屋根ゴミ、キヴォトスに赴任する   作:シャザ

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6話 死神顕現

 シロコのヘイローが砕け散り、新たな姿へと再構成される。それはシロコの銀髪と同じ色の毛並みの狼であった。狼はシロコにカタコトの言葉で自身の名前を伝えようとした。

 

『グルル……我ハ汝、汝ハ我…。我ハ汝ノココロヨリ来タリシ……グウッ!?』

 

 シロコは銀狼の言葉を聞いていなかった。頭痛でそれどころではなかったのである。自らの中から、もっと恐ろしいモノが自身のペルソナを通して出てこようとしていると、シロコは直感で悟った。

 

「くる、な……。出てくるな!!

 

『ギ、ギギ……アオオオーン!!?』

 

 銀狼の身体が内側から破裂する。中から出てきたのは、四つの棺を鎖で繋いだオブジェを背負った怪人であった。狼の頭部をそのままマスクにしたような顔、鋭い爪が生えた手には一本のシンプルな長剣を持っている。

 

『ぎ、ぎぎ……』

 

「………何アレ。ペルソナの中から別のペルソナが出てきた…!?」

 

 ぎこちない動きでシロコのペルソナは首を動かす。それは便利屋68を標的と定めたのか、うずくまるシロコを無視して走り出した。

 

「………こ、こっちに来てます!!」

 

「迎え撃つしかない、か…。……私たちはどうなってもいいけど、社長だけは逃がさないとね…」

 

 シロコのペルソナは見えないほどの超速度で剣を振るう。…斬撃を知覚したころには既に致命傷が刻まれていた。

 

「………え?」

 

「……ごふっ……。い、今……何回斬られた……?」

 

「あ……る、さま……。に、にげ……て……」

 

 ■■■■の《空間殺法》で仲間たちが壊滅した一部始終を、目つぶし状態から回復した陸八魔アルは絶望の表情で見ていた。

 

「み、みん……な…?うそよ、こんなの……」

 

 アルとて作戦が失敗する可能性があるとは思っていた。だがしかし、それはアビドス対策委員会に返り討ちにされて逃げ帰る程度の失敗だ。断じて意味の分からない死神に皆殺しにされる惨劇が起こるなど想像もしていなかった。

 

「………ごめんなさい、ムツキ、カヨコ、ハルカ……。……たぶん私もすぐにそっちに逝くから…」

 

 歯を食いしばり、アルは死神に銃口を向ける。仲間の仇に大人しく殺されてやるほど、彼女は諦めがよくなかった。

 

「せめてアンタに一撃でもぶち込まないと、私はぁ!!」

 

 アルの決死の一発は、死神にかすり傷すら付けることができなかった。

 

「……っくしょう…」

 

 アルの首を刎ね飛ばそうと剣が迫る。せめて目は閉じまいとするアルの目の前に、桃色の炎が舞い上がった。

 

「《アギラオ》ッ!!」

 

 ホルスの放った爆炎が死神に叩きつけられる。あっけに取られたアルの前に降り立ったのは、小鳥遊ホシノだった。

 

「……あ、あなた…どうして…」

 

「……流石にこんな事になって見殺しに出来るほど薄情ではないよ。ここからは私に任せて?」

 

「………わかった」

 

 そこに、学校から出てきた蓮がやってくる。

 

“状況はどうなってる!?”

 

「先生、むちゃくちゃヤバい事になっちゃった。えーと、シロコちゃんがペルソナって力に目覚めたのはいいんだけど、暴走してるみたいなんだぁ。私はシロコちゃんをなんとかするから、そこの社長さんと死にかけてる子たちを連れて離れてくれる?」

 

 ホシノはポケットから複数の飴玉っぽい何かを出して蓮に手渡した。戦闘不能状態から復活出来る《地返しの玉》だ。

 

「それを三人に食べさせたら命は助かるからね。絶対に安全な場所で使うこと!」

 

「わ、わかったわ。……気を付けてね」

 

“……ホシノ、あんまり無茶はするなよ”

 

「うへぇ、もちろん。死ぬつもりはないよ」

 

 ホシノは軽口を叩いてから、暴走しているシロコのペルソナを挑発した。

 

「来なよ、躾けてあげる」

 

 死神は咆哮を上げながら盾を構えたホシノに襲い掛かる。特大の闇の奔流である《エイガオン》を何とか耐え、ホシノはペルソナを召喚する。

 

「ホルス!」

 

 ホルスは回復魔法の《ディアラマ》でホシノを癒す。ホシノは一撃の重さに舌打ちした。

 

(なんて破壊力…そりゃ新米ペルソナ使いじゃ全く歯が立たない訳だ!こんなヤバいのと真正面から戦ってたら先にこっちがすり潰される、だったら…)

 

 本体のシロコの意識を刈り取るしかない。ホシノは戦意を昂らせ、召喚器のカートリッジを引き抜くと代わりに赤いカートリッジを装填した。

 

「……コレ、疲れるからあんまり使いたくなかったんだけどなぁ!」

 

 召喚したホルスが真紅のオーラを放つ。ホシノは銃を撃ちながら死神に肉薄すると、ロングロッドで連撃を浴びせた。

 

「オオオオオッ!ホルスゥ!!」

 

 ロングロッドを掲げると、ホルスは自身の桃色の炎をロングロッドに灯す。ホシノは燃え盛るロングロッドを持ち替えてから全力で投擲した。

 

「これで…どうだぁ!!」

 

 灼熱の槍がシロコのペルソナを射抜く。背負っていた棺桶の一つが完全に破壊され、死神は激昂した。

 

『オオオオオオオ!!!』

 

 しかし、死神もさすがに身体をぶち抜かれて平気というわけではない。ホシノの奥の手、《テウルギア》は確かに死神に手傷を負わせたのだ。

 

(……今だ!)

 

 ホシノはうずくまるシロコに近づいた。シロコは目の焦点が合っておらず、うわ言を呟くばかりだ。

 

「……きもち…わるい……」

 

「……ごめんねシロコちゃん」

 

 死神がホシノに剣を振り下ろそうと迫る。

 ホシノは後ろから迫る殺意を無視しながら、シロコに強めの当身を放った。

 

「………う…!?」

 

 ホシノの首を刈り取ろうとした死神の動きが止まった。

 

『ぎ、ぎ……』

 

 シロコが気絶したのと同時に、死神は消滅する。……どうやら、危機は去ったらしい。

 

「………ふう。こんなに疲れたの久しぶりだよぉ…」

 

 

 ホシノが■■■■と死闘を繰り広げていたその時、蓮とアルはアビドスの校舎まで移動していた。アヤネは便利屋と一緒に戻ってきた蓮に目を丸くして驚いた。

 

「え、ええ!?どういう状況なんですか!?」

 

“ドローンで見てなかったのか?”

 

「その、シロコ先輩がペルソナ召喚器を使うところまでは見てたんですけど…ドローンが壊れちゃったんです!」

 

 蓮はあの場で起こっていた一部始終を説明する。蓮が見ていなかった部分は隣にいたアルが補足してくれた。

 

「そうだったんですね。……え?ホシノ先輩もペルソナ使いだったんですか?」

 

「……今、あなたたちの先輩はあの怪物と()り合ってるはずよ。……大丈夫なの?」

 

“………どうなんだろう。ホシノは腕に自信があるみたいだけど、あのシロコの呼んでしまったペルソナもかなりヤバそうだったしなぁ”

 

 シロコのペルソナが放つプレッシャーは、かつてメメントスで出くわした《刈り取るもの》と同質の重圧だった。暴走状態であることを考えてもかなりの高レベルだったのではないかと蓮は考察していた。

 

“とりあえず、そこの三人を復活させようか”

 

「そ、そうね…。……でも、そんな飴玉なんかで致命傷を負ったみんなを救えるの?」

 

『ああ、地返しの玉は効果てきめんだからな…クッソ不味いけど』

 

 味を思い出してしまったモルガナがおえっとえずく。その様子を見たアルは信じられないものを見たとでも言いたげな顔をする。

 

「…………へ?ね、ねえ…今そのにゃんこ喋ってなかった!?」

 

“聞こえたの?”

 

「聞こえたも何も!その飴玉クッソ不味いとか言ってるわよ!?」

 

『………マジで言葉が通じてるっぽいな。もしかしてペルソナ使いだからか…?』

 

 そのやり取りを見ても、アヤネは何が何だかわからないようだった。やはり、モルガナの言葉はペルソナ使いにしかわからないらしい。

 

「その、私にはにゃーとしか聞こえませんね…」

 

“あはは…必要な時は私が翻訳するよ”

 

 蓮は便利屋の少女たちに地返しの玉を食べさせる。意識を取り戻した三人は口々に味の酷さについて文句を言った。

 

「……にっがぁ…」

 

「まっず…」

 

「アル様、これ酷い味がします……」

 

「みんな!……よかった、本当によかった…」

 

 アルは三人をぎゅっと抱き寄せた。そんな中ホシノが気絶させたシロコを背負って戻ってくる。後ろにはノノミとセリカの姿もあった。

 

「うへぇ、とりあえず死人が出なくてよかったよー。……それじゃ、お話しよっか社長さん」

 

「……そうね。どんな形でも私たちは負けたもの。それに復帰したばかりの三人を連れて逃げるのは無理だし…」

 

「んー…どうしたもんかなぁ」

 

 ホシノは結果的に捕虜にできてしまった四人の処遇に悩む。拷問などは以ての外だが、かといって無条件で解放するのもためらわれるからだ。

 

“ホシノ、今日は彼女たちを帰してあげてもいいんじゃないかな。この感じだと報復しに来るようなことはなさそうだし”

 

「……それもそっか。でもさすがに召喚器(これ)は没収していいよね?」

 

 回収した召喚器をアルに見せると、彼女はしばらく悩んでいたが頷いた。

 

「……ええ。命を救われた対価としては安いものよね、召喚器なんて!それはあなたたちに譲るわよ、売るなりその子に使わせるなり好きにして構わないわ!」

 

「そう言ってくれておじさんうれしいよ。それじゃ、気を付けて帰ってねぇ。……あ、お家まで送ってこうか?」

 

「……いや、そこまでしなくて大丈夫だから…」

 

 

 便利屋68の襲撃、あるいはシロコのペルソナの暴走から二日後、シロコはようやく目を覚ました。

 

「……ん、お腹空いた」

 

「おはようシロコちゃん、みんな起きるのを待ってたんだよ?」

 

“そうだね、今回の会議はシロコもいないと駄目だから。とりあえずご飯食べながら話そうか”

 

 いつもの教室に集まった一同は軽食を食べながら会議を始める。

 

「はい、では二日前の襲撃についての会議を行いたいと思います。今回襲ってきた傭兵を率いていた便利屋68はペルソナ使いの集団でした」

 

「アヤネちゃん、ストップ。……そもそもペルソナ使いって何?」

 

 セリカの疑問にホシノが答える。

 

「ペルソナっていうのはなんて言うのかな…自分の心にいるもう一人の自分なんだよね。人間っていうのは誰もが心の奥底に異形の存在がいて、そいつらを制御して力を引き出すのがペルソナ」

 

 ホシノはホルスターに入れていた召喚器を机の上に置く。銃身に刻まれた『S.E.E.S.』という文字を見て、開発企業のロゴだろうかと蓮は思った。

 

「これはペルソナの力を引き出すための補助具、《召喚器》だよ。昔怪しい大人から貰った代物でね。これでこういう風に自分を撃つと…」

 

 ホシノは指鉄砲を自分のこめかみに突き付け、パーンと撃つふりをする。

 

「ヘイローが砕けてペルソナになるってわけ」

 

 ホシノの説明を聞きながら、蓮はモルガナと目線を交わす。自分たちの使うペルソナとは同じ部分もあれば違う部分もあるようだ。だが、説明を聞いたセリカの顔が青ざめた。

 

「……ヘイローが、砕ける…!?ちょっと、それ本当に大丈夫なの!?」

 

「うん、一年生のころからペルソナ使いやってるけど特に問題は起きてないかなぁ…。……でも、たまにペルソナを制御できない子が自分のペルソナに襲われたり最悪命を落とすこともあるんだって。……たぶんシロコちゃんのペルソナも暴走してたんだろうね」

 

「……暴走…」

 

 自身のペルソナの内側から出てきたアレは、本当にもう一人の自分だったのだろうかとシロコは不安に思った。ことの顛末はホシノから軽く聞いた。便利屋の三人を瞬く間に倒し、ホシノに放置していては危険だと思わせるほどの怪物が、自分の中に今も潜んでいると思うと心がざわめく。

 

「……ホシノ先輩、私はどうしたらいい…?」

 

「うーん……悩ましいよね。個人的にはシロコちゃんにペルソナを制御してもらいたいけど、シロコちゃんの判断に任せるよ。このままペルソナ使いになるか、きっぱり忘れてしまうか」

 

「シロコ先輩、やめといた方がいいんじゃない…?その、ちゃんと制御ができるとは限らないんでしょ!?」

 

 セリカはシロコを止めようとするが、彼女はじーっと机の上に置かれた召喚器を見ている。

 

「……………やる。私もペルソナ使いになりたい」

 

「そう言ってくれてよかったよ~。それじゃ、これがシロコちゃんの分の召喚器ね」

 

 ホシノは便利屋から回収した召喚器をシロコに渡す。シロコはずっしりと重みを感じた。

 

「それじゃ、一回外に出て練習してみよっか!アヤネちゃん、倉庫から射撃用の的持ってきてー」

 

「は、はい!………大丈夫なのかな…」

 

 外に出た一行はさっそくシロコにペルソナを出してもらうことにした。

 

「シロコちゃーん、頑張ってくださーい!」

 

「……本当に大丈夫かなー…」

 

「もし駄目だったらホシノ先輩がシロコ先輩を気絶させるって言ってたし…信じるしかないんじゃないかな?」

 

「………よし、準備オッケー」

 

 シロコは深呼吸をしてから召喚器の銃口を自分に突き付ける。

 

「……ペルソナ!」

 

 引き金を引くと、シロコのペルソナである銀狼が現れる。初めてペルソナを召喚したときのような異変は今のところ見受けられない。シロコはさっそく銀狼に指示を出した。

 

「行って、《ロボ》!」

 

 銀狼は呪怨属性の魔法である《エイハ》を的に放つ。呪詛をくらったターゲットは勢いよく粉砕される。

 

“………問題はなさそう、かな?”

 

「あの化け物みたいなペルソナとは似ても似つかないね。だったら最初に出てきたアレはなんだったんだろ…?」

 

『今はちゃんと制御出来てるが、また出てこないとも限らないのがな…。注意しておくに越した事はないと思うぜ』

 

 その後、シロコのペルソナが暴走する事はなく無事に終わった。教室に戻った一行はこれからのことを話し合う。

 

「今のところシロコちゃんのペルソナには問題ないことがわかったし、これからどうするか話し合おっか~」

 

「はい。現在目立った脅威と言えば、便利屋を雇ってこちらを襲撃してきた何者かですね!目的も正体も不明な相手を放っておくわけにはいきません!」

 

“とは言っても、敵の情報がまったくないと正体を探ることはできないな…。便利屋の子たちに聞けるならいいんだけど……”

 

「……まったくない、ってわけではないかも」

 

 そう言ったのはシロコだった。シロコは自分の召喚器を見せる。黒々とした銃身に王冠を被ったタコの刻印がされていた。

 

「これは……《カイザーグループ》の…!?」

 

「……つまりコレ、カイザーグループの商品ってこと!?」

 

「………そうとは限らないんじゃない?これを作った奴はカイザーグループのロゴを勝手に使ってブランド力を引き上げてるのかも。そもそもこういうのって表立っては売ってないよねぇ」

 

「そうですね。召喚器が出回っているのはブラックマーケットなどの限られた場所だけのはず…。……一度ブラックマーケットを調査してみるのはどうでしょうか?」

 

 アヤネの提案を拒否する理由はどこにもなかった。




《ロボ》
使用者:砂狼シロコ アルカナ:死神
耐性:呪怨 弱点:祝福
銀狼の姿をしたペルソナ。呪怨属性と全体攻撃の物理属性のスキルを多く覚える。元ネタはシートン動物記に登場する狼王ロボ。

《????》
使用者:砂狼シロコ アルカナ:死神
ロボの体内を引き裂いて出現した謎のペルソナ。信じられないほど強大な力を持ち、シロコの制御を全く受け付けず便利屋68をあっという間に倒してしまった。姿形は何処かタナトスに似ている。

《ホルスの神焔》
敵1体に耐性無視の火炎特大ダメージを与え、敵の火炎属性の相性が耐性、無効、吸収の場合3ターン打ち消す
ホシノが銃弾をばら撒きながらロングロッドで連撃を浴びせ、ホルスの炎を纏わせたロングロッドを全力で投擲してトドメを刺すテウルギア。灼熱の炎を纏ったロングロッドで身体を焼かれた敵はしばらくの間火炎属性の攻撃が通用するようになる。
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