたアビドスの生徒たちは各々好きな席に座る。シロコとノノミはトントンと自分の隣の席を叩いた。

 

「ん、先生ここあいてるよ」

 

「先生、こちらにどうぞ!」

 

“……それじゃあシロコの隣に座らせてもらおうかな”

 

 蓮がシロコの席に座ると、彼女はむふーと得意げになった。

 

「ん、ようこそ」

 

「あらら、負けちゃいましたね~」

 

「席ならまだ空いてる場所あるでしょうが!?もう、ご注文はお決まりでしょうか!」

 

 

 ノノミはチャーシュー麺、シロコは塩ラーメン、アヤネは味噌ラーメン、ホシノは特製味噌ラーメンと炙りチャーシューのトッピングを注文する。

 

「先生はどうします?」

 

“そうだなぁ…じゃあせっかくだし特製味噌ラーメンに味玉トッピングと餃子にしよう”

 

「おぉ、餃子かぁ。柴関の餃子はおいしいよー」

 

 かなり食べ応えのあるラーメンをすすっていると、蓮はふと高校時代を思い出した。怪盗団の仲間であり親友の坂本竜司とラーメンや牛丼を食いに行った思い出だ。

 

“(……前からずーっと疑問に思っていたが、なんで竜司は牛丼を食う時に紅ショウガを馬鹿みたいに積み上げていたんだろうか…。いくら無料(タダ)だからってあれだけ積んだら牛丼そのものの味変わるよなぁ…?)”

 

 竜司に限らずだが、元怪盗団の仲間たちとは年に数回会うくらいだ。全員で集まるのは年に一回あればいい方だろう。また会った時にでも聞いてみるかと蓮はのんきに麺をすすった。

 

 

“ごちそうさまでした。ああ、本当においしかったよ大将”

 

「へへ、どうもありがとよ。それじゃ、これ勘定!」

 

 柴大将は勘定の書かれた紙を連に渡す。

 

“……うん、注文に抜けや間違いはないよ。それじゃあこれで払おうかな”

 

 蓮は財布から一枚のカードを取り出した。それを見たホシノはうへへと笑みを浮かべる。

 

「おー、これはまさしく《大人のカード》ってヤツだね。いいもん持ってるじゃーん」

 

「……先生、私がお支払いしましょうか…?」

 

 ノノミが小さな声で聞いてくるが、蓮はにっこりと微笑んだ。

 

“いや、大人の男が年下の女の子に払わせるのは恥ずかしいことなんだよ。ここは私に任せてほしいな”

 

 店を出ると少女たちは蓮にお礼を言った。

 

「いやぁ、ゴチでした先生!また機会があったらよろしくねー」

 

「ご馳走様でした~」

 

「ん、お腹いっぱい」

 

“喜んでもらえたならよかったよ”

 

「もう二度と来るなぁー!!」

 

 セリカはバイト先があっさりバレた羞恥と怒りで顔が真っ赤になっている。アヤネはセリカを落ち着かせようと試みた。

 

「せ、セリカちゃん落ち着いて…」

 

「落ち着いてられるかぁー!?ぜっったい許さないからねシャーレの先生!!」

 

“また食べにくるよー”

 

「人の話を聞けこのモサモサァ!!」

 

 

 バイトを終えたセリカはいつもより疲労感を感じていた。もちろん原因は昼に襲撃してきた学友たち+αのせいである。

 

「あ゛ー…なんか今日大変だったなぁ…。あれもこれも全部ホシノ先輩とあの男のせいよ!」

 

 セリカはもやもやした気持ちで帰路につく。

 

「……絶対に私は認めないんだから…」

 

 そんな様子のセリカを監視する集団がいた。ヘルメット団である。

 

「……あいつが?」

 

「ああ、アビドスの黒見セリカだ。情報によればコイツ一人だけなら私らでも数で押し切れるらしい。つまり大したことがないってわけだ」

 

「はっははは!よし、とっとと誘拐しようぜ……………。……?おい、返事くらいしろよ…」

 

 ヘルメット団員は何の反応もしない仲間の方に視線を向ける。…上半身がコンクリの壁に叩き込まれ、下半身しか見えない無残な状態の友人がそこにはいた。

 

「…………は…?」

 

「こんばんは、今夜はいい夜だと思わない?」

 

 ロングロッドを振りぬいた姿勢のまま、ホシノはいつもの口調で言う。だが、その目はまったく笑っていなかった。

 

「……不埒な連中を人知れず始末するにはさ」

 

「て、敵しゅ……」

 

 一分後、ホシノの周りには死屍累々のヘルメット団が転がっていた。ボコボコにしたばかりのヘルメット団たちをゴミ捨て場に放り投げ、ホシノは一息つく。

 

「これでヨシ、と。いやー、まさかまだヘルメット団が隠れてたなんて思わなかったよ…。………うん?」

 

 ホシノはヘルメット団の持ち物を調べる。なんと連中はトランシーバーを持っていた。

 

『ピーガガ……おい、返答しろ!定期連絡の時間だぞ!アビドスの生徒誘拐はどうなった!?』

 

「………どうもー、お掛けになった番号は現在使われてませーん。ピーって音の後に要件を言って下さーい」

 

 ホシノは適当極まりない言葉を吐き、敵の反応を伺う。

 

『お、お前は誰だ?仲間に何をした!?』

 

「うへぇ、元の持ち主は燃えないゴミに出しといたよー。………すぐにお前らも同じ目に遭わせてやるから覚悟しろ」

 

 それは処刑宣告であった。それ以上何か言われる前にトランシーバーを踏み壊し、ホシノはスマホで地図を確認する。

 

(敵の当初の目的を考えると、そこまで離れた距離にはいないはずだ。それに攫った後セリカちゃんをどこかに移動させるんなら車とかあった方が都合がいい。あのトランシーバーの有効距離も加味すると……このあたりかな?)

 

 ホシノが見当をつけた場所には、そこそこの数のヘルメット団と戦車が待ち構えていた。

 

「うへ、前から思ってたけどあいつらどっからあんなの持ってくるんだろう?」

 

 ホシノは敵の前に躍り出る。闇夜で顔がよく見えなかったのか、ヘルメット団の部隊長は彼女の正体に気づけなかった。

 

「あん?なんだテメェは?」

 

「ゲェッ!?コイツ、アビドスの……!?」

 

「やあ。……あのさぁ、君たちはちょっとやりすぎたよ。今までみたいに真昼間からぐだぐだ襲ってきてれば……こんなことにはならなかったのに」

 

「……さっきのふざけ散らかした連絡はテメェの仕業か!どんだけ腕に自信があるか知らね―がこっちには戦車があるんだぜ!」

 

 部隊長は自信満々にそう言ったが、ホシノは鼻で笑う。

 

「そんなものに頼る時点で三流だよ。使うなとは言わないけどたぶんロクに練習もせずに実戦投入してるよね?……もうしゃべるのもめんどくさいし全部燃やそっか」

 

「は?」

 

 ホシノは腰に装着したホルスターから拳銃を取り出す。それを自分のこめかみに突き付けた彼女を、ヘルメット団たちは嘲笑った。

 

「ハハハ!何やってんだあれ!?」

 

「おい、あの馬鹿に重い一撃を叩き込んでやれ!!」

 

 砲弾が飛んできてもホシノはまったく動揺せず、引き金を引いて叫んだ。

 

「 ペ ル ソ ナ ァ !」

 

 砲撃が直撃し、ヘルメット団の部隊長は勝利を確信する。砲撃で大きく舞っていた砂埃が炎で吹き飛び、勝利の余韻など感じる時間はなかったが。

 無傷のホシノの後方には、桃色の炎を纏った巨大な(ハヤブサ)が召喚者の命令を待っている。

 

「……燃やせ、《ホルス》!!」

 

 ホルスは翼を羽ばたかせ、《マハラギオン》でヘルメット団を戦車ごと焼き払った。

 

「「「ぐわああああ!!?」」」

 

 本日二回目の死屍累々を生み出したホシノは拳銃……《召喚器》をホルスターにしまい込み、その場を後にする。

 

「……この騒ぎを聞きつけた連中に絡まれるのも面倒だし、影時間が始まるまで隠れてよっと」

 

 ホシノはそう呟いてから、ポケットに入れていた飴玉をガリガリと齧った。




《ホルス》
使用者:小鳥遊ホシノ アルカナ:太陽
耐性:火炎 無効:祝福 弱点:氷結
桃色の炎を纏った巨大な隼の姿をしたペルソナ。ホシノはホルスの脚を掴むことで長時間の飛行が可能。火炎属性スキルと回復スキルを主に習得し、魔力とSPがガンガン伸びる。
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