その日は特に依頼の予定も無く、レインは家で休んでいた……はずだった。
「レイン、依頼だ。オーメルからの」
「……………………」
しかしセレンが依頼が送られてきた事を伝えると、穏やかな休みは終わりを告げ、今日はゆっくり遊びにでも行こうか、と思っていたレインの計画は崩壊した。
スピリット・オブ・マザーウィル、BFFの主力AFの単独撃破。
それが今回レインに送られてきた依頼内容だった。
「スピリット・オブ・マザーウィルか……あのランク9、ホワイトグリントすら撃退したAFの頂点。下手を打ったら消し炭だ。注意しすぎるくらいが丁度いいだろうな」
レインは、メールに添付されてきた、マザーウィルの弱点と、仕様をまとめた資料を見ながら、セレンの言葉に頷いた。
マザーウィルの弱点。
それは、各所に設置された、ミサイル発射管と砲台である。
砲台やミサイル発射管は、弾薬庫と位置が隣り合っており、そこを破壊することによって弾薬の誘爆を引き起こしやすい。
更に、内部に衝撃が伝播しやすいという構造上の欠点があり、十分に衝撃が伝われば、内側から崩落することが確認されている。
そこまで分かっていながら、何故、今までマザーウィルを破壊できなかったのか、という疑問も湧いてくるが、それは単純な話だ。
BFFを体現したかのような、高射程、高精度の主砲により、ネクストはもちろん、AFすらも遠距離から撃破されてしまうのだ。
ヴァンガード・オーバードブーストと呼ばれる、新型の大型外付けブースターを活用し、唯一接近できたホワイトグリントも、大量のノーマルと砲台に手間取っている間に弾切れし、あえなく撤退。
本来なら撤退すらできない筈だったが、ホワイトグリントは、精密な機体操作で、攻撃を全て回避しながら帰還を果たした。
BFFはホワイトグリントを取り逃したと悔しがっていたらしいが、ホワイトグリントは、現ランク1を差し置いて、最強と呼ばれているリンクスだ。
それを大きな損害無く撃退できたマザーウィルは、間違い無くAFの頂点を名乗る事が出来るだろう。
そして、それを撃破する事ができれば、レインの傭兵としての価値は跳ね上がる。
それを聞けば、断ろうかと考えていたレインも思い直す。
セレンはレインと目を合わせ、笑みを浮かべた。
「難易度は高いが……やれるな?」
「……うん。やってやるさ……」
それに釣られるように、レインも笑みを浮かべた。
※ ※ ※
ミッション「スピリット・オブ・マザーウィル撃破」
砂漠化して廃れ、ぽつりぽつりとまばらにビルが立っているだけの、寂しさすら感じる都市部跡地、旧ピースシティエリアのその上空に、巨大な
「ミッション開始、BFFのAF、スピリット・オブ・マザーウィルを撃破する。
まずは、VOBで一気に彼我の距離を詰める。
超高速戦だ。目を回すなよ」
レインは、VOBの加速で強烈なGに晒されながら、マザーウィルからの砲撃を見逃さぬように、前に意識を集中させていた。
前方に発射光を認識した瞬間、クイックブーストで機体を横移動させる。
その瞬間、機体を掠めるように砲弾が通り過ぎて行った。
レインはコックピットの中で冷や汗を流したが、しかしそこで動揺して機体操作を一瞬でも間違えば、その時点で消し炭である。
VOBの加速力で多少狙いはズレている筈、と恐怖心を無理矢理抑え込み、前方の発射光を視認した瞬間にクイックブーストを吹かす事を繰り返す。
相手からの砲弾を何度かやり過ごし、レインがまだなのかと焦りを見出し始めていた時、セレンからの通信が入る。
「そろそろお前の距離に入る。VOBを切り離すぞ!敵主砲の威力は馬鹿げている、回避を最優先だ!分かったな!」
その言葉が聞こえた数秒後、ストレイドの背中からVOBが分離し、自壊する。
「ふぅっ………っ!」
レインは、緊張で肺の中に溜め込んでいた息を吐き出し、マザーウィルに向かってオーバードブーストを吹かそうとした。
しかし突如鳴ったアラートと、視界の端に映った機影に、反射的にストレイドを横に動かした。
「だぁっしゃああぁぁぁ!!!」
その叫び声と共に、ストレイドのすぐ横に、
「ネクスト反応だと!?ビルにでも隠れてやがったか……識別完了、ランク31、キルドーザー、弁えない解体屋か………相手するなら、砲撃に巻き込まれる前にさっさと片付けろ、でなければ死ぬのはお前だ!」
周りのビル群の破壊痕を見るに、BFFからの依頼で、マザーウィルの進行方向の障害物の破壊任務でも受けていたのだろうか。
「……最悪だ!」
レインは己の不運に悪態をつき、ミサイルの嵐と、砲台とノーマルからの絨毯爆撃が周りを埋め尽くす中、キルドーザーに襲いかかった。
放っておいたらそれはそれで邪魔なのだ。
マザーウィル本体を叩いている時に、グレネードでも撃ち込まれたらたまったものではない。
※ ※ ※
「……最悪だ!」
チャンピオン・チャンプスは、キルドーザーの中で、レインと同じく悪態をついていた。
本来ならチャンピオン・チャンプスは破壊任務専門のリンクスであり、ネクストどころか、ノーマルやMTの相手ですらおぼつかないのだ。
しかも相手のネクストには見覚えがあった。
数ヶ月前のカラードマッチで弾を掠らせることすらできずに沈められた化物だ。
「これは死んだかぁ?」
キルドーザーは己の不幸を呪い、覚悟を決めて飛び出した。
一発当てれば逃げても言い訳は立つだろうか、と余計なことを考えていたのが悪かったのか、チャンピオン・チャンプスは、目の前で銃弾を叩きつけてくる黒いネクストの、オーバードブースト用ブースターが、青緑の輝きを放つのを見落としていた。
「どおりゃぁぁあああ!!!!」
キルドーザーが両手の
「ん?……やべぇっ!」
チャンピオン・チャンプスはそこでようやく、ストレイドが放つ光を認識し、後ろに下がろうとしたが、気付くのがあまりにも遅すぎた。
急速に一点に収縮したコジマ粒子が、膨張しながら大規模なコジマ爆発を引き起こす。
アサルトアーマー。
近距離において絶大な破壊力を出す代わり、しばらくプライマルアーマーとオーバードブーストが使えなくなる、ネクストの諸刃の剣の必殺技。
キルドーザーはその爆発で吹き飛ばされ、近くにあったビルに叩きつけられる。
APはまだ残っていたが、追撃にグレネードが直撃し、残ったキルドーザーのAPは消し飛ばされ、機体は大きく爆発した。
「やっぱりかああぁぁぁぁ………」
チャンピオン・チャンプスは、それ以外喋る間もなく、爆発に飲み込まれ、その命を落とした。
※ ※ ※
キルドーザーを始末したレインは、アサルトアーマーで使い切ったプライマルアーマー用のコジマ粒子が補填されるまで、2、3段のクイックブーストを連発し、敵のロックを散らしながら接近していった。
甲板の上でひしめき合うノーマルと砲台の砲弾、ミサイル、さらに近距離まで接近したことにより、機銃までもが雨あられとストレイドに向かってくる。
「敵は一機だ!!物量差で捻り潰してやれ!!!」
「APもかなり削られているはずだ!行けるぞ!!」
プライマルアーマーのお陰で、本体への被弾は多少はマシになっているものの、プライマルアーマーの値はゴリゴリと削られていく。
「ノーマル多すぎるだろ!!!」
レインは悲痛な叫び声を上げながら、グレネードを二門担いできてよかったと、内心で安堵の息を漏らし、一先ず向かってくる弾の量を減らそうと、ノーマルが集団になっているところからグレネードを撃ち込み始めた。
「やばいこっちに来る!!」
「くそっ……俺達をゴミのように……ぐぁっ!!!」
グレネードの爆発で、何機ものノーマルが一度に撃破され、レーダーの適正反応が一気に消えていく。
しかしノーマルの量は膨大だ。
なるべく多くのノーマルを巻き込めるように撃ってはいたが、背部グレネードの弾切れを、赤く光る計器は伝えてきていた。
「事前情報よりもノーマルの数が多い……弾足りないよ!」
レインは舌打ちをしながら、背部グレネードをパージする。
今回の依頼は、絶対に弾が足りなくなると予想できたので、弾数が少なく継戦に向かない
グレネードで数が減っていたおかげか、MOTORCOBRAとANNAでノーマルを撃破しきる事はできたが、その2丁の残弾も僅かになっていた。
ノーマルの集団を撃破した際に巻き込めた砲台やミサイル発射管があったのか、真っ赤だったレーダーの敵性反応は数少なくなっている。
「よし、順調に数が減ってきているな、敵AFの一部ではすでに内部損壊が起きている。
情報通りだ、弾が切れたらブレードを使え。ブレードでも弾薬庫まで届くはずだ」
セレンの声を背に、レインはマザーウィルの甲板の影に滑り込む。
「しょうがないか………ぶっつけ本番なんだけどなぁ……」
レインは甲板の下から飛び出し、残ったミサイル発射管に向かって、一先ず残っている弾をすべて撃ち込んだ。
いくつかのミサイル発射管を破壊し、弾が切れたMOTORCOBRAとANNAを手放して、腕部に格納してあったブレードを取り出す。
レインは少し前に、シミュレーターでセレンと訓練した時、機体操作に慣れてきたから試してみるかと提案され、ブレードを使ってみたことがあった。
結果、レインは引き撃ちに徹するセレンに対し、弾をほぼ全て回避しながら接近し、ブレードの射程内に入った瞬間に撃破した。
それによりブレードの適正があることが判明したため、弾切れの時の為に、格納ブレードを装備することを決めたのだ。
瞬殺された時のセレンは、非常に芸術的な表情をしていたが。
「………っ!」
ミサイル発射管に向かって一気に接近し、ブレードを起動。
弾薬庫を切り裂き、中に残っていたミサイルが誘爆する。
「第4ブロックに火災発生!!!」
「第5ブロックも駄目です!!!」
敵の通信で、内部の崩壊が順調に引き起こされている事を確認し、別方向から迫るミサイルを引き付けながら、別のミサイル発射管に向かう。
ミサイル発射管の端を掴み、ブースターを巧みに使いながら空中で回転するように下に入り込む。
ストレイドを追尾していたミサイルはその動きにつられ、次々にミサイル発射管にぶつかり、爆発していった。
「ハァハァ……っ!」
近接戦だとミサイルや砲弾の爆発に巻き込まれやすくなるので、銃の距離だった時より大きく避ける必要がある。
当然戦闘の負荷は上がり、レインはコックピット内で荒く息を吐いていた。
しかし、一瞬でも立ち止まると四方八方から殺到する砲弾の餌食になる為、レインは再度飛び出していかざるを得なかった。
「残りAP、30%……敵の残存戦力も残り僅かだ!行けるだろ……お前なら……」
もう戦闘が始まってから1時間ほどだ。
これまでにない長時間戦闘に、セレンの声にも焦りが滲み始めていた。
「ブレードだけなのに何て動きだ……」
スピリット・オブ・マザーウィルの管制室の中で、艦長は戦慄していた。
あれほどまでに弾を浴びせているのに一向に倒れる気配がなく、こちらの防衛兵器は次々に破壊されていく。
しかも相手はノーマルの大群の処理で弾切れして、残った武装は格納ブレードのみなのだ。
「くそっ!!メインシャフトにも被害が及んでいます!!抑えられません!!!」
「ミサイル発射管全滅!!!残りの砲台も僅かです!!!」
管制官の絶叫が管制室内に響き渡る。
「て……敵も消耗しているはずだ!!攻撃し続けろ!!」
艦長の予想は当たっていた。
レインは長時間のAMS接続に加え、常に動き続けていることにより生じる強烈なGや、全方位からの砲撃の対処で、負荷が脳のキャパシティを大幅にオーバーしていた。
「ハァハァハァ………フーッフーッ……」
すでに意識は朦朧としており、声を出す余裕も無い。
それでもシミュレーターや、セレンとの訓練での経験が、反射的にその場での最適解を導き出していた。
オーバードブーストを吹かしながらもクイックブースト連発し、砲撃を強引に避けながらも、凄まじい速度で砲台へと向かっていくストレイドの姿は、まるで本能を剥き出しにしている獣の姿を想起させた。
砲台に到達したストレイドはブレードを振るって砲台を切り落とし、それによって生じた傷口にもう片方のブレードを突き刺す。
弾薬庫内部の爆発の衝撃で、マザーウィルの一部が剥がれ落ちて行く。
「よし、崩落が起き始めている!あと少しだ、行けるぞ!主砲を狙え、そこが一番破壊したときの衝撃が大きいはずだ!!」
セレンはオペレーター室の中で叫んだ。
残りのAPは10%前後、レインの応答も無くなり、荒い息だけが聞こえる。
しかしその叫びが聞こえたのか、ストレイドは一瞬動きを止めると、マザーウィルの側面を駆けるように登り始めた。
「まずい!!主砲を狙っている!!近づけさせるな!!」
艦長の怒声がマザーウィルの管制室に響くが、その時には既に手遅れだった。
「敵ネクストに大規模コジマ収縮が発生!!アサルトアーマーです!!!」
管制官が叫んだ瞬間、轟音を立ててコジマ爆発が主砲を吹き飛ばす。
そしてその爆発は、マザーウィルの主砲の弾薬室に引火し、爆発によって生じた亀裂から火が噴き出した。
「くっ……総員、地上装備!!退避だ!!退避しろ!!マザーウィルが崩壊するぞ!!!」
その通信を聞き、セレンも声を張り上げた。
「爆発するぞ、さっさと離れろ!!」
その言葉に、レインはストレイドの赤い複眼を煌めかせ、オーバードブーストで大きく距離を取った。
その直後、破砕音や爆発と共にマザーウィルが崩壊する。
まだリンクスになってから1年も経っていない新人リンクスが、企業の主力AFを撃破する。
本来ならばありえないはずのジャイアントキリングは、今此処に成ったのだ。
実際のSOM撃破とムービーの違い……それはノーマルの数!
まあ実際あのステージでノーマル大量だったらコントローラー投げる自信ありますけど。
評価とお気に入り登録ありがとうございます!
感想もくれてもいいのよ?(強欲)
これからの話にVD要素が少しだけ出てくる予定で話を考えていますが、あんまり混ぜ混ぜするのも良くないかと迷っています。そこでせっかくなので皆さんに決めて貰おうと思います。回答よろしくお願いします。
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VD要素があった方がいい
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VD要素はあってもいい
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VD要素は無い方がいい