異世界迷宮でハーレムしない 作:とくめい
夕食を食べながら、これからは朝と昼休憩時、探索終わりに鍛冶をお願いする事にする。このくらいならばMP消費も無理することなく出来るだろう。
ミサンガのスキルスロット付きも集める必要があるがなるべく売却益を出したいため皮があるうちは優先してもらう。
び、貧乏な主人でごめんね…
金欠のため部屋と食事のグレードは低めである。己は探索が楽しくて仕方ないが、知らずストレスが溜まっていては大変だ。美容に良くない。ヤンガスにも生活のゆとりが必要であるだろう。
また思い付いたことがあるので明日の探索時に相談してみる事にする。
3層での狩りは実に順調だ。寧ろヤンガスが手持ち無沙汰である事に気付いた。
ごめん。
効率を求めると己が突っ込んでヘイト取って暴れるのが一番なの…。
昼休憩のため小部屋に来た。ここで昨日の思い付きについて相談してみる。
この美少女ボディは声まで美しい。ご機嫌な時に鼻歌を歌った際、己の歌声はもしかして天上の調べとなってしまうのではないかと考えた。
元々音痴でも歌上手でもなかった己だが、そこは現在の美少女ボディ。可能性を見つけたのならば試さずにはいられない!
己は特に好みの楽曲傾向もなく雑食であった。女性ボーカルの曲で好きなものも多かった。
とても昔の己では歌えなかったが、現在の美少女ボイスであれば…?
オケに関しては諦めるほかないが、アカペラであろうと気持ちよく歌を歌えばストレス発散になること間違いない。
だが謎の翻訳機能によってあまりにも不適切な歌に聞こえてしまうのであれば聞かされるヤンガスにとっては逆にストレスだ。
忌憚のない意見が欲しいと伝え聞いていただくこととする。
楽曲だが、ホイットニーのアレにしよう。えんだーのやつである。思いっきり歌ってみたかったのだ。
〜〜〜♪
す、すごい。音程、リズム、素人耳には完璧…!記憶にある名曲を、己の美声で表現することができている!!!!
まさか歌まで上手いのかこの美少女ボディは。天使の歌声のようだ。少なくとも己にとっては手軽かつ金のかからない娯楽となるだろう。
めっちゃきもちいい。
歌い終えヤンガスの様子を窺う。英歌詞だが、恐らくは謎翻訳機能によっていい感じに訳されるのではないだろうか。宗教ぽいとか危なそうな要素もない普遍的な恋の歌だと思うが仕様がよくわからんので細かい部分はどうしようもない。
いっそ完全に英語で聴こえていれば何処かの地方の歌だとか適当なスキャットと誤魔化せて楽かもしれないな。
ヤンガスは俯き、動きを見せない。
「ヤンガスさん…?あの、如何でしたか…?」
緊張しながら声をかけてみる。ヤンガスは顔を上げこちらを見た。
うわ、すごく澄んだ顔でめっちゃ泣いてる。
「すげえ、すげえです…!こんな歌は初めてだ!!!昔のことを思い出しちまって涙が止まらねえ…!」
おおうふ、口調が変わってるよ。商館で丁寧な口調や所作を必死になって学んだんだろうな。そして恐らく恋の歌である事は伝わっていると。翻訳は機能しているようだ。スゴイな。そんでこれほどのリアクションがまさか忖度ということはあるまい。
音楽は国境どころか世界をも越えることが証明された。己の歌唱スキルも。
「ありがとうございます。歌詞で何か気になったりおかしいと思ったところはありましたか?」
「ねえです!ただただ、すげえとしか言えねえ…ご主人様はほんとにすげえお方だ…こんな歌が聞けるなんて…」
めっちゃ泣いとる。おんがくって、すごい。
「そんな…あの、相談なのですが。もし酒場とかで歌ったらお金になりそうですか…ね?」
これが思いつきであった。もしヤンガスの反応が良ければいけるかなーって。
「いけやす!間違いねえす!酒場どころか、貴族のお抱えになったっておかしくねえ!」
おおう。大きくでたな。それ程か。
数々の異常な事態を見てきて、驚きこそすれここまで壊れることのなかったヤンガスの言葉だ。まさしく天上の調べだったに違いない。
それでは夕食後にやってみることとしよう。己は夕食を部屋まで運んでいる。併設の酒場からで、そのまま酒場で夕食をとることもできる。歌うのはそこだ。亭主に相談することとしよう。
念のためもう幾つか聞いてもらうか。どこまで地球の歌が許容されるかチェックが必要だ。そうだなー。アニソンとか重すぎないロックとかどうだろ。
幾つか歌ってみたがどれも問題ないようだ。とても褒めていただけた。自己肯定感が上がるぅ。
口調の乱れを謝罪されたがむしろ親しみやすいしそのままでもいいと伝えた。かなり恐縮していたので無理はしないでいいとも。己もまだまだ距離のある話し方してるしな。気安い方がストレスになってはお互い困る。
4層を狙うか3層でファームするか半々で考えて現場の空気感に従おうと思っていたのだが、己もヤンガスも少々浮ついた雰囲気になっていたため環境は変えない事にした。
じっくり3層で魔物を狩っていくこととする。
宿に戻った際に亭主に相談した。
別に構わないとのこと。特に宿側から給金が出たりはしないので、おひねりが少しは貰えたらいいなあくらいの期待感で歌ってみるつもりであった。ヤンガスにはお酒も提供しよう。普段の労いである。
部屋で夕食を終えヤンガスにお小遣いを渡す。いよいよ美少女のデビュー戦だ。
酒場に向かった。
たまに吟遊詩人だとかが歌うためスペースの用意もあった。
己がその位置に立つと一部の客は気付いたようで視線を向けてくれた。そこまで騒がしい酒場ではないが気付いていない客も多い。
フー。集中を高めていく。一度ヤンガスの方へ視線を送った。真剣な眼差しでこちらを見つめている。目が合うとゆっくりと頷いて既に前のめりになっていた姿勢を正した。
ではゆくぞ。エンダー三段活用で聴衆の鼓膜と心を揺さぶってやろうではないか。
歌い始めた途端に己の歌声以外音がなくなっており、終わった後も静寂が続いている。
次第に拍手が始まり、喝采の嵐へと変わった。
微笑みと共に一礼した。歓声と拍手が大きくなる。もはやスタンディングオベーションである。
ヤンガスが渡していたお小遣いを投げ銭してくれた。なるほど。サクラとして率先してくれたのだな、後で補填しよう。流石気が利くと笑顔を向けるとマジ拍手しながら歓声を上げていた。仕込みとかそういうんじゃなくてマジのやつだわこれ。
初スパチャを皮切りにおひねりが飛ぶ。微笑みながらお辞儀をして目が合ったリスナーには軽く手を挙げておく。己にはアイドルの才能まであったようだ。
好評かどうかに関わらず、今夜は一曲の予定であったので舞台を降りる。落胆の声を申し訳なさそうな表情を作ってはけていく。チラッとヤンガスのテーブルを確認するとまだ殆ど飲んでいないようだ。おひねりで使ったため一杯だけで済まないが、ゆっくり楽しんできてくれて大丈夫と伝えてある。
いやー中々儲かったな。銅貨だけでなく銀貨がかなり入っている。おすまし顔は続けつつ部屋へ戻ろうとすると亭主に呼び止められた。酒場のマスターもいつの間にかきていた。釣れたか!
「待ってくれ!今夜は、終わりだな。また歌ってくれないか?金も出させてもらう!」
「部屋も上等な部屋に変えさせてもらう!料金は要らないから継続して利用してくれないか?頼む!」
フッヘッヘ大成功だぜえ
異世界 3日目