異世界迷宮でハーレムしない 作:とくめい
金がない。
金貨も無くなってしまった。残金1万ナールもないのである。
現代社会を思い起こし、凄まじい焦燥に襲われる。深呼吸しなければ。
フー。
落ち着いて考えれば悲観する事もない。
ある程度レベルを上げなければ出来ることもない。贅沢せずじっくりと足場を固めていけばいいだけだ。
何よりも、既に勝利は約束されている。鍛冶師10万ほぼ初日購入はRTAの域なんよ。多分これが一番速いと思います。
なけなしの財産でヤンガス用の安い装備を最低限と日用品を揃え宿に戻る。
ツインの一番安い部屋が空いており運良く変更もできた。先ずは情報共有から行おうか。
「さて、改めてよろしく!早速迷宮に行きたいところなんだけれど、その前に幾つか共有しておきたい事があるんです。そちらのベッドに座ってくれますか?」
なるべくフランクに行こうと思ったが、この身体より年上と思うと中途半端に丁寧語が混じってしまった。部下であっても敬語を使うタイプであった己にはこの世界での常識といえど抵抗を感じる。
「はい。かしこまりました。…ご主人様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
石器時代の勇者に顔の傷を増やしたってくらいイカつい見た目なのにとても丁寧な口調である。物腰も柔らかで己がただの女だったら惚れていたかもしれない。残念ながらただの女ではなく美少女なんだ。すまない。
「僕の事は好きによんでいただいてかまいません。それでですね…どこから話そうかな…」
一人称まで戻ってしまった。まあいいか。
原作では最初はベッドに腰掛けるのも恐れ多い様子のヒロイン達だったが、ヤンガスはこちらの様子と空気を見事に読み、心苦しそうながら命令通りにベッドに腰掛けている。あんた、現代日本でも生きていけるよ…
「薄々感じていると思いますが僕は世間知らずでして…度々常識はずれな行動をしてしまいます。身内の目しかない場所ならともかく、外でそういった事をなるべく防げるようフォローをお願いしたいんです」
「かしこまりました。差し当たって現状についても…ご理解の上で外の目がない故と、いうことでお間違い無いでしょうか?」
大変理解がお早い。加えて言うとだ。
「概ねその通りですが、ヤンガスさんへの態度や待遇については外の目も関係ありません。食事も同じテーブルで同じものを共に食べましょう。…よろしいですか?」
「 ……はい。かしこまりました。お気に召さない所がございましたらお申し付けください」
飲み込むまでの溜めがお互いの認識の差であろう。己は優しさで言っているわけでは無い。相手の常識に己が耐えられないから己の常識を一方的に押し付けているのだ。正しく奴隷扱いといえよう。
「続いては迷宮攻略についてです。
僕は色々変わった能力を持っています。一口で説明できるものでもなく、自分自身が手探りでもあるので度々驚かれる事と思います。
差し当たっては特殊な移動スキルをお見せしましょう」
屋根の壁から迷宮の小部屋へワープ。普通は跳べない場所から普通は跳べない場所に移動した事で特殊なものであるという事は一目瞭然である。
当然大きく驚き危険性にもすぐ理解を示した。やろうと思ったらなんでもできちゃうスキルだよなワープって。
「では1層ボスまでの案内をよろしくお願いします!」
幸い、己の入っていた近い方の迷宮は最近できたばかりの迷宮ではなくヤンガスも攻略していた迷宮であった。
魔物2体同時攻撃による鍛冶師解放RTAを行うわけだが、鍛冶師ギルドの条件通り探索者レベル10までに同時攻撃の条件を満たす事が必要だった場合、ヤンガスの探索者レベルが上がってしまうと取り返しがつかない可能性がある。
レベル10になってすぐ試験を受け、その後は迷宮に入っていない事を話してもらった。ならば獲得経験ボーナスを外せばうっかりヤンガスのレベルが上がる事はあるまい。
浮いた31ポイントの振り分けだが、余って適当に振っていた1ポイントとあわせればデュランダルが使える。
デュランダルまで必要ないといえば必要ないのだが、他のボーナス装備を使うくらいならばデュランダルで良いし、経験値ボーナスを減らした状態で設定ジョブを増やすのもイマイチしっくりこないため素直にデュランダルを出した。
「1層においては一撃で戦闘が終わります。ですので案内とアイテムボックスの使用をお願いします」
「…………わかりました」
実際に一撃で戦闘が終わったことに驚きを隠せない様子であった。武器が強力なのだと伝える。
通り道の魔物を行き掛けの駄賃にしつつ、ボス部屋まで辿り着く。
案内のおかげでとてもスムーズな攻略だ。己の狩りが捗らなかった大きな理由の一つが方向音痴である。同じ道に進んでいたり、効率を上げるためと2層に進めなかったのもそれが原因だった。
まるで新宿駅や池袋駅のようだ。異世界迷宮は現代日本の迷宮のように深い。
自身の状態確認とブリーフィングを行う。
竜騎士Lv6/英雄Lv4/剣士Lv5/戦士Lv5
経験値ボーナスを下げ、ボス部屋まで優先だったのにかかわらずレベルが上がっている。タイミングの問題なのもあるとは思うが。
ボーナスポイントが1増えた事で鑑定とワープを外し詠唱省略を取る事が出来る。
ツダ リョウ 竜人 ♀ 18歳 竜騎士Lv6
竜騎士Lv6/英雄Lv4/剣士Lv5/戦士Lv5
キャラクター再設定 1
必要経験値1/10 31
武器6 63
4thジョブ 7
詠唱省略 3
この形が何を意味するかというと、
ラッシュとスラッシュの同時使用がデュランダルで可能になるのだ。
竜騎士の自分がオーバーホエルミングと合わせ運用すれば、MPの消費量に見合うかは未検証だが恐らく敵はいなくなるのでは無いだろうか。
ミチオ君が撃破した際の細かいジョブレベルまでは覚えていないが、確かラッシュ2回(スラッシュだっけ?)と通常攻撃1回で倒せていた記憶がある。
クリティカルの不確定要素も計算をややこしくしかねないが、スキルの強化率計算が加算式だった場合この物理特化ジョブ構成でもダブルスキル一撃で撃破かどうかは際どい判定になるだろう。
だが想定通り乗算だった場合、仮にそれぞれの強化倍率が2倍だとして
2×2=4倍のダメージ。更に手首の回転を加えることで×3倍の1億倍ダメージによりウドウッドは爆発四散する。
ゆで理論により異世界迷宮の攻略は成る。己はそう確信した。
「1層のボスだけど、今の自分で出来る全力で攻撃をしてみるね。想定外の結果だとしても問題はないはずだから今回も離れて見守っていてほしい」
ここまでの戦闘を見てきたヤンガスも不安に思うような事はなく
「御武運をお祈りします」
と笑顔で肯定してくれた。
いよいよあの異世界迷宮、その初のボス戦が始まる。
滑って転んだとてまず死にはしないと想定してはいても僅かに身体が強張る感覚。
フー。
ルーティーンによって平静よりブレた状態を戻していく。
ボス部屋へ踏み込んだ。
イメージしていたよりは若干広く感じる部屋。
その中央に煙が集まり始めた。
イメージしていたよりは若干小さく感じるボス。
オーバーホエルミングを念じた。
引き延ばされた感覚の中ボスの下へ歩みを進める。
走るまでもなく、完全に姿を現しゆっくりと動き始めたボスは既に己の間合いの中にいた。
スラッシュ/ラッシュ
己の最も得意な太刀筋の袈裟斬りにダブルスキルを乗せて切り付けた。
ボスは真っ二つになり消えていく。
あああーーーーーやっぱりーーーーーーー
ゆで理論は最強。