愛し合う二人は平穏を求める   作:レイアズ

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書きかけのを投稿しちゃってめっちゃ焦りました。


08 王小龍

「こんな短期間で2度も絶対安静を言い渡したのは初めてだよ」

 

目を覚ましたレインに飛んできた第一声は、呆れた目をした医者からの特大の皮肉だった。

 

「えっと……僕……何があったんですか……?」

 

戸惑ったように返すレインに、横からセレンが口を挟んだ。

 

「脳に負荷を掛け過ぎたんだよ、負荷が軽いはずのシミュレーターで脳を茹でかけるとは……全く、呆れた奴だ」

 

二人からの視線に、レインは気まずそうに目を逸らし、そして大事なことを忘れていたとばかりにセレンに詰め寄った。

 

「そうだ!オーダーマッチ!オーダーマッチはどうなったの!?」

 

「落ち着け、お前が倒れたのはオーダーマッチが終わった後だろうが」

 

詰め寄られたセレンは、レインの頭をぐいと押しのけ、微笑を浮かべながら口を開いた。

 

「お前の勝ちだ、よくやった、ランク9」

 

その言葉にレインはしばらく硬直していたが、その意味を理解した瞬間、飛び上がらんばかりに喜び、医者に動くなと静止されていた。

 

「……お前の価値は上がった。マザーウィルを撃破した実績を持った一桁ランカー、企業からしたら喉から手が出るほどに欲しいだろう」

 

セレンは顔を真剣なものに戻し、レインの肩に手をおいた。

 

「少し待っておけ、話をつける」

 

セレンはそう言い残し、病室を出ていった。

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

BFF本社の執務室の中、一人の老人が資料の束に目を通していた。

 

ぺらり、ぺらりと紙をめくる音だけが響く。

 

「…………」

 

無言の圧力の中、対面に立っている男は、緊張で冷や汗を流していた。

 

読み終わった資料を机に置くと、老人は静かに問いかけた。

 

「……本当にこれだけなのか?」

 

「は、はい……生まれ、親、全てが巧妙に隠蔽、消去されていました……申し訳ございません……」

 

足が震えそうになるのを必死に押さえつけながら、男は謝罪の言葉を口にした。

 

老人、王小龍が調べていたのは、ランク9、レイン・ヘイズの過去。

 

突然現れた凄まじい強さを持つ新人に興味を示した王小龍は、情報部に命じ、レインの過去を漁っていた。

しかし結果は芳しく無く、親、出身までほぼ全てが不明。

 

初めて記録が出たのは10歳頃からだ。

 

元アクアビット社員が運営していた孤児院にいたこと、そして運営者が死亡したことをきっかけに、年下を食わせるために娼館で働いていた記録が残っている。

 

金のために、男女、年齢問わず相手にしていたらしい。

 

その数カ月後に孤児院が焼失、1年程行方不明だったが、セレン・ヘイズに拾われ、リンクスとなる。

 

「……BFF情報部の名が泣くな」

 

ここまで出てきた情報に、王小龍が必要としていた情報は含まれていなかった。

 

「ただの孤児が、あれほど高度なAMS適正に加え、強化軍人とも遜色ない戦闘適性を持っていたとでも?そんな都合がいい話があると思うか?」

 

静かに問いかける王小龍に、男はますます顔を青くしながら謝罪の言葉を繰り返すしかなかった。

 

「……もういい、下がれ」

 

男が一礼して退出したのを確認した王小龍は、携帯端末が振動していることに気がついた。

画面に表示された名前を確認した後、通話ボタンをタップする。

 

「丁度いい、聞きたいことがあったのだ、セレン・ヘイズ」

 

「そいつはいい、こっちも頼み事があったんだ、王小龍」

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「よっ、大丈夫だったか?急にぶっ倒れるもんだから心配したぜ」

 

「ほんと、勝つためだからって言ったってやりすぎよ?

皆軽く引いてたんだから。ダン君は目を輝かせてたけどね、はい、これお見舞い」

 

セレンが席を立った後、入れ替わるように入ってきたのは、見舞いの品を持つダンとメイだった。

 

二人はレインが倒れた現場にいたらしく、明るく話しているように見えても、目は心配そうにレインの様子を伺っていた。

 

「心配かけたみたいですいません、どうやら脳に負荷をかけすぎたらしくて。

今はもう何ともないんですけど、安静にしていろって言われました」

 

「そう……」

 

明らかにホッとした様子の二人に、レインは僅かに罪悪感を抱いた。

 

たしかに目の前で倒れられたら心配もするだろう。

セレンとの訓練では、倒れたらベッドに突っ込まれるのが日常だったので、レインにそんな意識は一欠片すらも残っていなかった。

 

「そうだ、二人はいつの間に知り合ったんです?」

 

場の空気を変えようと、レインは先程から気になっていた疑問を口にした。

 

「え?ああ、そんなに特別なものでもないわよ?彼、GA寄りの独立傭兵でしょう?だから偶に共同する時があって」

 

「ああ、なるほど……」

 

レインは、シャリシャリと果物ナイフで林檎の皮を剥くメイの話を聞きながら、微妙に気まずそうにしているダンを横目でちらりと見た。

 

少し前に暇つぶしに見ていた戦闘映像に、ダンとメイのコンビもあったことを思い出す。

 

確か、威勢よくノーマル集団に突撃したダンが、四方八方からグレネードやらバズーカやらを浴びせられ、メイが慌てて援護していたのだったか。

 

メイが差し出してきた皿にある林檎を一欠片つまみ、口を開く。

 

「んむ、美味しい。ダンさんが張り切って突っ込んで返り討ちにあったアレですか?」

 

「あら、知ってたのね?まあ……あれはちょっとね……」

 

戦闘映像を見たことありますと言うレインに加え、メイの苦笑いという追撃をもらったダンは、ついに真っ白に燃え尽きてしまった。

 

女性リンクスが相方だからと張り切ったは良いが、敵ノーマルにすら返り討ちにされ、その相方に呆れられながら援護されるというのは、ダンのプライドを粉々にするには十分だったようだ。

 

「いいさ、俺は名実ともにランク29だよ……」

 

遂にいじけだしたダンを、メイはよしよしと撫でていた。

完全に子供扱いされている、実に哀れ。

 

「レイン……なんだ、お前らもいたのか」

 

先程出ていったセレンがカーテンを開け、顔を覗かせた。

 

「話は終わったの?」

 

レインの問いかけに、セレンは携帯端末を渡しながら答えた。

 

「そいつを見ればわかる」

 

レインが端末を見れば、一つの場所の位置情報と、今から丁度3日後、つまりレインが退院する日、病院まで迎えが来る旨が記されていた。

 

口に入れようとしていた林檎の欠片が、布団の上にぽとりと落ちた。

 

「……セレン……これ………」

 

レインが声を震わせながらセレンに問いかけれは、セレンは静かに頷いた。

 

それを見たレインの瞳から、透明な雫が一粒、また一粒とこぼれ落ちていく。

 

「レイン?おい、大丈夫か?」

 

声を掛けようとしたダンの肩に手を置いたメイは、前に共同したときのレインの言葉を思い出していた。

 

「……私達が関わって良い問題じゃないわ、それじゃ、私達はもうお暇するわね、お大事に」

 

メイは、何がなんだかわかっていない様子のダンの口を手で塞いだまま病室から退室し、それに続くように、セレンもレインの頭を一撫でし、ドアを開けて出ていった。

 

病室の中には、小さなすすり泣きの声だけが、静かに響いていた。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

3日後、レインとセレンは、病院の玄関の前で椅子に座って迎えを待っていた。

 

伝えられていた時間になると、キイッと音を立て、目の前で黒塗りの車が止まり、中から一人の男性が姿を表した。

 

「レイン・ヘイズ様とセレン・ヘイズ様ですね?お迎えに上がりました」

 

レインは一瞬固まっていたが、セレンに手を引かれて車に乗り込んだ。

 

「セレン……この車って……」

 

「……何も言うな……何も聞くな……」

 

記憶が確かなら、もう既に生産終了している旧世代の高級車のはずだ。

値段など考えたくもないが、多分ネクスト1機のほうが安いだろう。

 

しばらく揺られていると、最初は顔を青くしていたセレンも緊張がほぐれたのか、座席に背を預け、寝息を立て始めた。

 

レインは窓から、荒れた大地だった場所から、徐々に汚染されておらず、植物がところどころに生えている美しい自然に移り変わる様を眺めていた。

 

「レイン・ヘイズ様、実は、あなたにお礼を申し上げたいと思っていたのです」

 

しばらく車に揺られていると、突然、運転手の男から声が掛かり、レインの意識はそちらに移った。

 

「……お礼ですか?」

 

礼を言われる覚えがなかったレインは、僅かに首を傾げた。

 

「はい、リリウムお嬢様のことについてです」

 

男はそう前置きをし、語りだした。

 

自分が幼い頃からリリウムの世話をしていたこと。

 

リリウムの両親が死んだ後、家臣が私財を盗み出し、家が危機に陥っていたこと。

 

それをどうにかするために、BFFを頼ったこと。

 

その見返りに、リリウムを差し出さざるを得なかったこと。

 

そしてリリウムが辛い思いをしているというのに、どうにもできなかったこと。

 

そのことを不甲斐なく思っていたことも。

 

しかしリリウムは光を見失っていなかったように見えたそうだ。

 

男はリリウムに訪ねたことがあるという。

辛くはないのかと、逃げ出したくならないのかと。

 

その時、リリウムは僅かに笑みを浮かべ、こう言ったそうだ。

 

「会いたい人がいるのです、そのためには立ち止まってなどいられないのです」と。

 

それを聞いたとき、男はリリウムが誰かに想いを寄せていることに気付いた。

 

それがレインだった。

盗人と恋仲になるという、物語にしかない状況だったことには驚いたらしいが、しかしそれは間違いなく、リリウムが見失った道を照らし導く光だった。

 

「かつてBFFがあった、私の故郷でもある旧イングランド地域、そこには月光に導きを見出した勇者の伝説が残っています。お嬢様にとってあなたは、まさしく「導きの月光」であったのでしょう」

 

そこまで語ると、男は車を止めた。

 

目の前には開けた土地があり、その中心には巨大な屋敷が建っていた。

 

「これまでのようですね、しかし、最後に一つだけ、これだけ言わせてください」

 

ドアを開け、男は優しい光を目に宿しながら、深々と頭を下げた。

 

「お嬢様の光となってくださり、ありがとうございました」

 

その言葉を聞いたレインの口は、無意識に言葉を紡ぎ出していた。

 

「……いえ、リリウムも、僕にとっての光でしたから……あれ?」

 

今、自分は何と言った……?

 

そこに思考が回る寸前、セレンの声でその思考は断ち切られた。

 

「何してんだ?さっさと行くぞ」

 

「あ、うん、今行く」

 

レインは男に一礼すると、門を通って屋敷の中に入っていった。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

美しい調度品に飾られた屋敷内を、使用人に案内され進んでいくと、一つの部屋にたどり着く。

 

使用人がドアをノックし、一瞬の静寂の後、低い声が響いた。

 

「入れ」

 

木が軋む音を響かせながらドアが開かれると、中には木製の机に一人の老人が腰掛けていた。

 

「待っていたぞ」

 

王小龍。リリウムの主人でもあり、BFFの陰謀屋でもある彼は、窓から差し込む光を背に、鋭い視線を投げ掛けていた。




遅れました、大変申し訳ございません。

実を言うと受験生なので、次も遅れると思います。
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