異世界迷宮でハーレムしない 作:とくめい
食事をしながら己は考えていた。
昼食を作ると宣言した時の事である。
己が。この星が産んだ奇跡の美少女である己がばぶみを覚えるなんて。
猫耳美少女に。
許されない。
この傷つけられた矜持を取り戻す。
美少女に敗北は許されない。
「シルヴィ」
「はい。ご主人様」
にっこり笑顔で返事するシルヴィ。可愛い。
当初は奴隷らしくというか、大人しい雰囲気の彼女であったが、すっかりこの家の空気に慣れてきたらしい。
自然な笑顔が素敵な猫耳美少女になっている。
だがこの笑顔に騙されてはいけない。
このままではばぶみの沼に沈む事になる。
己にその趣味はなかったのだが、知人がその界隈にハマってしまって以降母性を感じる女性キャラクターにばぶばぶいう生き物に成り果ててしまったのだ。
あの時のやるせない気持ちを思い出せ。友を失ってしまったあの夜の哀しみを。
誇りを取り戻すのだ。
「今夜もとても美味しいです」
「ありがとうございます」
不味い。戦況は不利という他ない。あの笑顔を見ると何も出来ぬ。
いつからだ。いつからこうなった。
己は立派に主人として威厳を示していたはずなのに。
出かけておいて道がわからず家に帰って二人を頼ったのはちょっと良くなかったかもしれない。
さすご主されたくて頑張ったお菓子作りであわあわしていたのも認めよう。
ここは一旦退くべきだ。転進だ。まだ慌てるような時間じゃない。
負けじゃない。勝ちの途中。
「シルヴィ。スープ貰っていいか」
「はい。カールさん」
カールが名前呼び…だと…?
胃袋掴まれやがって!己もおかわりお願いします。
というわけで翌朝も迷宮だ。
己のアイデンティティを取り戻すため戦うのだ。
元々危惧していた事態ではあった。
食事を作る者は家庭にて最強。
ここは戦いによってばぶみなどというものを感じてしまった己の心を叩き直すべきだ。シルヴィは可愛いからそのままでいい。
戦いは順調だ。戦場はばぶみなどという甘えを許さない。
こん棒がロートルトロールの右膝を砕いた。落ちてくる上半身。首。
剣を振り下ろした。首が胴体と離れ煙と消える。
こん棒を胸元に持ち上げた。そこへ飛んでくる枝。遠距離攻撃。
最初の目標を眠らせたカールがそいつへ切り掛かった。
群れといえどそれぞれの距離が離れている状況もよくある。
ラブシュラブは特に移動力が殆どないためか、随伴の魔物と距離がある事が多い。やりづらい理由の一つ。
己が二匹目の目標を斬ったところへ向けて、奥まった位置にいた魔物からの攻撃だった。
カールが怒涛の攻撃により射手をも無力化した時、既に眠っていた魔物を処理した己がそいつへ振りかぶっていた。
カールの声掛けで早朝の探索を終えた。
ヤギ肉は大きいから夜に一周すればいいとして、ウサギ肉は小さいから朝と夜で2周RTAしようとウサギ討伐に向かう。
今朝も良いタイムがでている。
アシュリーが労いと共に淹れてくれたお茶を飲みながら満足感を味わった。
「朝と同じ位置に同じ感覚のパーティがいます。盗賊かもしれません。数は5か6」
アシュリーはカールから盗賊の可能性を聞いてより他パーティの動向をより細かく確認している。
「そのパーティのすぐ近くに恐らく小部屋が。朝にボスの部屋の可能性をお話しした場所です。こちらも変わらず人がいるようです。人数はわかりません」
早朝探索の終わり際に人のいる小部屋と、近くにいるパーティの報告を受けていた。ボスの順番待ちではないか。ボス部屋の可能性がありそうだと。
「盗賊の可能性がありそうですね。どの道ボス部屋の可能性もあって行くつもりでしたし向かいましょうか。
確認します。私は盗賊かどうかがわかりますので確認でき次第合図をします。盗賊だった場合はそのまま先制攻撃します。ヤンガスさんとアシュリーは下がっていてください。カールさんはご自由に」
事前に取り決めていた対応を確認。デュランダルを取り出し進んだ。
相手が視界に入る。盗賊5人。探索者が1人。レベルは全員20前後。
合図により盗賊である事を味方と共有。そのまま進む。
探索者が小部屋に入った。他の5人はこちらへ向かってくる。
「よお。金を出せ。アイテムボックスの中もな。悪いことは言わねえ。命は助けてやるよ」
オーバーホエルミング
手前の男の首を刎ねた。剣を返しその左の男も。カールを見る。既に攻撃の態勢。狙いは右端。
効果が切れた。同時に右端の男へカールの剣が届く。
再びオーバーホエルミング。残りを始末した。
「踏み込む。ヤンガスとアシュリーは待機。カールは自由に」
小部屋へと駆け寄りオーバーホエルミング。
中に踏み込み状況を確認。すぐ隣に先程小部屋に入った探索者。扉に向かう男達。6人。盗賊5人と探索者1人。外にいた者よりレベルが高い。40超えも。
隣の男を蹴り飛ばす。間合いが近い。効果が切れた。男が吹き飛ぶ。
「いつのまに」
すぐにオーバーホエルミング。声を上げた40レベル超えの男の首を突いた。
他の男達はバラけている。近い位置の男の首を刎ねた。踏み込んでもう1人首を突くと同時に効果が切れカールが踏み込んできた。
「一体何が」
再び絶対の時間を作り出す。もう1人に駆け寄り斬りつけ離れた男に向かってこん棒を投げつけた。
こん棒を体にまともに受けた男が吹き飛んだ。カールが1人を仕留めた事も確認。
立っているものは居なくなった。
蹴りつけた相手は息がある。こん棒を受けたものは動かない。
息のある探索者へ近づく。カールは周囲を確認し小部屋を出た。
「金を出せ。アイテムボックスの中も。命が助かるかはわからないけど」
探索者に剣を向け言った。
こん棒を投げつけた者もかろうじて息があった。探索者だった。
回復薬をチラつかせれば素直にアイテムボックスを開く。
どちらが盗賊かわからないなこれ。
「探索者の場合ってどうすればいいでしょう?どうせ懸賞金はかかっていませんよね?」
「面倒なら始末すればいい。騎士団に盗賊のインテリジェンスカードと突き出せば処分してくれるか、奴隷処分にする。それを売ってもいい」
なるほど。なら売るか。パーティからシルヴィを外してヤンガスへ目配せ。
いつもの流れで探索者2人をパーティに加えたら騎士団の詰め所へ向かう。
あまり事情聴取とかしないんだな。原作でもなんかあっさり懸賞金投げつけてサヨナラだったような。壊滅作戦とかしてるらしかったのに。
カールに聞くと熱心に盗賊を締め上げるよりは迷宮優先のよう。
状況を詳しく聞いたりする騎士は稀だとか。
カールはきっと稀な方の騎士だったんだろうな。
うーん、しかし。
「カールさん。遠慮しないで言ってほしいんですが、殺したいですか?どうせ大したお金にもなりませんしカールさんのお気持ちを優先します」
盗賊を憎んでいるのはよくわかる。
「気にすんな。お嬢ちゃん」
そう言って頭を撫でられた。ならいいか…
この会話は生き残り2人組にももちろん聞こえているのでビビりちらかしてた。カールに感謝しろよ。
詰め所でインテリジェンスカードを提出して事情を説明。
探索者2人を奴隷身分に変更して懸賞金もいただけた。
マジで迷宮より稼げるんだが。
奴隷商館で早々に手続きを行うよう伝えられ騎士は戻っていった。
ルティナがこんな感じだっけ。持ち主がいない奴隷扱い的な。
エレガントのところでやってもらいましょう。
当然こんな奴らいらないので売っぱらう。
「これはこれは。お客様は本当にお強いお方でいらっしゃる。
またしても盗賊を捕らえられましたか」
この前も6人だっけ?売ったばかりだしねー。
あまりものブラザーズだっけ。
「今回は迷宮で襲われまして。全滅させたのですが生き残りを連れてきました」
「迷宮でございましたか。ご無事で何よりでございます。では早速手続きをさせていただきましょう」
地味に2人だったから3割り増しに。
そういえば前のいらない子達は売れたのかな?いや教育中かも?
「ええ。厳しく躾けております。売り物になるのはまだ先でございますな」
こうしてあまりもの達も高級品になるんだなー。
お金を受け取り商館を出た。
色々中途半端だし今日は終わりにしよっか〜?
「……お嬢ちゃん。前のってのは、村を襲った奴らの事か?」
そうか。カールさんは己が生け取りにして売っぱらった事を知らない。
やっぱり始末したいかな…望むならこっちで買い戻して処理してもいいけど…
「いや。それは本当にいいんだ。気を使わせてわりィな」
そう言うカールだが、平静を装いつつも悲しそうに見える。
あの夜、泣き叫んでいた姿が思い浮かぶ。
「……カールさんは何を探してたんですか…?」
聞いてしまった。聞くまいと思っていたのに。
カールは前を向き歩みを止めないまま答えてくれた。
「攫われた友人夫婦の娘だ」