便利屋Zan   作:えるらるら

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プロローグエピソード-1

 そこはとある異空間。

 

「こんな状況でも仕事とは精が出るな、便利屋」

 

「驚いた。その状態で生きてたのか、マルセルCEO」

 

 ウサギのぬいぐるみのような姿をした沈黙している小型ロボットを肘掛けに、掲げ進んだ旗を背もたれにへし折れた角の様なモノがある白髪から始まり身体の至る所を赤く染め、装備の破損、絞り出される様に垂れ落ちる血。

 加えて脇腹を大きく失い、まさに満身創痍という状況にも関わらず、先程まで閉じられていた女のオッドアイは輝きを失わずに正面を捉えている。

 

 対して声を掛けられたスキンヘッドの男には怪我をしている様子もなく、アタッシュケース片手にパリッとした黒スーツを着こなす姿は荒々しい戦闘の痕跡を見せるこの場においては明らかに浮いていた。

 

「よく言う。お前が私の前を最初に通過したのは四十七分前。現時刻までに十一回。内、私の状態を確認したのは最初の一回のみ。わざわざ何度も遠回りをして……私がこうして声を掛けることを予想していただろうに」

 

「買い被りすぎだな。お得意様の遺体から追い剥ぎするのは気が引けていただけだ」

 

「なら丁度いい。こうして声を掛けはしたが半分死んでいる様なものでね。確実性を持たせる為に依頼をしようにも支払いを悩んでいた所だったんだ。ほら、受け取れ」

 

 この時より少しの後に、エリー都健創にあたって災害鎮圧の要、偉大なる功績を残した者となった七人に与えられる"虚狩り"の称号と共に"ミス・サンブリンガー"と名を残す女は、増す出血など気にしないとばかりに肘掛けにしていた小型ロボットを男に向けて放り投げ渡す。

 

「悪いが治療には明るくない。必要なら連れ出すぞ? その状態を治療できる人物に宛てがあるなら最優先で連れて来るのもありだが」

 

「必要ないし、私はそれを望んでいない。強いて言うならば、帰ったらすぐにそのボンプを充電して欲しい。充電装置とメンテナンス用機材は私の仕事場に置いてあるのを幾つか持っていくといい。私物だから遠慮はいらない」

 

「それが仕事の依頼か?」

 

「依頼でもあるが、ちょっとしたお願いさ。生憎いつものように食事でもしながら……なんて時間は無い。あと五分弱で私の計算通りにこのホロウは消滅するだろう」

 

「なら――」

 

 ミス・サンブリンガーの言葉を聞いた男がボンプを小脇に抱えて近づこうとすれば、彼女は少し嬉しそうに微笑みながらゆるっと手を上げて動きを制し、言葉を続ける。

 

「私にはまだやりたい事がある。予想の答え合わせ……この場でホロウとの消滅を共にしてこそできる答え合わせだ。間違っていたのならそれでいい、合っていたのなら次に繋いでやらなければな。だから便利屋――ザン、私の最期を看取れなくて残念だったな」

 

 続く言葉無く。暫しの視線の交わり。

 そこからミス・サンブリンガーにも譲る気がない事を理解した"ザン"と呼ばれた男は、呆れた様にため息を吐いてミス・サンブリンガーに向け背中を見せことで返答を示した。

 

 互いに強く悲観する雰囲気は無く。休日に遊び終えた後の別れの様に、ほんの少しの寂しさと思い返して浮かぶ楽しさを漂わせて距離は開いていく。

 ザンの先には波打ち渦巻く様に空間が捻れた空間が現れるが、彼は気にせずにその中へ向けて足を進めようとしてピタリと止まり、受け取ったボンブを掲げながら「最後に……」と日常会話の様な軽さで問いかけた。

 

「気になっていたんだが、ボンプの標準暗号化言語はなんで"ンナ"なんだ? たまに音声は"ワタワタ"言っていたりするが」

 

 その問いを聞いたミス・サンブリンガーは一瞬きょとんとした後、クスクスと小さく、堪えきれないように徐々に大きく笑い「最後がそれかと」ザンに聞こえない程度で呟いたかと思えば、なんでもないように、立場に囚われる必要も無くザンや少数の者だけが知る無邪気な笑みを浮かべて答えた。

 

「ポンコツな感じがカワイイじゃないか」

 

「悪趣味な」

 

 それ以上のやり取りはなく。

 ザンを飲み込んだ空間は消え、そこにはミス・サンブリンガーだけが残される。

 

 

 

 それから程なくして――空を覆い太陽すら飲み込まれたと錯覚する程に巨大で、カラフルなノイズを纏うブラックホールを思わせるようなドーム状の異空間。

 【ハイヴ・ロードホロウ】が消滅した。

 





TIPS. ボンプ
・一切のくびれがない寸胴マスコットボディを持つ自律型の小型ロボット。大小差はあるが、おおよそ成人の膝丈程度。
・充電式で朝から晩まで作業を行うことが可能なバッテリーを搭載。又、改造を加えれば他様々な機能を搭載可能。
・元はマルセルグループのCEOであるミス・サンブリンガーが発明した災害救助用ロボット。
・現在でもマルセルグループによって製造されているが、家庭用、建設支援、運搬作業のサポートに加え、公的組織などでも活躍しており、多用途小型ロボットへと発展。エッセンシャルワーカーの様な地位を築いている。
・かわいい。



ゆるっと進めて行きたいと思います。
ちなみに今の私の推しボンプは。ブレイズウッドの昇降用レバーを引いているだけのボンプです。
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