ブルーアーカイブ Last on Kivotos 作:ヴィーナス
ホシノの心が、先生を「新しい仲間」として受け入れた、その瞬間。
彼女を縛り付けていた「『守る』ことしかできない呪い」は、音を立てて砕け散った。
代わりに、彼女の心を満たしたのは、もっと純粋で、力強い意志。
――仲間を、守る。
「いくよ、先生!」
彼女の体から、悲しみや怒りではない、澄み切った蒼いオーラが、天を突く光の柱となって立ち上る。
天空の神ホルスの神性が、完全にコントロールされた形で解放されたのだ。
王の治癒は、国の再生へと直結する。
ホシノが盾を構えると、降り注いでいたカイザーの飽和攻撃が、まるで嘘のように、その一点に吸い込まれ、霧散していく。
「ホシノ先輩…!」
遠くで孤軍奮闘していたシロコの目に、その光景が映る。
「…すごい」
彼女は、ホシノを守るように立つ、記憶のない男の背中を見つめていた。
過去の幻影ではない。周囲の評判でもない。
ただ、一人の生徒のために、命を懸ける、あの姿。
長老の言葉が、脳裏に蘇る。
(…そうか。見るべきは、どこから来たかじゃない。どこへ向かおうとしているか、なんだ)
彼女の心の中の、最後の迷いが、完全に消え去った。
「ん。私たちの先生」
シロコは、力強く頷くと、反撃のために銃を構え直した。
その時。
アビドスの司令部で、通信機が、激しいノイズと共に起動した。
モニターに映し出されたのは、キヴォトスの外にいるはずの、十六夜ノノミの姿だった。
『セリカちゃん! みんな! 信じてたよ!』
彼女の声は、喜びと安堵に満ちていた。
『追加の支援、最大船団で今、そっちに向かわせてるから! だから、絶対に、生きて帰ってきてね…!』
モニター越しに仲間たちの奮闘を見届け、後方支援を完璧にこなしていたセリカは、ノノミからの声援に、力強く頷き返した。
「当たり前でしょ! 誰に言ってるのよ!」
彼女の目には、涙が光っていた。
アビドス全員からの、そして、遠く離れた仲間からの「承認」。
その想いが、一つの奇跡を呼び起こす。
先生の胸ポケットで、埃をかぶっていた一枚のカードが、眩い光を放ち始めた。
それは、まるで心臓のように、温かく、力強く、脈打っている。
その光景を見ていた黒服が、陽動の戦場の片隅で、面白そうに呟いた。
「ふむ…これは興味深い。どうやら『そのカード』は、他者からの信頼や承認といった、形のない概念を物理的なエネルギーに変換する、一種の特異な『触媒』のようですねぇ」
先生は、光り輝くカードを、強く握りしめた。
脳内に、直接、力が流れ込んでくる感覚。
今なら、できる。
「来いッ! シロコ! シロコ*テラー!」
先生の叫びに呼応するように、二人の少女が、光と共に彼の眼前に転移する。
二人は、先生の目を見て、確信する。
「うん、やっぱりあなただね、先生!」
シロコが、満面の笑みで言う。
「…礼は、後で言う」
シロコ*テラーもまた、静かに頷いた。
アビドスの三人の神性が、新しい指揮官のもと、初めて心を一つにする。
ホシノが、最強の盾として全ての攻撃を受け止め。
シロコとシロコ*テラーが、最強の矛として、その両翼を担う。
「全軍、反撃開始! 目標、カイザーの多脚戦車! 一気に叩き潰すぞ!」
先生の指揮が、戦場に響き渡る。
その力は、カイザーの軍勢を、圧倒した。
爆炎と閃光が、砂漠の夜を、真昼のように照らし出す。
それは、アビドスが10年ぶりに手にした、本当の勝利の光だった。