愛し合う二人は平穏を求める   作:レイアズ

1 / 9
01 新たなリンクス

国家解体戦争。

 

それは国家が崩壊し、全世界を企業が取り仕切る。

 

そんな管理資本主義(パックス・エコノミカ)が形成されるきっかけとなった戦争のことである。

 

それまでは戦場の主力だった、ノーマルACと、搭乗者『レイヴン』。

それを遥かに上回った性能を持ったネクストACと、それを動かす、AMS適正という能力を先天的に持っていた搭乗者『リンクス』の出現により、全世界の国家はわずか26機という数少ないネクストによって滅ぼされた。

 

そして人々は、コロニーと呼ばれる居住区へ押し込められ、半強制的に労働を行わされていた。

人々は苦しい労働の中、生きる希望すら見失っていた。

 

 

 

 

 

そんな中、アナトリアと呼ばれるコロニーの元レイヴンのリンクス、通称アナトリアの傭兵が活動を始めた。

 

彼は元レイヴンという経歴と、低いAMS適正により、粗製リンクスと揶揄されたが、並外れた成果を出し続け、企業間のバランスを崩壊させるほどまでに至った。

 

 

 

そんな彼を恐れた企業は、当時の最強戦力のネクスト4機に加え、アナトリアの傭兵と同等の力を持つとされるコロニーアスピナのリンクス、ジョシュア・オブライエンを差し向けたが、アナトリアの傭兵はこれすらも打ち破り、後にリンクス戦争と呼ばれるこの戦いには終焉を迎えた。

 

 

 

これはその十年ほど後の未来、支配者たる企業が、自らが汚染し尽くした地上を見限り、高度七千メートルに高高度プラットフォーム『クレイドル』を建設し、新たな正常空間を見出していた頃。

 

国家解体戦争や、リンクス戦争で活躍したリンクスたちは、今や汚染された地上で延々と繰り返される経済戦争の尖兵と成り果てていた。

 

そして今、新たなリンクスが生まれようとしていた……。

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

水上都市ラインアークと地表を繋ぐ橋。

 

橋と言うにはあまりにも巨大なそれは、海面上昇の影響で、今はもう海の中に沈んでいる巨大なビル群と比べても、別格の存在感を放っていた。

 

橋は何層かに別れており、その層の内の一つ、道路の部分には、防衛兵器とノーマル達が警備を行っていた。

 

しかしレーダーには何も映っておらず、談笑する余裕があるほどに、橋の上は極めて平和だった。

 

上空に、数機のヘリが現れるまでは。

 

ノーマルの広域レーダーにその反応が映ったとき、ヘリはすでに橋の上空まで移動していた。

 

ヘリからは何本かのワイヤーが繋がれており、ワイヤーの先には、1機の黒いネクストが吊り下げられていた。

 

ノーマルたちが銃を構えて撃つ前に、ネクストはヘリから切り離され、橋の上へ轟音を立てて着地した。

 

鋭角的なデザインのその機体は、特徴的な複眼を光らせ、正面の防衛兵器たちを睨みつけるように見つめる。

 

頭上の雲に日光が遮られ、昼間にも関わらず、周囲はまるで夕方のように薄暗く色付いていたが、その中でもその機体だけは、ノーマルに登場しているパイロットが、思わず唾を飲み込むような、そんな異質な存在感を放っていた。

 

 

『ミッション ラインアーク襲撃』

 

 

 

「ミッション開始、ラインアークに展開する守備部隊を、全て撃破する」

 

オペレーターであり、戦闘技術を教えてくれた師匠でもある、セレン・ヘイズの声とともに新人リンクス、レイン・ヘイズはネクストの戦闘モードを起動した。

 

今回のミッションは、リンクス管理機構『カラード』に所属するための試金石とも言えるミッションで、少数の防衛兵器とノーマルの撃破であり、難易度自体は比較的簡単な内容だった。

 

シミュレーションでは味わえない、リアルな戦場の空気と雰囲気に、レインは少し緊張していたが、しかし感情を高ぶらせることもなく、冷静に出てきたノーマルと防衛兵器の群れを眺めていた。

 

「企業のネクストだと!?」

「畜生、こんなときに限って!」

 

オープン回線を通じて、ラインアーク守備部隊の焦った声が流れてくる。

 

瞬間、レインに操られたネクストが跳ね、右手に持っていたマシンガンが火を吹いた。

 

ノーマルにも及ばない弱小な防衛兵器たちが、一瞬にて爆炎に包みこまれる。

 

その爆発が、戦闘開始の合図となった。

 

残った防衛兵器からは機銃の弾が。ノーマルからはバズーカの砲弾が飛んでくるが、レインはバズーカの砲弾だけを回避し、機銃の弾丸は、まるで気にしていないかのように無視して、敵集団に突っ込んで行った。

 

勿論機銃は着弾したが、ネクストの周囲を取り囲むように、白いバリアのようなものが銃弾を弾き、ネクスト本体には傷一つついていなかった。

 

プライマルアーマー。

 

それがその白いバリアの正体。

コジマ粒子と呼ばれる重金属粒子を転用し、銃弾を弾く、或いは威力を減衰させることができるように整流したものだ。

 

その影響で、通常の防衛兵器ではまともにダメージすら与えることができず、ネクストに蹂躙されるしかなかった。

 

「クソっ!効いているのか!?」

「プライマルアーマーだ、まずはプライマルアーマーを減衰させるんだ!」

 

防衛部隊が必死に撃ってくるのを冷酷に眺めながら、わざわざ銃を撃って弾代を増やす必要はないと考えたレインはブレードを起動、敵一団を消し飛ばす。

 

弾だってタダではない。マシンガンの弾代よりも敵の命が軽かった。それだけのことだ。

 

「目標、残り半数だ」

 

セレンの声を聞きながら、レインは残りの敵機を見据えた。

 

「ノーマルはまだなのか!?ノーマルは!?」

「もうすぐ増援が来る!持ち堪え…ギャアッ!!」

 

「…ふぅ……」

 

コックピットで敵の断末魔を聞きながら、レインは息をついた。

人を殺す感覚。もちろん良いものではないが、これから慣れ、何も感じなくなっていくのだろう。

そんな思考を抱きながらレーダーを確認すると、敵の増援部隊が映り込んでいた。

 

「敵増援、ノーマル部隊だ。油断だけはするなよ」

 

どうやらまだ終わっていないらしい。

レインはため息を付き、再度ネクストを動かす。

 

ノーマルは旧世代の主力機体であり、ネクストに傷をつけ、状況と数によっては撃破することも可能な存在なので、十分に気を付けつつ撃破しなければならない。

プライマルアーマーでダメージを軽減できるとはいえ、被弾すればそれだけ修理費が嵩む。

 

油断せずクイックブーストを使用し、急接近してからブレードで一瞬にしてノーマルを切り裂いて行く。

最後のノーマルを貫き、レーダーに敵の反応は、全てなくなっていた。これで本当にミッション終了だ。

 

「ミッション完了。よくやったな、ほぼ完璧だ。とはいえ、あまり調子付くなよ、敵が弱すぎたのだからな」

 

そうセレンがねぎらい、調子に乗らないように釘を差してくる。

 

「わかってる。こんな敵じゃ調子付くにも付けないよ」

 

そう返し、レインは迎えのヘリが来る場所まで機体を向かわせた。

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

セレンはミッションが終了した後、オペレータールームで息を吐いた。

 

「なんてやつだ……」

 

独り言が思わず口から漏れる。

 

シミュレーションで訓練したとはいえ、実戦でいきなりシミュレーションの動きを再現できるわけがないのだ。

 

ネクストは神経接続で動かしており、反射的な動作も反映してしまう。

 

例を挙げるなら、銃弾が自分の真横を通り過ぎた時に、思わず体が跳ねてしまう現象などがそうだ。

プライマルアーマーがあるとはいえ、人間の本能的な反射は、そう簡単に消えるものではない。

 

何度も何度も実戦を重ね、空気に慣れ、シミュレーションとのズレを直していくという工程を挟む。

かつてリンクスであったセレン自身もそうであったし、いまトップに居るリンクスもほとんどがそうだ。

 

だがレインは違った。

初陣にも関わらず、銃弾に怯える事も無く、むしろ機体に傷がつかない程度の銃弾なら、無視して突っ込んで行った。

 

初めてのミッションでうまくいきすぎると、得意になって後で痛い目を見るのだが、注意してみても、本人は高揚する様子もなく、至って謙虚だ。

 

何より驚くべきことは、レインがまだ成人もしていない十代の子供なのに、この驚くべき成果を出したことである。同じ年齢のときにこれをやれと言われて、セレンははできる気がしなかった。

同じことができるのはランク1オッツダルヴァ、ランク2リリウム・ウォルコットくらいのものだろうか。

 

「これは想像以上の拾い物かもしれんな……」

 

天井を仰ぎ、セレンははミッションレポートを作成するため、キーボードを打ち始めた。

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

レインがカラードの居住区にある家に帰ってまずすることは掃除に洗濯、夕食の準備だ。

一緒に住んでいるセレンは家事能力が皆無なので、レインが殆どやっておかなくてはならない。

 

ガチャリとドアが開く音がする。

 

「おかえり、セレン」「ただいま、レイン」

 

セレンはそう言ってソファーに腰掛ける。

 

「今日の任務はどうだった?」

「ああ、素晴らしかった。口ではああ言ったが、修理費と弾薬費が千cに抑えられているのは始めて見た。」

 

cというのはコームの略称で、一コームあたり百ドルくらいの為替レートだ。

今回の任務の報酬は20万c。修理費を引いても19万c以上残る。

これも教えのとおりに、極力被弾を抑えるようにした成果だ。

 

「だがブレードは使うのをやめておけ。

今回は敵が止まっていたから良かったものの、初心者ではネクストが相手の時、当てようと思っても当てられん。ダブルトリガーがいいだろう。

弾薬費はあまり気にするな。それよりも被弾を抑えたほうが、修理費がかさまずに結果的に安上がりだ。

本来ならショップに追加はないはずだが、お前が想定以上の働きをして、企業連から一定の評価を得たらしい。

ほとんどすべての企業から販売許可が降りているから、今度本部に行くときに買っておけ。

アサルトライフルとマシンガンの組み合わせが近距離戦をするうえではバランスがいい。FCSもそれに合わせたものに変えろ」

 

「う…うん……今度オーダーマッチしにいくときに買うよ……」

 

怒涛の勢いで機体構成に口出しするセレンに、レインはちょっと引きながら料理を机に並べていく。

だがセレンの言うことも一理ある。

 

ブレードは当たれば強いが、超高速で動くネクストには当てにくいだろう。やはり近接機動でライフルをで打ち合うのが一番いい。

 

そう結論付けたレインは、機体構成を頭の中で組み立てながら食事を摂る。

 

「うん、うまいな。やはりお前には料理の才能がある」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。作り甲斐がある」

 

そう雑談しながら夜は過ぎていく。

 

「おやすみ、セレン」「ああ、おやすみ、レイン」

 

自分の部屋に戻ったレインは、ベッドに寝転がって少し昔のことを思い出す。自分にAMS適性があるとわかった瞬間にリンクスになろうとした、その決意の原点。

 

物を盗もうと入り込んだ屋敷の中で、何故か出会い、何故か友達になった美しい銀髪を持った可憐な少女のことを。

 

BFFの人間に連れていかれるのをどうにもできず、無様に地面に這いつくばって、見ていることしかできなかった自分の姿を。

 

(もうすぐだ……もうすぐ君に会えるよ……リリウム……)

 

そう心のなかでつぶやきながら、レインは眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

とある部屋の一室、肌が透き通るように白く、美しい銀髪を持った少女が憂いを持った目で、窓の外を見つめていた。

 

その少女の名はリリウム・ウォルコット。

カラードのランク2であり、BFFの女王とまで言わしめた凄腕のリンクスである。

そんな彼女の様子は、天使が世界の平和を憂う、宗教画の如き美しさを見せていた。

 

しかし彼女の脳内は、唯一人の少年で埋め尽くされていた。

今日カラードに登録されたという新人リンクス、レイン・ヘイズ、カラードランク31。

近接機動に劇的な才能があり、相手がノーマルと防衛兵器のみだったとはいえ、初ミッションでの被弾をほぼゼロに抑えたという化け物。

 

リリウムの初ミッションは、飛んでくる砲弾の音、オープン通信から聞こえる怨嗟の声、シュミレーションとはあまりにも違う戦場にパニックになり、逃げ惑いながら目標を達成した思い出がある。

 

いくらシミュレーションで経験を積んでいたとしても、実際の戦場の空気は思考と心の平静を奪ってしまう。

 

なので初ミッションでの被弾がほぼゼロという行為は、ネクストを扱うのに十分な才能があることに加え、本人の精神が戦場に左右されない即戦力であることを表す。

 

しかしそんなことは関係無しに、リリウムの内心は歓喜に満ち溢れていた。

二度と会えないだろうと思いつつも、希望を捨て切れずに探し続けていた少年に、もしかしたら会えるかもしれないのだから。

 

ウォルコット家が所有する屋敷に忍び込み、偶然自分の部屋の窓から入り込んで来て、お互いにしばらく固まっていたのを思い出し、リリウムは小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 

 

出会いが最悪な形だったというのは今でも思うことだ。

片や外に出たことすらほとんどない箱入りお嬢様、片や物を盗むことは愚か、屋敷に入ったことすらなかった少年の初めての盗み。

 

偶然だったのだ。

 

庭に登りやすい木が生えていたのも、その枝がベランダにかかるくらいまで伸びていたことも、気分を入れ替えるために窓を開けていたのも。

使用人が皆寝静まっていたことも、私が寝付きが悪く、遅い時間まで起きていたことも。

 

「痛っ!」

「!?」

 

最初に見たとき、綺麗な女の子だと思った。パッチリした目にきめ細かい肌。高めな声まで。

見惚れてしまったのだ。侵入者だと言うことも、相手がみすぼらしい格好をしていることも、そんな事は気にならなかった。

 

彼(最初は『彼女』だと思っていたのだが)もびっくりしたのか、そのまま暫く見つめ合い、最初に動いたのは彼の方だった。

 

「待って!声を出さないで!」

「ムグゥ!」

 

口元を抑えられ、声が出せなくなって初めて、私は明確な恐怖を感じた。

 

「っ……ぅ……」

「えっあっごめん!苦しかった?」

 

顔を青くして涙を流す私を見て、あわあわとしながら謝ってきて、本当に泥棒しに来たのかと疑うほど、彼は優しかった。

 

泣き止んだら泣き止んだで警戒心を全身で露わにしている私に対して、彼はハンカチで顔を拭いたりと、あれこれと世話を焼こうとしてくれた。

その様子に毒気を抜かれ、思わず泥棒しにきたんじゃないのかと聞いてしまった私を、誰も責めないと思う。

 

「その…初めてでよくわからなくて……少しでも孤児院の先生の助けになればって思って……」

「……」

 

その言葉を聞き、相手が侵入者だということも、先程まで泣いていたことも忘れ、私は思わず呆れ顔を向けてしまった。

いや、自分なりによく考えはしたのだろう。ただ……

 

「その方が盗品を受け取るとは思えないのですが……」

 

この汚染と暴力にまみれた最悪な世界で孤児院を運営している。それは余程の聖人でなければできないだろう。

だからこそ、盗んだものを喜んで受け取ることはないだろうと、私は確信していた。

 

「でも……働こうとしてもこんな小さな子どもを雇ってくれるところなんてない……だから……」

「盗みを働こう……と」

「……ごめんなさい……本当はいけないことだってわかってたんだ……なんでこんな事しちゃったんだろう……」

 

涙ながらの彼の独白を聞き、なんとなく事情を理解した私は、お母様からよく言い聞かされていた事を思い出していた。

 

『いい?リリウム。私達は貴族で裕福な暮らしをしているけれど、それを当たり前のことだと思ってはいけないわ。

ノブレス・オブリージュ、というのだけれどね。

私達の暮らしを支えてくれるのはいつも市民。

だからその対価として、民を守るために力を振るうの。

いつか外に出たとき、困っている人がいたら、なるべく助けてあげなさい?』

 

なるほど。まさに今こそノブレス・オブリージュを発揮すべき時なのだろう。

幸い、彼は自身の行いを後悔し、反省しており、その謝罪は彼自身の根幹が、善性のものであることを示していた。

 

「まったく……先ほどとは真逆ですね……」

 

私は苦笑し、近くにあったタオルで顔を拭ってあげたあと、何か渡せるものはないか探した。

先程ああ言ってしまった手前、金目の物は渡すわけにはいかないので、やはり食料品だろう。

 

「そういえば名前を聞いていませんでしたね、貴方のお名前は?」

 

自分は何をしているのだろう。

心の中で自分に呆れ返る。

ノブレス・オブリージュだの何だのと言い訳したところで、眼の前にいるのは侵入者、泥棒だ。

こんなことをする義理はない。

 

なのになぜ、こんなにも心が揺らぐのか。

 

「レイン。苗字はわかんない。ドッグタグにそれしか書いてなかったんだ。」

 

彼が笑いかけてくる。

 

「レイン様、ですね。私はリリウム。リリウム・ウォルコットです。よろしくお願いしますね」

 

その笑顔は、己の中の悩みを消し去るほどに、とても、とても美しかった。

 

それから私は、毎日少し夜ふかしをして窓を開けておき、彼と話をすることになった。

私は部屋に菓子を用意し、彼は外の話をする。

 

それは私が言い出したことだった。

ただ、なんとなく彼と話したいと思ったのだ。

 

それが恋心だと気付くまで、そう時間はかからなかった。

いや、これは言い訳だろう。最初から一目惚れだったのに、一目惚れという陳腐な言葉で片付けたくなくて、何かと理由付けをしたかったのだ。

 

だから外の話を聞いた。彼の家族のことも。

 

生みの親は知らないと言っていた。

孤児院の前に、いつの間にか置かれていたそうだ。

唯一の己の証明は、布の中に一緒に入れられていたドッグタグにある『RAIN』の名前のみ。

 

彼は孤児院の下の子達の話をよくしてくれた。

 

小さないたずらを繰り返す男の子や、毎回それに引っかかって怒りながらその子を追い回す女の子など、本では知り得ないその日常は、私を夢中にさせてくれた。

 

最初は、ただ好きな人と話したいという思いだったのだ。

しかしその思いはいつの間にか、彼との繋がりを切りたくないという執着へと変わっていった。

 

特にこの頃は両親が長い間帰ってきていなかった上に、使用人も必要最低限しか私と話さず、人との関わりに飢えていたのも、その心に拍車を掛けていたのだろう。

 

彼は私があげた菓子をその場で食べることはなく、いつも持ち帰っていた。

孤児院の先生には、偶然私と出会ったことにして、菓子を恵んでもらっていると説明したそうだ。

 

その先生はお礼を言いたいと言っていたらしいが、そこはうまく誤魔化したらしい。

 

出会ったきっかけがきっかけなので、正直に言うことはできないだろう。

 

「今日は何の話をしてくれるのですか?」

「そうだね、こっそり汚染地域の近くまで行ったときの話をしようか、多分コジマ汚染の影響なんだと思うんだけど、コスモスの花畑が緑色に輝いてたんだ。普段はコジマ粒子って不気味に光ってるけど、そのときは凄く綺麗だったなあ……」

 

その情景を思い浮かべて笑い合う。

 

私は彼と会えることに幸福を感じ、彼は下の子達に美味しいお菓子を食べさせてあげられる。

そんな生活が、ずっと続けばいいと思っていた。

 

しかしそんな願いが叶うわけもなく、混沌と化す世界情勢は、私達の間を容易く引き裂いた。

 

「リリウム・ウォルコット様、王小龍様からの命令で、お迎えに上がりました」

「え……?」

「誰……ですか……?」

 

突然だった。

その男は、私達の質問に答えることなく私を連れ出そうとし、それに反発した彼を押さえつけた。

 

男はそのまま彼に銃を向けたが、私が大人しく従うから殺さないでと懇願し、ようやく銃を収めた。

 

私は最後に呆然としている彼を抱きしめ、小さく「愛しています」と囁いた。

 

言わないと後悔すると思ったのだ。

 

その後すぐ私は連れて行かれ、新たなBFFの女王として祭り上げられた。

 

その過程で、父も母もすでに、『アナトリアの傭兵』に殺されていたことを知った。

私が連れてこられたのも、父と母のAMS適性を引き継いでいるか期待してのものだったらしい。

 

実際私は高いAMS適正を持っていた。

 

それが発覚した後、私はBFFの実質的な権力者である、王小龍様の下でリンクスとしての技術を学ばされた。

孤独だったら耐えられなかったかもしれない。

心が壊れて人形のようになってしまっていたかもしれない。

 

しかし私には願いがあったのだ。

決して折れない、ただ一つだけの願い。

 

『あの美しい少年と、また会えますように』

 

その願いがもうすぐ叶うことを、リリウムは確信していた。




ハーメルンにACFA、かつリリウムの小説って数少ないですよね、誰も純愛リリウム書いてないから自分で書きました。
文章を読み直して、「ウワーーー!!!」(ゴロゴロゴロ)ってなったんで書き直してチラシの裏で公開してたんですけど、チラシの裏でグダグダやるよりこっちのほうがやる気出るかなって思ってリメイクすることにしました。
前の作品知ってるよって人でも、知らんって人でも、感想と評価していただけると嬉しいです。

皆さん子供の頃、自分でもその行動をした理由がわからないのに、行動しちゃったことってありませんでしたか?
リリウムの追憶でのレインの行動ってまさにそれです。

あと個人的にAC世界での基本通貨はドルだと勝手に思ってます。百ドル=一コームみたいな感じで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。