遊戯王 スターズ!   作:いざかひと

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 ――ライディング・デュエル……それはスピードの世界で進化したデュエル。
 そこに命を懸ける伝説の痣を持つ者達を、人々は5D'sと呼び。
 輝くデュエリスト達に『スター』の称号を贈った……。

 2021年のあの戦いから50年。
 伝説のシグナー達が次々に失踪を遂げ、続くように他のDホイーラーも謎の光に呑まれ消えた。
 『スター』を失った人々は、デュエルを恐れ、離れた。
 『スター』を消した原因であるデュエルを憎む者まで現れた。
 
 星を無くし、世界は闇に沈もうとしている……。

 デュエルと人の絆が絶たれた現代にて。
 『卵型の痣』の持つ少年が、カードと出会い、人とデュエルの絆を再び繋げようとしていた──。

 これは、王を追い、王を超え、王を終わらせる物語。
 世界を星の輝きで満たす物語。


第2話 デュエルが失われた世界

  ──それは、少し昔のお話です。

 

 ある所に。

 『王子様』を亡くした王国がありました。

 民達は深い悲しみに沈み、怯えていました。

 なぜなら、『王子様という"お星様"が無くなったら、世界は闇に包まれる』と、予言されていたからです。

 でも大丈夫。

 王子様には『弟(ぎみ) 』がいましたから。

 民達は弟君にこう言います。

 

「どうか代わりに、『王子様』になって」

 何度も何度も、何度も何度も。

 

「どうか代わりに……」

 民達の願いは届かず。

 『弟』は『王子様』になってはくれません。

 

 ■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■。

 あーあ。

 

 次第に国を、恐ろしい闇が包み始めました。

 民達は大慌てで大きな箱を作ると、闇をその中へ封じます。

 ついでに、民達が『要らない』と思った物も一緒に入れました。

 

 闇の進行は止まり、世界は平和になりました。

 めでたし。めでたし。

 お話は、これでおしまい。

 

 ……。

 

 終わったはずのお話に、白馬に乗った旅の王様が現れました。

 風になびくマント、勇壮な声、威厳に満ちた振る舞い。

 王様は魔法使いでもありました。

 竜を呼び、悪魔と巨人を従える力を。

 そして何より、世界を変える/守る力を持っていたのです。

 

 ■■■、■■■■『■■』■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■『■■』■■■。

 

 旅の王様は、周りの止める声も聞かず、闇を封じた箱を壊してしまいます。

 箱から闇が、悪魔が、悪霊が、悪意が、■が溢れます。

 王様は、出てきたそれらを炎で焼き払ってしまいました。

 全て燃え、残るは灰ばかり。

 

 王様は灰を手で掬い取ると、告げました。

 

「人であるからこそ、罪をおかす。

 人であるからこそ、罪を償おうと願う。

 ──お前に、『永遠のもの』を与えよう」

 『永遠のもの』、それは『■』。

 言葉の後、王様は光り輝きました。

 輝きは、集めた灰に移ってしまいます。

 ああ! なんてこと! 

 王様は自分の力を、たかが灰に与えてしまったのです!

 力を失った彼は、色あせ、老け込み、よろめきます。

 されど王様は膝をつかず、言いました。

 

「これは、天と地と竜すら支配する力。

 そして、まだ見ぬ友と繋がる力。

 すなわちそれは──生きる力」

 灰は魔法によって、小さな男の子の形になりました。

 

「出会いの記念に、これを」

 王様は、自分達がどれほど変わっても互いに分かるようにと、男の子に『印』を与えます。

 とても素敵なものでした。

 

「王様、わたし、貴方と再び会えるでしょうか?」

 男の子がそう言った時には、王様は白馬に乗って去った後。

 けれど、声だけは聞こえてきます。

 

「王の力がお前を導く。

 お前が生命の道を歩む限り、我が魂は常に側にある。

 再会を望むなら、王の高みまで登ってくるがいい。

 再会を望むなら──」

 男の子に残されたのは、王の言葉だけ。

 

 こうして男の子は、灰ではなく『人』として、生き続けるしかなくなったのです

 渡された魔法の力は、王位の譲渡、つまり戴冠の証なのでしょうか……。

 

 でもでも! そんなことがあったのに、男の子は全てをぽけっと忘れてしまい。

 何にも覚えてないのに、『俺は王様になる』のだと、将来を決めてしまったのです!

 ……いいのかなぁ、本当にこれで。

 

 

第2話 デュエルが失われた世界

 

 

「遊追君、どうして先生のお部屋に呼ばれたか分かる?」

「オレが……転校早々みんなから『残念プリンセス』略して『残念プリン』って呼ばれてるから……?」

「ごめんね! そのお話は別日に詳しく聞くね!」

 若い女性教師は、丸椅子に座る少年に慌てながら対応した。

 今、教師と子がいる部屋は、学校内のカウンセリングルーム。

 窓からは太陽光が差し込み、空間は穏やかに明るい。

 壁はクリーム色で、見るものに安心感を与えてくれる。

 

「先生ごめん! オレの顔の良さと実力が釣り合ってないせいで……!」

「自己肯定感が高いのか低いのか、どっちなのかな?」

「くっ! 顔に見合った力が欲しい!」

 言って拳を握る少年の身目は、確かに麗しい。

 一部が上に向かってツンツン尖った金の髪は、竜の角を思わせるし。

 瞳と鼻と口のバランスも、有名俳優の子を思わせるような気品があって、大変良かった。

 目なんて、不純物の混ざってないサファイアのように濃い青。

 だが、顔の良さはこの際重要ではないのだ。

 

「遊追君、『進路希望調査』のことなんだけど……」

 彼女は自分の後ろにある机、そこのパソコンモニターに、少年が提出した宿題を映す。

 彼自身の字で大きく、『デュエルキング!』と書かれていた。

 

「進路希望。将来の夢って言い換えた方が伝わるかな?

 『デュエルキング』になりたいの?」

「なりたい! て言うかなる! 絶対なる!」

 座ったままに男の子は、元気よく語り始める。

 

「あんな面白いこと(ほか)にない!

 しかもデュエルキングになったらさ、その楽しさを沢山の人にあげられるんだよ!

 すっげー良いことじゃん!」

 顔をぱっと明るくさせる遊追。

 

「うーん……。

 遊追君、デュエル経験はどのくらい?」

「1日! あ、今日で2日目か」

「ううーん……」

 一方、女性教師は悩ましい表情となった。

 そして椅子を回転させ、体を後ろにある机へ向けると、薄いキーボードで何かを入力する。

 

「じゃあ、『現在のデュエルモンスターズがどんな状況に置かれているのか』、全然知らない?」

「知らない!」

「そっか、そこから説明してあげないと……」

 教師の指が止まる。

 

「デュエルキングになるには、まずプロを目指さないといけないの」

 モニターには、彼女が言った通りの内容が表示されていた。

 つまり、『プロデュエリストになるには?』だ。

 教材なので、すっきりと見やすいものになっている。

 

「うん!」

「そのためには、どこかの大会に出るとか、養成所に通うとか色々ルートがあるんだけど……」

 彼女はマウスを操作し、画面をスクロールさせた。

 モニターには過去のプロデュエリスト、『チーム・ユニコーン』や『チーム・ラグナロク』、『炎城ムクロ』、『クロウ・ホーガン』の紹介写真が映っている。

 が、そんな華々しい写真とは反対に、次に映った画面の文章は暗いものだった。

 教師が読み上げる。

 

「あのね、今、世界大会は全て中止。

 専門校である『デュエルアカデミア』も無期限休校中。

 養成所も……近隣に無いなぁ。

 カード売っているショップも、閉めてる所がほとんどだね」

「なんでそんなことに?!」

 デュエルに胸ときめかせている遊追にとって、この情報はショックだった。

 思わず立ち上がる。

 

「昔、デュエルにまつわる大きな事件があったこと知ってる?」

「存じてない……」

 少年は首を横に振った。

 教師は椅子を再び回転させると、彼の方に向き直る。

 立つ彼を見上げながら、世界の状況を説明した。

 

「7年前、当時デュエルキングだったジャック・アトラスが、謎のDホイーラーとの対戦中に、光に呑まれて消えてしまったの。

 それが切っ掛けみたいに、世界中でデュエリストが消え始めた……。

 これは『デュエリスト大量失踪事件』と言われているわ」

 モニターには、ジャック・アトラス20代の時の映像が無音で流れていた。

 

(私が産まれる前の彼の姿だわ。

 本当にかっこいい、王子様みたい)

 映像を横目に見ながら、教師は思う。

 光の中に消えたことで、ジャック・アトラスはファンにとって『永遠』になった。

 老いもせず死にもせず、この世でない場所へ去った、常春(とこはる)の王に。

 

「えと……続きをお話しするわね。

 『失踪事件』でどこも大騒ぎになって、原因が調べられたんだけど、確かに分かったことは『ライディングデュエル』をすると消えてしまう……ってことくらい。

 だから世界中の国が話し合いをして、ライディングデュエルは禁止となりました」

 腕で『×マーク』を作った教師。

 

「ええー!!」

 遊追の腕も彼女の真似をした。部屋の中は今ダブル×である。

 

「立ったり座った状態でするデュエル、『スタンディング』の方は問題なかったけど、事件の影響でみんな怖くなって、辞める人が沢山でたの。

 そうなると、カードの大会は成り立たなくなるし、カード関連のイベントもできない。

 カードの開発もされない。

 こうして、デュエルモンスターズは廃れていった……」

 話す彼女の顔も暗い。

 当然だ、遊追より上の世代にとって、『ライディングデュエル』とは夢・希望・憧れ。

 彼女とてスター選手に憧れ、デッキとディスクを持っていたが、世間の冷たい目に耐えられず、押し入れに封印した。

 『夢と憧れが禁じられた』のは、とても辛い、辛かった。

 

「あの、先生。

 ひょっとして、デュエルキングになる道って……無い感じ……?」

 彼女の悲しみを感じ取って遊追は、中腰となってしまう。

 

「無い感じ……」

 そう返す顔は、やはり暗いままだった。

 

「今ってね、『デュエルが失われた世界』なの。

 先生、遊追君の夢を応援してあげたいけど、すごく厳しいかなぁ……」

 しかし彼女は教師だ、いつまでも顔を曇らせはせず、ぱっと表情を明るく変える。

 

「ね! 他の夢も探してみたらどうかな?

 人を喜ばせるのが好きなら、エンターテイナーの道もあるし!

 『イェーガーサーカス団』とか聞いたことあるでしょ?!

 ほら、ここに職業パンフレットあるから、読んでみて!」

 教師は机にあらかじめ置いてあった冊子を手に取り、教え子に渡す。

 色んな業種の説明が載っている、カラフルな本だ。

 

「心配しないで! 遊追君には無限の可能性があるんだから!」

 彼女も無理して元気を出したが、その情熱は。

 

「無限の可能性ぃ……」

 しおしお遊追に届きはしたが、元気を回復させるまでには至ってない。

 

「元気出して!」

「もい……」

「今日は食堂にプリンがあるのよ!

 先生の分、あげよっか?」

「甘いもの苦手なんで、だいじょぶです……」

 少年は中腰姿勢のまま、冊子片手にカウンセリングルームを後にした。

 教師が彼を見送りながら、考え事をする。

 

(心配だなぁ……。

 遊追君って、訳あって親戚の方と暮らしている子だし……)

 手に持ったタブレット端末には、少年の保護者が『叔母』であることが記載されていた。

 

(あの子のためにも、情報を見直さないとね)

 転校生である遊追を受け持つ際、彼女は、校長先生と学内カウンセラーから知らせを受けていた。

 『お兄さんを事故で亡くして、その後ご両親からも離れている子なの。

 それに加えて転校直後だし、不安定になっていると思う。

 気を付けてあげて』と。

 

「遊追君、私が助けてあげるから……」

 廊下を歩いていく少年の姿を、彼女はしっとりとした目つきと態度で見送った。

 なお、その少年の胸中は。

 

(デュエルキングへの道が無いだなんて!

 どうすりゃ良いんだ! どこから頑張れば良いんだ!

 世界を変えるために、オレは何をすれば……。

 国のこと決めてるのは政治家だから、そこからか……?

 そうだよ! オレには『無限の可能性がある』って先生も言ってたし!)

 とんちんかんな思いを巡らせていたのであった。

 

「キングの前に、なるか総理大臣!」

 廊下の曲がり角で、ひとり宣言もしていた。

 

 

 遊追の通う『果名(はてな)学園』は、小中高一貫のマンモス校である。

 サード・ドミノシティにある学び舎の中では最大で、在籍学生数は3000人超え。

 校舎も大きく、初等部、中東部、高等部が一つ屋根の下に収まっている。

 内部は、基本的に吹き抜け構造となっており、明り取りの窓が多く設置され、光の差し込む明るい造り。

 壁や廊下に使われている色はクリーム色が多く、アクセントにはパステルカラーが採用されている。

 中心に立つ校舎の周りには、グラウンド、体育館、屋内プール、電子書籍を含む図書館、巨大食堂、中庭があり、学業に必要な設備が完備。

 そして裏庭には、とある大女優が設計したバラ園が広がっている。

 かなり贅沢な造りの学園であった。

 

 

(俺だけカウンセリングで授業抜けちゃったなー。

 代わりの宿題提出するのめんどー)

 などと考えながら、廊下を歩いていた遊追の耳に、子どもと教師の声が聞こえてきた。

 

「カードなんて危ないもの、学校に持ってきちゃいかん」

 言葉に含まれていた『カード』という単語に、遊追の足が止まる。

 興味が出てきて、声の聞こえる方へ歩いた。

 廊下を曲がった先、別のカウンセリングルームの前で、男性と小さい子どもが会話をしていた。

 

「危なくないです! 僕のお守りです!」

 と言って、カードを男性つまり教師に見せていたのは、初等部の生徒だった。

 赤いネクタイを付けているので、初等部と分かる。 

 茶色の髪を坊ちゃんカットにし、丸メガネをつけ、小さな鼻の周りに可愛いそばかすがある少年だ。

 ちなみに、中等部である遊追のネクタイはブルー。

 

「お守りなんです!」

 繰り返し強調する少年。

 カードが日の光に照らされ、その形とテキストを遊追の目に映させた。

 大切なものなので、スリーブに収められている。

 『BF-疾風のゲイル』。

 イラストの上に、誰かのサインが書かれていた。

 

「先生はお前を心配してだな……」

「カードを嫌う人に、そんなこと言われたくないです!」

「眺目君! 待ちなさい!」

「嫌です!」

 少年は教師から逃げるため、前も確かめず走り出す。

 なので当然、様子をうかがうため近づいていた遊追に激突した。

 

「ごめ、ぶつか……わぁ!? ジャック・アトラス!?」

 少年は激突したことと、その相手が超有名人にそっくりなことで二重に驚いた。

 彼の手から、大切な1枚がひらりと落ちる。

 

「わっ、わっ、ごめんなさい!」

「こっちこそ! カード落としちゃってごめんな!」

 遊追は素早くしゃがみ、拾い上げた。

 手に持ち、近くで見たことで、書かれたサインが『クロウ・ホーガン』のものだと分かった。

 でも、遊追の興味は別の所に。

 

(デュエルモンスターズのカードじゃん!

 この子、デュエリストなのかな……)

 次に、先ほど自分の担任に言われたことが思い浮かぶ。

 

(『今ってね、デュエルが失われた世界なの』)

 遊追の思考がくるくる回っていく。

 

(ひょっとして、デュエリストって相当珍しい?

 昨日、誘蛾灯に出会えたのは奇跡?

 だとしたら……目の前の子とも友達になりたい!

 2人目のデュエル友達だ!

 んで、デュエルしたい!!)

 ──少年の青の瞳に、野望の炎が灯った。

 

「ぶつかったとこ大丈夫か? 痛くないか?」

「はい……」

 カード手渡す遊追。

 受け取った方はぶつかった罪悪感もあり、表情を曇らせていた。

 

「中等部の子だね」

 そこに、少年と揉めていた男性教師が合流する。

 

「先生、その子となんかありました?」

「……。

 この子がカードを持っているのを見つけてね。

 危ないからと預かったら、怒り出して」

「だって学則には、『カードを持ってきても良い』ってありました!」

 下を向いたまま反論を始めた少年。

 

「あれは昔の名残でな」

「もう先生とは! お話したく無いです!」

「眺目……」

「先生、オレに任せてもらっても良いですか?」

 『話がこじれてきた』と感じた遊追が、間に割り込んだ。

 

「オレ、【五星(ごせい) 遊追(ゆうお)】。

 中等部1年。遊追でいいぜ。

 君は?」

 胸を張って堂々と自己紹介する彼。

 顔と振る舞いには自信あり、なのだ。

 フランクに話す彼へ、少年は親しみを感じて口を開く。

 

「【眺目(ながめ) 集志(あつし)】、です。

 初等部4年生、今年で10歳。

 集志で良いです」

「オレの方が、ちょびっとだけお兄さんだな」

 遊追は軽く膝を折り、年少である方に目線を合わせてやる。

 

「……」

 少年こと集志は、ちらりと相手の顔を見た。

 柔らかな笑顔、澄んだ青の瞳。

 引き込まれる魅力を感じてしまう。

 

「カード持ってるってことはさ、好きなのか? デュエルモンスターズ」

「……!」

 その言葉を聞いた瞬間、集志の表情がぱっと明るくなった。

 けれど声が出せず、もじもじとするばかり。

 

(なるへ……そ。

 先生の手前、話し辛いのか)

 察した遊追は、まず問題を解決しようと考えた。

 春制服のジャケット内側から、デッキを取り出すと。

 

「先生! オレもカード持ってきちゃいました!

 だから……集志と一緒に叱ってください!」

 話す彼以外が驚く提案を口にする。

 

「なにぃっ?!」

「ねぇ先生、 ってよ ってよー!」

 言いながら、男性教師の周りをじゃれるように歩く遊追。

 教師は慌てだした。

 

「そ、そうだな、学則で許されているのに、怒った先生が悪かった。

 申し訳なかった、集志」

「え……?」

 呆気にとられる集志。

 少し前まで部屋でお説教を聞かされていたので、こうも簡単に事態が変わるとは思っていなかったのだ。

 

「これからもお守りを大切にな。

 さっ、お昼だから食堂に行ってきなさい!」

「は、はい!」

 あっさり解放された。

 教師は廊下の遠くへ去っていく。

 

「先生もお昼食べろよー」

 遊追がその背に向かい、ばいばいの意味で手を振った。

 

「す……」

「ん?」

「すごいです! 遊追君!

 先生を、えっと、いなしちゃうなんて!」

 集志が尊敬のまなざしで少年を見上げた。

 

「んー……」

 遊追は両手を頭の後ろで組むと、冷めた表情となった。

 彼は、集志からの尊敬を感じっているが、本人に『後輩の前で、大人をやり込めてやったぞ!』の気持ちは無い。

 

(……)

 胸に喜びは無い。

 デュエル以外で彼が楽しく感じることなど、滅多に無い。

 趣味のコーヒーくらいか。

 遊追は口を開いた。

 

「あの先生、『初等部』の先生だろ?

 そこを越えて『中等部』のオレ叱ると、後でめんどくさいことになるんだよ。

 今回はオレの作戦勝ちってことで。

 あんま褒められた作戦じゃねぇけどな」

 話す彼のことを。

 

「遊追君って、ジャックみたいな見た目なのに、意外とクールでクレバーなんですね……」

 集志はそう評した。

 

 

「食堂、すごい人でしたね!」

「今日はデザートにプリン付くからな」

 一階の廊下を、遊追と集志は仲良く並んで歩いている。

 食堂もこの学園の目玉だ。

 無料で食べられるメニューもあるし、少額を追加すれば贅沢な物も選べる。

 

「それでも、座る席が無いほどとは思ってなかったけど……」

 2人はのんびり食事をしようとしたのだが、食堂はデザート目当ての人でごちゃごちゃ。

 なので、空間に余裕がある中庭に来たのだ。

 靴が、人工樹脂製の廊下から、土の地面を踏みしめる。

 

「学校のお庭、いつも素敵ですよね」

 目の前に広がるのは、花壇や木が植えてある自然豊かな場所。

 食堂からあふれた学生が、芝生や木陰に腰を下ろしている、

 

「お腹空いたー」

 2人は木の根元に座った。

 買ったサンドイッチ(フランスパンにハム・野菜・チーズが挟んである)の包装紙を破り、ぱくぱく食事をとる。

 食欲旺盛な子どもなので、あっという間にサンドイッチは腹に消えてしまった。

 

「ゴミを捨てないと……。

 集志、近くにゴミ箱あったっけ?」

 手元に残ったのは包装紙。

 遊追は四角に畳み、集志はくしゃくしゃに丸めた。

 

「あっ、遊追君、『彼』に渡しましょう!」

 聞かれた集志が、ある方向を指さす。

 2人の元に近づいてきたのは。

 

『ゴミ、カイシュウ、シマス。

 シーマースー……』

 キャタピラで移動するロボットだった。

 ブリキのおもちゃのようなクラシカルなデザインで、愛嬌はあるが、錆も目立つ。

 背には、ゴミ集め用の箱をしょっていた。

 街中にある、未来的な流線形ロボとは真逆の姿。

 

「ありがとな!」

 遊追はそのアームに、畳んだ包装紙を渡した。

 

「ただのお掃除ロボじゃないんです!

 お名前があるんです! ね?」

 集志が微笑みかけると、ロボットがカチコチの機械音声で喋る。

 

『ハイ、ワタシ、ノ、ナマエ、ハ。

 子ども見守りロボ、ゴドウィン、デス』

 話すロボを見る少年の目が優しいことに、遊追は気づいた。

 

「ひょっとして、集志のお友達か?」

「えへへ……そうなんです。

 時々、僕のお話を聞いてくれるんですよ、優しいんです」

『ミマモリー、ミマモリー』

 ロボはおもちゃめいた頭部を、ぐるんぐるん横回転させていた。

 

「友達なら、ニックネームとかつけてあげようかな。

 ロボットのゴドウィン……。

 ロボウィンだとロボに勝つって意味になるし……。

 そうだ! ロドウィンってのはどう?」

『ウィー?』

 ロボの頭部回転が止まる。

 

「どうです? ロドウィンって?」

 おずおず尋ねる集志。

 

『ゴ……ロボ……ロ……?

 ロドウィン! ロドウィン!』

 喜んでいるみたいに、頭が回った。

 

「古いロボットで貴重なので、保護目的で学校に置いてるんですって。

 用務員のおじさんが言ってました」

 おかしなロボの事情を、集志が語る。

 

「ロボもロボで大変そうだな。

 応援してるぜ、ロドウィン」

『ガンバル、マス、サーモン。

 ミマモリー!』

 ロボットことロドウィンはキャタピラ足を動かすと、遅い動きで別の場所に向かった。

 すれ違う学生達が、優しくゴミを手渡していた。

 

 お昼休みは、まだまだ続く。

 2人はカードの話を始めた。

 

「他にも持ってたりするのか?」

「はい、『ゲイル』以外にもお守りとして」

 言うと集志は、春制服のジャケットから物を取り出し、手に持って広げた。

 これは教師に見つからなかったやつだ。

 見せてもらったカードの中に、遊追は違和感を覚える。

 

「このカード、イラストと名前があるだけで、効果が書いてないや」

 指さしたのは青いカード。

 枝で作られた巣の中で震える雛、そして『孤独な小鳥』の名が書かれている。

 

「デュエルセラピーで作ったカードですから」

「デュエルセラピー?」

「ご存じないですか?」

「存じてない……」

 遊追に、集志が自信満々に説明を始める。

 

「特殊な機械で心を読み取って、人が抱えてるトラウマをカードの形にするんです。

 出来たカードを見ることで、心の傷が分かったり」

「へー!」

「その上で、先生とお話とかデュエルしたりして、自分を癒していく治療法のことを言います」

「デュエルってやっぱすげー!」

 ここまで聞いて、遊追の頭にふと浮かぶものが。

 

「集志のカード、オレの『これ』と似てるや」

 昨夜、自分のエクストラデッキに収まっていた謎のカードのことだ。

 白いカードに灰色の文字が印刷されていた『あれ』。

 彼はジャケットから取り出すと、集志に見せてみる。

 

「『灰なる魔』?」

「なんか、いつの間にか持ってた」

「手元で見せてもらっても?」

「良いよ」

 集志はカードを慎重に受け取ると、手首を動かし、様々な方向にひっくり返す。

 

「炎で悪魔族、星は10ですね。

 効果のところがテキストになってますから、通常モンスター?」

「?」

 疑問顔になった遊追へ、集志またも説明。

 

「モンスター効果を持ってないものを言います。

 今は効果付きのが多いから、通常の方が珍しいかもです」

 預かったものを、じっと眺める集志。

 

「こんなカード見たことありません。

 もしかしたら、すごく貴重なものかも」

「誰かの落し物だったりしたら、どうしよ……」

 遊追は頬を指でかくと、ばつの悪そうな顔になった。

 そんな彼の助けになりたくて、集志は提案をする。

 

「家のデータベースなら、もっと詳しく調べられます。

 その、我が家、元カードショップで……」

 周りに聞こえないよう小声で話す集志。

 このご時世、デュエルモンスターズ関連の職は肩身が狭いのだ。

 

「マジで?! じゃあ遊びに行っていいか?!」

 遊追にとってはむしろ喜ばしい。

 突如立ち上がると、ぴょんぴょん跳ね始める。

 彼の行動に、周囲の注目が集まった。

 

「も、もちろんです!!」

 彼に比べ幼い集志は驚き、乱れる心のまま了承してしまう。

 遊追はご機嫌になり、自分の願望を口にした。

 

「んでさ、カード持ってるならオレと遊ぼうぜ!

 オレってデュエリストだし!

 将来の夢はデュエルキングなんだ!」

「わぁ! まるでジャック・アトラスみたい!

 とりあえず座ってください!」

「分かった!」

 ご機嫌なので言うことを素直に聞いた、体育座りになる。

 集志は彼の満面の笑みを見ながら、同じくらいの笑顔を作ると。

 

「デュエルは………………しません!」

 要求をばっさり切り捨てた。

 

「ええー!?」

「だって僕、コレクター専門ですから!」

 【眺目 集志】、10歳。

 サイン付きの『BF-疾風のゲイル』を手に持つと、スリーブの上から、愛しそうに何度も撫でた。

 

「デュエルモンスターズはトレーディングゲームでもある。

 そういう(たぐい)の人間もいるだろうな」

 2人のやり取りを、建物屋上から監視している男がいた。

 

「あらー、平和な学園生活ですこと……」

 謎の組織より、遊追を『ジャック・アトラス降霊の器に育てろ』の指示を受けている、【指針 誘蛾灯】。

 口調はふざけているが、声は低いし顔はしかめっ面。

 服装はいつもの黒コートに、薄いメッシュ素材の布を被っている。

 監視カメラやロボの目をごまかすための装備だ。

 不法侵入中なのだ。 

 

(あいつをジャック・アトラスに……か)

 監視しながら、彼は昨夜の報告会を思い出していた。

 

 

 黒い部屋、大きさも形も定かでない空間に、誘蛾灯は立たされていた。

 青年の上空には窓があり、逆光で黒いシルエットとなった大人達が、何人も立っているのが見える。

 

『進捗を報告せよ』

 威圧感のある声がスピーカーから響いた。

 受けて青年は言葉を発する。

 

「『降霊の器』候補として認定された【五星 遊追】に関してご報告します。

 身辺調査と軽微な観察を開始しました」

『どうかね? 器として使えそうかね?』

「他人に流される傾向がありますが、デュエルに強い興味を示しており──」

『我々は、早急に使えるかどうかを聞いているのだが?』

 大人達が、眼下にいる誘蛾灯を指さした。

 彼にはその仕草が、『動物園の珍獣を檻越しに笑っている』姿に見えてしょうがない。

 

(ジジイどもがよ……)

 悪態で内心を満たしながらも、声色は変えずに続ける。

 

「今日明日、という訳にはいきません。

 これからカードを与え、心身を清めると共に、肉体を成長させなければ」

『別の器候補のように壊れると』

「はい……」

 誘蛾灯は、他の候補が辿った末路を思い出す。

 『似ている』というだけで集められた十数人に、強制的に他人の精神を流し込んだ。

 確か、物まね芸人もいたはずだ。

 結果は哀れ。

 候補達はひどいショック状態、その後に意識不明となり、現在も組織の管理する病院で眠っている。

 

『我らの目指す、崇高なる目的を言ってみたまえ』

「はい。

 『シグナーとダークシグナーの再現体を作ることで、赤き竜と邪神を呼び戻す。

 そして、神を構成する遊星粒子を奪い、選ばれた人間を神に生まれ変わらせること』です」

『分かっているのに、この体たらくか?』

「はい、分かっているのにこの体たらくです。

 申し訳ありません」

 誘蛾灯は計画のアホらしさに、口の形をつい()ませてしまった。

 

『……機械人形の分際で、我らを馬鹿にするか!!』

 他の大人も怒ったのか、スピーカーから複数人の声が飛び出た。 

 

『貴様を処分してやろうか!

 破砕機に突っ込んでバラバラに!』

『我らがこの計画に何億何兆を投じたと思っている!』

『遊星粒子の力を! 新鮮な力を、老いたる我が身に!』

『ああ! 早く神々の列に並びたい!』

 理論立ってない怒りの声を、誘蛾灯は涼しい顔で流す。

 慣れている、当たられるのには。

 この報告会は、老人達の憂さ晴らしの場でしかないのだ。

 罵詈雑言が飛び交う部屋に。

 

「やめて! 誘蛾灯君をこれ以上いじめないで!」

 入って来る『もの好きな人間』がいた。

 誘蛾灯が振り返る。

 

「……トップ」

 目線の先には男の姿。

 この闇の組織の長である男が、ふざけた声と共に現れたのだ。

 

『何しに来た!

 【新田(あらた) 選士(えいし)】!』

 老人が呼ぶその名こそ、今入ってきた男の名。

 数日前、遊追にデッキとディスクを渡した『謎の男』の正体。

 

「スポンサーの皆さま、お待たせしてる現状については、謝罪申し上げます」

 新田は、全身をすっぽり覆い隠す茶色のマントをつけたまま、膝を折り曲げて謝った。

 彼の言葉は続く。

 

「されど、どうかご安心を!

 『人類再会事業』は黒字ですし、その利益を用いてこちらの計画も進んでいます!

 進捗率! 驚異の60パーセント!」

『本当だろうなぁ!?』

「ええ! ええ!

 現に、十六夜アキ降霊の器も見つかっております!」

『なんと、あのサイコデュエリストの……』

 誘蛾灯と新田を見下ろす老人達がどよめく。

 そこにトップは畳みかけた。

 

「次回の報告会では、素晴らしい成果をお見せしたく思います!

 今回はこの辺りで~!」

 言いながら、誘蛾灯の肩を手で掴んで退室した。

 

「ねぇねぇねぇねぇ誘蛾灯君。

 助けられて嬉しいでしょ? 嬉しいよねぇ?」

 廊下に出るなり、周りをぐるんぐるん歩き回る男性に、誘蛾灯はひとつ質問した。

 

「実際のところはどうなのです、進捗率」

「6パーセントなの……」

 言われた方は、わざとらしく両肩を落とした。

 

 【指針 誘蛾灯】、【新田 選士】の両名は、地下に作られた施設の廊下を歩いている。

 黒い壁、灰色の床、頭上には白の蛍光灯。

 不安をかきたてる空間だった。

 

「誘蛾灯君おつかれー。

 報告会だるいっしょ、毎回」

「いいえ、だるくないです、我らがトップ」

「誘蛾灯君ってば勤労意欲たかーい」

 廊下に響く2人の会話と靴音。

 かつんかつんの間に、蛍光灯のジジジジジ。

 

「ついでにさー、『神様』のご機嫌伺いにも付き合ってくんない?」

「貴方の命に逆らえるはずありません。

 仰せのままに、トップオブトップ」

 誘蛾灯は、彼に改造されたデュエルサイボーグ。

 命令には絶対服従の道しかない。

 そうしないと、どんな目に遭うかは身をもって知っている。

 

「君ってば強いデュエリストなのに、従順でありがたしだよー」

 茶色のマントに覆われた姿のまま、新田は明るい声を出した。

 

「俺は強くなど……」

「謙遜しないで!

 だって君は、命をかけたデュエルで全戦全勝!

 あのジャック・アトラスにも勝ったんだよ?!」

 過去を話されても、青年の顔に感情は現れない。

 

「記憶に無く。

 そんなものを誇っては、妄想癖で虚言癖の狂人です」

「とっくの昔に頭おかしくなってるのに、気取っちゃってー」

 歩く2人のうち片方が、急に足を止めた。

 誘蛾灯の方だ。

 

「トップ、あの……痛み止め、もっと強いものをくれませんか?

 最近、ますます酷くなっていて」

 改造された体は、機械と肉の相性が悪い。

 注射タイプの物を支給されていたのだが、今月分を彼は使い切ってしまった。

 痛みと、薬の離脱症状で肉体の内側が痒い。

 誘蛾灯は機械の指先で、腕をかきむしっていた。

 呼吸が乱れる、瞳孔が拡大する。

 常人には耐えられない、この感覚。

 

「これ以上強いやつ使うと、薬に慣れて効かなくなっちゃうよ?

 だからダーメ!」

 そんな青年の状態を知りながら、新田は望みを却下する。

 ひどい男だ。

 

「分かりました……我慢、します」

 言われたら従うしか無くて、誘蛾灯は下唇を噛んだ。

 

 『神』の待つ部屋に向かう道すがら、両者は会話を続ける。

 遊追の育成状況と、彼との練習デュエルでの死の可能性をだ。

 

「俺は、デュエルで負ければ死ぬ身です。

 そうプログラムされています。

 指導者にはとても向いてない……」

 誘蛾灯の声のトーンは低い。

 体調が悪いのだ。

 

「あ、そのことは心配しないで」

「トップ……?」

「遊追君限定! で! 君がデュエルに負けても死なないようにしたから!」

「……は?」

 呆気にとられ、誘蛾灯の足が止まる。

 同じくトップも足を止め、彼の方を向いて話し始めた。

 

「だってさー、デュエルで君が死んだら、遊追君の柔らかハートが傷ついちゃうじゃん。

 可哀そうでしょ? 可哀そうだよねぇ?」

「は……い……。

 そうかと、思います……」

「あっ、顔びっくりしてる。

 きゃわいいー」

 ふざけた声を出す相手に。

 

「ご配慮、ありがとうございます……トップオブトップ……」

 誘蛾灯は、定型ばった言葉を返すのが精いっぱいだった。

 

「お口は満点だねー!」

「ありがとう……ございます……」

 話す彼の気持ちはこうだ。

 

(そんなことできるのなら、俺から死の可能性を取り除いてほしい)

 どんなデュエルだろうと、負ければ死。

 それが誘蛾灯に組み込まれたプログラムだ。

 敗北を感知した瞬間、彼の心臓であるモーメントが強制停止され、死ぬ。

 

「ごめんよー、誘蛾灯君。

 君のプログラムを下手に変えるとさ、スポンサーのおじいちゃん達がうるさいわけ。

 板挟み男心を分かってほしいな」

 話す彼の声は美しい分、残酷な内容が際立つ。

 

「おじいちゃん達から見れば、死んでくれた方が、君を弄り回せて嬉しいのだろうけど」

 話しながら、誘蛾灯の心臓を指さすトップ。

 

「君の内にあるモーメント『流星の心臓』。

 それこそ、不動博士が開発した不老不死の法、そのプロトタイプなのだからね」

「……不動、博士」

「誘蛾灯君は若いからまだ分かんないかもだけど、人間って歳を取るとさ、死ぬのもふけるのも怖くなーるの!

 だからみんな求めるんだよね、不老不死ー」

 2人は歩行を再開する。

 その結果。

 

「あっ、ついたよ」

 建物の外に出た。

 彼らの目の前にあるのは。

 

「……いつ見ても荘厳ですね、この扉は」

「でしょうでしょう!

 何と言ったって、あの『アルカディア・ムーブメント』が隠し続けていた物なのだからね!」

 夜の闇の中に立つ、半透明の巨大な扉。

 時折、調子の悪い立体映像のように、形にぶれが生じる。

 

「『冥界への入り口は魔女の島にある』……」

 誘蛾灯が呟く。

 目の前にあるものこそが冥界に通ずる門だと、組織は語っているが。

 

「昨日と今日の数値は?!」

「遊星粒子、マイナス方向で安定しています!」

 白の防護服を着た研究員達が、野外用テントの下で調査を続けていた。

 広々とした夜空の下、トップは大声で語りだす。

 

「冥界の神を復活させれば、神を迎えるために門が開く!

 門が開けば、消えたデュエリスト達を取り返せる!」

 彼の周囲に研究員達が自然と集まってきた。

 語りを聞きたいのだ。

 

「そして、死んで久しき者すら戻ってくるだろう!

 行方不明になってから10年、あの『不動遊星』だってね!」

 英雄の名が出た瞬間、研究員達は歓声を上げた。

 

「遊星! 遊星! 遊星! 遊星!」

「遊星! 遊星! 遊星! 遊星!」

「遊星! 遊星! 遊星! 遊星!」

「遊星! 遊星! 遊星! 遊星!」

 年齢性別も様々な声、声、声。

 コールを繰り返し、自分達を鼓舞している。

 

「めでたく! 現世と冥界の大! 逆! 転! という訳さ!

 いやー! 私って本当に良いことしてるなー!!」

 人の輪の中心で、トップは両手を広げてぴょんぴょんと飛び、自らの行いに酔いしれていた。

 あるいは──それすら、周りを惑わす演技なのか。

 

「扉安定率、80パーセント。

 カード精霊捕獲数、100を突破しました!」

「順調じゃん! みんな偉い!」

「ありがとうございます!」

 寄ってきた女性職員を褒める新田。

 そのまま彼女へ聞く。

 

「んでさ、『神様』のご機嫌いかが?」

「そ、それは」

 狼狽える彼女の後ろ、大きなテントの中から、うなり声が漏れ聞こえていた。

 

「今日もご機嫌斜めなのね、りょうかーい。

 ほら、誘蛾灯君も付き合って」

 言われるがままに従う青年。

 テントの布扉に身を滑らせて中に。

 奥には、話題の中心である『神様』が玉座に座っていた。

 玉座と言っても。

 

『ぐぁ……ぐお、おおお!!!!!』

 そこから大量の管が伸び、神の肉体と接続されている『生命維持装置』なのだが。

 座っている存在は、人型ではあるが、シルエットは丸く、形を保持するために包帯とギプスで固定されている。

 

『おのれ……許さぬぞ【灰なる魔】……!!

 我の奴隷でありながら我を助けず、ひとり、生き延びおって……!!』

 頭部から恨み言が垂れ流されてる。

 『神』と呼称されている存在は、腕らしきものを振り上げては喚いた。

 

『【灰なる魔】! その響きすら憎い!!

 我に与えられるべき王の力をかすめ取った……。

 人の血を啜り、精霊を喰らう悪鬼! 

 全てを0とするしか能のない、虚無の鏡めが!』

 腕を振り回せば、彼に繋がっているチューブも激しく動く。

 それは風を切る音を立て、研究員達を怯えさせた。

 

『許せぬ……ぬぅぅぅ……』

 玉座に崩れるように座る神へ、新田が近づき、膝を地に着け話しかけた。

 

「神の器よ、今しばらくお待ちを。

 必ずや【灰なる魔】を見つけ出し、王の力を貴方様へお渡しします」

『遅い遅い遅い!! 全て遅い!

 あれから何年経ったと思っている!?

 貴様も使えん奴だ! 新田ぁぁぁ!!』

 神の腕がじたばた動き、チューブやら包帯やらが空間に舞う。

 痛ましい姿だ。

 

「鎮痛剤と安定剤の追加を」

 神をモニターしている研究員へ、新田がささやく。

 

「もう限度いっぱい入れてます……」

「相手は神だ、人ではない。

 量など気にせず、やっちゃってー」

「はいぃ……」

 研究員は防護服の下で涙目となりながら、言われた通りに処置をした。

 

『はぁぁぁ……』

 神の怒りが収まる。

 やり取りを後方で静観していた誘蛾灯は、己を含めてこの場にいる者全てを笑った。

 

(こんな存在が神、その器、即ち『王』だと?

 ──下らない)

 彼の銀の眼差しが鋭くなる。

 彼は、真の王者と言うものを知っているからだ。

 

(『王』とは、己のみを喜ばせる存在ではない。

 皆を喜ばせてこその『王』なのに……)

 脳裏に、白いマントを翻す男が浮かぶ。

 真の王、とは。

 

「大富豪であるスポンサー達をおだて、神の器の機嫌を取る。

 貴方の最終目的はどこなのです?」

 誘蛾灯はトップに意地悪な質問をした。

 良いのだ、普段は彼に散々こき使われているのだから。

 

「んー……」

 聞かれて新田は。

 

「神様作ってね、英雄達も生き返らせてね、世界を守るよ!

 そうしたら僕は、『本当の王子様』になれるんだ!

 今度こそ! 誰もが認める、本当の王子様にっ!」

 夢を語る子どものように、弾んだ声で返した。

 

 

 というのが、昨夜のお話。

 そして現在、誘蛾灯は昼間の学校に不法侵入し、遊追を屋上から監視していたのだが。

 

『モーメント、モーメント!

 ハカセー! モーメント!』

 奇怪な声を出す清掃ロボに見つかってしまった。

 先ほど遊追と集志が出会った『ロドウィン』である。

 

「なんだこのロボ、あっち行け!」

『モーメントモーメント!』

 ロドウィンは誘蛾灯の足にぶつかって来る。

 脛に当たる、痛いの。

 

(最新機さえ騙せる迷彩を着てきたってのに、見破られた。

 これだからヴィンテージ品はあなどれん……。

 長く稼働した機械にはオカルトが宿る。

 心、魂めいたものが……)

 モーメントを機械やロボットに内蔵するようになり、そんなオカルトが噂されるようになった。

 ひどい扱いをしたロボットに逆襲された……なんて与太話もある。

 

(それは、半分以上機械である『俺』も同じか)

 自らをふっと鼻で笑った。

 

「不法侵入するから、神経を使う羽目になるのだ。

 真っ当な手段を用意しよう……」

 誘蛾灯はロドウィンの頭を撫でると、屋上から跳躍した。

 黒いコートが広がり、翼のよう。

 

(遊追は親戚と住んでいるのだったな。

 であれば……)

 誘蛾灯は落下する。

 もっと、自分が楽をするために。

 

 

 

 次回 リターン・チャンピオン! О・Z!




つけたし説明

・行方不明の不動遊星
 本編より10年前のある日、養子と共に散歩へ出たが帰って来ず、家族がネオドミノポリスに捜索届を提出。
 その後、近隣の崖下で衣服の一部が見つかった。
 捜索は2年続いたが、最終的には『転落死』ということで決着した。
 現在においても、遺体、そして同行していた養子は発見されていない。
 世間も親しい者達も、彼の死を受け入れたが……一人だけは、最後まで認めなかった。
 
 晩年、デュエリストとしてほぼ引退状態であった彼は、ゆかりの物を記念館に収めた。
 遊星号やデッキなどだ。記念館へ行けばそれらを見ることができる。
 入館料は各地の養護施設に寄付されている。
 
・行方不明のジャック・アトラス
 本編より7年前、Dホイールで走行中、謎のデュエリストからライディングデュエルを申し込まれ、承諾したところまでは判明している。
 その後、彼のDホイールが事故を起こしたことを道路システムが感知。
 現場にネオドミノポリスが駆けつけたが、大破したホイール・オブ・フォーチュンがあるのみで、彼が見つかることは無かった。
 この事故の後から『デュエリスト大量失踪事件』が始まる。
 因果関係が分かってないにも関わらず、事件のきっかけではないかと世間より怪しまれている。
 彼は今、憧れと憎しみの対象だ。

・デュエリスト大量失踪事件
 公式・非公式に関わらず、ライディングデュエルをすると前方から巨大な光が現れ、Dホイールごとデュエリストを飲み込んでしまう。
 その結果、デュエリストが消えるという現象。世界各地で起こった。
 この事件を受け、デュエルは疎まれるようになり、人々はデュエルとの絆を忘れていった。

・サティスファクションワールド
 鉱石ダインの発掘で栄えたタウンだったが、鉱脈が枯れてしまう。
 住民の不満足を解消するため、町長こと鬼柳京介は、町にあった西部劇風建物の利用を考えた。
 そうして誕生したのが、特大レジャー施設『サティスファクション・ワールド』。
 子どもから大人まで、行けば西部劇の世界を楽しむことができ、保安官や悪漢デュエリストになりきって遊べる。
 坑道を進むトロッコ風ジェットコースターも大人気。
 黄昏時はデュエルタイム! 誰にでもデュエルを申し込むことができる。
 客同士やスタッフだけでなく、伝説の町長、彼と戦ったロットン、バーバラにだって!
 (ロットンとバーバラが罪を償った後、行き場を失っていた所を、鬼柳京介は町に迎え入れた)

 シティとサテライトの当時や搾取を伝える資料館も併設されており、歴史も学べる。

 今年の夏は! 行こうよ! サティスファクション・ワールド!
 ご家族の満足は……これからだ!!!!

 お土産物屋では、伝説のチームサティスファクションなりきりグッズが販売中です。
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