街を発つ朝は、穏やかな光に包まれていた。
「名残惜しいなぁ」
ミレイナは、広場に咲く花を眺めながらつぶやいた。
「でも、また来よう。この街のパン、美味しかったし」
カイは肩に荷を担ぎながら微笑んだ。
「その時は今より少しは楽な旅になってるといいな」
リィナはカイを横目で見つめながら、小さく笑った。
「……もっと、強くなるわ。あなたが無茶しなくていいくらいに」
静かな空気の中、一行は街を後にして南東の森へと向かった。リオが手に入れた情報によれば、最近その周辺で魔物の動きが活発化しているという。小規模だが、村を襲う前兆かもしれないとのことだった。
森の中は昼でも薄暗く、湿った土と苔の匂いが鼻をくすぐった。鳥のさえずりも途切れがちで、どこか緊張感のある空気が漂っている。
ユウは大剣を肩に乗せながら警戒した様子で歩いていた。
「こんな静かすぎる森、ロクなことが起きねぇって証拠だ」
リオは木々の影を見ながら答えた。
「足跡はある。けど方向が不規則すぎるな……誰かが意図的に誘導してるかのような」
カイは立ち止まり、全員に手を上げて制止させた。
「待て。……何か来る」
直後、木々の奥から黒い影が飛び出した。狼のような魔物だ。皮膚は岩のように硬質化しており、目は紅く光っている。
「行くぞ!」
カイは剣を抜き、先頭で魔物の注意を引いた。
ユウとリオは左右から挟み込むように動き、攻撃の隙を探る。
ミレイナは弓を構え、狙いを定めて支援射撃を続けた。
リィナは治癒と強化魔法を交互に唱えながら、後衛を守っていた。
「もう一発!」
ミレイナの矢が魔物の片目を射抜き、怯んだ隙にユウが斬りかかる。
「いけっ!」
ユウの剣が魔物の脚を砕き、崩れ落ちたところをカイが一閃。鋼の如き刃が、魔物の首を断ち切った。
「……よし、倒したな」
カイは肩で息をしながら剣を納めた。
リィナは駆け寄り、彼の腕を取った。
「大丈夫?無理はしないって約束したでしょ」
カイは小さく笑って答えた。
「してないけど、わかったよ……ありがとう、リィナ」
そのやりとりを、他の仲間たちは微笑ましく、少し羨ましそうに見ていた。
その後、一行は森の中腹にある古びた祠にたどり着いた。そこはかつて精霊が祀られていた場所で、今はもうほとんど忘れられているようだった。
「こんな場所に…」
リオが驚いた表情で周囲を見渡す。
「誰にも気づかれずに放置されてたのか。魔物が近づかないわけだ」
リィナは、祠の奥に飾られた杖に目を奪われた。
透明な水晶のような装飾が月光を受け、ぼんやりと光を放っている。
「……これ、呼ばれてるみたい」
そっと手を伸ばすと、杖は微かに震え、ふわりと浮かび上がった。
カイは一歩踏み出してリィナに問いかけた。
「それ、君の魔力に反応してる?」
リィナは静かに頷いた。
「噂は聞いていたけどこんなところにあったんだ。”世界樹の月杖”。私を選んでくれたのかも。」
その瞬間、祠の天井からやわらかな光が差し込み、全員の顔を照らした。
夜。森を抜けた一行は、小さな湖のほとりで野営の準備をしていた。
焚き火の灯りの中、仲間たちは静かに語り合う。
ミレイナ「リィナ、すごいね。ちゃんと選ばれたんだね、その杖に」
リィナ「ううん、まだ全然使いこなせない。でも……もっと頑張る」
ユウ「ああいうのを見ちまうと、自分も何か……って思うな」
リオ「焦る必要はない。力はそれぞれ違うタイミングでやってくる」
カイは、星空を見上げながら言った。
「誰かに選ばれるんじゃなくて、自分で道を選べるようになりたいな」
風が心地よく吹き、火の粉が小さく空へと舞った。
そしてその夜、リィナは静かに目を覚まし、カイの寝顔を見つめた。
その胸には、強く熱い想いが芽生えていた。
(守りたい……この人を、何よりも)
彼女の手元で、”世界樹の月杖”がわずかに光を放った。