屋根ゴミ、キヴォトスに赴任する   作:シャザ

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5話 襲撃、便利屋68!

 ラーメン屋を後にしたアルはニコニコ笑顔でラーメン屋での一期一会の出会いをかみしめていた。

 

「ふふ、いい人たちだったわねみんな!アビドスでの仕事が終わった暁にはまた会いに行きたいわ!」

 

「………」

 

 カヨコは彼女らの所属に全く気付いていないアルにため息をつく。なおムツキは同じ発言を聞いて爆笑していた。

 

「………社長、あの子たちの制服見たことなかった?……具体的には依頼人が寄こしてきた資料で」

 

「へ…??せいふく、制服……?」

 

 アルは数日前に届いた資料を思い出す。そういえば彼女たちが着ていた制服には見覚えがあるような……。

 

「……ああああっ!!?」

 

「やっと気づいたねアルちゃん!そうだよ、あの子たちが今回の標的のアビドスだよ!」

 

「なな、なんですってぇええええ!!?」

 

「あはは、その反応最高ー!」

 

「え、えぇ…そんなことある…!?たまたま寄ったラーメン屋でターゲットと出くわしたのにまったく気づかなかったって……」

 

 アルは口をあんぐりと開けている。ムツキはニマニマ笑いながら聞く。

 

「…アルちゃん、やめちゃう?」

 

「………うぐぐ……。……いいえ、計画通りアビドスを攻めるわよ!今回全財産はたいて雇っちゃったしこれ成功させないと明日の朝日すら拝めなくなるわっ!!」

 

 

 アルは雇った傭兵たちに演説を始める。

 

「いい!これからアビドス高等学校に殴り込みに行くわよ、報酬分の働きはしなさい貴女たち!」

 

「えー…。なんでもいいけどさぁ残業無しでね。こんなアホみたいに雇ってるせいで時給酷いしやる気でないわ…」

 

 ふああとあくびをしてやる気のないバイト傭兵に青筋を立てるアルだったが、質より数を優先したのは彼女本人なので文句は言えなかった。

 

「さあ、行くわよ!」

 

「出動~!いえーい!」

 

「……アル様、私っ、頑張りますね!目につく奴ら全員、血祭りにあげます……!」

 

「………はあ、馬鹿軍団…」

 

 ラーメンを食べた後学校に戻ったアビドス生たちは、遠くから来る大群にすぐ気づいた。

 

「……大変です皆さん!南の方向、十五キロ地点に大規模な兵力が!」

 

「うへぇ、マジ?ヘルメット団が報復に来た?」

 

「いえ…ドローンで偵察したところ、服装に統一性がありません。おそらく傭兵バイトです!」

 

「傭兵……?こんな辺境にわざわざ大金積んで攻め込んでくるなんて、雇ったヤツは暇なんだね」

 

 シロコの言葉を聞いた蓮は眉をひそめた。

 

“(……確かに妙だな。どうしてこんな寂れた学校をヘルメット団や傭兵が狙ってくるんだろう…?)”

 

「とりあえず迎え撃つ準備しちゃいましょうか~、食後の運動ってわけじゃないんですけどね」

 

 校舎を出た一行を待ち構えていたのは、ラーメン屋で出会った四人組だった。

 

「あれって、ラーメン屋の…」

 

「………アンタたちは!いったいどういうつもりなの!?ラーメン屋で和気あいあいとしてたのは演技だったってわけ!?」

 

「あはは…そうだったらよかったんだけどね…。アルちゃんあの時気づいてなかったの!でもこっちも仕事だからさ!」

 

 ムツキは鞄から手榴弾を出して身構える。カヨコも頷きながら自身の銃を引き抜いた。

 

「公私はハッキリ区別しないとね。受けた仕事はこなすよ」

 

“それで受けた仕事が傭兵か、人のことは全く言えないけれどもうちょっと穏便なバイトをした方がいいんじゃないか?”

 

「傭兵じゃないわよ!私たちは《便利屋68(シックスティーエイト)》、お金を貰えるならなんでもやる無法者(アウトロー)企業よ!!」

 

「……本当の無法者はそんな堂々と宣言しないと思うけど。ということは、あなたたちも誰かからお金を貰っているってこと?」

 

 シロコのド直球の疑問に、アルは自信満々に答える。

 

「………守秘義務というものをご存じ?いい企業というものは取引相手の情報は漏らさないものよ!」

 

「なるほど、そりゃ言わないか。だったら言いたくなるようにボコボコにするね」

 

「…………え??」

 

 シロコはアルに襲い掛かった。その顔面に容赦なく拳を叩き込もうとした彼女だったが、その攻撃をおどおどしていた女の子改め伊草(いぐさ)ハルカに防がれた。

 

「……!」

 

「あ、あああ……アル様を殴ろうとしましたね…!?ゆ、ゆゆ……許さない!!」

 

 ハルカの目に狂気と殺意が混ざる。彼女は腰にぶら下げていた手斧を一瞬で引き抜き、シロコに振りかぶった。

 

「ああああああああ!!」

 

「!!」

 

 振り下ろされた凶器をギリギリで避けたシロコはハルカを蹴り飛ばして距離を取った。血走った目で追いかけようとするハルカをアルが制止する。

 

「ハルカ、止まりなさい」

 

「アル様、でも…!」

 

「雇った連中をアビドスの生徒にぶつけて消耗させてから私たちが叩く、それが今回の作戦でしょう?今は待つことこそが最善よ」

 

「う、うぅ…。わかりました、今は…我慢します……」

 

 アルはヒートアップしたハルカをなだめるために頭を撫でてあげた。

 

 

 そんな微笑ましい光景が繰り広げられる一方で、戦場と化した校舎前は大乱戦になっていた。

 

「シロコちゃん、さっき斧で斬りかかられてたけど大丈夫?」

 

「うん、制服が切られただけで済んだ」

 

「そっか、そりゃよか……ったァ!」

 

 ホシノはロングロッドで傭兵をまとめて吹き飛ばす。傭兵が担いでいた金属バットがシロコの近くに突き刺さり、彼女はそれをためらいなく(永遠に)拝借した。縦に振り下ろして傭兵を殴り倒したシロコは満足そうに頷いた。

 

「ん、これはいいもの」

 

 快進撃を繰り広げるホシノたちに続くように、ノノミとセリカも奮起する。ノノミの掃射で撃ち漏らした敵をセリカが仕留める連携プレイだ。

 

「よし、だいぶ減ってきたわね!」

 

「セリカちゃん、油断は禁物ですよ!」

 

 便利屋たちは次々倒されていく傭兵たちを見ながら、アビドスの生徒たちを観察する。おそらく、あの中の誰かがホルスだろうとアルは予想していた。

 

「ねえカヨコ、あなたの意見を聞かせてほしいわ。……誰がホルスだと思う?」

 

「……ホルスの噂を初めて聞いたのは、二年前だったかな。もしその時既にアビドスの生徒だったとして、今も在籍しているなら三年生が怪しい。……たしか、あのピンクの髪の子はほかの四人から先輩って呼ばれてたよね」

 

「そういえばそーだね。じゃああの子がホルスだ」

 

 ムツキの言葉にアルは首を振る。

 

「……そうとは限らないんじゃない?あの銀髪の子とか結構いい動きしてるわよ」

 

「じゃあさ、この際()()狙っちゃお?」

 

 ムツキは獰猛な笑みを浮かべながら鞄の中に手を突っ込んだ。がちゃがちゃと中を漁り、出てきたのは……召喚器。

 

「さあ、出番だよ《アスモダイ》!」

 

 召喚器を頭部に向け、引き金を引いたムツキのヘイローが()()()()。砕け散ったヘイローは凄まじい力の本流となって異形の道化の姿を形どった。

 羊にそっくりな横長の眼孔が、ホシノとシロコを見据えた。

 

「《マハラギ》っ!」

 

『ヒャハハハ!!』

 

 

 対策委員会のたまり場こと会議室でアビドス生たちに指示をしていた蓮は、アヤネのドローンに奇妙なものが映っていることに気づいた。ムツキが鞄からハンドガンを取り出し、銃口を額に押し付けたのである。

 

“……あれはいったい何をしてるんだ?”

 

『……自傷?』

 

「………え、ま…まさか……!」

 

 画面内でムツキのヘイローが砕け、その欠片から道化師の姿をした悪魔が現れるのを見て蓮とモルガナは絶句した。

 

“………は?”

 

『ぺ……ペルソナだと!?』

 

「うそ…ペルソナ召喚器!?実在してたんですか!?」

 

 何か知っている素振りを見せたアヤネに蓮は詰め寄る。

 

“アヤネ、召喚器ってなんだ!?”

 

「……私も噂で聞いただけなんですが、ブラックマーケットで妙なものが流通し始めたそうなんです。……魔法が使えるようになるだとか、化け物を使役できるだとかで信ぴょう性に欠けるものばかりで、嘘っぱちだと思ってました」

 

“(……黒服は言っていた、キヴォトスにもペルソナ使いはいると。さてはこういう補助器具的なもので増やしてるなアイツ!?)”

 

『レン、このままじゃまずいんじゃないか!?』

 

 モルガナは慌てた様子で聴いてくる。

 

“このままじゃホシノたちが危険だ…どうにかしないと…”

 

 ドローンの映像内では、道化師が広範囲を炎で攻撃している。火の勢いから察するに《マハラギ》だろうかと蓮は思いながら戦場に向かった。

 

 

 

 ホシノはムツキがアスモダイを召喚したのを見て舌打ちすると、シロコに叫んだ。

 

「シロコちゃん、私の後ろに!」

 

「!?わ、わかった!」

 

 シロコがホシノの後ろに回った瞬間、マハラギが周囲を焼き払おうと迫る。ホシノは盾を構えて防御の姿勢を取った。自分だけならこの程度は余裕で耐えられるが、シロコは重傷を負う可能性があるからである。

 ホシノの盾はマハラギを見事に受け切った。シロコはムツキを睨みながらシロコに怪我がないか聞く。

 

「シロコちゃん、怪我はない?」

 

「ん……。ホシノ先輩、アレ何?」

 

「……《ペルソナ》だよ。人間の見えない側面、もう一人の自分らしいよ?」

 

 ムツキはピンピンしているホシノたちを見て残念そうにうなる。

 

「うーん……、あんまり火は効いてないみたい?なら…ハルカちゃん、パース!」

 

 ムツキはハルカに召喚器を投げ渡した。あわわとお手玉をしながら召喚器を取り、銃口を口内に突っ込む。

 

「ぺ…ペルソナ!」

 

 トリガーを引き、ハルカはもう一人の自分を呼び出す。そのペルソナは苔むした蟹のような姿をしていた。

 

「が…《ガープ》!」

 

 蟹はハサミを振り下ろし《ガル》をホシノに放つ。強風にあおられながらもホシノにはまだ軽口をたたく余裕があった。

 

「うおっとと…カニのくせに疾風?ちょっと変な組み合わせだねぇ」

 

「き、効いてない…!?ど、どうしましょうアル様!?」

 

「ハルカ、こっちに投げて」

 

 カヨコはハルカに手を差し出した。

 

「は、はい!」

 

 ハルカがカヨコに向けて召喚器を投げ渡す。その様子を見ながらホシノは確信する。

 

(……あの子たち、召喚器を四人で使いまわしてる?召喚器を各々が持ってたらこんなことはしなくてもいいもんね。連携の上手さで誤魔化してるけど、使ってるスキルは下級のものばかりだ。ってことはペルソナ使いになってまだ間もないのかな?)

 

 ホシノはこっそり後ろにいるシロコに伝える。

 

「……シロコちゃんお願いがあるんだけどいい?」

 

「……?」

 

「次に敵があれ…召喚器を投げた時、相手より先にキャッチしてほしいんだぁ。……できるよね?」

 

「……ん、もちろん。ビックリドッキリ人間ショーはもう充分楽しんだ」

 

 シロコは自信満々に頷いた。一方、カヨコはホシノとシロコが何やら話していることには気づいてはいたものの、自分のやることに変わりはない。いつものように引き金を引くだけだからである。

 

「……来い!」

 

 カヨコの召喚したペルソナはバイオリンを弾いている黒猫の獣人だった。猫はキレながら楽器をかき鳴らしており、可愛らしさなど欠片もない。

 

『ふんにゃ~~~おっ!!』

 

「凍らせろ、《ベレト》」

 

 猫はキレながら《マハブフ》で砂漠一面に氷交じりの風を吹きつけた。ホシノはモロ弱点の氷結属性魔法に困った顔をする。

 

「……あ、ちょっとやばいかも」

 

WEAK 1More!

 

「弱点発見、氷結か。……社長、追い打ちお願い」

 

「ええ、任せてちょうだい。もしあなたがホルスなら、これも耐えるんでしょうけど…。今回ばかりは勝たせてもらうわ!」

 

 カヨコの投げた召喚器をキャッチしようとしたアルだったが、直前にムツキが叫ぶ。

 

「アルちゃん、伏せて!!」

 

「…………へ?」

 

 アルの目の前にスタングレネードが落ちてくる。目が点になった彼女の視界が真っ白に染まった。

 

「ああああああ!?目が、目がああああ!!?」

 

 閃光手榴弾を投げたのはシロコだった。下手に殺傷力のある手榴弾では召喚器が破損しかねないと思った彼女は、あえて非殺傷のスタングレネードでアルの視界を潰したのである。

 うずくまったアルは召喚器を手にできるほど余裕がない。彼女は必死に叫んだ。

 

「ムツキ、ハルカ!!召喚器を奪わせないで!!」

 

「りょ、了解です…!」

 

「わかった!」

 

 ムツキたちはアルの近くに突き刺さった(なお目つぶしされているアルが手探りで探しても見つからない程度の距離)を回収しようとするが、砂漠地帯での移動に慣れているシロコが先に召喚器の元にたどり着いた。

 

「もらった」

 

「………っ!させるわけないでしょう!」

 

 アルはシロコの声がした方向を撃つが、そもそもアルの銃は狙撃銃でその真価を発揮するには相手をきちんと狙う必要がある。明後日の方向に飛んでいく弾丸を無視し、召喚器を拾ったシロコは便利屋から距離を取った。

 

「…………これが、召喚器…」

 

 シロコはハンドガンをじっと見る。銃弾が発射できているような作りではない、どちらかと言えばモデルガンに近い構造だ。

 

(……リアルだけど、これだけ近くで見てもモデルガンにしか見えない…)

 

 召喚器を頭に突き付けたシロコだったが、引き金を引こうとするその直前で身体がこわばる。引き金を引けば銃弾が出て自身のヘイローを砕き、少女の命を奪う。そんな具体的なイメージで硬直したシロコだったが、同時に妙なモノを幻視する。ノイズがかかって詳細はわからないものの、何が起こっているかはギリギリわかった。

 

 それは満月の夜に、紺色の髪の少年が沢山の手の怪物に立ち向かう姿だった。

 

「…………。」

 

 彼の動きを真似するように、砂狼シロコはグリップを握りなおす。

 

「ペ」

 

「ル」

 

「ソ」

 

「ナ」

 

 引き金を引いた。




《アスモダイ》
使用者:浅黄ムツキ アルカナ:魔術師
耐性:火炎 弱点:電撃
頭に牛の角、羊を連想させる横長の瞳にガチョウの脚を持った道化師の姿のペルソナ。火炎属性スキルやタルンダなどの相手を弱体化させるスキルに長けている。時々爆弾でジャグリングをしている様子が見られる。

《ガープ》
使用者:伊草ハルカ アルカナ:刑死者
耐性:疾風 弱点:氷結
苔や雑草が甲殻に生えている蟹の姿をしたペルソナ。疾風属性スキルと物理スキルを主に覚える。待機状態のガープはもはや岩と見分けがつかない。

《ベレト》
使用者:鬼方カヨコ アルカナ:隠者
耐性:氷結 弱点:疾風
怒りの形相でバイオリンをかき鳴らす猫の姿をしたペルソナ。氷結属性スキルと恐怖や混乱を付与する状態異常スキルに長けている。カヨコ本人は自身のペルソナがお気に入りらしい。
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