リザイアを倒して数日、レインはランク11トラセンド、ランク10ハリを危なげなく倒し、ホワイトグリントへの挑戦権を得ていた。
ランク9、Unknown。
ラインアーク所属のリンクスで、先のリンクス戦争では単騎で一企業を壊滅させており、そのことから、リンクス戦争の英雄、『アナトリアの傭兵』だと言われている。
反体制勢力のラインアークのリンクスが、自社NO1リンクスを上回っていることを認めたくない企業連の工作により、ランクは9であるが、最高クラスのリンクスであることは間違いないだろう。
名前は登録されておらず、Unknownとなっている。
乗機ホワイトグリントは、天才アーキテクト、アブ・マーシュがUnknown専用機として設計、製造されており、背部の大型OB用ブースターが特徴的だ。
引き撃ち戦術を好み、一定の距離感を保ったまま完封する事が多く、近距離用にはアサルトアーマーを用いる事で、近接機にも柔軟に対応する。
そこまで読んだレインは資料を机の上に放り投げ、後ろからソファに倒れ込んだ。
「中距離では絶対的な強さを持ちながらも、近接機への対策もちゃんとしている……か……」
「まあ、典型的なオールラウンダーだな、それに自分の得意距離もちゃんと理解している。
お前はまず近づかなければ話にならんが……そこまでに削られればキツくなるぞ」
寝転がるレインを横目に見ながら、セレンは机の上に投げられた資料を手に取った。
ラインアークは反体制勢力とされながらも、その実情は、企業連と対立などということは一切無く、『自由』と『民主主義』を掲げ、自分たちの力で企業から自立しようとしている。
更には重要な物流拠点として、一部の企業とも友好に接しており、食料の取引なども行っている。
最初期は、完全な自給自足を目指していたらしいが、『来るもの拒まず』の政策により人口は数百万にまで膨れ上がっており、流石に無理だと判断したらしい。
しかしアウトローや、政争に敗れた企業上層部も受け入れてしまった結果、内部の腐敗も進んでいるようだ。
リリアナなどの過激派は追放しているらしいが、逆に言えば、クレイドルを占拠するほどのテロリストでなければ追い出されないのだ。
以前に使用したVOBの開発にも協力しており、反体制勢力と言っても、実際にラインアークを忌々しく思っている企業は数少ないだろう。
ラインアークの軍事力は少なく、ほぼすべてをホワイトグリントが担っている。
このことからホワイトグリントは、ラインアークを現実的にも精神的にも支える『守護神』または、『コロニーの英雄』とも呼ばれている。
「……どっちにしろ近づかなきゃ負けるのはこっちなんだ。
アサルトアーマーはカウンターできるし、ダメージを負わないように接近するしかないね」
クッションに顔を埋めてリラックスしていたレインはそう結論づけた。
「……で?いつやるんだ?」
「2日後だってさ。意外と早いよね」
ホワイトグリントとのオーダーマッチは少々特殊だ。
彼は非常事態の時のためにラインアークから出るわけにはいかないので、オンラインで対戦することになる。
これは顔を見せない何人かのリンクスも同じだ。
そういったリンクスや、カラード本部にたむろしている者達以外は、オーダーマッチする前にカラードが連絡を取り、試合日時を決める。
オーダーマッチは一般大衆向けの娯楽としても人気があるので、カラードはその辺はちゃんとしているのだ。
「………お前は随分と強くなった、私では届かなくなる程にな。…だから…その……なんだ、お前ならやれるさ、自身を持て」
「……はは、激励が下手だね」
「……うるさい」
ムスッとした顔で部屋にに入っていったセレンを、レインは笑って見送り、ソファから体を起こした。
ぐっと体を伸ばし、そばに置いてあったイヤホンを取り、携帯端末から音楽を流す。
『
古い時代のラブソングが鼓膜を揺らす。
初めて聞いた時、何故か既に聞いたことがある気がしたこの歌は、他の幾つかの歌と共に、レインのお気に入りだった。
闘志に燃えていた身体が、段々と落ち着きを取り戻していく。
『
曲の最後の方になると、普段の疲れからなのか、レインはソファの腕掛けに身体を預けたまま目を閉じていた。
静かに、そして深く、眠りに落ちていく。
※ ※ ※
2日後、レインはシミュレーターの中で目を閉じ、心を落ち着かせていた。
マップはキタサキジャンクション。
かつての北米の交通の要所で、名前的に旧日本地域を思い起こさせる名称だが、関係は無いらしい。
特徴はその名の通り、興廃化した砂漠の真ん中に位置している、大型の高速道路のジャンクションであり、幾つかの高速道路が立体的に絡み合っている。
この道路は耐久が低く、盾としてはあまり使えないが、倒壊させて目眩ましにしたりと中々便利だ。
『これより、オーダーマッチを開始します。対戦者はランク10、レイン・ヘイズ様、ランク9、Unknown様です。両者準備はよろしいですね?……では、オーダーマッチ、試合開始です』
静かに告げられた試合開始の声と、機体のロックが解除される合図に、レインはゴクリと唾を飲み込んだ。
「ふぅ……はは、緊張してるな……」
レインはそう自嘲し、オーバードブーストを鼓動。
相手もオーバードブーストで近づいてきていたらしく、特徴的なX字の噴射炎がよく見えた。
一定の距離まで近づくと、ホワイトグリントはオーバードブーストをやめ、ミサイルとライフルを撃ちながら引き始めた。
「……やっぱり引いてくるよね、そりゃ……」
ある程度はどんな動きをするのか予測はできていたので、ANNAで応戦しながら近づいていく。
後退速度は、前進速度に比べると断然に遅いので、ホワイトグリントはそこに旋回や、交差QBを加えながら距離を保とうとしていた。
しかし、一度近づいたレインは中々離れず、むしろ徐々に距離を詰めていた。
セレンとの訓練では、最初に近接適正を見出したときから、張り付きを振り払う動きについていく訓練ばかりさせられていた。
そのせいで遠距離は疎かになってしまったが、近距離での張り付きの追従力は、トップランカーでも手間取る、とセレンからのお墨付きを得るほどまでに上がっていた。
近距離まで接近したレインは、持っていたANNAを、視界を塞ぐように投げつけた。
当然だが、命中することはない。
だが、視界が塞がれる、その一瞬こそが、レインが欲していたものだった。
格納ブレードを取り出して一閃。
ホワイトグリントのAPとPA値が、目に見えて減少する。
すぐさま追撃にグレネードを撃ち放ったレインだったが、その砲弾は当たることはなかった。
通常のQB推力以上のスピードでグレネードの射線から逃れたホワイトグリントに、レインはコンマ数秒固まり、その隙にホワイトグリントはストレイドから距離を取った。
「……どういうことだ?」
レインはホワイトグリントに追従し、襲い来るミサイルと、逃げ道を塞ぐように飛んでくる弾丸をどうにか避けながら、先程の事象について思考を巡らせた。
思い出すのは、クイックブーストの轟音に混ざるように聞こえた、固く何かを蹴飛ばす音。
そして飛び去った後に残った、叩き割られたような道路の残骸。
「……いやまさか……ええ……?」
レインは、己の中に浮かんだバカバカしい考えを振り払うように、オーバードブーストを起動し、MARVEを連射しながら突撃していった。
ブレードを起動し、飛び込もうとした瞬間、ホワイトグリントが青緑の輝きを放つ。
レインはそれを見た瞬間、ストレイドのアサルトアーマーを起動した。
爆発と爆発がぶつかり合って相殺される。
アサルトアーマーの影響でロックが外れ、ホワイトグリントはその空白を活かし、更に後ろへと引いていく。
『AP、30%減少』
「舐めんなっ!」
レインが吠え、ボボウッと特徴的な音を響かせながら、ストレイドが更に鋭い2段QBで距離を詰める。
ブレードを起動し、斬りかかったレインは、目をよく凝らし、ホワイトグリントの一挙一動を観察していた。
当たる距離だった、当たる角度だった。
しかし外れた。
「……見えた!」
レインは少なくない驚きとともに、ホワイトグリントが行った回避の種を見抜いた。
QBを吹かす前に、高速道路の残骸を強く蹴り、更に2段QBを加えることで、限界を超えたQBの速度を出すことを実現していたのだ。
「……はは……出来るって言ったってほんとにやる奴がいるのかよ……」
レインは乾いた笑いを浮かべ、一旦距離を取った。
種が割れれば後は簡単だ、キックQBが出来る土台を潰す。
グレネードが火を吹き、高速道路跡が密集している場所が崩落していく。
ホワイトグリントもただ見ているわけではなく、すぐさま追いかけてミサイルとライフルを撃ち込んだが、レインはうまく崩落していない道路を盾にし、相手のミサイルすら障害物破壊に利用していた。
耐久が高くないとはいえ、ミサイル1発を受け止めることくらいは出来る。ミサイルやグレネードに当たった道路は次々に崩落していき、遂にはマップの中心部は丸裸になった。
「さ、仕切り直しだ」
そうレインは呟き、空中に留まるホワイトグリントに銃口をピタリと向けた。
示し合わせたかのように、同時にQBの噴射炎が空を彩る。
先程までが遊びだったのかと思わせるほどの機動の応酬。
2段QBは当たり前のように交わされ、3段、4段と更にレベルが上っていく。
アサルトアーマーがアサルトアーマーに打ち消され、その閃光の中に隠すように放たれた、分裂ミサイルとグレネードが、両方の機体に直撃する。
『AP、70%減少』
COMの声が冷徹に危機を告げる。
相手のAPも残り少ないはずだとレインは自分を奮い立たせ、弾切れになったグレネードをパージした。
残ったMARVEの弾をホワイトグリントに浴びせ、こちらも投げつける。
今回は視線誘導されることはなく、ライフルの弾に弾かれたMARVEは、砂の上に落下し、僅かに砂埃を立てた。
QBの音が観客の耳にまで響き渡る。
立ち見していたダン・モロは、画面に映る2機の姿を見て、羨望の感情に震えていた。
「ああ……かっけえなぁ……」
声が思わず漏れたダンに、偶然隣で眺めていたランク23、カニスは、こいつまじかよ……と内心呆れ果てていた。
カニスからしてみれば、眼の前の戦闘は、理解不能な恐ろしさがあった。
そもそもの話、眼の前の化け物共は、平然と2段QBを連発しているが、2段QBというのは、上位リンクスの中でも、上澄みの上澄みしかまともに運用できない技術なのだ。
普通のQBでも、時速数百kmの加速力で、下位ランカーにはこれすらまともに運用できない者もいるというのに、それを一瞬溜め、生まれた一瞬でもう一度QBを使い、推力を強化するというのがまず馬鹿げているだろう。
しかもそれを更に超えて3段?4段?頭がイカれているとしか思えない。
偶に実施されるランク1とランク2のオーダーマッチの方がまだ人間味があった。
カニスが画面から視線を外し、カフェテリアの方を見てみれば、ランク7、ロイ・ザーランドと、ランク3、ウィン・D・ファンションが、真剣な表情でモニターを見上げていた。
「どう思う、ウィンディー」
ロイが画面から目を離さず、隣に声を掛けると、そちらも画面から目を離さずに答えた。
「機動に関して言えば、私でも敵うかどうかはわからん、どちらに対してもだ。まあ、ストレイドは近づかれなかればどうとでもなる。だが、私はともかく重量機のお前ではそれも厳しいだろう。ならやることは一つ、『装甲で受けて高火力で消し飛ばせ』だな」
「はっ……やっぱそうだよな」
ウィンが駆るレイテルパラッシュに搭載されている、肩武器の
軽量機と重量機の違いがあれど、どちらもこの武装を当てられるかどうかで勝敗が決まる。
特に装甲が薄いストイレイドなら尚更だ。
二人が結論を出すまでに、画面内の戦闘は佳境に差し掛かろうとしていた。
ブレードで斬りかかろうとするストレイドを、機体を傾けて避けるホワイトグリント。
至近距離から放たれる銃弾を、脅威の反応速度で避けるストレイド。
画面に表示されているAP値は、どちらも2桁まで減っていたが、二人とも奇跡的な回避を何度も繰り返し、数分間この状況が維持されていた。
シミュレーターなのにも関わらず、高速戦闘による脳への負荷は、鼻から血が流れ出るほどまでに重くなっていたが、レインはそれにすら気付かず戦闘に集中していた。
APは1%も無い。
PAも回復した瞬間にアサルトアーマーに使っているので威力減衰も期待できない。
1発でも当たったら負け、それを理解しながらも、レインは笑っていた。
壮絶に、楽しくて楽しくてたまらないと言わんばかりに。
そんな少年にこそ、勝利の女神は微笑んだ。
ホワイトグリントの構えたライフルに、偶然ブレードが直撃したのだ。
ホワイトグリントは、相手を撃ち抜くはずだったライフルが突然沈黙し、それに反応できずに引き金を引いてしまう。
物理シミュレーションは、操作に従って弾丸を発射し、切り落とされた際に生じた歪みに引っかかった弾丸によって生じた圧力は、銃身の内部破裂を起こした。
そしてレインは、そこに生まれた一瞬を見逃さなかった。
もう片方のブレードを、深々と突き刺す。
僅かに残っていたホワイトグリントのAPは消し飛び、沈黙したレインの画面には、『YOU WIN』の文字が大きく映し出されていた。
「ハァ…ハァ……勝った…のか……?」
息も絶え絶えにレインは呟き、座席に身体を預けると、思い出したかのように激痛が頭を襲いだし、勝利の余韻に浸る間も無いまま、レインの意識は暗転していった。
AC4(FromSoftware)『Fall』より「I've already fallen」、「Fall in you」の歌詞を引用。引用は非営利目的であり、著作権者の権利を尊重します。
……グロッグに聞いたんですけどこれで大丈夫なんですかね?楽曲コード探してもなかったし……めちゃくちゃビクビクしてます……でも曲は使いたいし……
警告来たら爆速で修正するつもりなので変わったらそういうことなんだなって思ってください。
作中のキックQBは、ACV系の他にも、実はAC6から着想を得ています。
軽逆でABキャンセルQB→飛び上がったタイミングでチャージダガー。
これで速度1000出た気がするんですよね、動画で見て実際にやってみたんですけど、うまく使えば実戦でも使えそうですね、だってチャージダガーの射程が300ですよ?バケモンでしょ……
後この作品では都合よくレギュレーションを切り貼りしてる感じのレギュレーションです。速度帯は1.20でEN周りは1.15のちょい劣化版くらい、重量や武装の強さは1.00みたいな感じです。