愛し合う二人は平穏を求める   作:レイアズ

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どうやらランキングに乗ったようです。本当にありがとうございます。


11 願った日常を抱きしめて

数日後。

 

リンクス達の安全のために、最高峰のセキュリティが構築されている居住ブロック。

その内の一つで、かれこれ二時間程、少年はひっきりなしに玄関と部屋を行き来し、外の様子を覗いていた。

 

最初は微笑ましそうに眺めていたセレンも、徐々に笑みが引き攣り、額に青筋を立て始めていた。

収支報告書を眺め、弾薬の補給と機体の修理状況の報告書を纏めている最中に、周りをチョロチョロ動き回われているのだから、元々堪え性が無いセレンにしては、まあよく我慢している方だろう。

 

「おい!鬱陶しいぞ!まだ来る時間じゃ無いだろうが!」

 

ともなれば、こうして爆発するのも時間の問題だった。

 

「いや、だってさぁ」

 

「だってもクソも有るか!まだ!!朝の!!!8時だ!!!!」

 

朝の居住ブロックに、盛大な怒鳴り声が響いた。

 

 

※ ※ ※

 

 

数時間後、キィと音を立て、特徴的な長い胴体を持った車が駐車場に入ってくるのを窓からみると、彼は弾かれるように玄関に向かって走り出した。

 

ドアを押し開け、彼はその無駄に高い身体能力を駆使し、階段を『ショートカット』する。

相当高い階層に住んでいるはずなのに、30秒も掛からずに地上へ降り立った彼は、パルクールの要領でフェンスを超え、車の側に寄って行った。

 

「リリウム、おはよう!今日は良い天気だね!いらっしゃい!」

 

少年ドアを開けて出てきた少女に快活に声を掛けた。

すると少女は目をパチリと瞬かせた。

 

「レイン様?まさかずっと待っていたのですか?」

 

「いや?流石に止められたから窓を眺めてて、来たと思ったからダッシュで来た!」

 

「それは、その、大変嬉しいのですが、指定された住所は15階だったはずで「気にしないで、さあ行こう!」…あっ!」

 

少年は運転手に手を振ると、少女の手を取って歩き出した。

少女も運転手に頭を下げ、手を引っ張る少年に付いて行く。

 

運転手はその後ろ姿をじっと見つめていた。

 

「変わられた、いや、戻られたのですな、お嬢様」

 

あの明るい少年に振り回されながらも、満更でも無さそうに付き添う少女を見て、男はようやく己の中にあった後悔が消え去って行く気がした。

 

手を組み、神に祈る。

彼等の未来が、幸福に満ち溢れていますように、と。

それは少女を救えなかった男の、唯一出来ることだった。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「レイン。お前が急いでいたのも、今日を楽しみにして居たのもよ〜く分かっている。だがな、階段をショートカットするなと何度も言っているだろうが、この馬鹿!!」

 

部屋の中では、セレンの雷が少年に直撃していた。

 

「うっ…いや良いじゃん、どうせ落ちても傷一つ付かないんだからさぁ」

 

「そう言う問題では無い!」

 

少女は二人の間でオロオロしていたが、セレンはそれを見てふぅと息を吐くと、少女の方に向き直り、先程までとは違い、優しげに声を掛けた。

 

「ようこそ、リリウム。今日から此処がお前の新たな家だよ。屋敷に比べれば狭いかもしれんがな」

 

「は、はい。不束者ですが、よろしくお願いします」

 

セレンは少女をチラリとみると、テーブルに誘導した。

 

「ほら、レイン、さっさと茶を淹れろ、どうせなら本物を使ってやれ。今日は特別だ」

 

「良いの?やった!」

 

少年は台所に入り、棚を物色し出した。

 

「お前の事はあいつから聞いているよ、色々大変だったな。……そうだ、敬語は要らんぞ、直せとも言わんがな」

 

「いえ、これは癖のような物なので、このままで「リリウム、コーヒーで良い?」あ、大丈夫です、お構いなく」

 

「そう?じゃあ最近仕入れたこいつで……」

 

少年は手慣れた様子で豆を挽くと、ケトルに沸かせたお湯を注ぎ込み、フィルターをセットすると、そこに挽いたコーヒー豆を入れ、丁寧に整えた。

 

豆が蒸すように、一瞬だけマーブル模様になるようにケトルのお湯を静かに注ぎ入れる。

 

香ばしいコーヒーの匂いが部屋に漂い、空気が弛緩して行く。

 

「手慣れていますね。普段は彼が?」

 

少年がコーヒーを淹れる様子を静かに見ていた少女がセレンに問いかける。

 

「…ああ、私が徹夜していた時に淹れてくれたのが始まりでな、今では食事もあいつだ。いつの間にか腕を上げていてな。いつ調べたんだか」

 

少年は充分に豆が蒸された事を確認すると、少しずつお湯を注ぎ入れた。

ふわりと湯気が沸き立ち、少年の顎を撫でて空気中に溶けて行く。

 

少年は人数分のコーヒーを注ぎ入れ、お茶請けと共にカップを運んで来た。

 

「さ、召し上がれ」

 

少年の声に促され、少女はカップに口を付ける。

コクのある苦味と、心を解かす様な暖かさに、思わずほう、と息が漏れる。

 

「美味しい……」

 

「それは良かった」

 

隣を向くと、少年は穏やかな笑みを浮かべ、少女を見つめていた。

 

「あの…何か……?」

 

少女の問いに、少年は一口コーヒーを飲むと、噛み締める様に呟いた。

 

「いや、ほんとにリリウムが居るんだなぁって、それだけ」

 

それに少女も穏やかな笑みを浮かべた。

 

「はい、此処に居ますよ」

 

付近に甘い雰囲気が漂う。

その様子を眺めていたセレンはポツリと呟いた。

 

「砂糖…入ってないよな……」

 

クイッとコーヒーを飲み干し、二人の世界から逃げ出す様に席を立ったセレンは、資料を抱えて自室に向かって行った。

 

あの場にあれ以上居たら砂糖で溺れる。いや、くどくは無いし、オーバーに愛を囁いている訳でも無いが、それでもあの場には、間違い無く第三者が居にくくなるフィールドか何かが展開されていた。

 

「くそ、何で私が追い出されるんだ。だが迂闊だったな、間抜け共め、この借りはちゃんと返させてもらうぞ。今日の夜を楽しみにしておくんだな」

 

恨めしげに呟くその声は、勿論二人には聞こえていなかった。

 

 

※ ※ ※

 

 

夜になると、少年は夕食を作り始め、少女はそれを手伝っていた。

 

そして珍しく、セレンは少年から呼ばれる前に席に着き、何なら配膳を手伝ってすらいた。

普段の様子を知らない少女は兎も角、少年はその様子に違和感を覚えてはいたが、気にする様な事でも無かった為、何も言う事は無かった。

 

「「「頂きます」」」

 

三人の声が重なり、食器の音が部屋に響く。

 

「美味しいですね」

 

「そう?なんか嬉しいな」

 

「それに関しては同感だ。こいつの料理は店に出せる」

 

「ははっ!セレンがそれ言うの?」

 

神妙な顔でそんな事を言うセレンが何処か面白くて、二人は顔を見合わせて笑い合った。

 

くすくすと笑っていた少女はふと気がつく。

己が自然と誰かと笑い合えている事に。

思わず顔に手を当て、少女は呆けていた。

 

「あれ?リリウムどうしたの?」

 

顔を覗き込んできた少年と目が合い、一気に現実に引き戻される。

 

「いえ……何でも無いです」

 

心から笑ったのは、誰かと笑い合ったのは、誰かと食事を囲んだのはいつ振りだろうか。

 

王小龍は気に掛けてくれてはいたものの、何かを恐れる様に、必要以上に少女と関わろうとしなかった。

 

使用人も同様に、必要以上に彼女に関わろうとしなかったし、社内は言わずもがな。

 

少女は孤独で、そして寂しかった。

大量の業務の疲労や、殺し合いの緊張で感覚が麻痺していたのだろうが、それでもずっと寂しさを感じていたのだ。

 

失われた人間性が少しずつ元に戻って行く感覚。

その暖かさに、その心地よさに、今は浸っていたかった。

 

 

三人が食事を終え、少年が皿を洗い終わった後、セレンが二人に呼びかけた。

 

「ああそうだ、今日色々必要品を買いに行く筈だったのに、『うっかり』忘れてしまってな、いや〜うっかりうっかり、ベッドも無いしな、しょうがないな、うんうん、って事で今日はお前ら同じベッドで寝ろよ、あーうっかりうっかり」

 

「「は?」」

 

少女は本気で困惑し、少年は、「こいつ分かって黙っていやがった」と半ば確信し、声に少々殺意が混ざっていた。

 

「セレン……」

 

「あ、別にわざわざ言う事ではないが、『そう言う』事は控えておけよ、お互いの為にもな」

 

「「セレン!」様!?」

 

二人の声を敢えて無視し、ささやかな復讐を終えたセレンは、満足な顔で自分の部屋に戻って行った。

 

「……」

 

「……」

 

「一旦、部屋に行こっか」

 

「は、はい……」

 

二人は気まずい沈黙を発しながら、少年の部屋に向かって行った。

 

「取り敢えず、此処が僕の部屋、向かいがリリウムの部屋……になる予定」

 

「わぁ……」

 

少女は一瞬状況を忘れ、『好きな人の部屋に居る』と言うシチュエーションに、思わず感嘆の声を上げた。

 

例え少女漫画的な知識が無かったとしても、年頃の少女が感じる事は、皆一緒だったのだろう。

 

「そう言えば、リリウムは何か屋敷から持ってきたものはないの?あるなら部屋に置いていいよ」

 

「いえ、屋敷にいた頃は趣味も、私物も無かったので……」

 

「……そっか」

 

何となく少女の屋敷での生活を理解した少年は、何も言わず、少女に手を差し伸べた。

 

「無くても、これから探していけばいいさ、その手助けも、勿論するつもりだよ。だって『家族』、でしょ?」

 

「……そうですね、改めて、これからよろしくお願いします」

 

少女は伸ばされた手に手を差し出し、そっと握り込んだ。

 

「うん、此方こそ!」

 

少年は明るく笑い、手を引いて部屋に入って行った。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

深夜、二人では狭いベッドの中で、否応なく密着せざるを得ず、お互いの心臓が激しく早鐘を打っている事を、お互い背中から感じ取っていた。

目がすっかり冴えてしまい、眠れぬ中、少年が静かに言った。

 

「ホントは、すっごく怖かった。もう忘れられてるんじゃないか、迷惑なんじゃないかって」

 

「レイン様……」

 

「様付けしないで、レインって呼んで」

 

「……レイン、大丈夫です。私はちゃんと覚えています、忘れられる訳ないじゃないですか。あの辛い日々の中、貴方と両親の思い出だけが、私を私でいさせてくれたのです」

 

少女の言葉に、少年は少し息を吐いた。

そして噛み締める様に言葉を紡いだ。

 

「僕、記憶喪失なんだ。リリウムと別れた少し後位から、ごっそり記憶が無くなってる。運良くセレンに拾ってもらったから生活できたけど、孤児院にいたみんながどうなったのか、今の僕には知る由もない」

 

「それは……」

 

少女は何も言えなかった。自分の記憶が突然消える。何も知らない人の元で、何も知らない街で過ごす、そんな事は想像出来ないし、そんな事になった少年の気持ちも、自分が想像するよりもっとひどかったのだろう。

 

少年は声を震わせながら続けた。

 

「僕がリリウムの事まで忘れてしまっていたら、リリウムが僕の事を忘れてしまっていたら、僕はどうなっていたんだろうって、そう思うと、凄く怖い」

 

「レイン、大丈です、私は此処にいます、もう二度と、貴方を離したりなんてしません、だから!」

 

少女は思わず背中合わせになっていた身体を反転させ、後ろから少年を抱きしめた。

 

「安心してください、貴方に、もう何も失わせはしませんから……」

 

その言葉に、少年は安心した様に息を吐き、暫くすると、小さな寝息が少女の耳に聞こえた。

 

少女もそれを聞くと、安心した様に眠りについた。

 

もう離さぬように、自分よりも小さな身体を、優しく抱きしめながら。




コーヒーは酸味よりも苦味派で、ソフトよりもコク派です。異論は認める。

あ、無論主人公の方がリリウムよりも背が低いです。
年齢も少しだけリリウムの方が上です。
理由はいくらでもこじつけられますが、敢えて言いましょう。

性癖です。


こんなふざけた事言った後で言いづらいですが、お気に入りや評価、感想を頂いた方に、この場を借りて、もう一度お礼をさせて頂きたいと思います。本当にありがとうございます。

リメイクとは言え、自分が初めて書いた小説の調整平均に色がつくとは想像もしていませんでした。

丸一年位は放ってしまった本作ですが、時間もできた事ですし、ゆっくり再開していこうと思います。

作者の背中を押してくれたのは、いつも評価と感想だったので、例え一言でも構いませんので、感想を頂ければ幸いです。
どうかよろしくお願いします。
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