セレンがレインの過去を語っていた丁度その時、レインはカラード本拠地の一角に設置されている、ネクスト用ガレージに機体を固定していた。
首の後ろにあるAMS接続用のコネクターから接続端子を引き抜き、その際に生じるゾワっとした感覚を頭を降ってやり過ごす。
コックピットを開けてタラップへ降りると、整備士がネクストの足元に集まってくるのが見えた。
タラップを伝って壁際の入り口に入り、エレベーターを使って下まで行くと、機体の損耗状況を調べていた整備長がレインを見て右手を挙げた。
レインもペコリと軽く頭を下げ、整備長に近づいて行った。
「こんにちは、どうです?」
「相変わらずブースターの消耗が酷えな、また二段を使ったのか?」
「なんですか、お説教は聞きませんよ、便利なんですから使うのは当たり前です」
真っ黒に焼け焦げたブースターを見て苦笑する整備長を見て、説教が飛んでくると思ったのか、レインはつーんとそっぽを向いて言い訳を並べた。
「別に説教じゃ無いさ、ただこうも焼け焦げると寿命がなぁ…そろそろ買い替えだな」
「わかりました。請求書はセレンに送りつけといて下さい」
「りょーかい、まあAFを相手にしたにしては損耗は少ない、結構安く済むと思うぜ、んじゃな」
手元のタブレットに文字を打ち込みながら、整備長は早速ブースターを取り外している整備士の方向に歩いて行った。
レインもその後ろ姿に頭を下げるとガレージの出口に向かって歩き出す。
ガレージを出て、家の方向に歩き出そうとした直後、レインを呼び止める声が道に響いた。
「おーい!レイン・ヘイズ、ちょっと待ってくれ!」
「……?」
呼び止められたレインが後ろを向くと、ガタイのいい好青年と、目付きがキツい美女が此方に向かって歩いてきていた。
「ロイさんにウィンさん、何か用ですか?」
「えっ……んあ〜…あ〜……ウィンディー、なんか無いか?」
レインが立ち止まって問いかけると、ロイは話題に困ったように宙に視線を彷徨わせ、助けを求めるように隣のウィンを肘で小突いた。
ウィンは呆れたように溜息をつき、ロイが作り出した妙な空気を壊すように咳払いしてから話し出した。
「んんっ、今回のミッションで妙な機体と交戦したと聞いてな。情報があるなら共有してくれると助かる。なに、タダとは言わん、情報交換ついでに食事でもどうだ?勿論此方の奢りだ」
「おう、そうそう、ついでに飲もうって事よ。サンキューウィンディー」
無論嘘である。
セレンの頼み事である、足止めの為のでっち上げに過ぎない。そもそもウィン達はバルバロイの情報を、今回の頼み事の報酬ついでにセレンから受け取っていた。
「そうだったんですね、報告も挙げていないのに何故その事を知っているのかは一旦置いておきますが、情報共有なら大歓迎です」
しかしレインはそれっぽい理由を一瞬胡乱げな目で見たもののコロッと信じ込み、人懐っこい笑みを浮かべたが、しかし直後に申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
「でもすみません、セレンとリリ……同居人に食事を作ってあげなくてはいけないので」
「なに、安心しろ、セレンには既に許可は取っている。それにリリウムの事も良いぞ、友人として知っているし、他にバラす事もせん」
ウィンはレインが断る事も想定していたようで、レインの言葉を気にせずに続けた。
リリウムの事を知っていると言われてレインは一瞬目を丸くしたものの、そこまで言われればレインも断る理由が無く、そう言う事ならと着いて行った。
ロイとウィンは、ポワポワした笑顔を浮かべながら着いてくるレインを見て顔を見合わせると、まるで心が読めたかのように、お互いが思っている事が分かる気がした。
((こいつ、こんな無防備で大丈夫か……?))
※ ※ ※
「……成程、砂漠の狼、そして妙にAI臭い動き…か」
注文したスバゲッティをフォークに絡ませながら、ウィンはレインの戦闘時の感想に、僅かに思案する様な表情を見せた。
大まかな内容を知ってはいるものの、ウィンとしては、実際に戦闘していたレインの感想はセレンからの情報よりも直感的だったが、それゆえに分かりやすく、結果としてこの話題を誤魔化しに使って正解だったな、と思わせていた。
「はい、僕自身、戦闘訓練にAIを使う事が殆ど無いので、なんて言うか……慣れ?みたいな物が無かったのも気づけた要因の一つかもしれません」
レインは切り分けたピザを口元に運びながら、自分が感じた違和感をどうにか言語化しようとする。
ロイは細かい事はいいと言うスタンスだったので、我関せずとサラダをフォークで突いていた。
「……」
「……」
無言で思案するウィンと、思考の邪魔をしない様に静かにしているレイン。
食器の音だけが響くその空間に耐えきれなくなったのか、ロイが口を挟んだ。
「でもよ、パイロットがAIであれ、生身の人間であれ、自爆して吹っ飛んじまったんだろ?」
ロイは口にワインを流し込むと、お代わりを瓶ごと注文しながら続けた。
「コジマジェネレーターのオーバーロードの中心部にいたんじゃ、残骸は欠片も残らねえ。
無理に結論を急ぐよりかは、今ある事実を認識するだけで十分だろ。
死んだはずの人間が何故か出てきた。
動きに違和感があった。
そんでそいつは情報の処理もしっかりしていた。
なら今考えて結論が出る物でもねえ、無理に出した結論が間違っていたら目も当てられねえし、そもそも俺たちは戦うのが仕事だ、考えるのは企業連の狸共にやらせておけばいい」
運ばれてきたステーキを切り分け、これで話は終いだとでも言う様に、ロイは食事を味わい始めた。
その様子を見てしまえば、悩んでる自分も馬鹿らしく思えてきて、ウィンも深まり過ぎた思考ごと飲み下す様に、グラスを傾けた。
それを見て、レインはほっとした様に息をつくと、話題を変える様に話し出した。
「それよりも、良かったんですか?これ、多分相当高いですよね?……特にロイさんの肉なんて……」
自分が味わっている食材のレベルが最高級に近しい物だと気がついたレインは、ウィンの財布が心配になった。ロイに至っては本物と思しき肉を堪能している。
そんなレインの心配を打ち消す様に、ウィンは笑った。
「はは、何だ、心配してくれてるのか?安心しろ、無駄に金だけはあるんだ、それにロイには自分で払わせるに決まっているだろう?」
その言葉を聞いたロイが硬直する。
「……は?いやだってお前奢るって」
「何をほざいているんだお前は、奢るのはヘイズだけだが?」
徐々に顔を青くするロイ。
その顔色の変化を見て、レインとウィンは思わず声を上げて笑った。
それとは対象的に萎びてしまったロイを、ウィンは上機嫌に見やりながら声を掛けた。
「ははっ、安心しろ、冗談だよ、お代はその顔で十分だ」
それを聞いてロイは大袈裟に息を吐きながら、背もたれに崩れ落ちる様に身体を預けた。
「はぁ〜ったく冗談かよ!寿命縮んだぜ、おいヘイズ、お前はこんな大人にだけはなるなよ?女に愛想尽かされるぜ?」
「今からでも支払いをそちら持ちにしても一向に構わんのだが、何か言ったか?」
「いえっ!何もっ!!」
氷の様な視線を向けられ、思わずロイは姿勢を正して敬語で答えた。
レインはそれを見て朗らかに笑っていたが、酔いが回って顔を赤らめたロイがグラスを此方に向けると、キョトンと目を瞬かせた。
「レイン、どうよ、飲んでみねえか?お子ちゃまに大人の味ってやつを教えてやるよ」
「ロイ、絡み酒も程々にせんと物理的に喋れなくするぞ」
ウィンはケラケラと笑うロイを諌めようと拳を握ったが、その前に出てきたレインの行動に双方固まった。
「失礼な、お酒くらい飲んだ事有りますよ、子供扱いしないで下さい」
ムッとした顔でグラスを奪い取ったレインは、目の前の酒がどんな種類なのか確認もせず、二人が止める前にグラスをクイっと飲み干してしまったのだ。
「レイン、ようやく見つけ……は?」
そのタイミングで店のドアを開いて入ってきた少女は、丁度レインがグラスを煽る所を目撃し、思考が停止した。
既に未成年の飲酒を禁じる法律は形骸化し、守っている者の方が少なく、治安維持部隊も未成年飲酒で逮捕するほど暇ではない。
しかしたとえ法律が形骸化していようと、未成年の飲酒は身体への悪影響を及ぼす事も否定できない。
その為、流石のセレンもジュースにアルコールを足した程度の酒しか飲ませた事はなかったし、セレンの人柄を知っている二人も、レインが飲んだ事があるのは、アルコール度数が薄めな酒なのだろうと当たりをつけていた。
しかし此処は店である。
メインディッシュのステーキによく合うその酒は、それなり以上のアルコールを含んでおり、そのワイン一杯を一息で飲み干してしまったレインの末路は、想像に難く無かった。
「お、おい、ヘイズ、大丈夫か?」
酔った勢いで盛大なアルハラをかましたが、数秒時間が経ち、流石にやらかしたなと思える程度に思考が戻ったロイは、飲み干すなり黙ってしまったレインを見て、心配そうに顔を覗き込む。
そしてその表情を見て、思わず「あっちゃ~」と声を漏らした。
「んへぇ〜、なんれす?これ、おいひいれすねぇ〜」
それはもう見事に真っ赤であった。
しかも表情が妙に
その色気は硬派なウィンの顔を赤らめさせるほどだ。
「「ッスゥ〜……」」
ウィンとロイは同時に額にパチンと音を立てながら手を当て、天井を仰いだ。
これは不味い、非常に不味い。
酔ったレインがどんな行動に出るのかわからない以上、お開きにして家まで連れて行くべきか。
そんな事を呑気に考えているうちに、レインの問題行動は加速する。
「んふ、なんかあついれす〜」
そんな事をいってプチプチと自分の服のボタンを外していくレインに、二人……とその後ろでようやく復帰した少女は戦慄する。
任務だった事もあり、レインは下着を着用していない。
それはサラシも巻いていないと言う事に他ならず、広げた服の隙間から、僅かな膨らみが顔を覗かせた。
先端こそ隠れてはいたものの、男だと聞いていた人間から出てきた、明らかに男では無い部分を見て、二人の混乱は最高潮に達した。
「不味い、待てヘイズ!お前、下着を着ていないのか!?」
「やばいやばいやばい!お前自分のツラがどっちの性別に見えるのか考えろ!ってその膨らみは……!やっべぇ、こんなとこウォルコットにでも見られたら殺され「レインに、何をしているのですか?」……へ?」
間抜け顔を晒しながら後ろを振り向いたロイが凍り付く。
ウィンも声に気付いたのかビクッと肩を跳ねさせた。
カクカクと油が切れたブリキの玩具のように、ウィンはそちらの方を見やった。
そこには、路傍に吐き捨てられたガムを見るかのような絶対零度の眼つきで、その少女、リリウムが立っていた。
「んえ?……リリウム、リリウムだぁ〜〜」
顔を赤くしたレインがリリウムに気付くと、椅子から立ち上がってぽてぽてと効果音が付きそうな様子を出しながらリリウムに近付いて行った。
「えへへ、ぎゅ〜」
そのまま飛びつく様に抱きつき、首筋に顔を擦り付けた。
理性を保てない程酔った事が無かった結果、今まで隠れていた性質。
レインは甘え上戸だった。
ロイが思わずヒュゥと口笛を吹き、リリウムに睨みつけられ、口を閉ざす。
「レイン、もう遅いですし、家に帰りましょう?」
リリウムは視線を大人二人に固定したまま、声だけは優しげにレインに囁いた。
「うん、かえる〜」
「ふふ、今日のレインは可愛いですね、まるでお酒でも飲んでいるみたい」
「「ヒュッ」」
息を呑む二人を置いて、リリウムはレインを連れて店から出て行った。
そしてそれまでの間、リリウムの視線が二人からズレることは無かった。
その場の空気がようやく弛緩し、二人は肺に溜まっていた空気を吐き出す。
「ふぅ……ロイ、お前なぁ……」
「わーってる、悪かったって!」
飲み直そうかと別の酒を注文しようとした時、端末が通知音を立てた。
『今度お話がありますので』
リリウムから送られてきた短い文章を見て、ウィンは泣きたくなるような感情を誤魔化すように、残ったグラス内のワインを煽った。
「ロイ、やっぱお前が払え」
「ハァ!?」
「当たり前だ!誰のせいでこんな事になったと思っている!次も奢らせたい位だ!」
※ ※ ※
「全く、信じられません!あんなに度数が高いお酒を普通飲ませます!?」
顔を赤くして、こくりこくりと頭を揺らすレインの肩を支えながら、リリウムは怒っていた。
というのも、パーティなどで人前に出る機会が多かったリリウムは、レインの口から漂う酒精とワインの瓶を見て、レインが飲んでいた酒がどの程度アルコールを含んでいたのか察する事ができてしまっていた。
ただでさえレインの重い過去の話で気分が沈んでいたと言うのに、追加で頭が痛くなる問題を運んで来た友人には、少々お説教が必要であろう。
リリウムはそう決意したものの、一先ずレインを家に運ばなければと、再度しっかりレインを抱きかかえた。
「リリウム、おこってる?」
リリウムの雰囲気を感じ取ったのか、レインはバツが悪そうにおずおずと尋ねた。
「あっ……レインには怒っていませんよ」
「でも、こわいかおしてる」
自分が相当険しい顔をしていた事に気づいたのか、リリウムは顔をむにむにと揉んで、表情を和らげた。
「ほら、怒ってないですよ」
柔らかい笑みを浮かべたリリウムを見てようやく安心したのか、レインは顔を綻ばせ、甘える様にリリウムの肩に顔を預けた。
「リリウムはしっかりしててえらいねぇ〜」
先程までとは打って変わって上機嫌になったレインの手が、リリウムの頭を優しく撫でる。
「…そうでしょうか……私なんかより、レインの方が偉いと思いますよ」
リリウムは僅かに顔を暗くして、レインの言葉を否定した。
過去にレインが受けた所業を聞いてしまった今は、レインがどれだけリリウムを賞賛しようが、自分など、と素直に受け取れずに居た。
そんな事を考えていても如何にもならないし、こんな顔を見せる方がレインを心配させてしまう事も分かっていたが、一度始まった思考は止まってくれなかった。
レインは酔いで思考が鈍りながらも、そんな彼女の様子が何処かおかしい事に気が付いていた。
そして、頭をクラクラさせながらも、それをどうにかしてやりたいと思った。
酔いで想いを抑える思考も働いていなかった事もあるかも知れない。
レインが取った行動は、酷く直接的だった。
リリウムの口元に、ちゅっと軽いリップ音と、柔らかいものが触れ、そして離れた。
「えっ……」
リリウムは、自分が今何をされたのかを理解するまでに、数秒の時間を要した。
酒のせいか、羞恥のせいか、頬を赤くしたレインは、リリウムの耳に口を近付け、先程まで舌足らずだったのが嘘の様に、妖艶に囁いた。
「自分の事を認めてあげられない悪い子に、おしおき、だよ?」
「っ!!」
レインはそれだけ言うと、遂に眠気に限界が来たのか、リリウムに体重を預けると、くうくうと寝息を立て始めた。
リリウムはそれから家に着くまでの道のりを覚えていない。
いつの間にか玄関に立っていて、出てきたセレンの驚いた顔を見て、ようやく正気が戻った。
「リリウム?そんなに顔を赤くしてどうした?レインは……ああ、あの馬鹿共に酒でも飲まされたか」
「セレン様」
リリウムは真面目な表情で言葉を発した。
「レインが……魔性の
「????????」
その言葉を聞いたセレンの表情が、猫が宇宙を背負っている類の物だったので、リリウムは思わず吹き出してしまった。
そうしてしばらく笑っていると、リリウムは、いつの間にか暗い気持ちが消えている事に気が付いた。
レインをベッドまで運んでやり、穏やかに眠っているレインの頬に手を当てると、レインは嬉しそうにそれに頬を擦り付けた。
リリウムは、その行動を愛おしげに見つめ、頬に一つのキスを落とした。
起こった事は変えられない。
ならば、もう二度と忌々しい戦闘兵器に戻さぬように、この人が大事な物を奪われないように、私が貴方を守ろう。
リリウムの金色の目は、確固たる決意を宿していた。
遅れて大変申し訳有りません。
完結させるまでの道のりは既に考えてあるので、後は文字起こしするだけなのですが、いかんせん文が形にならない。
これは量をこなすしか無いですよね、イラストと同じ。しかし悔しい事に、最近は忙しく、あまり書けていませんでした。
次回もいつ書き上げる事が出来るのか分かりませんが、これだけは言わせて下さい。
完結させる気は、有ります。
そこだけはご安心ください。
感想待ってます。
これからの話にVD要素が少しだけ出てくる予定で話を考えていますが、あんまり混ぜ混ぜするのも良くないかと迷っています。そこでせっかくなので皆さんに決めて貰おうと思います。回答よろしくお願いします。
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VD要素があった方がいい
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VD要素はあってもいい
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VD要素は無い方がいい