ブルーアーカイブ Last on Kivotos   作:ヴィーナス

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第33話:反撃の狼煙

燃え盛る市街地から遠く離れた、森の中。

イズナとシラヌイは、上層部からの追っ手から逃れるため、息を潜めていた。

 

父との再会は、イズナにとって、何よりも喜ばしいことだった。

だが、彼女の心は、晴れなかった。

 

「お父様…このままで、いいのでしょうか」

 

イズナは、遠くで赤く染まる空を見上げながら、静かに言った。

 

「先生たちが、困っています。このまま逃げ続けて、先生が大結界をどうにかしてくれるのを待つだけなんて…それは、お父様が教えてくれた、忍者の道ではありません」

 

その言葉に、シラヌイは何も言えなかった。

娘を救ってくれた恩人たちに、多大な迷惑をかけたまま、この場を去るのは、彼の流儀にも反する。

だが、今戻れば、イズナを再び危険に晒すことになる。

 

その時、茂みの中から、複数の気配が立ち上った。

追っ手だ。

しかし、その動きは、正規の訓練を受けたスパイのものではない。雑で、殺意だけが先走っている。

 

「…チッ。どうやら、遠慮する必要はなくなったようだな」

 

シラヌイの目に、かつての鋭い光が戻る。

この混乱の最中、自分たちを追ってくるのは、上層部の正規部隊ではない。

イズナを操っていた、あの派閥の私兵だろう。

 

父と娘は、アイコンタクトだけで、互いの意志を確認した。

二人は、闇に紛れて、音もなく追っ手たちに接近すると、その意識を的確に刈り取り、脱出不能なように拘束していく。

 

「――先生のもとへ、戻るぞ」

「はい! 主君をお助けするのです! ニンニン!」

 

その頃、百花繚乱の野戦指揮所では、委員長のナグサが、極限の選択を迫られていた。

テロを未然に防ぐのは、自分たちの任務だ。

だが、起きてしまった、この大規模な災害の前では、あまりにも無力だった。

 

巨大なハンマーを手に、燃え盛る団地に飛び込み、瓦礫を砕いて一人でも多くの生徒を助け出すか。

それとも、ここで指揮を執り、手当たり次第に指示を出すか。

どちらも、焼け石に水でしかない。

 

本来ならば、陰陽部が陣頭指揮を執るべき状況だ。

しかし、駆けつけたのは、副部長の桑上カホただ一人。

人員も、経験も、何もかもが足りていない。

ナグサは、奥歯をギリリと噛み締めた。

 

その、絶望的な状況の中に、一人の男が現れた。

先生だ。

足を引きずりながらも、その瞳には、確固たる意志が宿っている。

 

「…何の用ですか。見ての通り、我々は忙しいのですが」

 

ナグサは、苛立ちを隠さずに言った。

先生は、何も言わずに、ただ、深く頭を下げた。

 

「…頼む。君たちの力を、貸してほしい」

 

その、あまりにも率直で、謙虚な言葉に、ナグサは一瞬、言葉を失った。

先生は、続ける。

 

「俺は、無力だ。一人で調査に出て、怪我をして、君たちに助けてもらった。結局、何もできなかった。この街を、このままにしてはおけない。だから、どうか、力を貸してほしい。君たちのような、プロの力が必要なんだ」

 

ナグサの頭の中で、様々な情報が交錯する。

この男は、怪しい。だが、今回のテロとは無関係だ。

記憶喪失だと主張しているが、その指揮官としての才能は、これまでの行動で十分に証明されている。

記憶と才能は、別物だ。

 

そして、何よりも。

この男は、この学園の真の主である、クズノハ様が、自ら招き入れた存在だ。

クズノハ様が信じるのなら、自分も信じるしかない。隣に立つカホも、同じ見解のはずだ。

 

自らの失敗を、潔く認める。

そして、相手への敬意を払い、協力を要請する。

その、あまりにも真摯な姿勢に、ナグサの心の中にあった、最後のプライドの壁が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。

 

その時だった。

 

「――先生!」

 

炎と煙の中から、二つの影が、ナグサたちの前に駆けつけてきた。

イズナと、シラヌイだ。

その光景を見て、ナグサは、ついに決断した。

 

「…分かりました。百花繚乱紛争調停委員会は、これより、先生、あなたの指揮下に入ります。どうか、我々に、的確な指示を」

 

こうして、今までバラバラだった者たちが、一つの目的のために、巨大な対策チームとして結成された。

 

先生の心に灯った、小さな革命の炎。

それが今、反撃の狼煙となって、この絶望に包まれた街に、高々と上がったのだ。

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