深い森を抜けた先に、ひっそりと佇む小さな村があった。
木造の家々が並び、鳥のさえずりと小川のせせらぎが心地よく耳をくすぐる。
カイたちは、久しぶりの穏やかな空気にどこか肩の力を抜いていた。
リィナ「……あのね、カイ。この村、少しだけ滞在してもいい?」
カイ「そうだな。少し休んでもいい頃だ」
街道を転々とし、緊張の連続だった旅。
ここで一息つくことは、彼らにとって必要な時間だった。
村の中心にある広場では、地元の子どもたちが遊んでいた。
それを見て、ミレイナがふっと微笑む。
ミレイナ「……小さい頃、私もこうやって遊んでたなぁ。兄さんに背中を押されながら……」
ユウ「ミレイナ、子どもたちに剣の構えを教えてるの?」
ミレイナ「ちょっとだけね。護身ってやつ」
ミレイナは、自分の背よりも小さな子に木剣を手渡し、構え方を教えていた。
普段は冷静な彼女も、この村の雰囲気の中ではどこか柔らかくなっていた。
一方、ユウは村の鍛冶屋に興味津々だった。
古びた工房の隅に、黒鉄のナイフが並んでいた。
ユウ「この材質……普通じゃない。手に入れてもいい?」
鍛冶屋「ふふ、目が利くね。これは〈霧鉄〉っていう特殊な金属だよ」
ユウは、霧鉄製の短剣を一本購入した。
長く使えそうな感触に、彼の表情もどこか誇らしげだった。
リオはというと、村の薬草園にいた。
リオ「へえ、この辺じゃ“癒しの月草”が育つんだ。珍しいね」
村の薬師と話しながら、リオは幾つかの薬草を分けてもらっていた。
戦闘後の回復役として、彼女は常に薬や治癒魔法の研究に余念がない。
リオ「これで、またカイの傷も早く治せる……かも」
そう小さくつぶやいた言葉は、誰にも届かなかった。
夕暮れが村を金色に染め始めた頃、カイとリィナは村の裏手にある丘にいた。
少し高台になったその場所から、村全体が見渡せた。
リィナ「カイ、ねえ……この村って、戦火からずっと逃れてきたんだって」
カイ「ああ。魔族の侵攻ルートから外れてたらしいな」
風に揺れるリィナの髪。彼女はそっと手を重ねた。
リィナ「私、こういう場所を守れる強さがほしい。あなたのように」
カイ「……リィナはもう、十分強い。俺は、そう思ってる」
その言葉に、リィナの頬がほのかに染まる。
けれど彼女は、はにかみながら言った。
リィナ「……まだ、あなたを守りきれなかったから」
その夜、カイたちは村の宿でそれぞれの時間を過ごしていた。
ユウは新しい短剣を磨き、リオは薬草の整理をしながら新たな調合に挑戦していた。
ミレイナは広場の子どもたちと語らい、軽く剣の遊びをしていた。
そしてリィナは、静かに夜空を見上げていた。
胸にある“何か”を確かめるように。
リィナ(――私は、何のために強くなりたいんだろう)
思考の先に浮かぶのは、誰よりも真っ直ぐな背をした、ひとりの少年の姿。
夜が深まったころ、村の見張りが駆け込んできた。
見張り「カイさん!村の外れに盗賊の影が見えました!」
すぐさま動き出す仲間たち。
だが、その顔には焦りよりも、静かな決意があった。
カイ「行くぞ。――この村を守る。今度は、俺たちが」