夕焼けに染まる、たった二人の列車の客室。
此処まで、連邦生徒会長は、自身と先生を護る任務の為次々に散っていく便利屋メンバーの一人にも声をかけるどころか、一瞥すらしなかった。
何故なら、彼女たちと絆を紡いだのは、生き様を見届けて欲しいであろう相手は、先生なのだから。
「ポッと出」に過ぎない自分が、彼女らと先生の最期の時間を僅かでも奪うことがあっては自分を許せなくなる――と。
「……私のミスでした。
私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況
結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……」
全て取り返しがつかない状況に陥った際、少女は諦めていた。
だが今はどうだ。新たな結果を選ぶための道は、彼女達の御蔭で閉ざされることなく続いている。
――つまり、この先で「選択」を行うべき者は、一度でも彼女達の力を侮り諦めてしまった自分ではない、と悟る。
「……今更図々しいですが、お願いします。
先生。
きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。
何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……」
"選択"を託し、役割を失った自分がやるべきことは、礎となる事。
例え、存在そのものが書き換わったり、永遠に消え失せたとしても。
「ですから……大事なのは経験ではなく、選択。
あなたにしかできない選択の数々。
責任を負うものについて、話したことがありましたね。
あの時の私には分かりませんでしたが……。今なら理解できます。
大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。
それが意味する心延えも」
――もしも望みが叶うなら。
――次の世界では、先生と彼女達を、いつまでも応援できる存在になりたい。
――どんなところでも、困った時はいつでも、力になれるような存在に。
……。
ですから、先生。
私が信じられる大人である、あなたなら。
この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。
そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです。
だから先生……どうか」
――望みが叶い、もう一度皆に会えるというのなら。
――私は、人でなくなったって構わない。
"やっと会うことができました! 私はここで先生をずっと、ずーっと、待っていました!"
誰も起動できなかったシッテムの箱を「何故か」起動できた先生は、中に居た秘書を名乗るメインOSアロナにそう告げられ困惑した。
しかし右も左も分からず混乱しきった頭では彼女から矢継ぎ早に繰り出される先導についていくのがやっとで、「初対面だよね?」等と声をかける暇もない。
サンクトゥムタワーの制御権を巡る騒動が解決して、やっとその話が出来ると思った矢先に提示される山積みの仕事。
"お仕事を円滑に行う為にも、シャーレに入部してくれる生徒さんたちを募集した方が良さそうです!"
これが片付くまでは質問はお預けかな、と内心ため息を吐き、言われるがまま募集をかける。
彼女の言う通り、今は一人でも味方を増やさなければならないだろう。
「ふふふ、素晴らしい【選択】よ 先生」
高圧的な口調。
一人目から我の強そうなのが来たな、と唇の端を引き攣らせる先生は気付かなかった。
「選択」という言葉を聞いた途端、唇を震わせ、明らかに顔色を変えたアロナに。
「ふふ、この私に協力したいと?
まあ、断りはしないけど。
私を雇うなら高くつくわよ?先生」
シャーレのオフィスの巨大な窓ガラス、朝陽が昇って間もない青空を背に、陸八魔アルは不敵な笑みを浮かべ言い放つ。
「……ああ、分かってる。約束だもんな」
「……へ?」
口をついて出た言葉に、先生自身が一番困惑した。
当然訳が分かる筈もないアルも困惑し、暫し沈黙が流れる。
「……え? ……あ、ははは。ごめん、何を言ってるんだろうね。約束とか、会ったばかりなのに」
「……え、ええ! まったく可笑しな人ね!? 初対面の方に借りを作っておくなんて、流石私といったところかしら!」
一連のやり取りを頭身に似合わない大人びた微笑で見つめていたアロナは、二人が此方を向く前に元の笑顔に戻り、次なる封筒を差し出すのであった。
【エピローグ 68 晴天、希望の霹靂】